『田舎出身のシティガール』メルモ
羊の魔物ゴートシップと牧草しかない田舎からやってまいりました。
メルモッチ・ゼファソンです。
今はコムロカンパニーという清掃・駆除会社に所属していますが、初めは都会に馴染めず、とにかく汗をかいていました。
人が多いせいでしょうか。私がいたフロウラという港町はとても暑かった。ゴートシップの毛で編んだセーターを着て、汗をダラダラとかいている私を見て、うちの会社の社長はすぐに服を買ってくれました。ただ、フロウラで売っている服は薄い布でできた服しかなく、私は踊り子に仕立てあげられるのではないかと思ったほどです。
なにより普段大きすぎて隠していた胸が目立ってしまい、顔から湯気が出そうになりました。社長は「人類の宝」と称してくれましたが、周囲からの視線を集めているようで、再び汗をかくことになりました。ただ、町を行き交う人々は皆、私と同じような服を着ていて、恥ずかしがっている方が目立ってしまうことに気づきました。
また、社長が私と話す時に、胸しか見ていないことにも気づきました。スケベな社長ですが、気に入られなければ給料が出ないと思い、ここは我慢。先輩のアイルさんは蹴っ飛ばしてもいいと言っていましたが、入社当初はそんな勇気はなかったです。汗。
なにより、社長はしばらくすると私の胸を見る暇もないくらい忙しそうでした。なにがそんなに忙しいのかわからなかったので、先輩のベルサさんに聞いたところ、「理解しようとしないほうがいい」と言われました。社長は謎です。
業務内容もよくわからぬままに入った会社ですが、現在もはっきりはわかりません。
都会の人は何を考えているのかわからないと聞いていましたが、本当によくわかりません。
当初、冒険者として強くなれば、給料が上がるかと思い、フロウラ周辺の森でアイルさんの訓練という地獄を味わいながら、魔物をメイスで撲殺。同期のセスという青年は筋肉隆々になっていきましたが、私はそこまで筋肉がつかず、負けた気がしました。
「筋肉と動きの性能は必ずしも比例しない。重要なのは自分のスタイルを見つけることだ」
アイルさんの言葉に感銘を受け、とにかく魔物の血しぶきを撒き散らしながらレベルアップを重ね、ついに冒険者としてDランクに上りました。
褒められるかと思った社長には「害虫駆除に冒険者のランクがなんの役に立つ?」と、宿の食堂で怒られました。
「じゃあ、なにをすればいいんですか!」
と、酔っ払った社長に抗議したところ、
「自由でいいよ。好きなことしなさい。得意なことで結果出してくれればいいんだから」
と、諭されました。
「それで、給料がもらえるんですか?」
社員旅行の相談をしている先輩たちに聞いてみました。
「うん。もらえるよ。だいたい私たち忘れてると思うから、一ヶ月に一回、自分で申請してね」
ベルサさんが答えてくれました。
「え? ベルサさんたちは給料もらってないんですか?」
「給料というか、必要な時に必要な分だけ稼げばいいだけだろ。メルモはなにか欲しい物があるのか? 経費で落としても問題ないはずだぞ」
アイルさんが説明してくれた。
衝撃を受けました。「必要な時に必要な分だけ稼ぐ」なんて、そんな考え、今までしたことがなかったのです。
それはつまり、どんな場所でも必要な時に必要な分だけ稼ぐことが出来る人になること。
「ナオキが言ってくる仕事以外は自由にしてていい。血を見るのが好きなら、森に行って魔物を狩ってもいいし、虫系の魔物が好きなら、捕まえて飼ってみてもいい」
アイルさんはそう言いながら、肉料理を注文して「これも経費で落ちる。というか落とす」と言っていました。
なんという素敵な職場だろう! と思ったのはこの時です。
自分の好きなことをしていても、給料がもらえるなんて!
都会では、急にゴートシップが産気づいて激走したり、ポイズンスパイダーを飼って死にかけて怒られることもない。
私は一気に都会の考え方に心酔していきました。
都会はよくわからないところで、悪い人に騙されるような怖いところというイメージがあったのですが、好きなことをしていくにはこんないいところはない。
「都会ってすごいなぁ」
そう言って、機嫌よく果実酒を飲んでいたら、
「この会社だけだと思うよ」
と、隣で肉料理を食べていたセスが言った。
同じ、田舎から都会に出てきたと思っていたセスは、おじさんの船で働いていたことがあるらしく、時々冷静な大人みたいなことを言うんです。
「都会の会社やお店が全部こんな感じのところじゃないってこと?」
「そう。メルモだって見たろ? アイルさんの強さや社長の移動速度の異常さを」
「ん? まぁ」
「ベルサさんなんか、僕らが必死でレベル上げした森で一晩小さなアリを観察してたんだよ。この会社だからだよ。都会とかはあんまり関係ないんじゃないかなぁ」
「こんなにいい会社は都会でもなかなかないってこと?」
「そうだね」
「じゃ、私たち運が良かったんだね!」
都会では運がいいことが重要らしいです。
「それから、たぶん、このフロウラって町より王都のほうが都会だと思うよ」
「え!? フロウラより大きな町があるの!?」
「そりゃ、あるだろう。社員旅行の帰りがけにそっち方面も行ってみようか?」
アイルさんが私とセスの会話を聞いていたようで、都会に連れて行ってくれるそうです。
「やったー!」
「ちょっと待て! ナオキどこ行った?」
「「え!?」」
私が喜んでいるとベルサさんが周囲を見回して、社長を探し始めました。
先程まで私たちに説教をしていた社長の姿が見当たりません。
「「「ワハハハハ!!」」」
「いいぞー! 兄ちゃんもっとやれ~!!」
「きゃ~!! ハハハハ!」
宿の外からどっと笑い声が聞こえてきました。
「マズいな。他人のふりをしておこう」
「セス、一応確認してきてくれ」
「はい!」
ベルサさんが顔を伏せ、アイルさんがセスに指示を出してました。
どうやら笑い声の中心に社長がいるらしいのです。
様子を見に行ったセスが戻ってきて一言。
「立派な裸踊りでした」
都会の人が考えていることはわかりません。
「社長がこれだけ自由な奴だから、なにやっても大丈夫だ」
アイルさんが言った。
私はわからないなりに楽しもうと思います。




