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駆除人  作者: 花黒子
~帰ってきた駆除業者~

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318/505

318話


 暖炉で体を温め、タンスの中から勝手に温かそうな毛皮のコートを取り出して着た。

「どうします?」

 ヨハンが聞いてきた。

「どうするったって、調べるしかないんじゃないか? とりあえず生きている人でも魔物でも探さないとな」

 気合を入れて外に出た。

 町の一軒一軒を回ったが、誰もいない。道は雪が降り積もっているため、なかなか思うように進めなかった。

「明かりも見えませんね」

「飲み屋でさえ、なにもないなんてな」

道沿いを進むと、立派な墓地があった。死者の国らしい。墓地は綺麗に雪かきがされている。豪華な霊廟の前に血痕らしきものが残っている。

「この血痕は結構新しいやつじゃないですか?」

「おっ、ここ開くぞ!」

 俺が霊廟の扉を引いてみると、簡単に開いた。

 中を覗いてみると、奥の方に魔石灯の明かりが見える。

「すみませ~ん! 道に迷ってしまいまして~!」

「ナオキさん、そんなわかりやすい嘘が通じますかね?」

 ヨハンが俺に向かって聞いてきた。

「ヨハン、世の中はとりあえず言ってみることが大事なときだってあるんだよ」

 とりあえず、奥へと進んでみると、動く影が見えた。

 自然とヨハンを盾にするように前へと押し出しながら、「すみませ~ん!」と声をかけた。

 奥から薄手の服を着た獣人らしき人物が走り出てきて、柱の陰に隠れた。

「本当言うとネクロマンサーに会いに来たんですけど、どこ行っちゃったんですかね?」

 見えない獣人に聞いてみた。

「ヨハン、武器持ってるか?」

「使うんですか?」

「いや、床に置いてちょっと離れよう」

 ヨハンは持っている杖を床に置き、俺も果物用のナイフを床に転がし、手を上げた。

「これで殺されたら、バカみたいじゃないですか?」

「大丈夫だよ。俺はこのツナギを信じてる」

「え? 僕、助からなくないですか?」

 ヨハンが抗議してきたところで、柱の陰からクマの獣人が現れた。鼻が赤い。寒さで切れたのかも。

「……」

 クマの獣人は首を振り、俺たちに何かを伝えた。

「なんだ? 喋れないのか?」

 そう聞くとコクリと頷き、自分の服を捲り首筋を見せてきた。そこには奴隷印。

「喋ることを禁止されているのか? 主人は?」

 クマの獣人は首をひねった。

「じゃあ、消しとく?」

 俺がそう言うとクマの獣人は目を丸くして驚いていた。

「それは窃盗になるんじゃ……」

 ヨハンが言った。

「でも、帰ってこない主人を待ち続けて喋りもせずに死ぬより、状況を説明して主人を助けに行ったほうがいいんじゃないか? まぁ、助けなくてもいいけど」

 クマの獣人は大きく何度も頷いた。

「俺としては本人の意思を尊重したいんだけど?」

「でも、奴隷ですよ」

「奴隷って言ったって、主人の責任は? こんなところでほっぽり出されて震えてるじゃねぇか」

 クマの獣人は言われてから、震え始めた。案外毛皮が厚いのかもしれない。

「ナオキさんは奴隷を解放したことあるんですか?」

「あるある! 3人かな? いや、魔族も含めるともっとか。だってめんどくさいだろ? 他人の人生の責任なんて取りたかないよ」

「独特な理由ですね」

「そうか? そんなことないと思うけど」

 俺はそう言いながら、魔法陣帳から解呪の魔法陣をページを開いた。

「でも、この奴隷がいい奴だとは限らないじゃないですか?」

「じゃあ、もう一個奴隷印を描いて、ヨハンの奴隷にしてさ。元の奴隷印は消せばいいんじゃない?」

 クマの獣人は首を思いっきり横に振った。

「だからそれは窃盗なんですって。それに奴隷印を二重に描くなんて聞いたことありませんよ」

「そうなのか? じゃあ、一旦手錠でもする?」

 俺の提案にクマの獣人は頷いて、すぐに自分で両手首に縄を巻き付けて口で縛っていた。

「自分でやるのかよ。意味があるのか? まぁいい。解呪するよ~」

 俺はクマの獣人の首筋の奴隷印を消した。空間ナイフで皮膚を傷つけながら解呪の魔法陣を描いたので、結構疲れた。

「ヨハン、魔力」

「はい」

 ヨハンがポンと解呪の魔法陣に魔力を込めて叩いた。

「終わったよ」

 そう言った途端、クマの獣人は天井の隅に飛んだ。そのまま、壁の一部を押して通気口のような抜け道に入ってしまった。

