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駆除人  作者: 花黒子
~冒険する駆除業者~

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362/506

362話


 洞窟スライムの粘液を大量にアイテム袋に入れて、南極大陸に戻る。

 竜たちには連絡をして、もしかしたら『海底に眠る花嫁』がハマっている穴に亀裂が入るかもしれないことを伝えた。

『なるほど、では我輩たちは、なるべく竜玉を作っておいたほうがいいな』

 通信袋から黒竜さんの声が聞こえてきた。

「そうですね。『空飛ぶ竜の乗合馬車』が運用し始めてすぐなのに、すみません」

『なに、そのために運用しているのだ。南半球の塔に行った時は必ず竜玉を作るようにする。聞いたな。竜たちよ』

『『『『了解です』』』』

「いよいよ限界で危なくなったら、竜族の皆さんを南極の海に呼んで穴を埋める工事をしますから、よろしくおねがいします」

『わかった。なぁに、我らが母のためだ。いつでも準備はしておく』

 その日から、俺とメルモも『海底に眠る花嫁』の観察を始めた。

 周囲に近づいてくる魚や海獣などの動物たちは日に日に数が多くなり、捕食する大型のサメも増えてきた。「あまり増えすぎても」と思い、一度大型のサメを放っておいたら、海底にある竜玉を飲み込もうとして死んでいた。

「鼻を殴って追い返すのが正解かな。でも、魔力の壁があるからなぁ」

「まぁ、水竜ちゃんがなんとかしてくれるよ」

 ベルサの言う通り、水竜ちゃんが自由に泳いでくれるだけで、『海底に眠る花嫁』の周辺には縄張りが出来たようだ。あまり攻撃してくる海獣もいない。

 メルモは逸れたペンギンの雛に懐かれ、飼っていた。


 毎日、観察していると、『海底に眠る花嫁』が大きくなっていくのがわかる。表面の鱗は張り、脈は次第に速くなっていく。

 そして、限界は15日後の夜に来た。

「中身が光ってるよー!」

 巨大な球体になった『海底に眠る花嫁』は、中から薄っすらと赤く光り始めた。すぐさま俺は竜たちに呼びかけ、南極大陸の海に来てもらう。竜たちが移動の間、俺たちもコンクリートの準備。洞窟スライムの粘液に砂と石を入れ、ひたすらかき混ぜる。

 魔石灯を魔力の壁で覆い、大きなバルーンを目印にした。

「おう、ここだな」

 黒竜さんとゼットが飛んできた。

「すぐに、竜の娘たちも来るだろう」

 黒竜さんの予想通り、すぐに竜の娘たちが到着。レッドドラゴンは少し遅れていた。

「竜の皆さんは泳げますか?」

「30分ほどなら問題ない。鱗があるから水深が深くても大丈夫だ。そもそも我輩がベルサ博士と観察を始めたのだからな」

 そういえばそうだった。

「社長、その魔力の玉で空気を運ぶことは可能か?」

 ゼットが魔力の壁に顔を向けながら聞いてきた。見えてはいないようだが、どういうものかはわかるらしい。

「可能ですよ。いくつか空気を運んでいきましょう」

「ならば、もっと潜っていられるな」

「わかりました。俺たちで砂の下にある岩盤の様子を探知スキルで見ていますから亀裂が入ったり、崩れたりしたら、すぐに竜玉の作成をお願いします。俺たちは、その亀裂や崩壊した箇所を塞ぎますから」

「わかった」

 一応、竜たちには耳栓を渡し、俺は魔力の壁で20個ほど空気玉を作っておく。

「今夜は明るいな」

 ゼットが月の方に顔を向けた。

 確かに今日は満月。南半球は秋。

「十五夜か」

 レッドドラゴンが到着し、黒竜さんが打ち合わせをしている。

「よし、社長、行けるぞ!」

「わかりました。今夜は満月なので潮の流れが早いかもしれません。皆様、固まって離れないように。それから水竜ちゃん、今夜だけは大型のサメや海獣が出ても食べなくていいから」

「はーい! りょーかーい!」

「では、行きましょう!」

 俺たちは海に潜った。

 予想通り、潮の流れは早いが、水竜ちゃんと全員を魔力の紐で結び、運んでいってもらう。当たり前だが、水竜ちゃんが最も泳ぐのが上手い。

 10分ほどで『海底に眠る花嫁』がいる場所に到着。海底だというのに、満月のためかいつもより明るい。

 海底に積もっている砂の上に立ち、探知スキルで岩盤の様子を観察。だが、まだ亀裂などは見られなかった。『海底に眠る花嫁』も脈が速くなったり遅くなったりを繰り返している。

「この症状が満月だからってだけならいいんだけどね」

 何ヶ月も観察しているベルサが言った。もちろん、こんな症状は初めて見たという。

 観察を始めて2時間。『海底に眠る花嫁』は膨らむばかりで、岩盤には何の影響もない。竜たちは呼吸のため、なんども交代で海面へ浮上していた。

 そして真夜中を過ぎた頃だった。

『海底に眠る花嫁』が一際強く輝き始めた。

 ドクンドクン!

