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駆除人  作者: 花黒子
~帰ってきた駆除業者~
314/502

314話


 嵐は三日三晩続き、その間に地震が何度か起きた。それが終わったと思ったら、台風が乱発し、各地に被害をもたらしている。赤道付近の町はよくて半壊。ほぼ全壊といったところ。嵐と津波で建物がほとんど流されてしまった港町もある。無鉄砲な冒険者たちが海に出て死者も出たが、町人たちの被害はほぼゼロ。事前の準備が間に合った形となった。

そんななか、全世界は異様な興奮に包まれていた。

「当たり前だ。北半球と南半球が繋がったんだからな」

 ルージニア連合国のアルフレッドさんは笑っていた。

「これから、なにが起こるかわからない。たとえなにがあってもこの国を守るよ」

 グレートプレーンズ王国のサッサさんは気を引き締めていた。

 未知なる南半球が突如として現れ、希望を持つ者と恐怖を覚える者が続出した。


 ただ、ある職業の者たちにとっては希望しかなかったようだ。

「船の準備はいいか!?」

「ああ、シャングリラから出るそうだぜ!」

「エルフの里からも船が来るって話だ!」

「お主ら、随分興奮してるみたいだけど、今からそんなはしゃいで大丈夫なのか?」

「お前だってそうだろ!? 爺さん!」

 老若男女問わず、未知という響きに魅せられた冒険者たちが、南半球に向かう船に乗り込んだ。もちろん、そこに商機を見つけた商人たちも乗り込むことになる。


「笑いが止まらないようだな。セスは」

 俺たちはルージニア連合国の港町で瓦礫の撤去作業中。セスはニヤけながら倒壊した教会を片付けている。セスは、雇った傭兵たちを南半球に送り届けて、アイルにバトンタッチ。アイルは傭兵たちとともにジャングルからやってくる魔物たちに対処しているところだ。

「そりゃあ、自分の会社が運送会社だったらこんな好機ないもんな」

 ベルサがセスに話しかけた。

「だって、北半球と南半球が繋がることが決まってるなら、それに合わせた商売で稼ぐのが普通じゃないですか?」

 セスは冒険者たちの乗る船を運送会社から出して、絶賛大儲け中だ。

「メルモも稼いでますよ」

「え!? メルモまで?」

 俺は壊れた噴水を片付けているメルモの方を見た。

「いやぁ、私は南半球でも履ける靴を売り出しただけですよぉ~。ただ、量産が追いついてないってだけでぇ」

「南半球で履ける靴って北半球の靴と違うのか?」

「へへへぇ~」

 笑って誤魔化してるよ。

「2人とも5年経って稼ぐことは覚えたようだな」

「私たちはいつまで経っても覚えられないけどね」

 なぜかベルサとアイルはあんまり稼いでいないらしい。

「アイルは全世界回ってしまって地図を描いてしまったし、私は前みたいに頭がひっくり返るような魔物に出会えてなくてね。お金稼ぎは二の次というか。だからナオキが帰ってきてくれてよかったよ」

