『シャングリラ防衛戦の囮たち』
私はベルサに連れられ、空からシャングリラに入った。魔力の壁なる魔法で部下の薬師たちも一緒だ。
「ゾンビがシャングリラの各地に広がっているから、カミーラたちは被害に合わせて回復薬を噴きかけて駆除をお願いね」
ベルサが私たちに言った。
「いや、ちょっと待って。いろいろわからないことがある。どうしてシャングリラにゾンビなんかが?」
私はエルフの里の筆頭薬師として聞いた。
「氷の国と火の勇者が結託して、死者の国を襲いネクロマンサーたちを攫ったんだ。それで世界各地から死体を集めてきたり、コンテナに奴隷を詰めてゾンビ菌をばら撒いたりしてシャングリラに攻めてきてるわけね」
「ネクロマンサーたちがゾンビを操っているのか?」
コムロカンパニーの人間たちは、こちらの理解力を考えずにどんどん話を進めるので質問は多めにしておいたほうがいい。
「そういうこと。ネクロマンサーたちも家族を人質に取られていて言うことを聞くしかない状況だね」
「どのくらいのゾンビが攻めてきてるんだい?」
「数千から一万くらいかな。もしかしたらもっといるかも」
「それを私たちで駆除しろっていわれても、こっちにはそんなに回復薬はないよ」
「あ~、それなら大丈夫だ。エルフの薬師さんたちの役目は、できるだけゾンビの被害を食い止めることで、あとの作業はうちの会社でやる」
「ん? どういうこと?」
だんだん私の理解力を超えてきた。後ろに控えているエルフの薬師たちはもっと理解できていないだろう。
「ゾンビをすべて駆除しなくてもいい。それはうちの会社でやる。それからネクロマンサーたちとの交渉も私がやることになっているから、被害が大きいところの対処と囮役をお願いしますってこと」
「囮だって!?」
「まぁ、ナオキたちが対ゾンビ用の広域殲滅兵器を作っている最中だから時間稼ぎさ。大丈夫、こっちには回復薬もあるし相手は動きが遅い死体なんだから」
ベルサはそう言って笑ったが、なにが大丈夫なのかはわからない。
とりあえず軍手とマスク、それから通信シールを人数分、渡された。
「もしネクロマンサーに会ったら、私に連絡してくれる? 敵は北東の海岸、もしくは空からコンテナを落としてやってくるから空にも警戒しておいてね」
ベルサは「期待してるよ森の民~」とどこかへ消えてしまった。
「筆頭! どうしますか?」
後ろに控えていた薬師が私に聞いてきた。
「どうって……言われたことはやりましょうか。四人一組になって、八方に展開。日が落ちたら必ず私の元に集合し、ゾンビを見つけたら呼ぶこと、いいな!」
「「「「はい!!!」」」」
私たちは現在、シャングリラの南西にいて、そこから徐々に北東へと展開していくことに。
ゾンビはすぐに見つかった。
「筆頭! こちらです!」
ゾンビたちは列をなして森の中を行進していた。列の後方には錫杖を鳴らすネクロマンサーの姿があった。
「こちらカミーラ。ベルサ、ネクロマンサーを見つけたよ」
通信シールでベルサを呼ぶ。
『ああ、今行く』
ベルサはいつの間にか私の隣りにいて、一緒にゾンビたちを観察していた。
「あのネクロマンサーの後ろにいる毛皮のついた鎧をつけているのが氷の国の軍人たちだね」
「え? ああ、ベルサ!」
「カミーラ、もう少し北に行くと沼がある。そこまでゾンビたちを誘導してくれる?」
「わかった。でも、ゾンビたちの動きは遅いから時間はかかるよ」
「そっちのほうがいい。できれば日が落ちるくらいまで時間かけて」
「了解」
私は薬師たちと共に、回復薬をかけながら行進するゾンビたちを誘導。ネクロマンサーも誘導されていることに気づいていながら、こちらを攻撃してくるようなことはない。氷の国の軍人にもバレてしまったが、こちらに注意が向くなら囮役としては正解だ。
日が沈み始める頃、沼にたどり着き、一旦ゾンビから離れた。
ネクロマンサーの部隊と氷の国の軍人たちが沼の側に集まり、野営を始めるのが見えた。
「あとは私に任せて。明日もあるから休憩していいよ。見つからないようにね」
ベルサは森のなかで狩りをしていたらしく、魔物の肉も用意されていた。松の木の下の煙が見えにくい場所で私たちも野営することに。
気になったのでベルサの様子を見に行くと、本人は焚き火をしていた。
「おいおい、ベルサ、そんなことをしていいのか?」
「ん? ああ、カミーラか。大丈夫だよ、この煙は眠り薬だから。風向きはほらちょうどあいつらが野営している場所に向かっていくだろ?」
確かに、ネクロマンサーの部隊と氷の国の軍人たちが野営している方に煙が向かっている。
三〇分ほど経った頃、ベルサはマスクをして敵の野営地に乗り込んでいった。止められてはいないので私もマスクをしてついていくことに。
ベルサは手際よくゾンビの足を回復薬で溶かし、眠っている氷の国の軍人たちに眠り薬を嗅がせ、さらに深い眠りへと誘っていた。ネクロマンサーたちには気付け薬を嗅がしている。私も手伝った。
「コムロカンパニーだ。助けに来た。氷の国の軍人たちは眠っている。話せるか?」
目を覚ましたネクロマンサーたちは周囲を見回し、ベルサに頷いた。
交渉の内容はよくわからなかったけど、とにかくベルサはコムロカンパニーが人質となっている家族を助けるということを伝え、ネクロマンサーたちは「合図をくれ」と言っていた。
それから三日間、私たちが囮役となってゾンビたちを駆除していたら、空からコムロカンパニーがやってきてシャングリラにいるゾンビをすべて駆除。戦争を終わらせた。
正直、私たちは言われたことをやっていただけだったが、うまくいっているのだからコムロカンパニーの指示は正解だったのだろう。清掃・駆除業者がやるような仕事ではないが。
「人が秘伝を部下に教えるか迷っている間に、あいつはどんどん先へ行ってしまうな」
「筆頭!」
部下たちが再び私に指示を求めてきた。
「帰るぞ」
「「「「はっ!!」」」」
私は一度エルフの里で研究し直すことにした。