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駆除人  作者: 花黒子
~冒険する駆除業者~
359/503

359話


 ポーラー族の基地で一泊。

 ルージニア連合国の会議まであと1日あるので、シャングリラと群島を回ることに。

「休まないのか?」

 空を飛びながら、アイルが聞いてきた。

「ああ、まだまだやることは多いだろ?」

「そんなに焦っても、ミリアが見つかるとは限らないぞ」

 そう言われて、自分が不安だから動き続けていることに気がついた。

「ああ、そうか。アイル、危なそうだったら止めてくれ。自分では気づかないことも多いから」

「了解」

 落ち着かないと見えてこないことも多い。仲間がいると、ちゃんと客観視できる。

「助かるよ」

「シャングリラに行くなら、セスにも手伝ってもらおう。どうせあいつは会社の方向性決めて、書類にサインしてるだけなんだから」

「あいつはそんなに偉くなっちゃったのか? ダメだな、若いのにそんなんじゃ」

 シャングリラのセスの会社に向かった。


「え~? ちゃんと仕事してますよ。ほら、船に冒険者を乗せる許可証を発行しないといけないじゃないですか」

 そう言いながら、セスは書類にサインをしていた。

「そうか。ちょっと挨拶回り手伝ってくれよ」

「社長、話聞いてます?」

「セスならシャングリラに顔が利くんじゃないか?」

「僕の顔が利くのは保管庫の周辺くらいです。あ、そうだ。小人族の保管庫にレッドドラゴンが出勤しないって苦情がこっちに来てましたよ」

「ああ、悪い。でも今は『空飛ぶ竜の乗り合い馬車』の荷台をコンテナで作ってるから無理だろう。セス、会社のコンテナで余ってるのあったら竜の島に回してやれよ」

「余ってませんよ。もう……この人たちは本当に」

 セスは椅子から立ち上がって身支度を始める。部屋の隅にいた秘書に「あとハンコ押しといて」と指示を出していた。うちの会社より従業員がいるんだよな。

「俺から言っといてなんだけど仕事はいいのか?」

「しょうがないじゃないですか。冒険者ギルドに挨拶回りしないといけないんでしょう?」

「明日までに。シャングリラと南の群島な。ついでに南半球の冒険者ギルドも行っておきたいんだけど」

「え~!?」

 仕立てのいい服を着ていたセスの手が止まった。

「ああ、そんなに会社空けたら乗っ取られちゃうか?」

「乗っ取りなんて、何回もあってますよ。でも、誰も出ていかないんですよ。乗っ取った奴の言うこと聞かないし」

 セスはそう言って、秘書を見た。

「そうなの?」

 俺はセスの着替えを手伝っている秘書に聞いてみた。

「セスさんより、いい条件出してくれる人がいなかっただけですよ。朝昼晩の食事に昼寝付き、お風呂は入りたい放題だし、怪我や病気をしたらすぐに治してくれる。出勤時間は生活のリズムに合わせていい。さらに儲かったらボーナスくれるって、そんな会社、世界中探してもなかなかないですよ」

 秘書は指を折り、数えながら説明してくれた。

「コムロカンパニーと同じ条件にしただけなんですけどね。だから僕は社長のやり方を真似しただけですよ」

「同じ条件なのに、うちの会社は全然、従業員が増えないよな?」

 俺はアイルに聞いてみた。

「いや、だって仕事が変だもん。結局、皆、好きなことやってるし。誰もついてけないんだよ」

「そうは言ったって、依頼がさ……」

「よし、着替えました!」

 セスの準備が出来たので、とっととシャングリラの冒険者ギルドを回った。


 小人族は『7つの謎』を解明するということに興味が向いたらしい。

「まさに、そういう者こそ勇者となるべきじゃ!」

 シャングリラにいる冒険者ギルドのギルド長は、俺の説明に皆、大きく頷いてくれた。アイルとセスも似たような反応だったという。

 午前中には回りきってしまったので、昼飯を食べて、そのまま群島に向かう。


 群島の一番大きな島・サーズデイの港町を空から見下ろしていると銭湯の煙突が見えた。せっかくなので風呂に入って昼寝してから、冒険者ギルドを回ることに。セスも挨拶回りに加わったことで、一気に効率が増した。