 鼓動は強く、今までで一番速い。

「来るぞ!」

「レッドドラゴン! 海底に戻ってこい!」

 浮上していたレッドドラゴンを呼び寄せる。

 なぜか周囲には魚や海獣たちの群れが集まってきた。


 ドクンドクンドクン! ドックン!


 大きかった『海底に眠る花嫁』の鱗がはち切れんばかりに膨張し、急速に萎んだ。

 探知スキルで見ると、岩盤にピッタリと嵌っていた『海底に眠る花嫁』の身体が一瞬、萎んで、岩盤との間に隙間ができた。そこから小指の爪ほどの小さな魔物が数えきれないほど出てくるのが見えた。目の前いっぱいに砂が舞い上がり、小さな魔物が紛れていく。

 よく見れば、砂と一緒にタツノオトシゴのような形をした魔物が、月明かりが差し込む海の中、潮の流れに逆らわないように漂っていた。

「ナオキ、一旦離れよう!」

 ベルサの声で、俺はその光景に圧倒され、目を奪われていたことに気づいた。

 離れるとわかるが、タツノオトシゴのような形の魔物は『海底に眠る花嫁』の脈動に合わせて、地中から出てきて潮の流れに飲まれていっている。周囲にいた魚や海獣たちは、漂ってきたその魔物を夢中で食べている。

「ダメよ~! 竜の子が~!」

 水竜ちゃんが叫ぶ。

「竜の伝説通り」

 ベルサが言った。

『遥か昔、魔族の王と結婚した花嫁が龍脈の暴走を止めるため、身を投じ封じた。その花嫁の魂は王とともに今も安らかに眠っている。しかし、魂のなくなった妃が子を産んだ。子は鱗に覆われ、膨大な魔力を有し、あらゆる種族よりも長寿となった』

 あの小さなタツノオトシゴみたいなのが竜の原種か。膨れていた『海底に眠る花嫁』は徐々に収縮していく。

「魔力を有したあの小さな竜たちが、魚の動物を、海獣の動物を魔物に変えるんじゃ……!」

 ベルサは思いついたように叫んだ。

 竜族も俺もなにも言えず、ただ「も~う!」という水竜ちゃんの声だけが聞こえてきた。

 いや、水竜ちゃんの他にもう一人ゼットが動いた。俺の方に顔を向け、口を開けてなにかを言ったが、月明かりが陰りよく見えない。

「すまん? なんて……?」

 俺が聞き返した時には、ゼットは大きく口を開けていた。

 漂っていた竜の子たちが一斉にゼットの口の中に入り込む。ゼットは大きく口を膨らませて。そのまま海面へと浮上していく。

「兄上!」

 黒竜さんが息を吐いてしまった。水竜ちゃん以外は海中で息ができるわけではない。

 一瞬溺れかけた黒竜さんに俺は空気を入れた魔力の壁を渡す。

「俺が行きます!」

 俺はゼットを追いかけ、海面へと浮上。

 海の上に出たゼットは北へ向けて飛び立っていた。俺も空飛ぶ箒で追う。

「どこに向かってるんだ?」

 満月の光を受けて、一体の大きな竜が海に影を作って飛んでいる。おそらくゼットは俺がついてきているのを知っているはずだ。

 しばらく飛び続けて、ようやく俺にもどこに行くかがわかった。


 ゼットが入ったのは世界樹近くの城。自分が建てた城の天辺から地下へと一気に飛んでいく。底にはゼットが1000年かけて作った誰もいない地下帝国がある。

「ブヘッ!」

 その地下帝国の入り口で、ゼットは大量の竜の子を吐き出した。

「ハァハァ、すまぬ。社長」

 ゼットが俺に振り返った。

「いや。それより、竜の子は死なないか?」

「ハァハァ、これが本当に竜の子なら大丈夫だ。我の代わりに見ていてくれ」

 俺はとっさに魔石灯を灯し、明かりを吐き出された竜の子たちに当てた。

タツノオトシゴのような形をしている竜の子は地面に落ちて、みるみるうちに足を生やした。

「足が生えた」

「そう! それこそ竜の証だ!」

 ゼットは、安心したというように息を整えた。

「社長、竜の竜たる所以はなにかわかるか?」

「鱗? 魔力? いや、わからないな」

「環境適応能力だ。原種ならなおさらその能力が高いはず。我と黒竜の肌が黒い理由は、我らの親が闇を扱う魔物とまぐわったからだ。レッドドラゴンが赤いのは親が火を扱う魔物とまぐわったから。竜はその環境に適応し、最も強い者に姿を似せ、まぐわい、子孫を残していく。それが竜のタブー。人化の魔法は今の竜にとって最適解だろうな」

