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駆除人  作者: 花黒子
~冒険する駆除業者~
354/502

354話


 砂漠のオアシスにはパオに似たテントがいくつも建てられていた。相変わらず活気があり、なんでも売ってそうだ。

 俺は楼閣へと向かい、出会った若い商人にサムエルさんの場所を聞く。

「それなら、上の階で会議していると思いますけど、どちらさんですか?」

「ああ、ナオキ・コムロと申します。コムロカンパニーの社長をしています。サムエルさんとは知人でして」

「あの! コムロカンパニーの社長さんですか!? 若い!? ちょっと待ってくださいね。報告してきますから」

「会議中ですよね? あとでもいいですよ」

「いやいや、それでは私が怒られますので」

 そう言って若い商人が楼閣の階段を上っていった。

 すぐに2階の踊り場からサムエルさんが姿を見せた。

「すみません。突然に来てしまって」

「いえ、どうぞ。ちょうど聞きたいこともあったんですよ。この前のシャングリラでの1件は大変でしたね」

 この前エディバラで会っているのでサムエルさんとは久しぶりという感じはしない。

 サムエルさんは俺を3階の会議室に案内してくれた。

「皆さん、ご存知の方も多いでしょうがコムロカンパニー社長のナオキ・コムロさんです」

「どうも、お久しぶりです。はじめましての方ははじめまして。ナオキ・コムロです」

 俺が自己紹介すると「おおっ」と会議室にどよめきが起こった。商人ギルド・ファイヤーワーカーズに所属する総勢37人のギルド長が揃っていた。

「ちょうどコムロ社長の話をしていたところだ」

 頭にターバンを巻いた砂漠のギルド長が言った。変わらないな、この人は。

「あれ? いい噂だといいのですが」

「南半球にスバルという国ができたはず。新しい火の勇者が作ったらしいが、どうなった?」

「ああっ! 勇者たちの国なら俺の元奴隷が勇者を全員ぶっ飛ばして4ヶ国同盟を結ばされてましたよ。それで俺も借金背負っちゃって、大変だったんですよ~」

「お!?」

 なぜかギルド長たちは黙ってしまった。

「コムロ社長、情報量がちょっと多すぎます」

 サムエルさんにツッコまれた。

 結局、この前の勇者たちの戦いについて語ることに。どうやら商人たちの中には火の勇者に融資していた者もいるらしく、ギルド長たちは騙されているのではないかと議論をしていたという。

「さらに水源の確保を最優先にした場合、他の勇者の国と戦争をすることになりかねない、と話していたんだけどな。コムロ社長が水生成器なるものを作っていると噂に聞いて、どうにか連絡が取れないかと話してたところなんだ」

 砂漠のギルド長が説明してくれた。

「ああ、水生成器は作りましたよ。ただ結局、治水工事をすることになったんですけどね。そんなことよりも皆さんにお話したい件があるんですが、いいですか?」

「構いませんよ。南半球のことですか?」

「いえ、精霊と勇者についてです」

 再び俺は精霊と勇者が行ってきた事件などを語り、『人類勇者選抜大会』について説明した。もちろん、空飛ぶ竜の乗合馬車や駅として使う塔についても話す。

「冒険者の中から選ぶんですね?」

「『7つの謎』とは、また随分古いことを……」

「いや、冒険者なら皆知っているからわかりやすい。強さだけを競うのではないというところがいいじゃないか」

 それぞれのギルド長から感想をもらった。

「いや、それよりも空飛ぶ乗合馬車の駅はどこに作るつもりですか?」

 若く日に焼けたギルド長が聞いてきた。

「スノウフィールドの近くにしようとしています」

 スノウフィールドは以前、魔素溜まりがあった場所だ。

「え? スノウフィールドですか? 僕がスノウフィールドのギルド長です」

 若いギルド長が手を上げた。

「そうですか。どこか塔を建てるのに、最適な場所を貸してもらえませんか?」

「それなら以前、牧草を育てていた場所が空いてるのですが……」

「また、被害があった? もしくは牧草が変形したり、家畜が暴れたりかい?」

「どうしてそれを!?」

 若いギルド長が驚いていた。

「なんだ。聞いてないのか? それを治したのがコムロカンパニーだぜ」

 砂漠のギルド長が説明してくれた。

「スノウフィールドは龍脈の影響を受けやすいんだな。その牧草地帯は今どうしてます?」

「立入禁止にしてます。今回の『火祭り』で諸先輩方にどうすればいいのか伺うつもりでした」

「そこに塔を建ててもいいですか?」

「構いません」

 ちょうどよかった。これなら無料で土地を借りられそうだ。

 詳しい打ち合わせは塔を建てる時にするとして、とりあえずファイヤーワーカーズのギルド長たちには地元の冒険者ギルドに『人類勇者選抜大会』が正月から3ヶ月間、開催されることを伝えてもらうことに。

