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駆除人  作者: 花黒子
~帰ってきた駆除業者~
324/503

324話


 冒険者ギルドでマスマスカルの駆除依頼を請けて、現場に直行。いつもどおりにベタベタ罠を仕掛けた。メルモが探知スキルでマスマスカルを観察。通り道に、魔物除けの薬が入った団子を置いていくと、群れが一箇所に固まっていく。後は、液体の魔物除けの薬を噴射して、袋を持って待ち構えていた俺が一網打尽。

 現場である定食屋の料理人たちは次々とマスマスカルを捕まえる俺たちを見て、引いていた。

「あんたら、いつもそんなに仕事が早いのか?」

 依頼書にハンコをしながら、料理長に聞かれた。

「実験用に生け捕りにしないといけないから、ちょっと時間がかかったほうですよ」

 定食屋は開店前。午前中には依頼は終わった。


『こちら、シャングリラのセスです。吹雪の中、空からコンテナが降ってきました! 徐々にシャングリラ全体に被害が出てきています。ただ、首都のタシルンポでは保管庫の警備兵たちが踏ん張ってくれているみたいで』

 セスから通信袋で連絡が入った。

「了解。向こうは、やはり保管庫が狙いなのか?」

『そうですね。ネクロマンサーもゾンビも首都近郊にいるみたいですし』

「実際、保管庫から財宝すべて取り出すのに、どのくらいの時間がかかると思う?」

『全部となると2週間くらいじゃないですか。あのダンジョンですからね』

「敵が強欲であることを祈ろう。保管庫の警備兵たちに無理しないように。死ぬだけ損だって言っておいてくれ。それに死んだらネクロマンサーたちに使われちまう」

『了解です』

 緊迫してきた。飛空船も使って、いよいよ向こうも総力戦か。


 魔道具師ギルドに戻って、捕れたてのマスマスカルをフェリルに渡す。ゾンビ菌の入った血を吸ったダニの魔物に、マスマスカルを噛ませていた。当たり前だが、ダニの魔物もゾンビ化するので、フェリルはマスマスカルを感染させた後は、靴でバンッと叩いて殺していた。