 ゼットは訥々と語った。

「今日生まれたあの中からいったい何匹が生き残るだろうな。運良く生き残った竜も、ほとんどが地上の魔物に食べられる。成長して大人になれるのは稀だ。だから、少しでもと思って、ここに連れてきた」

 ゼットの目から大粒の涙がこぼれた。

「すまん、まだ捨てきれないのだ。この見えない目で1000年、夢を見続けてきた。喜び歌い踊る竜たちの幻を。あれを見てしまって、どうしても自分を抑えきれなかった」

「竜の帝国を作る、か。いいんじゃないですか? 俺も手伝いますよ。ゼットの上司ですしね」

 俺はそう言って、カバンから干し肉を取り出して、竜の子たちの側に置いてみた。生まれたばかりの竜の子は、目も鼻も効いていないらしく、動き回っている。干し肉にぶつかると、尖った口を突っ込み、吸っているらしい。

「なら、こっちのほうがいいか」

 俺はカム実を切って細切れにしてから、竜の子たちに与えた。食べ物とわかった途端、竜の子たちの動きは早くなり、ものの数秒でカム実が消える。

「お、ゼット、これは忙しくなりそうですよ」

「いいのか?」

「え? いいんじゃないですか? たぶん、ベルサとか絶対に観察しにやってくると思うし。あ、人類の敵とかにしないでくださいよ」

「それは、ないと思う」

「それから、この地下帝国には魔石灯もないから、明かりがほしいですよね。やっぱり世界樹の内側と繋げちゃったほうがいいんじゃない? とにかく、うちの会社は自分の好きにやっていいですよ。業務の時だけ頑張ってくれればいいですから」

「適当でいい会社に入ったものだ。世話をかける」

 コムロカンパニーに、ゼットの地下帝国にいる竜の子の世話という業務が加わった。余った食べ物を持ってくるだけになりそうだが。

 一先ず、まだ南極大陸にいるベルサたちと連絡を取り、状況を説明。

『こっちはこっちで、凶暴化した動物を駆除してる。でも、もう『海底に眠る花嫁』は大丈夫そう。完全に萎んじゃってる』

「そうか」

『しばらく滞在して、様子見るけど、問題なさそうだったら引き上げる。竜たちは仕事に戻っていいよね?』

「いいよ。それで頼みます!」

『了解。終わったらすぐ地下帝国に行くから、竜の子どもたちは死なせないようにゼットに厳しく言っといてね』

「了解」

 俺は通信袋を切った。

「だ、そうです」

「助かるな」

「いやぁ、ゼットもコムロカンパニーの一員ですからね。部下のやりたいことはやらせてやりたいから。その代り、普段は俺が迷惑かけてるでしょ」

「そういう事になってるのか。ようやく理解した」

 その後、世界樹の実を探しているメリッサたちにも報告。邪魔にならないように、世界樹で竜の子たちのための食べ物を探すことに。


 3日後、ベルサから連絡があり、『海底に眠る花嫁』が再び竜玉を作り始めたと報告があった。

「じゃあ、たまたま出産時期と被ったのかな?」

『1000年我慢してたけど、ようやく魔力が流れてきたから産んだのかもよ。どちらにせよ。『7つの謎』のうちの一つは解決しちゃったね』

「なに!? ベルサ、人類の勇者を狙ってるの?」

『え? 最後の一週間はうちの会社の社員でも参加していいんでしょ?』

「ああ、そうだったな。そうか、頑張ってくれ!」

『もっと応援しろ!』

「暇だったらな」

 俺は通信袋を切って、カム実の採取へと向かった。


 レミさんから連絡が来たのは、それから2週間後のことだった。

『ナオキくん、こちらグレートプレーンズにいる考古学者のレミです。クロノス・ティタネスの遺跡を掘っているところなんだけど、未完成の書簡と一緒に、ちょっととんでもないものを見つけちゃったみたいで。魔法陣が描いてあるから、読み解いてもらえない?』


 

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