「これは世界が荒れますね」

 サムエルさんは嬉しそうに笑った。

「商人さんたちにとっては稼ぎどきですか?」

「ええ、ピンチこそチャンスですから。この機を逃すようじゃ商人はやってられません」

 もしかして、言っちゃまずかったかな。

 その後、サムエルさんに遅めの昼飯をご馳走になり、俺は魔族領へと飛んだ。


 通信袋でボウに連絡すると「フハ、急だな。わかった」とスケジュールを空けてくれた。ボウはすっかり魔族の大統領なので忙しい。魔王城には夕方過ぎだと言うのに相変わらず長蛇の列が伸びていた。

「商人の列はこちらです! ちゃんと並んでくださーい! 担当が話を聞きます!」

 ケンタウロス族の男性が声を張り上げていた。

「魔族の入国者や生活の悩み等は、アラクネが承りますので、直接城に向かうように!」

 どうやら担当を分けることにしたようだ。商人の列が長いのは魔族領の特産が他の地域では買えないものばかりだからだろう。町に出たり、直接買いに行ったほうが早いのに、城で買うのは、まだ魔族が警戒されているのかもしれない。

 魔王城のテラスではボウとリタの子どものウタが待っていて、空から降りてくる俺に手を振っていた。

「イヒ! ナオキさん、調子はどうですか?」

 ウタは大人っぽく聞いてきた。

「ちょっと疲れたよ。ウタ、癒やしてくれ~」

 俺がそう言うと、ウタが水魔法で目の前に水の玉を作ってくれた。

「ぬるま湯です。どうぞ。イヒ!」

 気が利いてる。俺はそのまま水の玉に顔を突っ込み顔を洗った。

「あ~、さっぱりした!」

 水の玉から顔を上げて、布で顔を拭く。

「ウタはすごいな! 水魔法と魔力操作ができるなんて!」

「誰でもできますよぅ~、イヒヒ!」

ウタの頭を撫でていると、テラスの窓を開けてボウとリタが出てきた。

「そうか、今日は家族水入らずだったか。悪かったな」

 普段、リタとウタはグレートプレーンズで、レミさんと一緒に親子3代で遺跡の発掘をしているはずだ。

「フハ、今日は散々遊んだからいいんだ。それより、どうした? なにか重大事件でもあったか?」

「まぁな、そんなところだ」

「さぁ、ナオキさん、中に入ってください。日が落ちると寒くなりますから」

 リタが部屋の中に入れてくれた。相変わらず、ボウの執務室はどこかの研究室のように本とスクロールが散乱している。手早く片付け、クリーナップをかけてやった。

「ナオキさんからも言ってやってください。ボウさんは片付けが苦手なんです。これじゃあ、いつ虫の魔物が湧いてもわかりゃしない」

「片付ける暇がないのだろう。コムロカンパニーを呼べ。清掃・駆除ならなんでもやる」

「フハ、頼む」

 空気を察してリタは「お茶を淹れてきますね」とウタを連れて部屋を出ていってくれた。

「それで、どうした? フハ」

 ボウは俺に丸椅子を勧めながら聞いてきた。

「ちょっと精霊が勇者を決めるって時代を終わらせようかと思ってな」

「フハハハ、そりゃ重大事件だな」

 俺は再び、『人類勇者選抜大会』について説明した。その流れで『海底に眠る花嫁』や空飛ぶ竜の乗合馬車と塔についても話した。ボウになら、なにを言ってもいいだろう。

「世界の冒険者たちが動くな。フハ」

「そうだ。魔族領にも冒険者ギルドはあるんだろ?」

「ある。ただ、魔族以外は使わないんだ。徐々に大陸でも魔族と人が道を歩いていても違和感はなくなってきたけど、他のところに行くとやっぱり魔物扱いらしい。外から来た商人たちも城の道具屋や土産物屋にばかり行くし。なかなか難しいよ。フハ」

