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駆除人  作者: 花黒子
~海へと繰り出す駆除業者~
33/502

33話

 筋弛緩作用のある毒は、ダンジョンの魔物にはあまり効かないようだ。

 出血毒も効果はいまいち。

 出血毒ならぬ出魔毒と呼ばれる魔力を垂れ流しにさせる毒は、強制的に魔力切れを起こさせ、効果は抜群だった。


 散布しているうちに、アイルとベルサが毒を吸ってはいけないので、完全防備のマスクは渡してある。

 基本的には魔法陣で結界を作り、大気を閉じ込めてから散布しているので、漏れ出ることはないだろう、と思っている。


 一通り、カミーラの薬学の本に載っていた毒は試せた。

 やはり自分の目で見ることによって直接感じることもあるし、ダンジョンだからこそ、という結果が得られたと思う。実際にやってみるもんだ。


 最後に、ダンジョンの地面を少し掘り、人工の池を作って、中に毒を少しだけ入れる。

 離れた場所から、じっと様子を窺っていると、水を飲みに来た灰色のワイルドベアの亜種が、一口目で倒れた。

 現段階で最も強力な毒である。

 青紫色の花の茎を煎じて、水分を蒸発させて粉状にする毒で、使い勝手が非常によろしい。

 

「これ以上の毒は、顕微鏡でもないと探せないだろうか」

 俺が一人でうんうん唸って考えていた。


「狂気を感じたな」

「うん、恐ろしい男だったんだな。ナオキは」


 アイルとベルサがマスクを外しながら近づいてきた。


「やぁ、手当たり次第にいろいろ使ってみたけど、いろいろとわかってきたことがある」

「わかってきたこと?」


 ベルサが首を傾げて聞いてきた。

 アイルはワイルドベア亜種を解体し始めている。

 身体が消えず、ドロップアイテムも出さなかったからだ。

 この灰色ワイルドベアは何を食べたかは知らないが、実体があるようだ。


「ダンジョン産の魔物は、外の魔物よりも魔力が多い。それから、身体の形状を保つためにも結構魔力が必要みたいなんだ。ただ、このワイルドベアみたいに実体を持つようになると、話は別で、毒の効き目はとてもいい!」

「これはグレズリーね」


 ベルサは俺の話に頷きながらも訂正してきた。

「へ?」

「この魔物はワイルドベアじゃなくて、グレズリー。遥か北国に住む魔物よ。どうしてこんなところにいるのかは知らないけどね」


 灰色ワイルドベアはグレズリーというワイルドベアとは違う種らしい。

 ジャングルの中で北国に住む魔物に遭遇するとは。

 これもダンジョンだから、ということだろう。


「うへ~虫がひどい!」


 解体しているアイルがグレズリーの毛からぴょんぴょん飛び出してくる虫を振り払って、潰している。

 俺はアイルにちょっと待つよう言って、飛び出してくる虫をできるだけ捕まえた。


 米粒サイズだが、ダンジョン産のダニの魔物だ。


 ベルサに聞くと、「こんな魔物に名前なんかついてないよ」とのこと。

 出来れば、飼って殺虫剤を作りたい旨を伝えると、

「はぁ? ナオキって変わってるね! 師匠みたい」


 ベルサは驚きつつも、小さい魔物を飼う姿に、師匠であるリッサという魔物学者を思い出したらしい。

 リッサは昆虫や小さな魔物を中心に研究しているのだという。


 ダニは生物なのでアイテム袋には入れられないため、ポンプに使っていた容器を洗い、中に出来るだけ入れていった。

 二人は完全に変人を見る目で見ていたが、ダニを駆除できる殺虫剤が見つかれば、売れるはずだ。

 感染症対策にもなるしね。

 しかも形状も状態も視認出来るほど、大きいサイズだ。思わぬ収穫である。

 二人にはあまり伝わらなかったが。



 ダニの入った容器を密閉し、腰に下げ、グレズリーにクリーナップをかける。

 アイルが解体し、魔石と肉、毛皮をアイテム袋に入れ、余った骨は消し炭に、血は毒の池に流した。


 ショブスリが天井に張り付いて、こちらを窺っていた。

 池の血が目当てか。

 後で、経験値だけいただこう。


 奥に進むと、階段がある。

 探知スキルを使い、目指してきたので当たり前なのだが、下の階層は探知スキルでも見通せなかった。


 階段を降りていく際、何か薄い膜を通るような違和感があった。

 岩の壁を照らすと、模様のような魔法陣が壁、天井、床を一周するように描かれている。

 丹念に調べたが、毒や転移の魔法陣ではなく、アイテム袋のような亜空間系の魔法陣であることがわかった。


「亜空間か」

「「亜空間?」」

「酸素と重力くらいはあるだろ?」

「「???」」

 二人の疑問を無視して進む。

 魔法陣を越えると、探知スキルで下の階層に魔物がいることが見えていた。

 魔物がいるくらいだから、人間も大丈夫だろう。

 階段の下はかなり明るい空間のようだ。

 光が階段に当たっている。

 

 階段の先には、赤く、または黄色く色づいた木々がまるで絨毯のように広がっていた。

 天井は青く澄み渡る空が描かれているのか、本当に空があるのかわからないが、とにかく空色の青が眩しかった。


 天井へと続く階段だけが雰囲気から浮いている。そんな空間が広がっていた。

 ベルサもアイルも呆けたように、階段を下りている。

 地面に降り立つと、散った枯れ葉がサクサクと音を立てた。



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― 新着の感想 ―
ダニの魔物も巨大化してるから研究観察しやすいってことかなるほど
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