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駆除人  作者: 花黒子
~帰ってきた駆除業者~
305/502

305話


 城にいる魔族たちがずらりと並び、俺を出迎えてくれた。中には口をあんぐりと開けているゴーゴン族やサキュバス族もいた。知り合いな気がするが、まぁ、いいか。

「ナオキ、とりあえず大統領室で待っていよう。すぐに宴会の用意させるから。フハ」

「この先、俺が来るたびに宴会してたら大変だぞ。ボウには世話になるつもりだからな」

「フハ、そりゃあ、いいや。恩も返せずに死んだら恨んでいた。オレにできることなら何でも協力する」

 魔族領・大統領の言質が取れた。

「フハ、入って」

 大統領室の壁には本棚が並び、本がぎっしり詰まっていた。机や床には書類や羊皮紙のスクロールが積まれている。

「ボウ、随分勉強したみたいだな」

「学がないからさ。必死だっただけ。その辺の書類床において椅子にかけてくれ。フハ」

「少しは片付けてくださいっていつも言ってるんですよ!」

 後ろにいたアラクネがそう言って笑っていた。

「図書室作るより、雨の日でも子どもが遊べる場所を優先した結果だ。フハ」

「そういえば、ボウの子どもは?」

 俺が聞くと、ボウは寂しそうな顔になった。

「リタと一緒に里帰り中さ。オレが甘やかしすぎるらしい。リタの婆さんと爺さんがみっちり鍛えているはずだ。フハ」

 リタの婆さんは元女王だし、爺さんは元水の勇者だ。

「化物に育つんじゃないか?」

「わからない。ただ同世代の子より少し腕力や魔力が高いようで、普通には育てられないんだって。週一回は会えるんだけど。フハ~」

 ボウは情けない声を出した。子育ても大変だ。

「それで、ナオキ様はなにを?」

 アラクネが前のめりで聞いてきた。

「どこから話せばいいやら。うちの奴らからどこまで聞いてる?」

「ん~っと重要なところはだいたい『ナオキだから』って言ってあんまり教えてもらってないんだ。火の国からどうやって傭兵の国に渡ったのかってところから詳しく話してくれ。アラクネ、書記を頼む。フハ」

「もちろんです!」

 アラクネの手にはすでにメモ帳とペンが握られていた。

「いやぁ、そんな大した話じゃないよ。えっとあれは冬に地震があった時だったな……」

 俺はそのままボウたちに夕方近くまで話を聞かせた。アラクネのメモ帳は足りず、部下が何人も呼ばれて交代までしていたのには驚いた。

「フハ? そうなってくると、もしかして北半球と南半球が繋がるのか?」

 全部話してしまえば、誰でも推測出来てしまうのか。

「ああ、それは情報解禁してないんだ。まずいなぁ、うちの社員たちに怒られる。悪いけど聞かなかったことにしてくれ」

「フハ、それは無理だよ。でも、要するにジャングルの南側に利権が発生するから、いろんな国が関わろうとしてくるって話だろ?」

「まぁ、それもあるけど、一番は強い魔物が生まれて飛んでいったりすると、他の地域にも被害が及ぶだろ? それを俺たちは駆除するつもりなんだ。ただ単純な人手が足りない。だから、傭兵を雇おうと思ってさ」

「なるほど、駆除はコムロカンパニーの本業だもんなぁ。傭兵なら利権に関係なく金で雇えるってわけだ。わかった。魔族領は手を出さない。でも、それとは関係なく、手伝えることはないか? オレもコムロカンパニーの元臨時社員だからさ。フハ」

「実は、俺が城の前の列に並んでいたのはそのためなんだ。まず、傭兵たちの生活で使う燃料の魔石がほしい。それから、聞いての通り、俺はレベルがないから、空飛ぶ箒が使えないんだ。移動を手伝ってくれる魔族はいないか?」

「フハ、アラクネ、魔石の貯蔵庫に予備はあったよな?」

「もちろん、魔石の用意はすぐにでも出来ますが、ナオキ・コムロの手伝いをしたい魔族なんて腐るほどいますからね。ほとんど腐っている連中ですら手を挙げると思いますよ」

 ゴースト系の魔族もいるんだったな。

「フハ、これは宴会どころじゃなくなるなぁ。早いほうがいいんだろ?」

「いや、安全な方がいい。無理されて、動けなくなるのが一番困る。あとは交渉の邪魔にならないやつなら、なおいいかな」

「フハ、体力があって、空気読めるって魔族にいるかなぁ」

 ボウが天井を見上げて考えていたら、アラクネが「やはり私しかいないようですね」と勝手に引き受けていた。

「アラクネ、それは暴動が起きる。なにか宴会の最中に決めよう。フハ」

 ボウがアラクネに注意したところで、宴会の準備ができたとケンタウロス族の職員が呼びに来てくれた。


「ナオキにカンパーイ! フハハハ!」

 ボウは乾杯しただけでなぜか笑っている。酒飲む前に酔っ払っているらしい。

 俺は移動に協力してくれる魔族を探さなくては。ただ、視線は俺のために踊ってくれている壇上のラーミアのお姉さんたちに向かってしまう。他にも弦楽器の演奏を聞き、珍しい魔族領の料理を勧められるがまま食べてしまった。