「「あ」」

 俺とヨハンはアホ面を並べて、ただ様子を見ていただけ。

「やっぱり逃げるか?」

「逃げますね」

「でもこんな寒い北極大陸で逃げるところなんてあるのか?」

「そう言われるとないですよね。一旦、さっき暖まっていた家に戻りますか?」

「うん」

 先ほどまでいた家に行くと、普通にクマの獣人が暖を取っていて笑った。

「なんだ寒かっただけか?」

「あ!」

 俺たちに驚いているクマの獣人にアポの実を差し出すと、芯まで食べていた。

「はふ~っ、うまぃ……、うまい、うまい! うまい!!」

 クマの獣人は「うまい」と喋れたことに興奮しているようだ。

「なによりだな。そんで、この町でなにが起こったのか話せるか?」

「逃げたのに怒らないのか?」

 クマの獣人が俺を見た。

「ああ、そうか。こら。助けたのに、逃げるなんて酷いじゃないか。もうするなよ。で、何が起こった?」

 俺が棒読みで怒ったら、クマの獣人は声を押し殺して笑い始めた。今まで笑えもしなかったから、癖がついたのかな。

「なにもんなんだ? どこから来た?」

「違う世界の駆除業者さ」

 クマの獣人は俺を見てから、ヨハンを見た。ヨハンは頷いただけ。

「違う世界から来た奴なら隠す必要もねぇか。氷の国が攻めてきたんだ。ネクロマンサー様、いやネクロマンサーたちを全員だ。その家族は人質としてやっぱり連れて行かれた」

「無抵抗でか? 食事の途中だったというのに?」

 俺はテーブルを指さして聞いた。

「あ? ああ、太陽がもう一つ空に浮かんでいて、断れば町に落とすと言われたら、お前さんならどうする? お前さんもあれを見れば、抵抗する気なんて失せる」

「くそっ、火の勇者か。氷の国となにをするつもりなんだ?」

 ネクロマンサーを攫った理由は? いや、そもそもそんなに捕虜にしたとして食料はどうする? 住む場所は? 牢屋だって大きくないと寝ることもできないぞ。

「理由はわかるか?」

「いや。ただ、狙いはネクロマンサーだから、なにかを蘇らせるとかだと思う……」

「先越されたか。死者の国にいるネクロマンサーはこの町にしかいないのか?」

「たぶん……」

「ケルビンというネクロマンサーは?」

「あの老人なら、2ヶ月前に死んだよ」

 氷の国はタイミングを見計らっていたのか。

「そうか。お前はなんで残った?」

「霊廟の掃除を言い渡されて、ずっと隠れていたんだ」

「そうか」

 とにかく、基地に戻って報告しないとな。

「ヨハン、帰ろう。お前どうする?」

 俺はクマの獣人に聞いたが、戸惑っている。

「残るか? それとも俺たちと一緒に来るか?」

「どこに行くんだ?」

「基地だよ。ポーラー族のね」

「行く! 冒険者だった頃、俺はそこに行くつもりだったんだ」

 クマの獣人の目に暖炉の明かりが反射した。

「冒険者だったのか」

「ああ、俺は獣人の故郷をひと目見に来たら、ネクロマンサーに捕まって10年以上奴隷だったんだ。お前たちについていけば故郷を見れるか?」

「ああ、見れるぞ。よし、行こう」

 日が落ちると暖炉の火に当たっていても寒いので、とっととダンジョンに向かう。

「これが北極の秋か。寒~」


 ダンジョンに入ると、ヨハンが俺とクマの獣人を脇に抱え、光る鉱石の間を飛びながら移動。今自分が天井を見ているのか地面を見ているのかわからなくなるほど速い。

 女性陣が片付けている転生部屋に着く頃には俺もクマの獣人もグロッキー状態だった。

「く、くるしい……」

「地面か?」

 俺もクマの獣人も這いつくばっていると、アイルらしき者の足を掴んだ。

「なんだ? まさかまた奴隷を拾ってきたんじゃないだろうな?」

「いや、もう彼は奴隷じゃない。んべっ!」

 後頭部を踏まれた気がする。

「なんでもかんでも拾ってくるんじゃない!」

「これはまた珍しい者を拾ってきたね。あんたシロクマの獣人だろ?」

 ベルサの声が聞こえてきた。

「ほら、ご覧。よく見ると毛がストロー状になっている。なにかで染色しているみたいだけど、魔物学者の目はごまかせないよ」

「うわっ、本当だ。よく気づきますね。でも、寒さに弱そうでしたよ」

 ヨハンが返していた。

「飯食べてないからだろうね。あんた、スープでも食べるかい?」

「名前は?」

 ベルサとアイルがシロクマの獣人に聞いていた。

「ワッカだ。飯は食う。少し待っていてくれ」

 シロクマの獣人ことワッカも俺も、ずっと目が回っていて立つことができない。

