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駆除人  作者: 花黒子
~冒険する駆除業者~
361/502

361話


「どうした?」

『魚の動物も集まってきてるんだ。しかも『海底に眠る花嫁』が膨らんでる』

 魚は魔力に惹かれたのか。

「とりあえず、俺とメルモが行くよ」

『頼む!』

 俺は通信袋を切って、社員たちの方を向いた。

「アイル、セス『空飛ぶ竜の乗合馬車』でなにかあったら対応を頼む。使役スキルを持ってるメルモは俺と南極の海に向かうぞ」

「「「了解」」」

 俺とメルモは空飛ぶ箒で、南へと飛んだ。


 どんなに急いでも着くのは真夜中を越える。

 南半球は秋。黒い海に白い波が立っていた。普段はあまり姿を見せない動物の魚や海獣が南極を目指している。

「なにかあるんですか!?」

 メルモが不安そうに聞いてきた。

「それを確かめに行くんだ。怖がらずに、ちゃんと見よう。急ぐぞ!」

「はい」


 俺たちは休まずに飛び続け、真っ暗な南極大陸に一つだけ灯る魔石灯に到着。それがベルサたちの拠点らしい。

「ベルサー!」

 秋の南極大陸は寒く、どこからか「ギュー」という音が聞こえてくる。動物の鳴き声か。大声でベルサの名前を呼び続けると、地面がガコッと動いた。

「ナオキ、こっち。入って。寒いから」

 寒さで口が固まってしまうのか、ベルサは短い言葉だけで喋っている。

「どこだ? あ、地下か」

 探知スキルで見て、ようやく気づいたが、ベルサは地下に拠点を作ったようだ。

 中に入り、蓋を閉めると意外に暖かい。臭いけど。6畳ほどの部屋が2つあり、乾燥した魚や苔、海藻などが瓶に詰められている。完全な穴蔵生活だが、これなら毛皮を着るだけで過ごせるかもしれない。

「煙突から煙が立ち上ってただろ? わからなかったか?」

「目が慣れてないんでわかりませんよぉ~」

 メルモが文句を言う。ストーブもあるようだが、一酸化炭素中毒にならないか心配だ。

「魔石で熱を発生させてるから大丈夫だ」

 俺の視線を察して、ベルサが答えた。

 水竜ちゃんは人型になっており、毛皮をまとって眠っている。人型のまま眠れるなんて器用だな。

「今日は水竜ちゃんが頑張ってくれたんだ。寝かせておいてやってくれ」

 椅子などなく、毛皮の絨毯の上に俺たちは座った。

「どういう状況か説明してくれ」

「相変わらず『海底に眠る花嫁』は竜玉を作ってないっていうのは話したよね。それで、身体がどんどん膨らんできている。明日、見に行ってもらえばわかると思うけど。それから、なぜか魔石を持っていない魚の動物や海獣の動物がちょっと離れたところに集まってきているみたいなんだ」

「俺たちも見た。空を飛んでる時に、南極に向かう動物の群れを何回か見たよな?」

「ええ、あれは『海底に眠る花嫁』に向かってるんですか?」

「おそらくね。特に攻撃してくるって感じでもないんだけど、転がってる昔の竜玉についた苔を食べる魚の動物はいるよ。それを食べる海獣の動物もね。大型のサメの動物も現れて、水竜ちゃんが食べてくれたんだ」

 なるほど、それで疲れているのか。

「生態系は壊したくないから、なるべく自然のままがいいと思うんだけど、原因がわからない。どうしてこのタイミングで動物たちが寄ってきているのか。駆除していいかどうかも含めて調査しないと」