 立食パーティーのような宴会だったので、食べ物を取りに行っただけですぐに囲まれてしまう。

「どうすれば強くなれますか!?」

「精霊や勇者に立ち向かう時の気持ちは?」

「俺もコムロカンパニーに入れますか?」

 希望に満ちた目をしている魔族たちが聞いてくるが、「あんまり強さに興味はないんだよ」「気持ちっていうか、仕事だからね」「入れるけど、俺に決定権はないかも」などと適当に返しておいた。

 料理を出してくれているアフィーネに移動に協力してくれそうな魔族について聞いた。

「空を飛ぶなら、羽の生えている魔族がいいんじゃないですか? 魔族領の中だけで言うなら、道もしっかり通っているのでフィーホースでも問題ないと思いますよ」

 傭兵の国もグレートプレーンズも地続きなので、フィーホースもありか。

「どこに向かわれるんですか?」

「それが仕事で傭兵の国とグレートプレーンズに行かないといけないんだよ」

「傭兵の国までは東の港まで行けば船も出てますし、グレートプレーンズまでは大通りがありますよ」

 そう言われると、俄然フィーホースがいいような気がしてきた。5年の間に変わった魔族たちの生活も見れるかもしれない。グリフォン族やハーピー族に声をかけているアラクネには悪いが、馬小屋を見せてもらおう。

「ご主人様、お久しぶりでございます!」

 スフィンクスのスーフが挨拶してきた。俺が前に火の国で助けた元奴隷だ。ボウに鼻っ柱を折られていたはずだが、今日は豪華な衣装を身につけている。

「ああ、久しぶり。セーラの時は助かったよ。今もケツ蹴られてる?」

スーフは顔を真っ赤にして、黙ってしまった。

「ごめん、禁句だったか? 元気ならいいや」

魔族たちが押し寄せてきて、スーフもどこかへ消えた。

どうにかこうにか城の外に出ると、そらからサキュバス族が降ってきた。

「おおっ、サキか」

 サキは砂漠の村にいたサキュバス族だ。繁殖期の夏の間だけ魔族領に来ているんだったか。相変わらず冒険者の格好をしている。

「ナオキ、お前ってすごいやつだったんだな」

「イトたちは元気か?」

 サキは大きく頷いて笑っていた。

「コムロカンパニーのお蔭で、村も大きくなったしローカストホッパーの群れも駆除できるようになったんだ」

「そうか。それはなによりだ」

「宴会の主賓なのに、どこか行くのか?」

「ああ、馬小屋が見たくてね」

「あ、それなら向こうだよ」

 サキが城の東側を指さして教えてくれた。

「ありがと」

「いいって。中に、まだいい男いた?」

 サキュバス族は繁殖期になるといい男を探してしまうらしい。

「どうかな。中で見てみてくれ」

「うん、紹介より自分の目で見たほうが相性がいいんだよね」

 サキは革の鎧を脱ぎながら、城の中に入っていった。

 