「すぐにギルド長が納得するんだから、やっぱり運送会社の社長って信用あるんだろうな!」

「コムロカンパニーの社長のほうが信用ありますよ!」

「そんなことねぇよ。嫁には逃げられるし、借金生活だし」

「あ、そうだ。治水工事のお金返してくださいよ」

 余計なことを思い出させてしまった。

「はい」

 風呂上がりのミルクはセスに奢ってもらって昼寝。「明日、ルージニア連合国で会議があるんだ」と言うと、セスは「だからかぁ」となんでもしてくれる。面倒くささが顔に出てたかな。

 昼過ぎに起きて、群島にある冒険者ギルドを回った。

「『人類勇者選抜大会』? ああ、お祭りみたいなものか。いいねぇ。やろうやろう」

 島の人だからか冒険者ギルドのギルド長はノリがよかった。

「竜に乗れるの!? いいじゃ~ん! 楽しい大会にしようね!」

「はい。……いいんですかね? 冒険者とかたくさん来ても」

「いいよ~。冒険者が来て、地元に帰って、この群島のことを話すでしょ? そしたらたくさん観光客来るからさ。魚の魔物はたくさん獲っておかないとね!」

 ちゃんと商売についても考えているらしい。

 群島はそれぞれの島で特産があり、一番南の島はガガポ、他の島では酒や干物などの食品の他に染め物なんかもある。最近は南半球へ向かう途中の商人が買って行くのだとか。

「いいことだ」

 南半球の冒険者ギルドには明日の午前中行くとして、その日はサーズデイの港町に泊まった。

 

 翌朝、南半球のザザ竹の島にある冒険者ギルドへ挨拶に向かう。

 前も来たことがあるが、出来たばかりの冒険者ギルドでも建物はしっかりしている。ギルド長には「アイリーンという職員が田舎から出てくるはずなのでよろしくお願いいたします」と挨拶をしてから『人類勇者選抜大会』について説明した。

「なるほど、確かにあの4人の勇者を見ている限り、新たな勇者が出てきても構わないかもしれないな。あの勇者たちを始末するというわけではないのだろ?」

「そうです。人類の勇者を決めるだけで、精霊の勇者はそのままですよ」

「いろいろと乗り越えなければならぬのだろうな。新しい勇者だ。壁は大きいほうがいい」

 ギルド長がいる限り、勇者たちが国を追われても死ぬようなことはなさそうだ。

 その後、『空飛ぶ竜の乗合馬車』についても説明し、挨拶は終了。

 昼頃に島を出発し、北にあるヴァージニア大陸へ。


 ルージニア連合国の中央政府は有料道路を辿っていけばすぐに辿り着いてしまった。大きな城の前には数十台の馬車が並んでいるのが見える。

 城下町も賑わっており、俺も遅刻しなかった証拠を残すために門を通った。

「コムロカンパニーの3人です。今夜行われる会議に出席するために参りました」

「お待ちしておりました。すぐに担当の者が来ますので、少々お待ちください」

 門兵の教育も行き届いているようで、疑われるようなことはなかった。

 数分、通りを行き交う人を見て待っていると、後ろから声をかけられた。

「コムロ社長、お久しぶりですね」

 そう言ったのは、アルフレッドさんの御者をしていたサブイだった。

「おおっ、サブイさん。お久しぶりです。ウェイストランドの時はどうも!」

「ご活躍は聞いております。中央では馬車などに乗っていると目立ちますので、徒歩でも構いませんか?」

「もちろん、徒歩でも這ってでも」

「では、どうぞ。こちらに」

 町は賑わっているものの、皆、なにかしらの中央政府の役人らしく、行儀がいい。騎士や魔法使いの姿も見えるが、ルージニア連合国に加盟している国の騎士爵を持った貴族なのだとか。

「そういえば、あそこを歩いている人のローブは擦れてない。ベルサのはボロボロなのにな」

「ベルサは魔物の臭いを付けたりしてるからね。目的が違う。ああやって睨みを利かせたり、身ぎれいな格好をすることで、国の威厳を保てるんだろ?」

 俺とアイルはそんな話をしながら自分たちの格好を見て笑った。

「ボロボロなのは、ベルサだけじゃねぇな」

「なにかお召しになりますか?」

 サブイが気を使って聞いてくれた。

「いや、大丈夫です。貴族の相手は全部、セスに任せるので」

「僕ですか!?」

 俺たち3人の中で小奇麗なのはセスだけ。元貴族であるアイルも「面倒だから頼む」とセスに丸投げしていた。

「あ、アルフレッドさんに土産買ってこなかったな」

「大丈夫。群島で買ったやつがあるから、それを渡せばいいよ」

 アイルが買っていたようだ。気が利く副社長になったな。

 だらだらと町並みを見ながら歩いて城まで辿り着いた。


「では会議が始まるまでお待ち下さい。食堂には料理もご用意しておりますので、よろしければどうぞ。本日の会議は本会議場で行われます。また、呼びに来ますのでごゆっくり」