「「了解」」

 夜の間はやることがないので、夕飯を食べて就寝することに。

「なんか欲しいものとかないのか?」

 ベルサは研究キットとキャンプセットのようなものしかないため、あんまり生活感がない。研究のしすぎで何日も食事を取らないような奴だ。

「ああ、クリーナップの魔法陣が欲しい。海に入る時は魔力の壁で覆ってるからいいけど、潮風で髪がもう……!」

 ベルサの髪はいつも乱れているが、確かに今日は爆発している気がする。水は雪を溶かして使っているが、南極大陸の寒い中で髪を洗うのは自殺行為に近いのだとか。

「じゃ、クリーナップと温風が出る風魔法の魔法陣だな」

 木の板に魔法陣を焼き付けて、洗濯物の汚れを取っていく。夕飯もろくに料理をしてなかったらしく、鍋も汚れていた。

「ベルサ、俺たちは清掃・駆除業者だぞ。少しは……」

「仕方ないだろ。水がそんなに使えないとこうなるんだよ」

 南極大陸ほど水生成器が必要なのかもしれない。

「いや雪を沸かせ!」

「寒いだろ~」

 一旦、穴蔵の中に入ってしまうと、外に出るのに気合が必要なのだとか。わからなくはない。

 とりあえず、生活環境を整えて眠った。


 翌朝、水竜ちゃんにガブガブ噛まれて起きた。

「来たのね。冷たいのよ~ここの海は」

 毛皮を着込んだ水竜ちゃんは入り口を開けて、とっとと外に出てしまった。毛皮のまま海に入るのかと思ったら、海に入る直前にちゃんと毛皮を脱いで竜の姿に戻って勢いよく入っていった。

「生身は寒いよなぁ。俺たちも行こう」

 俺たちは魔力の壁に温風を閉じ込めて海へと潜ることに。

「魔力の壁は大きめに作っておいたほうがいいよ。水圧で縮むから」

 ベルサのアドバイスに従い、俺もメルモも大きめの魔力の壁を作った。そのまま海へ。

 ザブンッ。

 海の中は暗いかと思ったが、意外に明るい。そして、想像していた以上に緑が豊か。

「こんな苔も海藻も生えてるの!?」

「そう思うよな!」

 前の世界で見た古生物のような姿をした無脊椎動物もいる。

「海流の関係で微魔物、いや微生物も多いらしくてさ」

 ベルサは嬉しそうに言った。本当は、南極の海にいる全ての生物を観察したいらしい。

「まだまだ深いところに行くから、油断しないようにね。突然大型の動物が出てきたりするから。先行している水竜ちゃんについていくのが正解だよ」

 探知スキルで反応しない大型動物もいるため、緊張感が増す。

 水竜ちゃんは朝飯とばかりに、銀色に光る魚とかを食べていた。まるごと食べるので、血が漂ってくることもない。

 30分ほど進んだところで、海底に大量の竜玉が沈んでいた。ベルサが言っていたように表面には苔が生えていて、小魚やカニ、アザラシのような海獣などの姿もあった。

 さらに進むと、海底が砂になり、目の前に山が見えてきた。

「あれが『海底に眠る花嫁』か」

「そう、もっと小さかったんだけどね。今はあの通り」

 ベルサが言うように、餅が膨らんだときのような形をしている。

 近づいていくと、ドクンドクンと脈を打つ音が聞こえ始めた。

「おっはよー!」

 水竜ちゃんは『海底に眠る花嫁』の周りを泳いで挨拶をしていた。

「周りの砂を見て。盛り上がってるでしょ?」

 言われてみると、確かに『海底に沈む花嫁』の周囲の砂が盛り上がっていた。

「ちょっとずつ盛り上がってるんだよね」

「つまり、穴が広がってるってこと?」

「そう。『海底に眠る花嫁』は成長を続けてるの」

 だんだんヤバさがわかってきた。

「砂の下には硬い岩盤があって亀裂でも入ったら、ここら辺一帯は一気に魔力が噴き出してくるね」

「なるほどヤバいな」

 俺も探知スキルで砂の下を確認し、今のところ亀裂が入っていないことを確認。ただ『海底に眠る花嫁』が穴にすっぽりハマっているのが見えた。いよいよの時は竜族全員を集めて竜玉を作ってもらいながら、岩盤の補修をするしかないか。

