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駆除人  作者: 花黒子
~冒険する駆除業者~
341/502

341話


「結局、レクリア姫は南半球に行くのか?」

「本人が希望してるからな」

 俺とアイルは、クリフトさんと話しているレクリア姫を見た。もし南半球に行くならクリフトさんは家族をおいて単身赴任するため、今後について話している。そもそも南半球の調査は3ヶ月ほどを予定したが、レクリア姫次第でその予定も変わってくる。責任も重大だ。

「開国したら、家族も一緒に移住するのかな?」

「移住って言ったって、南半球側にはドワーフの集落くらいしかないけど」

「姫君は開国するまで待つのが正解だろう」

「その間に殿が自分の地位を姫君に継承させるかもしれない。これは地位や家柄が動けなくなるパターンじゃないか」

 貴族の家に生まれたアイルは心底嫌そうな顔をしている。

「農学者の方は?」

 アイルがあまり見ていたくないのか話を変えた。

「今、決めてる」

「本当に開国は既定路線なのか?」

「と思うよ。闇の精霊も賛成らしいし。次の勇者も決めてた」

「じゃあ、あとは内戦処理か」

「闇の精霊が『お髭の男爵』だからうまく貴族をコントロールできると、それも収まると思うんだけどね」

「そうか。本当にあとはアペニール次第なんだな」

「うん、俺たちができるのは農学者たちを安全に移送することくらいかな」

 俺がそう言うと、アイルが傭兵のウーピーに連絡を取り、アペニールの近くまで傭兵数人を呼んでいた。

「ステンノたちが迎えに来る」

 ステンノとはゴーゴン族の姉者だ。

「そうか。なら安心だ」

「もう、ナオキは行っていいぞ」

 どうやら、アペニールでの俺の役目は終わりらしい。あとは見守るだけだからなぁ。

「次は南半球の水問題だ。さらっと解決するんだろ?」

 副社長が煽ってきた。

「誰か潜入調査は行ってるのか?」

「メリッサたちがちょっと気にしているみたいだけど、潜入調査までは行ってない」

「現地で確認するか。その前にいくつか回らないといけないな。アーリムとフェリルのドワーフ姉妹は今どこにいるかわかるか?」

「エディバラに連れて行って置いてきたままじゃないか?」

 あ、やっべぇ。

「エディバラにも行く予定だったからピックアップしておくか。じゃあ、アイル、あとはよろしく頼む。米と調味料だけ買っといてね」

 俺は空飛ぶ箒を手に言った。

「わかった。次は世界樹で、だな?」

「ああ、また連絡する」

 俺はそう言うと、空飛ぶ箒に魔力を込めた。

 

 上空へと飛び、アペニールの町が一気に小さくなった。

「まずは近場の魔族領からだな」

 俺は北へと進路を取った。



 魔族領城下町・マジックパウンド。

 前は魔石の採掘場だった村だが、今は魔族領で最も栄えている町の一つ。俺が記憶しているマジックパウンドより遥かに大きく、レンガ作りの家も木造の家も様々。そもそも種族が違えば身体も違うので、厩舎のような家もある。

 通りには魔族以外にも人族や獣人の行商人が重そうな荷物を担いで売り歩いている。青い服を着た魔族が多いし、空を飛ぶ種族もちらほら見るので、俺が空から降りてきてもあまり目立たなかった。

 通行人に裁縫の材料を売っている店を聞いて回り、土蜘蛛族の爺さんが経営するという裁縫屋に行き着いた。路地裏の小さな店だ。

「ごめんください」

 暖簾をくぐり、中に入ると魔族が作った布や糸が売られていた。

 土蜘蛛族の爺さんは背が低く、6本ある手で編み物をしている。店は暇らしい。

「いらっしゃい」

 土蜘蛛族の爺さんはメガネを上げて、俺を見た。

「水を弾くような糸ってありませんか?」

「それならアラクネの糸がいいだろう。なにに使うんだい?」

「ちょっとネットを作りたくて」

「布じゃなくて、ネットか。大きいものか?」

「ええ、できるだけ大きいほうがいいです」

 俺がそう言うと、土蜘蛛族の爺さんは値踏みするように見てきた。大きいネットを作るならそれなりの価格がするだろう。

「お金ならありますよ。あるだけ下さい」

「あるだけとなると、その棚にある分だけだ。もっと欲しければ、直接交渉するといい。紹介状を書いてやろうかい?」

 棚には拳ほどの糸玉が6つだけ。

「頼みます」

「それにしてもなにに使うんだい?」

 土蜘蛛族の爺さんは紹介状を書きながら聞いてきた。人族の言葉を書いているので優秀なんだな。

「水を捕まえようと思って」

「ネットで水を捕まえる!? おかしなことを言う。そら、書けたぞ。アラクネ族の糸玉が6つで銀貨12枚だな」

 俺は紹介状を受け取って、金を払って糸玉を買った。

「アラクネ族って魔王城にいるアラクネみたいな種族ですよね?」

「そうだ」

 その後、土蜘蛛の爺さんは「アラクネにアラクネ、それからアラクネだな」と俺には全部アラクネに聞こえる名前を上げていった。とにかく下半身が蜘蛛の種族を探せばいいらしいが、町中では見つからなかった。

 

 町から南へ向かうと魔王城がある。城には相変わらず、長蛇の列が並んでいたので、係の人にアラクネ族の集落を聞いた。

「アラクネ族なら東の森だ。火気厳禁だから気をつけるように。ところでその服はどこで売ってるものだ? コムロカンパニーのに似ている気がするが?」

 係のケンタウロスが聞いてきた。

「コムロカンパニーのですよ。俺が社長なんで」

「え!?」

「あ、ステンノとか元気でやってるって、ボウに伝えといて下さい。それから、列に並んでいる人たちを要望の内容によって分けたほうがいいよって。緊急の人と行商人と一緒にしてたら、大変だからね」