 馬小屋では宴会に出ていない魔族がフィーホースにブラシをかけていた。誰も見ていないところでちゃんと仕事をしている者たちがいれば、魔族領は安泰だ。

「フィーホースを見たいんだけど、いいかい?」

「へ? ああ、どうぞ」

 振り向いたのは、ゴーゴン族の姉者だった。

「あれ? 姉者じゃないか。久しぶり」

火の国で先程会ったスーフと一緒にいた魔族だ。髪が蛇だが、今はターバンのように巻いている。

「貴様はナオキ・コムロ! 自分の宴会を抜け出してくるとは、相変わらず変な奴だな」

「そうか? しかし、近くで見ると大きいな」

 以前はフィーホースの足を掴んで倒したり、持ち上げたりしていたが、レベルがない今ではそんなことできない。

「そういえば、俺、フィーホースに乗ったことないかも?」

 レベルのせいで移動が大変で、なにかに乗るっていう経験も初めてだ。

「繊細な魔物だから、貴様には無理かもしれんぞ」

「そうかもなぁ。じゃあ姉者、一緒に来る?」

「え? なんで私が!?」

「いや、フィーホースの扱いがうまいから馬屋番なんだろ? それにあんまり俺に対する幻想も抱いてないだろうしさ」

 アラクネやケンタウロス族などは、俺がちょっと娼館に行ったりしたら、軽蔑してきそうだ。

「そりゃ、そうだが……」

「ああ、でもフィーホースがつらいか。俺と姉者を乗せては走れないもんな」

 俺がそう言うと、姉者がブラシをかけていたフィーホースが「ヒーブルルルン」と嘶いた。

「このフィーホースは砂漠でも、荷物を背負って駆けていた。貴様が一人増えたところで、なんの問題もない」

「じゃあ、俺の移動に協力してくれるってことだな。まさか自分から言ってくれるとはね」

「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」

「大丈夫だ。仕事の方はボウに言っておくから」

「ず、ず、ずるいぞ! 大統領命令を使うなんて!」

 俺を止めようとしていたゴーゴン族の姉者だったが、すぐに心が折れたのか追いかけてくることはなかった。


 ボウに許可をもらい、俺はゴーゴン族の姉者と傭兵の国へ向かうことに。東の港から出ている船の乗船許可証もアラクネに出してもらった。俺が傭兵の国で交渉している間に魔石は用意しておいてくれるという。今の俺はアイテム袋もないので、大量の魔石を持たされても困る。魔石の代金も正規の値段で買い取った。友達価格ということもない。あとで、セスに言って取りに来てもらおう。

 翌朝、宴会明けの早朝にもかかわらず、ゴーゴン族の姉者に叩き起こされて出発。

「貴様が行くって言うから用意して待っていたのに寝坊するとはどういうことだ?」

「ちょっと待てよ。まだ、日も明けきらない時分じゃないか?」

 少し空が明るくなってきているだけで、東の空にはまだ太陽は昇っていない。

「朝になれば、行商人たちが道に溢れる。行くなら今しかないんだ」

 フィーホースに揺られながら、説明を受けた。魔族領はすっかり商業が盛んな国になっていたようだ。

「私たちは魔族だからね。戦おうと思えば、皆戦える。その分、軍費に割く資金を商業に回せたんだよ」

 俺の疑問にゴーゴン族の姉者が答えてくれた。


 魔族領の東にある港町・イーストポートは、傭兵の国やアリスフェイ王国からの物品が届き、魔族領の特産品が輸出され、魔族と人族が多く住む町になっていた。

「人の流れって、5年でこんなにも変わるのか」

 昼飯時に着いたのだが、道幅は広く、人の往来も激しい。

 走りっぱなしだったフィーホースに水を飲ませ、姉者の馴染みの宿で休憩する。俺も股が痛い。

「夕方の船で傭兵の国へ向かう。ナオキ・コムロの名前を出したら、すぐに船長が了承してくれたよ」

 仕事のできる姉者が早速、乗り込む船を見つけてきてくれた。俺は窓の外から町の様子を見つつも、厨房に出たバグローチやマスマスカルを駆除していた。

「いやぁ~、助かった~。ここら一帯の飲食店はバグローチやマスマスカルに悩まされているからね~」

 厨房にいる料理人たちにお礼を言われた。

「まぁ、本業だからね。コムロカンパニーの薬は効くから、今度からは買って食品にかからないように撒いとくといいよ」

 イーストポートの道具屋でも、うちの深緑色の防魔物剤が売られているのを見つけていた。魔物が嫌いな臭いは魔族も嫌いなので、なるべく使いたくないらしい。

「臭いが嫌なら、ベタベタ罠でもいいけどね」

「そうする!」

 ゴーゴン族の姉者は「また仕事してるな?」となぜか怒っていた。

「火の国でも思ったが、貴様、ちょっと仕事のしすぎだぞ。休憩する時は休憩するからな」

 姉者の頭にいる蛇まで、うねうねと動いて威圧してきた。

「うん、わかった……」

 夕方まで、だらだら運ばれてきた料理を食べ、町の様子を眺めていた。

船にはフィーホースと一緒に乗り込む。サハギン族の先導があるため、海の上では滅多に魔物に襲われないらしい。

西の海に太陽が沈んでいく。

ゴーゴン族の姉者は、突然脱皮し始めた自分の髪にイライラしていた。少し髪にワインを飲ませて眠らせてから、皮を剥いてやった。

「私も眠くなってしまったではないか!?」

「寝ろよ。襲わねぇから」

波の音を聞きながら就寝。早朝から起きていたせいか、すぐに眠ってしまった。



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