「竜族と協力しあいながら、亀裂を魔力の壁で覆い、コンクリートで埋めていくか。それくらいしか対応策は思いつかないけど」

「洞窟スライムの粘液で作ったアレですねぇ?」

 メルモが聞いてきた。

「そうだ。洞窟スライムは相変わらず、今でも世界樹の周辺にいるのか?」

「うん、メリッサたちが管理してるはず」

「了解。採りに行ってこないとな」

「集まってきてる動物に関してはどうする?」

「多様性があるよな。それはいいことだと思うんだ。大型の動物が来た時だけ対応しようか。一気に食われるとなにもいなくなっちゃうから」

「了解。方向性が決まってよかった」

 一先ず、まだ岩盤に亀裂が入っていないので、周囲を探索。大型の動物が出てないことを確認して、拠点へと戻る。


「洞窟スライムの粘液は俺が取ってくるよ。あ、でも、アイテム袋がないな」

 持ってこれる量に限りがある。

「作りましょうか? 道具は持ってきてますよぉ~」

 メルモがそう言うので、作ってもらうことに。空間の精霊が嫌いとか言ってる状況ではない。

「頼む!」

 そう言うと、メルモは裁縫道具と布を取り出して、カバンを作っていった。メルモがアイテム袋を縫っている間、壁にアイテム袋の魔法陣を空間ナイフで彫っていく。

「良い収納ができるだろ?」

「ああ、上の方に描いてね。寝ている間に転がって、亜空間に飛ばされちゃ敵わないから。ああ、そこら辺がいいや」

 ベルサに言われた壁に、魔法陣を描いていたら、突然、頭の中に空間魔法のスキルが発生した。

「おおっ、なんか久しぶりにスキルなんて見たな。空間魔法のスキルって取っておいたほうがいいかな?」

「うん、取ってみれば。これで空間魔法のスキルの発生条件がわかったね」

「確かに」

 スキルポイントなんか全然使ってなかったので、レベルを最大まで上げてみた。

「もしや、これで瞬間移動が出来たりするのか!?」

 試してみたが、上手くいかない。

「練習が必要なのかな?」

 とりあえず、スプーンを右手から左手に瞬間移動させたりしてみた。これ、なんか意味あるのか。

「それだけ!? 使えない魔法スキルだね。私いらないや」

 ベルサは非情だ。

「出来ましたよぉ~!」

 メルモが作ったアイテム袋を確認。よく出来ている。

「じゃ、行ってくる!」

 結局、俺は空飛ぶ箒で世界樹へと向かった。


『ナオキいる!?』

 空を飛んでいたら、メリッサの声が通信袋から聞こえてきた。

「いるよ。今、世界樹の方に向かってるけど?」

『エルフの奴らが私たちの拠点を荒らしてるんだよ!』

「拠点って世界樹の中、それとも外?」

『外! 冒険者だけど、冒険者じゃないとか、わけのわからないことを言ってて』

「ん~、わかった。とりあえず、俺が行くまで捕まえて待っといて」

『わかった』

 通信袋を切って、急いで世界樹へ向かった。


 世界樹の外にある拠点は現在、ゼットが建てた城になっている。近づいていくと、喧嘩している声が聞こえてきた。

「やっぱりエルフってのは、どうしようもない種族だね!」

「赤ら顔のドワーフがなにを言う! 頭蓋骨の中には酒でも入ってるんじゃないか!?」

「バカな! ドワーフはどこにいても優秀だと証明されたばかりだよ! その長い耳を削ぎ落としてやろうか!」

 俺は落下するよりも早く飛び、メリッサと縄でぐるぐる巻きにされたエルフの間に割って入った。

「まぁまぁ、2人とも落ち着けよ!」

 突然、俺が現れたので、とりあえず罵声が止まった。

 周囲には捕らえられたエルフが5人。世界樹の管理者であるドワーフたちが8人。それからフェリル、アーリムの姿もある。

「なにがあった?」

「この薄汚いエルフどもが、私たちの拠点を荒らしてたんだよ!」

 メリッサが答えた。

「違う! 人を探していたんだ。いや、あのどこから……!?」

 エルフは俺に驚いているようだ。

「ああ、俺はナオキ・コムロだ。空から、降りてきただけだ。お前らはどこから来たんだ?」

「無論、エルフの里から」

「『空飛ぶ竜の乗合馬車』を使って、ここまで来たのか?」

「そうだ」

「なら、冒険者だな?」

「冒険者には登録しているが、我らはハイエルフの部下だった植物学者を追ってきたんだ」

「ハイエルフだって!?」

 メリッサが口を挟んできた。

「メリッサ、ちょっと待て。エルフの里っていうのはいろいろ面倒なんだ」

 とりあえず、メリッサを落ち着かせて、尋問を続ける。

「そのハイエルフの部下はなにかしたのか?」

「世界樹の花粉を持ち出して南半球へ旅立った。南半球に行けるようになってすぐのことだ」

 南半球では春の半ばだな。世界樹の花がまだ咲いている頃かもしれない。

「メリッサ、世界樹の実がなっているのを見たか?」

「もし私たちの誰かが見てたら言うよ。でも、世界樹は広いから……」

 全てを把握できるわけではないか。

「夏の間、冒険者たちが勇者たちの国から来ることはあったよ。でも、ほとんど世界樹まで辿り着いてなかったと思うけど、見過ごしている奴はいるかもしれない」

 メリッサの同僚であるドワーフが言った。

「可能性はあると。なるほど。まぁ、世界樹の実があったところでなんだけどな」

「どういうことだ?」

 捕らわれたエルフが聞いてきた。

「ああ、ちょっとでも食べたら爆死するんだ。悪魔でも食べると死ぬ。全知全能が得られるってことは自滅するようなスキルも取得するってことだからな。人の場合は跡形もないかもしれない。誰かここ最近、魔物が爆散した跡とか見てない?」