 どうやら前に行った円卓がある部屋ではないらしい。

 紅茶を飲みながら、3人で今後の予定を話し合っていたらすぐに時間が来て、俺だけ呼び出された。

「じゃ、いってくる」

「飯食べて待ってる」

 アイルとセスは大盛りシチュー定食を頼んでいた。

 本会議場は城の奥にあり、武器等を持っていないか確認された。仕事用のカバンをサブイに預けたら、俺は手ぶらだ。部屋に入ると両側が階段状になっており、ベンチが置かれていた。演説をしている者の顔を見れるようになっているらしい。

 ベンチには各国の要人の他に一癖も二癖もある者たちが座っていた。あれ? フロウラの冒険者ギルドのギルド長であるラングレーの姿も見えるし、マーガレットさんもいるぞ。

「諸君、コムロカンパニー社長のナオキ・コムロ氏だ。今回、我々を呼び出した張本人さ」

 アルフレッドさんが部屋にいる人たちに紹介してくれた。

「社長、ルージニア連合加盟国の要人と各地の冒険者ギルドのギルド長と、なぜか姉が来ている」

「見えてます。あ、これ群島のお土産です」

「ハハハ、もうちょっと緊張しろ」

 アルフレッドさんに笑いながら怒られてしまった。

 俺は演説台の前に立ち、挨拶する。

「この度はお集まりいただきましてありがとうございます! コムロカンパニー社長のナオキ・コムロです。今回お呼び立てしたのは、精霊と勇者に関してなんですが……」

「その前に、ちょっといいかしら!?」

 俺が話し始めようかと思ったら、優しそうな御婦人が手を挙げた。

「はい、なにか?」

「コムロ社長について、ある噂が流れているのですが、話を聞く前に真偽を確かめてもよろしいですか?」

「ええ、構いませんよ。どんな噂ですか?」

「コムロ社長は世界征服を企んでいるとか」

「へ?」

「精霊を殺し、勇者を破滅させ、自分の奴隷だった者を魔王に仕立て上げ、世界征服を企んでいると私の下に密告がありました」

 あまりのことに脳が追いついていかないのだが、俺が世界征服するのか? まるでゲームの世界の魔王とか悪魔みたいに?

「ブッ!」

 誰よりも先に、部屋の外で聞いていたサブイが吹き出した。

「「ブッ! クククク……アハハハハッ!!」」

 それに釣られるように、俺とアルフレッドさんが吹き出した。ラングレーとマーガレットさんも笑わないように口を押さえている。

「俺、世界征服するんですか? どうやって?」

「それを私たちに言うわけはありませんよ。そんなにおかしな話ですか? 我がロックソルトイーストでは逮捕歴もあるとか? 先のシャングリラの戦争では、火の精霊と勇者を抹殺し、氷の国の女王を手篭めにしたというのは? 南半球では洪水を起こしたという噂まであります。どこまで本当なんですか?」

 優しそうな御婦人はロックソルトイーストの女王だったようだ。

「ロックソルトイーストの女王よ。もし、このコムロ社長が世界征服するというのなら、我々は加担した方がいい。そもそもこの男が赤道にあった壁を壊し、長年分かれていた北半球と南半球を繋げたのだぞ。なぜ世界を征服せねばならんのだ?」

 アルフレッドさんがロックソルトイーストの女王に聞いた。

「私は真偽を伺っているのです」

「一つ一つ話しましょうか? 確かに俺は世界を旅してきたので、いろんな噂が流れているかもしれませんが、それはないですね。さすがに世界征服は面倒というか、世界征服するとなにかいいことあるんですか?」

「権力欲が強ければ、ない話ではないのでは?」

 ロックソルトイーストの女王は真っ直ぐ俺を見て聞いてきた。

「皆さんは人の上に立つ人たちですよね? 俺も会社を経営しているつもりです。そのうえで、世界征服したら、民をどうやって食べさせていくのか、どういう教育をして子を育てていくのか、果たしてどんな脅威と戦わないといけないのか、橋や道路、商売、医療、全て考えないといけませんよね。征服した者の責任として」