「いや、僕からすればお二人とも十分に稼いでますけどね。お二人とも世界中にパトロンが何人もいるんですよ。お金に困るようなことはないと思います」

 俺以外、全員金持ちだったらしい。

「いよいよ、なんでお前たちここにいるんだ?」

 俺は3人に聞いた。

「いや、だって、清掃しないと住めないじゃないですかぁ?」

「僕たちはもう自分で自分の給料決められるんで、あんまり意味のない労働はしたくないんですよ」

「私たちは好きな場所で好きなことしてるだけだよ。清掃・駆除会社の名を借りてね」

 なんだか立派になられたようで、なによりだ。

「じゃあ、この瓦礫撤去の報酬は全部、俺の懐に収めていいんだね?」

「いいわけねぇだろ!」

「なに言ってるんですか!?」

「社長、自ら看板を汚すつもりですか!?」

「あれ~? そういうことじゃなかったのか?」

 仕方がない、やはり娼館代は自分で稼ぐしかなさそうだ。


 セスやメルモのお蔭でどんどん瓦礫は撤去されていった。ルージニア連合国ではこれを機に区画整理をする港町が多いらしい。

「え? ああ、はいはい。ナオキ! 仕事だよ」

 ベルサが誰かから連絡を受けたようだ。

「どこで?」

「東の群島のサーズデイにある貴族の家でマスマスカルが大発生しているって。台風の影響で島中のマスマスカルが押し寄せてきてるらしい」

 ベルサが簡潔に状況を説明した。マスマスカルなら俺一人で十分だろう。

「わかった。誰か運んでくれる?」

「じゃあ、私が連れていきますよぉ」

 メルモが俺を空飛ぶ箒の後ろに乗せて、空を飛んだ。


 メルモが急いで2時間ほど飛べば、サーズデイという島が見えてきた。

 貴族の家の敷地は、野球場ほど広く、屋敷の中から悲鳴が聞こえてくる。

 俺は手袋とマスクをつけて、ポンプの準備。

「吸魔剤にします?」

「いや、普通の駆除剤でいいよ。吸魔剤は俺が魔力切れ起こしちゃうから」

 ポンプに深緑色の駆除剤を入れて、自分たちにかけて噴射のテスト。その後、屋敷からの悲鳴を聞きながら、屋敷の周りにベタベタ罠を仕掛けていく。

「じゃあ、行くか」

「はぁ~い!」

 俺は屋敷の扉を開けた。

「どうも~! コムロカンパニーでーす! 皆様、口を布で塞いで外に出てください! 罠を仕掛けてるんで、飛び越えてくださいね!」

 大声で屋敷中に声をかける。

 玄関付近に駆除剤を噴射。すぐにメイドがやってきて、「お願いします」と外に走っていった。

 それをきっかけに、続々とメイドや貴族が玄関に殺到してきた。皆、マスマスカルに耳をかじられたり、腕や手をかじられたり怪我をしている。

「なかなか凶暴なマスマスカルらしいな。メルモ、外で怪我人の手当してあげてくれ」

「了解です」

 足元にはマスマスカルが群がってくるが、蹴り飛ばして壁際に追いやる。窓を開けて駆除剤をかけると逃げて、屋敷の外へ。屋敷の外に仕掛けた罠にかかっているらしく「チューチュー」聞こえてきた。

 3階建てで地下もある屋敷だったので、すべての部屋を回り、駆除剤を散布していった。気絶して逃げ遅れた人もいて、背負って外へ。こういうときに探知スキルがないのは不便だ。

「あれ? メルモは?」

 外に怪我人を手当しているはずのメルモがいなかった。怪我人だったメイドたちが回復薬を自分たちにかけて治療している。

「あ、なんか罠を仕掛けてくるって行っちゃいました」

 メイドの一人が答えてくれた。どうやらベタベタ罠が足りなくなっているらしい。屋敷の周りからずっとマスマスカルの鳴き声が聞こえてくる。

「ああ、そうですか。じゃ、この人お願いできますか。これ気付け薬なので回復薬で治療したら、鼻の穴に突っ込んでください」

 俺はメイドたちに気絶した人を任せて、再び屋敷へ。

 食料庫のドアを開けると、雪崩のようにマスマスカルが飛び出してきた。すでに食料はすべてダメになっているだろう。眠り薬の燻煙式罠を放り込み、ドアを閉めた。

 ドカボコッ、グシャ!