 ドワーフたちに聞いた。

「いや、夏は植物が成長してる時だから、爆発してもすぐに緑で覆い隠されちゃうよ」

「そうだよな。食べたかどうかわからないけど、もしも世界樹の実が出来ていたとしたら、たぶん、2つあるはずだ。危険だから探したほうがいい。種が発芽して、もう2本世界樹が生えたら、夏の度にそこら中で爆発が起こる」

「やっぱりエルフが面倒事を持ってきてくれたね!」

 メリッサがエルフを睨んだ。

「違う! メリッサ。このエルフたちはその植物学者を止めようとして世界樹まで来たんだ。だろ?」

「そうだ。ハイエルフの部下たちは地位と知恵に溺れたエルフの恥だ。これ以上、恥を重ねたくはない。どうか、お願いします! あの植物学者は弟なんです。俺が止めなきゃならなかったのに……どうか、どうか」

 捕らえられたエルフは泣きながら地面に頭をこすりつけた。

「エルフの中には良い奴もいれば悪い奴もいる。人族だってそうだ。種族だけで判断せずに、話を聞いてやってくれ。じゃないと本当に世界樹ごと爆発しちゃうぞ」

 俺はメリッサたちに言った。

「そうだけどさ。どうやって探すんだい? 探すのはエルフの植物学者と、あるかもしれない世界樹の実だろ?」

「まぁ、人海戦術だろうな。ただ、世界樹の環境で生き残れる奴ってそんなにいないよなぁ。また、うちの傭兵たちに頼むか。セーラたちにも声をかけてみてもいいかもな」

 俺がリストアップしてると、なぜかドワーフたちが黙ってしまった。

「どうした?」

「いや、世界樹の管理を任されてるのに、外からそんな奴が来るなんて想像もしてなかったから。油断してた。守るべき世界樹は内側ばかりじゃないんだと思ってるところ」

 メリッサがボソボソと言った。

「うん、今までは私たちしかいなかったから、そんなこと考えもしなかった。どうせ弱い奴らは世界樹で生きられないと思ってたし」

「変なところから入ってこないように、入り口を作ったほうがいいかもしれないね」

「だったら、世界樹の北側がいいよ。勇者たちの国もそっちにあるんだしさ」

「あんたらエルフは森で生きてるんだろ? どういうサバイバル術を身に着けてるんだい? それによって、あんたの弟が見つかるかもしれないよ」

 世界樹の管理者であるドワーフたちが次々と発言していく。種族による差別や偏見もなくなっていくといい。

 とりあえず、傭兵のウーピーに通信袋で連絡し、30人の魔体術の門徒たちを世界樹に向かわせてもらうことに。

「急に悪いね。あ、うちの会社からちゃんと報酬は貰ってる?」

『ええ、この前アイルさんが、全員に報酬を配ってましたから安心してください』

 後で怒られるな。そもそも俺は借金生活だし。

 セーラにも連絡すると、『本当ですか!?』と興奮したような声が返ってきた。

『ナオキさん、私たちが人類の勇者になりますよ! これは自分で決めた道です! 世界樹の実も『7つの謎』の一つですよね! 必ず見つけ出しますから!』

「だったら、セーラは魔王で勇者になるな。歴史上でもそんな奴いないだろ? カッコいいな。俺も元主人として鼻が高い。応援してるぞ!」

『やりますよー!!』

 セーラたちも世界樹の実を探してくれることになった。

「ナオキは? 一緒に世界樹の実を探してくれないのか?」

 メリッサが聞いてきた。

「俺はまた別の仕事があってな。洞窟スライムの粘液を貰いに来たんだ」

「世界樹よりも大事なこと?」

「ん~同じくらいだな。世界が崩壊しないようにしないと」

「そりゃ大事だね! 洞窟スライムの粘液なら北の洞窟にいくらでもあるから持っていって」

「助かる!」

 俺がそう言って空飛ぶ箒を握り魔力を込めようとしたら、アーリムが「先生は世界を救ってるのに、どうして借金生活なんだろうね?」とフェリルに聞いていた。

「どうしてだろうね。可哀想だよね」

 俺も「どうしてだろう」と疑問を口にしながら、北の洞窟に向かった。



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