「小さい魔物は捕まえるのが結構面倒なんだからね!」

 怒っていたが、ちゃんと協力してくれるので、俺は黙って背中に頭を下げた。

 アーリムはすでに設計図を描き始めている。使う回復魔法の魔法陣はまだ決まっていないらしい。

「先生、これ10枚ずつ描き写しといてください!」

「はい!」

 言われたとおりに、白い紙に描き写していく。魔法陣は転生前に何度も描いていたので、気をつけなければならないところもなんとなくわかる。

「描き終えました!」

「じゃあ、こっちに持ってきて!」

 フェリルに言われ、魔法陣を描いた紙を持っていった。

 後は実験を繰り返していくだけ。

 ゾンビ化したマスマスカルを魔法陣を描いた紙の上に乗せ、魔力を流していく。

動きを止めるだけだったり、肉が溶けたように落ち骨だけになったりと、回復魔法の種類によって効果が違うようだ。

姉妹の作業の様子を見てたら、『ある用事』を頼んでいたアイルが戻ってきた。

「どうだった?」

「ナオキの予想通りだった。残っていたのはドヴァンが……」

「そうか。ベルサには?」

「もう、報告済み」

「俺のことを覚えていてくれているといいけど」

「忘れるわけないだろ? ナオキは強烈だからな。それより図書館が渋っている」

「どこの世界でも権威は動きを鈍くするのかな。引き続き頼む」

「うん。そっちは?」

「順調だよ。なあ?」

 俺はドワーフの姉妹に聞いた。

「本当にこの魔法陣にするんですね!?」

「必要な魔石の量が半端じゃないよ!」

 アーリムもフェリルもこちらを睨んできた。

「だってよ。どうする?」

 今度は俺がアイルに聞いた。

「どうにかするしかないだろ? かき集めてくるさ」

「ボウにもう一回頼んでみるか。あとは知り合いを頼るしか……。あれ? 竜たちはなにしてんのかね?」

「土の悪魔の教育をしてるんじゃなかったか? 聞いてみるか?」

 もう、なりふりは構っていられない。どんな手も使うつもりだ。

 アイルが俺に通信袋を向けてきた。

「こちらナオキ。レッドドラゴンいるか?」

『グオォ!?』

 レッドドラゴンの声が反響している。洞窟の中か。

「人語を喋ってくれ」

『久しぶりだな。どうかしたか?』

「そっちに土の悪魔が行かなかったか?」

『来たぞ。今、黒竜さんと南半球に行ってしまった。島も南半球に行く冒険者たちの補給地点になっていて、なかなかに忙しい。竜の娘たちも働いているぞ』

 竜の島も赤道には近い。補給地点としてはなかなか良い立地だ。

「そうか。で、レッドドラゴンはなにをしているんだ?」

『我か。我は、まぁ、なんだ、これから眠るところだ』

「おい、まさか、また引きこもるつもりじゃないだろうな?」

『……見えてるのか?』

「レッドドラゴン、頼むよ。なにかあったのか?」

『そのぅ……竜の関係もいろいろ大変なんだ。それぞれ得意不得意もあるだろ?』

 レッドドラゴンは他の竜より愛想がなぁ……。

「それで逃げて、また洞窟に引きこもるのか? お前、何百年生きてるんだよ。もう少し、コミュニケーション能力身につけようぜ」

『そうは言ってもなぁ~』

 ヤバい。レッドドラゴンの言い訳が始まりそうだ。とっとと用件を伝えよう。

「今、戦争止めようとしてるんだけど、こっち来いよ。魔法国・エディバラだ。溜め込んだ魔石もあるんだろ? それも持ってきてくれ」

『エディバラ? 遠くないか? それに人の争いに関わっていいことなどあるのか?』

「洞窟の中で寝ているより、よっぽどマシだ。魔石持って来いよ。じゃあな」

『むぅ。お主には恩もあるか……承知した。だが……』

 レッドドラゴンがなにか言いかけていたが、通信袋を切った。

「相変わらず、根暗な竜だ。飯だけは用意しておかないとな」

 俺が買い出しに行こうとしたら、アイルに止められた。

「少し休んだほうがいいぞ。レベルもないのに動きっぱなしだ」

「ああ、そうだな。ただ、動き続けないと、ミリアさんのことを考えてしまって、自分が嫌になる」

「わかるけどね。でも、少しくらいミリアのことを信じてやってもいいんじゃないか? ナオキの嫁さんにまでなった女だよ。そう簡単には死なないさ」

 そう言われて、俺は大きく深呼吸をした。

「そうだな」

「メルモが宿を用意してくれてるはずだ」

「わかった。ありがと。夕方には戻ってくる」

「ああ」

 俺は魔道具師ギルドを出て、空を見上げた。

 シャングリラは吹雪だと言うのに、エディバラは雲ひとつない快晴。

昼の白い月が浮かんでいる。ミリア嬢も同じ月を見ているだろうか。


メルモが宿の個室を取っていてくれた。

ベッドに寝転がっても、眠気はまるでない。

とりあえず、起きたらやることリストを作り、眠り薬を嗅いで強制的に寝た。


「社長……」

 メルモの声で起きた。なにかに緊張してるのか、いつもの腑抜けた声じゃない。

 窓の外はすっかり日が暮れている。

「悪い。寝過ごしたか?」

「いえ、説明会は社長がいないと始まらないので」

「……そうか。顔洗ったら、行く」

「お願いします」

 俺は宿の井戸で顔を洗って、魔道具師ギルドに向かう。


 すでに魔道具師たちが奥の部屋に集まっていた。

「悪い、遅れた」

「いや、今始めるところだ」

 腕を組んで待っていたアイルが言った。

「ちょっとすいませんね。通してください」

 魔道具師たちをかき分けて、アーリムとフェリルのもとに向かった。

「先生!」

「ようやく来たね!」

 文句を言うアーリムとフェリルを手を挙げて制した。

「悪い。始めよう」

 俺は設計図が張られた壁の前に立って、振り返った。50名の魔道具師たちが部屋の入り口に固まり、こちらを見ている。

「じゃあ、説明会を始めます。今回、魔道具師の皆さんには戦争で使う兵器を作ってもらいます」

 俺の一言で、魔道具師たちがざわついた。

「もちろん、依頼人である俺たちは清掃・駆除業者ですから、人を殺すための兵器を作るつもりはありません。シャングリラで広範囲に展開しているゾンビの軍団を駆除する兵器です。人を殺すつもりは一切ありません。むしろ、火の勇者と氷の国による侵略を止めたいと考えています」

「どうやって止める気だ?」

 隣室の魔道具師が聞いてきた。

「詳しくはアーリムが説明します。彼女は『砂漠の大輪デザートダリア』を発明した天才魔道具師です」

 アーリムを紹介すると、魔道具師たちからどよめきが起こる。初めに不満になりそうなことは片付けておきたい。

「こんな若い姉ちゃんが、『砂漠の大輪デザートダリア』を発明したってのか?」

「火の国周辺国にとっては悪魔みたいな存在だぞ!」

「そんな奴の言うこと聞けっていうのか?」

 魔道具師たちが声をあげた。

「俺が知る魔道具師の中で一番腕がいい。あんたら技術屋だろ? 全員、その腕で飯食ってるはずだ。それとも過去に囚われた歴史家か? だったら、図書館に行ってくれ。俺の見込み違いだった」