 俺がそう言うと、ロックソルトイーストの女王はゆっくり頷いた。

「俺はそんな面倒なことは考えたくないし、責任なんか取れやしません。もっと個人の幸せを追求したい。世界征服をするような器の人間じゃないんです」

「そうですか。ですが、噂によって評判が落ちていますよ」

 評判と来たか。だんだん、噂の出処がわかってきたな。

「どんな評判であろうと、コムロカンパニーがやってきたことは、その地域の人たちの生活を守っています。評判よりも、行動や事実を見ていくべきじゃないかしら?」

 座っていたマーガレットさんが言った。

「コムロ社長は誰にどう思われようと、事を成すということですか?」

 ロックソルトイーストの女王が聞いてきた。

「事を成すというか、仕事してるだけですけどね。それに評判で飯食べてないんで、噂とかは、どうでもいいかなぁ、と思っている次第です」

「ですが!」

 ロックソルトイーストの女王はまだ食い下がろうとした。

「もういいだろ! 教会の僧侶たちの噂を信じるのは構わねぇけど、俺たちはそれを聞きに来たんじゃない! そもそも、このナオキって男はやろうと思えば、この場にいる全員を一瞬で殺せる。俺たちが死んでない時点で信用していいよ! 俺の言ってることも信用出来ないなら、今すぐレベルを計ろうか?」

 ラングレーが冒険者ギルドにある水晶玉のような玉を掲げながら聞いた。噂はやっぱり教会からか。あいつらと一回、じっくり話さないとなぁ。

「失礼しました。弱き民の声を聞くのが王としての務め、場を乱しましたね。申し訳ございません」

 そう言って、ロックソルトイーストの女王が立ち上がり、部屋を出ていこうとした。

「ああ、いてください。出ていかなくていいですから。今から世界に関わることを言うので、聞いといてもらいたいんですよ」

「は、はぁ」

「どうぞお座りください」

 俺はロックソルトイーストの女王が座るのを待って、話し始めた。

「世界征服はしませんが、俺が世界を変えようと思っているのは事実です」

 俺は、これまで世界中で説明してきた『人類勇者選抜大会』『空飛ぶ竜の乗合馬車』『海底に眠る花嫁』について話した。何度も説明しているせいか、話も上手くなり、誰かが口を挟んでくることはなかった。

「……と、まぁ、ここまで話してきましたが、全ては俺の妻を探すためです。勇者が選ばれたあと、あらゆる通信手段を用いて、妻を探すよう冒険者たちに呼びかけるつもりです」

「ちょっと待て。なら、社長が勇者になるわけではないのか!?」

 アルフレッドさんが聞いてきた。

「そうですよ。俺たち、コムロカンパニーは運営に回ります。全部うまく行くとは限りませんし、竜族や魔族との軋轢も出てくるかもしれない。そんな時に、すぐに飛んでいって間に入ってやれるのは俺たちしかいませんから」

「はい! フロウラ家当主、マーガレット・フロウラは全面的にコムロカンパニーを支持することをこの場で表明します!」

 マーガレットさんが嬉しそうに手を挙げて言った。

「素敵じゃない? たった一人の女性を探すために世界をかき回すのよ。この社長は! だからね、世界を征服してる場合じゃないの」

 マーガレットさんはロックソルトイーストの女王に向かって言った。

「はい、議題の次元が違いました。ロックソルトイーストも全軍で対応いたします」

 女王は恥ずかしそうに手を挙げた。それに続くように、本会議場の全員が手を挙げてくれた。

「皆様、なにか質問があれば答えますので、連絡してください。計画についてはすでに進めております。塔の建設予定地などでご迷惑をかけるかと思いますが、ご了承ください。それでは」

 これにて、ルージニア連合国での会議は終了。終わったあと、ラングレーがロックソルトイーストの女王に「身分もわきまえず、大変失礼いたしました」と土下座で謝っていた。

「いえ、本会議場では身分の差はありません。弱者という言葉に囚われすぎていたのは私の方です」

 ロックソルトイーストの女王はラングレーの肩に触れて出て行った。


 これで世界の冒険者ギルドへの挨拶回りが終了。

 正月まであと一ヶ月ほど。それまでに塔を建設しなければ。

「まだまだ忙しいな」

 


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