「先生、この人がネクロマンサー?」

 ミリア嬢が聞いてきた。誰かに踏まれていて顔が見えない。

「いや、違う。それを報告しに行かないと。アイル、ベルサ、死者の国に行ったら町が氷の国から襲撃を受けていた。火の勇者のスパイクマンが絡んでいるらしい」

「なんだって!?」

「あのボケ、また迷惑かけてるね!」

 2人とも呆れている。

「とにかく基地まで報告に行ってくれるか? ネクロマンサー全員が連れ去られたらしい」

「それ、もしかしてこっちの基地に攻めてくるんじゃないか!」

「だから急いでくれ」

 大きな溜息が2つ聞こえたところで、頭から誰かの足が離れた。

 見上げると、アイルとベルサは猛スピードで通路を駆けていくところだった。

「とりあえず、あの2人に任せておけばいい。とりあえず、落ち着くまで休もう」

 休めなかった。

「話は聞かせてもらったー! な~!」

 セイウチさんがドスドスと音を立てながら走ってきた。

「どこからやってきたんですか?」

「な~、ダンジョンの隣部屋の畑だ。マルケス氏から4年前にダンジョンでの農業指導を受けたのだよ」

 何をしていたのかと思えば、畑仕事か。

「結果は出てないですけどね」

 ヨハンが俺の耳に密告してきた。

「外でできることでも、ダンジョンのなかでは難しいのだな~」

 セイウチさんも光の精霊のようなことを言っている。

「な~、そんなことより、戦争が始まるのならここに避難所を作ることにする。ポーラー族の族長の権限で」

 その後、続々とポーラー族の研究者たちが荷物を持ってダンジョンの中に入ってきた。


「予知スキルでは、こんな未来は見ていなかったんですけど……」

 オタリーが汗を拭きながらやってきた。

「ネクロマンサーがいなくなったんですね?」

 山高帽で角を隠したモノセラが俺に聞いてきた。

「ああ、そうなんだ。過去に北極大陸で蘇ったらマズいような魔物はいなかった?」

「さあ、それは知りませんが死体はたくさん埋まっているはずなんですよ。獣人の反乱があった場所なんですからね」

 狙いはそれか?

「それよりも彼女の転生はいいんですか?」

 モノセラがミリア嬢を指して聞いてきた。

「いや、一番の問題はそれなんだよな。そのためにここまで来たんだから」

「よければ私が協力してもいいんですよ。以前にも言いましたが、私はまじないと呪いの研究をしているんです。転生の術についても心得ているんです」

「え!? そうなの!? だったら協力してもらいたいけど」

「しかし、もちろん本職のネクロマンサーの方が安全ではあるんですよ。私は初挑戦なんですから」

「いや、俺の時もネクロマンサーたちは初挑戦だったはずだ。よかった。転生してくれる人がいて」

 モノセラは「それほどでも」と山高帽を脱いで照れていた。

「あの! 転生するにはどうすればいいの?」

 ミリア嬢本人がモノセラに聞いていた。

「現世への未練が強い方がいいんです。例えば、家族がいるとか……」

「お店じゃダメかしら?」

「お仕事ですか。でも、やっぱり家族の方がいいんです。ご家族は?」

「いないわ。でも、家族がほしかった……」

 そうつぶやいたミリア嬢が孤独に見えた。

「それに、やっぱり一度くらいお嫁さんになりたいじゃない? 言える時に言っておいたほうがいいわよ。人なんて皆、いつかいなくなっちゃうんだから」

 ミリア嬢はモノセラに年上の女性としてアドバイスして、寂しそうに笑った。

 あんまりにも寂しそうだから、なにか声をかけなくては、と思った。


「じゃあ、俺と結婚しますか?」


「「ぶへっ!」」

 ちょうど戻ってきたアイルとベルサに聞かれ、2人とも噴き出していた。

 つい言葉にしてしまっただけ。どうしてそんなことを言ったのか後からいくら考えても、勢いというしかない。

 俺の告白に振り返ったミリア嬢は笑っていた。満面の笑みだ。

たぶん、ミリア嬢は数々の男たちに告白されてきたはずだ。きっと俺の言葉も冗談として捉えるだろう。そんな淡い期待をしていた時期が俺にもありました。


「する! 男なら自分の言葉に責任持たなくちゃね。先生」


 ミリア嬢は真顔でそう言って、胸を張った。

その瞬間、「もしかして寂しそうに笑ったのは演技だったのかもしれない。俺はミリア嬢に告白させられたのかもしれない」と直感的に思った。

やはり俺はこの人には敵わない。何枚も上手だ。



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