 そう言われて図書館に行く者はいない。それから魔道具師たちから一切文句が出なくなった。

「アーリム、説明を」

「はい! 火の国からやってまいりました! 魔道具屋・アーリムと申します! よろしくおねがいします!」

 アーリムはきっちり頭を下げてから、説明を始めた。

 『砂漠の大輪デザートダリア』のシステムを使いながら、回復魔法の魔法陣を描くという説明を進めるうちに、魔道具師たちはどんどん前のめりになってきた。

 正直、魔道具スキルもなくなった俺にはチンプンカンプンな話もあったが、アーリムは魔道具師たちからの質問にも丁寧に返していた。

 フェリルもゾンビ化したマスマスカルを使って、魔法陣の効果を実証して見せた。

「……この魔法陣には多くの安全装置のような制約が組み込まれています。少しでも線が狂えば魔法陣は発動しません。皆さんの腕が頼りです!」

 アーリムが、すでにメモを取りまくっている魔道具師たちに語りかけた。

 遠くでバンッという扉が開くような音がして、夜の冷たい風が吹いてきた。

 一瞬、魔道具師たちの集中が切れそうになる。

「コムロカンパニーの社長、図書館長が社長に挨拶したいと言ってきてるぞぉ!」

 魔道具師ギルドのギルド長・ウォズが俺に言ってきた。

「今、大事な話をしてるところだ」

「でも、エディバラの図書館は国を動かすほどの権力を持っているんだ! わかってるのか!?」

「知らねぇよ。今、俺たちは氷の国の侵略からシャングリラの小人族を一人でも多く救おうって話をしてるんだ。そのためには、ここにいる魔道具師さんたちに協力してもらわないといけない。権威で人は救えないし、俺たちは立ち位置で仕事してるわけじゃないんだ。お引取り願ってくれ」

 俺の言葉に、魔道具師たちは下を向いて笑いを堪えているようだった。

「悪いな。邪魔がはいった。アーリム、続けてくれ」

「正直、これを3日で作るためには寝れないかもしれませんが、どうかよろしくおねがいします! 人の命がかかっているので!」

 アーリムは設計図の写しを魔道具師たちに渡した。

「じゃあ、駆除人、あなたが締めて」

 フェリルが俺に言ってきた。

見渡すと、魔道具師たちがこちらを見て立っている。

「ゾンビを操っているネクロマンサーたちは家族を人質に取られています。もしシャングリラでの侵略が成功してしまったら、第2第3のシャングリラのような被害が出てくるかもしれない。止められるのは世界で唯一、ここにいる魔道具師の皆さんだけです! よろしくおねがいします!」

 俺はドワーフの姉妹とともに頭を下げた。

「「「「おうっ!!!」」」」

「請け負った!」

「こいつは久々の大仕事だ!」

「はっはぁ~、図書館長を追い返したのには胸がすいたよ」

「野郎ども、抜かるんじゃねぇぞ!」

「あたりめぇだ! こんだけ信頼されて仕事すんのはいつぶりだ!?」

「これで応えなきゃ、魔道具師辞めなきゃなぁ!」

 魔道具師たちは設計図の写しを持って各々の部屋に戻っていった。

 アーリムとフェリルは疲れたのか、椅子に座って放心状態。俺は2人に向き直った。

「助かった。あとは俺たちがやる」

「いやいや、私も作りますよ。一つでも多く作らないと」

 アーリムが自分の頬を叩きながら言った。

「駆除人、あんたらいっつもこんなことばっかりやってんのかい?」

「ハハハ、たいていそうだよ。ナオキに関わるとね」

 フェリルの質問に、俺の代わりにアイルが答えていた。

「わけがわからん……」

 フェリルは「お酒が飲みたい」と魔道具師ギルドを出ていった。

「先生、この魔道具の名前は何にしますか?」

 アーリムが聞いてきた。

「俺が決めていいのか?」

「ええ、だって先生が思いついたんじゃないですか」

「じゃあ、『平和の使者(メッセンジャー・オブ・ピース)』。略してモップだ。清掃・駆除業者が使うにはピッタリの名前だろ?」

「そんな適当な名前でいいんですか?」

「いいよ。この魔道具を使うのはこれっきりにしたいしな」


 それから3日後、魔道具師ギルドの前に、うちの社員たちとレッドドラゴンが集合した。




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