「わ、わ、わかりました! 必ず伝えておきます!」

 ケンタウロスは振り返って、城へ駆けていった。


 東の森を道沿いに進んでいくとジメジメとしている森が現れ、さらに進むと魔物が消え霧が立ち込め始めた。なにがあるのかわからなければ怖いかもしれないが、俺には探知スキルで見えているので、「こんにちはー」と声をかける。

 小さな蜘蛛の魔物がワラワラ近づいてきた。人の顔がついているので声をかけてみると、「ちわー」と言って足の周りにまとわりついてくる。じゃれてくるが攻撃しようとしているわけではなさそうだ。

「あら? こんなところまで旅人がいらっしゃるなんて……」

 アラクネ族の女性が森の中をかき分けて道に出てきた。

「すみません、アラクネの糸が欲しいんですけど、売ってもらえませんか?」

「構いませんよ。あなたのその服コムロカンパニーのものにそっくりね」

 アラクネの女性は優しく微笑んで俺にじゃれていた子どもたちを集めて、森のなかに放り投げていた。魔族の子育てはこういうものなのかもしれない。

「あ、コムロカンパニーの社長をやっております。ナオキ・コムロです」

「え!? じゃあ、魔族領の英雄の?」

「英雄ってほどじゃないですけど、ボウとは親友ですよ」

「あらー、そう。姉がいつもナオキ様について話をしているの。今度ぜひ魔王城に行ったときは会ってあげてくださいね」

 このアラクネ族の女性は、もしかしたら以前、通訳をしてくれていたアラクネの妹さんなのかもしれない。

「今は冬だからゴートシップの毛糸が人気で、アラクネの糸はなかなか買ってくれなくて、在庫が余ってるのよ」

「あ、よかった。あるだけ売って下さい」

「あるだけ? わかったわ」

 アラクネ族の女性はそう言って、袋まで用意してくれて大量に糸を売ってくれた。

「なにか作るんですか?」

「朝露を捕まえるためのネットを作りたいんですよ」

 水源がなければ空気から作ればいいのだ。なにも地中に埋まっている水だけが飲水というわけでもないだろう。砂漠にいる小さな魔物たちは自分の身体についた朝露を舐めて暮らしているし、南半球の背の低い草には朝露がついていた。勇者たちの国々も同じような環境なら水を集めることができるはず。

「ああ、それならアラクネの糸はいいかもしれませんね。水は弾くからネットを斜めにして滴り落ちるようにすると、すぐ集まりますよ。我が家はいつもそれでジメジメしてるの」

「よかった。ちょっと南半球が水不足なんで試験的に取り入れてみます。もし、うまくいけば、また買いに来ますから」

「ありがとうございます。ご贔屓に」

 大きい袋を担いで、俺は空飛ぶ箒に魔力を込めた。

 

 次の行き先は魔法国・エディバラだ。

 三角屋根が並ぶ町には雪が積もっている。魔力の壁を切ると寒さで体の芯まで凍えてきそうだった。アーリムとフェリルもいるはずだが、ひとまず俺は魔道具師ギルドに向かうことに。風が吹くと粉雪が舞い上がる。

 ローブ姿の町人たちが雪かきをしていた。道の端には雪の山が出来上がっている。魔道具で雪を溶かしたりしないのかな。

 風が強いので魔道具師ギルドのドアは、入ってすぐに閉めた。中は暖房がきいていて暖かい。

「こんにちは」

 俺はギルド長のウォズに挨拶する。熊のように大きなヤギの獣人だ。

「おお、コムロカンパニーの社長だな。また、なにか用か?」

「うん、ツルツルの素材ってないかな?」

「鉄とかガラスとかのことか? またなにを作る気だ?」

「ちょっと南半球で水が少ないっていうからさ。水を作ろうと思って」

 ウォズは「なに言ってやがんだ?」という顔で俺を見た。

「水魔法の水は、魔素が多くて魔力過多を起こすだろ? そうじゃなくて空気中の水分を集める魔道具を作ろうと思って。魔素が少なくて済むようにね」

「つまり水魔法で水を作るんじゃなくて、なにか違う方法で水を作ろうっていうのか?」

「そう」

「どうやって?」

「いや、窓見てみろよ。結露が出てるだろ? あれを集めようかと思ってさ」

 魔道具師ギルドの窓にはしっかり結露が出ていた。掃除してないからかちょっと黴びている。

「あの結露を集めて飲水にするのか? 魔道具で?」

「そういうこと。気候によって変わるけど暖房と冷却装置を作ればいいんだ。簡単だよ」

「社長は簡単かもしれないけど、大勢が飲むなら魔力量が必要になるぞ」

「大丈夫。勇者たちがいる国で使うんだから」

「んー、大きいものが必要だよな。持ち運びもしやすくないと南半球まで持っていけないし……結構、難しいぞ」

「そうかなぁ。とりあえず試作品を作って南半球に持っていきたいんだ。アーリムとフェリルの姉妹はどこにいるかわかる?」

「あ! あいつら置いてかれたと怒ってたぞ。今は、確か、図書館の連中に連れて行かれたはずだ」

 図書館か。面倒なことに巻き込まれてないといいけど。

「迎えに行くか」

「社長、どうする? 魔道具の依頼は出しておくか?」

「うん、頼む。暖房器具と冷却装置を使った水生成機の試作品だな」

 ウォズが用意してくれた依頼書に必要事項を書き込み、報酬は金貨1枚とした。

 掲示板に依頼書を張り、再び外へ。


 すでに日が傾き始めている。吐いた息は白く、冷たい風が頬を殴るように吹いていった。



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