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駆除人  作者: 花黒子
~小話~
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『荒地からの便り』シンシア


 ロメオが教会に来た時のことを今でも覚えている。

 修道服の裾をぎゅうっと掴んで、恥ずかしそうに顔を真赤にしていたわね。

 初めて出来た同世代の友だちだった。農園の子どもたちより少しだけ年上で、都会から来たロメオは遊び方もたくさん知っていたから、子どもたちに人気だった。

 二人で遊ぶときはいつも宿屋ごっこをしていたわね。私の夢に付き合ってくれているのだとばかり思っていたけど、ロメオはよく本当に眠ってしまった。寝顔に落書きをしたのは許して欲しい。

 当時は知らなかったのよ。ロメオが夜中、靴屋のマックスさんに弟子入りして、子供用の靴を作ってるなんて。確かに、農園の子どもたちは裸足で、荒れ地の土は固かった。気づいてはいたけれど、子供用の靴なんか荒れ地には売ってないし、父さんも母さんも諦めていたのに。

 靴を貰った子どもたちは大事に履いていたし、物を大事にするようになった。何度も修理して、大きくなったら、下の子に譲って、今でも履いている子もいるわ。ロメオのお陰よ。


「よしっ! こんなもんかな?」

 私も物を大事にするようになったの。誰もいなくなった宿を修理して私の夢をかなえることにしたわ。ちょうど、今、ナオキさんが壊した窓を直していたところ。

「シンシアー! 鍋持ってきたわよー!」

 母さんも協力してくれているの。

 ベッドもあるし、食堂のテーブルや椅子もそのままだったから、元手はほとんどただ。きっとうまくいくような気がするの。

 だって、裏庭に竜が寝た跡があるんだから。

 名前も宿屋『竜の寝床』にしようかと思っている。

 ナオキさんはどこまで考えているのかわからない人だったけど、結果を見ると、いろんなことを先回りして私たちのために動いていてくれたことがわかった。本当にどういう頭をしているのか。もしかしたら、人じゃなくて神様の使いなんじゃないかと思う。


「本当にシンシアが宿を開くことになるとはね」

 厨房で皆の昼食の用意をしていると、母さんがポツリと呟いた。

「だって、これから人が増えるんだよ。この村で宿が営業してなかったら、その人達はどこに泊まるの? 絶対に儲かるじゃない? もう、中央政府には宣伝してあるんだ」

「まぁ、看板もできてないのに気が早いことで。あ、どうなったの? あのスポークスマンの彼とは」


 アルフレッドさんのスポークスマンとしてノームフィールドにやってきた青年がいた。ジェイソンという名前らしいのだが、アルフレッドさんたちがヒルレイクの王都に行っている間、暇そうにしていたので、小さい子供たちと一緒に遊んでもらっていた。遊んでもらったお礼に夕飯をご馳走したら、妙に懐かれてしまって、告白までされた。

「必ず幸せにします。どうか、僕と一緒に中央政府に行きませんか?」

 真面目な顔がバカに見えるタイプの彼に告白されて、思わず噴き出してしまった。

「ごめんなさい。プロポーズなんか初めて受けたから、笑っちゃって。自分の人生には縁のないものだと思っていたものだから」

 なんとか取り繕い、

「でも、本当に申し訳ないんだけど、私はこの村で宿屋を営むことが、子供の頃からの夢だったから、結婚は出来ません。お客さんとして来るのは歓迎しますわ」

 と言いながら、両手で手を握ってあげたら、ジェイソンくんは顔を真赤にしていた。

 母さんに話して聞かせたら、「悪い娘に育ってしまったわ」と、嬉しそうに笑っていた。


「父さんたちは?」

 すでに、家族の分の昼食を作ってしまっている。冷めないうちに食べさせてあげたい。

「すぐ宿の方に来ると思う。家に食べ物がなければ、匂いを探してここまで来るでしょ? 最近、ようやく本調子に戻ってきたから。やっぱりあの人には仕事があったほうがいいのよ」

 母さんは仕事をする父さんが好きのようだ。

 実際、最近の父さんは何かが吹っ切れたように生き生きとしている。農園で仕事している頃にあった眉間のシワも今ではなくなっている。よほど道路作りが楽しいらしい。

「シンシア! 立派な宿じゃないか!」

 父さんが宿の扉を開け、子どもたちを連れて入ってきた。

「また、大げさな! まだ掃除して、窓を修理しただけよ」

「シンシア姉! 飯―!」

「腹が減って、お腹が背中とくっつきそうだぜー!」

 子どもたちが叫ぶ。

「はいはい。皆、裏の井戸で手洗ってきな!」

「「「「はーい!」」」」

「父さんもね!」

「はいはい」

 子どもたちが見ていないところで母さんにキスをしようとして断られた父さんにも手を洗わせる。

 皆が手を洗っている間に、テーブルを布で拭き、食器を用意。

 匂い立つ鍋をテーブルの中央に置き、皆が入ってきたら、全員が席に座るまで待つ。

 全員が席についたら、手を組んで目をつぶりお祈り。

 ロメオがやっていたことで、特に祈りの言葉なんか知らないのだけれど、これをすると子どもたちが自然と落ち着いて食べるからやっている。

 今度、教会に行った時、祈りの言葉をシスターに教えてもらおう。


 こっちは今のところ、そんな感じ。時々、メルモちゃんやアイルさんから魔法の袋で連絡が来るよ。なんだか、相変わらずナオキさんが非常識なことをしているみたい。

 そっちはどう?

 ナオキさんは「ロメオ牧師は違う世界に旅だったんだ」と言っていたけど。

 夜中に空を見上げて、小さな輝く星を見つけると、「あそこにいるのかな」って思ってるよ。

 たまにでいいから、返事くらいしてよね。

 私にとっては、初めて出来た同世代の友だちなんだから。


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