「『人類勇者選抜大会』は種族を選ばず、参加できる。そもそも冒険者ギルド自体が種族や地位での差別をしていないからな」

「フハ、世界に魔族を知ってもらういい機会になりそうだ。早速、魔族の冒険者たちに教えないとな!」

 そう言うと、ボウが立ち上がった。

「待て。告知は正月だ。それまでは冒険者ギルドの職員たちだけに知らせておいてくれ」

「フハ、そうか。確かに混乱必至だもんな」

「新しく冒険者になりたいという奴も増えるかもしれないから、なるべく死なせないように新人教育だけはしっかりやっておいてくれ。あと、他の土地で差別された時の対処法とかかな? まぁ、でも魔族は竜族がいるから心強いと思うぞ」

「フハ、そうだな。魔族の中でも竜族は特殊だからな。塔の場所はどうする? 龍脈上となるとマジックパウンド周辺がいいだろ?」

「うん。でも、城下町になっちゃったから場所ないか? 地価も上がってそうだしな」

「フハ、大丈夫だ。コムロカンパニーの支店を作ってもらおうと土地は確保してあるから。それより、会社のグッズを作ってくれよ。魔族領の魔族に向けたやつをさ。時々、嘆願書が来るんだよ」

「清掃・駆除会社のグッズってなんだよ。魔物避けの薬は売れないだろ? 吸魔剤とかか?」

「そんなんじゃなくて、青い腕輪とか青い髪留め、それから腕章、バッジ、青ければ何でもいいぞ。フハ」

「何屋だ、それは? あ、そうだ。アペニールから使者がやってこなかったか?」

「フハ、来たぞ! なんだかよくわからなかったけど、国を見せてくれって。ナオキの知り合いだからって、仕方なく案内したよぅ。勘弁してくれ」

「すまん、すまん。それが闇の精霊がさ……」

 その後、夜が更けるまで馬鹿話をしていたら、リタが「ナオキさん、今日泊まっていきますよね?」と聞いてきた。

「ああ、いや、帰らないといけないんだ。ラパ・スクレでアイルが待ってる。それじゃ、ボウ、塔の場所だけ確保しておいてくれ」

「フハ、了解」

 俺はテラスに出て、西のグレートプレーンズに飛んだ。


 ラパ・スクレの宿に戻ったのは真夜中過ぎ。

 アイルは起きていてコロシアムにも行かず、なにかの書類を書いていた。

「お、ナオキ、ようやく帰ってきたか」

「なに書いてるんだ?」

「アリスフェイ対策。挨拶回りは全部、終わった?」

「3ヶ国、全部知らせたよ。火の国は『火祭り』やってたからちょうどよかった」

「そんな時期か。『お髭の男爵』って貴族がアペニールにも塔を建ててくれってさ。北部に遺跡があるからどうとか。ナオキと知り合いみたいなこと言ってたぞ」

「ああ、それ闇の精霊だ。アペニールは開国前だけど、アイルは入れたのか?」

「うちの会社は相談役だから、普通に入国できるよ。宗教家たちからも文句はない」

 いつの間にか、コムロカンパニーはアペニールの相談役になっていたらしい。

「そうか。一日で大陸一つが限界だな」

 挨拶して回るだけでも移動に時間が掛かるし、ちゃんと説明しないと伝わらない。

「うん。明日、傭兵の国を渡ってアリスフェイに行くだろ?」

「そうだな。その書類はなんの対策なんだ?」

「アリスフェイは王族の跡取りもいるし安定しているように見えるんだけど、実は衰退していってるんだ。冒険者たちも減っていってる。他の国にあるような魅力的な特徴もない。魔法学院はあってもエディバラの方が魔法学では上だし、薬学もベルサのお父さんがいてもエルフの里には敵わない。鍛冶だってドワーフの方が上手いしね」

「そう言われるとそうかもしれないな」

「まぁ、地元だからかもしれないけど、ちょっと見てられないから旧態依然とした貴族の脳みそをぶっ壊そうかと思って。『人類勇者選抜大会』は世界を見るのにいいきっかけになる」

 ボウも似たようなことを言っていたな。

 混乱や争いの種ではなく、たとえ『7つの謎』を解く競争だったとしても、なにかを始めるきっかけになると主催している俺たちも報われる気がする。

「どんな方法で貴族の頭をぶっ壊すんだ?」

「まずは弱いことをわからせる」

 アイルはそう言って笑っていた。

 あんまり関わらないでおこう。



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