 窓の外から、メルモがマスマスカルを粉砕している音が聞こえてきた。ベタベタ罠にかかったマスマスカルを処理しているのだろう。燃やしてじっくり殺すようなことはしたくはないのかな。メルモらしい。

「メルモー! 探知スキルで屋敷のなかに生存者がいるか見てくれるかー?」

「はーい! あ、屋敷の中には人はもういないですよ! 大丈夫でーす!」

 すぐに答えが返ってきた。本当にうちの社員たちは皆、探知スキルを取得しているようだ。

「了解! 残っているマスマスカル始末するから、燻煙式の罠を仕掛けるよ~!」

「お願いしまぁーす!」

 俺は屋敷中の窓をすべて閉め、隙間は洞窟スライムの粘液で埋めて、眠り薬と麻痺薬の混合の燻煙式の罠を仕掛けていった。

 最後に、扉をしっかり閉めて待つ。

「お疲れ様でーす。皆様無事ですか?」

「はい、なんとか……此度は、なにからなにまで世話になった。感謝する」

 貴族が代表して挨拶してきた。赤道の壁がなくなるという連絡を受け、避難所で避難民をまとめていたらしい。台風が去って屋敷に帰ってきたら、マスマスカルに乗っ取られていたようだ。

「社長、だいたい処分しました。焼いていいですかね?」

 メルモが大量のマスマスカルの死体を袋に詰めて持ってきた。ちょっとした小屋くらいのサイズの袋が3つ分。こんなに屋敷にいたのかと思うと、大変な数だ。

「そうだな。まだ、中にいるけど、第一陣は焼いていいんじゃないか? あとでまた焼こう。ちょっと敷地の隅を借りますね」

「ああ、なんでもやってくれ」

 所有者の許可が下りたので、庭の隅の方で死体を焼かせてもらった。

 燃え盛る炎を見ながら、弁当のサンドイッチを食べていたら、昔を思い出した。ベスパホネットを駆除した時も、なんだかこんな感じだった気がする。

「やってることは、なにも変わらねぇな」

 相変わらずの駆除業務だ。転生しようがレベルがなくなろうが、俺の仕事は大して変わらない。

 屋敷の中にいるマスマスカルがすべて状態異常になっているのをメルモに確認してもらって、窓を開けていく。あとは麻痺して眠っているマスマスカルを袋に入れていくだけ。第一陣と同じくらいの量のマスマスカルが捕れた。まだ敷地の隅で第一陣が燃えていたので、第二陣も放り込む。これにて、駆除は終了。

 煙や駆除剤で汚れた屋敷を清掃し後片付け。メルモは探知スキルだけでなくクリーナップも使えるらしく、かなり早く終わってしまった。

「報酬はこれでいいか?」

 貴族が金貨がたくさん入った袋を持ってきたので、それで手を打った。冒険者に頼めばマスマスカル一匹につき銅貨5枚。数え切れないくらい量がいたとはいえ、袋に金貨50枚くらい入っていれば、十分な報酬だ。

「それではコムロカンパニーをご贔屓に」

 さて、日も暮れてきたし町にでも繰り出しますか。今、俺の懐は温かい。

サーズデイの港町はシェルワークと言うらしく、お風呂屋さんが有名なんだとか。

「お風呂屋さんには行かないといけないよな?」

「社長はなにを想像しているんですか? あ、ちょっと待ってください。ベルサさんから連絡です」

 メルモが通信袋を取り出した。

『悪い。また依頼だ。アリスフェイ王国の南、マリナポートって昔私が住んでいた港町があるだろ? その西側の海に巨大なサメの魔物が現れたらしい』

「了解で~す。社長と向かいます」

「えっ!?」

 メルモは通信袋を切ってしまった。

「俺はレベルがないんだから、あんまり強い魔物の駆除は向いてないんだぞ」

「さ、行きますよ。乗ってください」

 メルモは話を聞いていない。やはりメルモは血が見れそうな仕事になると、人が変わる。

「また、お預けか。メルモ、この依頼が終わったら、会いたい人がいるんだけど、送っていってくれるか?」

「いいですけど、どなたですか?」

「5年間、世話になった恩人だ」

 俺たちは空へと飛んだ。

「え?」

メルモの疑問の声は風の音に消えた。




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