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駆除人  作者: 花黒子
~帰ってきた駆除業者~
301/504

301話


「来るだけで大変だな」

レベルがない俺はセスの後ろからついていっただけだが、結構疲れた。

飯をしっかり食べて地底湖の調査を開始。

発生しているという魔物は目視できないので、湖の中かな。

「で、どんな被害があるんだっけ?」

「えーっと、小人族が消えるらしいですね」

 セスが依頼書を見ながら説明してくれた。

「トロッコを止めてしまうんだ。自分が来たときには、小人族の職員がいなくなってて、トロッコはもぬけの殻だ。取り出そうとしていた保管品もなくなっている」

 獣人のおっさんがトロッコの線路を指さして言った。

「それ、職員が途中でトロッコを止めて、どこかに抜け道作って盗んでんじゃないの?」

 俺が予想を言うと、獣人のおっさんは口を開けてなにかを言おうとしたが、そのまま固まってしまった。

「あ、いや、魔物の反応もあるし、もちろん調査はしますけど、抜け道の方の調査も併せてしましょう」

「社長は相変わらず、ちゃんと最悪の事態を考えますよね。抜け道なんてあったら、この依頼どころじゃなくなって、保管庫の運営が崩壊してしまいますよ。んん……」

 セスが唸った。

「いやいや、ありそうもないことほど、あるだろ? 実際、俺たちコムロカンパニーがこの保管庫から物を盗むなら、壁の穴掘ったほうが早い。いくら入り口の警備が厳重でも、違う出入口作ったら、盗み放題だからなぁ」

「この地面は非常に堅い。穴を開けるには、それ相応の道具と技術がいるぞ」

 獣人のおっさんが俺の考えに反論した。

「でも、ここにトロッコの線路を引いた人がいるんだから、壁に穴を開けて通路作る人だっているんじゃないですか? まぁ、空間魔法の魔法陣でどうにでもなっちゃいますけどね」

 そういうと、急激に獣人のおっさんの顔が青くなっていった。

「どんなに警戒しても保管を依頼している人間が騙されることだってあるんです。それまでは、安全を神話にして伝えていけばいい」

「俺たちをバカにしてるのか?」

 獣人のおっさんが怒り始めた。

「いやいや、あくまでも可能性の話です。俺たちは清掃・駆除業者ですから、警備上のことはそちらのほうが詳しいはずです。我々も調査しますが、そちらも業務を怠らないように」

俺たちの依頼はあくまでも清掃と魔物の駆除。それ以外のことは知らないし、もし警備上の異常を見つけた場合は別料金が発生するという線引きをしておく。

獣人のおっさんは地底湖の壁を小舟に乗って見て回ることになった。

「社長、これが目的ですか?」

 魔石灯の明かりを頼りにオールを漕ぐ獣人のおっさんを見ながら、セスが聞いてきた。

「人に見張られながら、仕事するのっていい気しないだろ?」

仕事は環境が大事だ。いい人間関係には距離感も大事。「まさか囮に?」というセスのつぶやきは、あえて無視した。

「それで? 魔物はどこにいるんだ? 探知スキルで見えているんだろう?」

 セスに聞いた。

「湖の底の方に集まっています。どうしますか?」

「ん~、消えた小人族の職員の遺体と保管品は回収したいよな? 湖の水を全部抜くか?」

 いわゆる掻い掘りだ。ただ地下なので底に溜まったヘドロを天日干しにできるわけではない。

「いくらでも入る水袋を使いますか?」

「いや、あれは後で俺が空間の精霊に呼び出されるかもしれないから、転移の魔法陣を使って、海に捨てた方がいいんだよなぁ」

「捨てるのはいいですけど、もう一回入れる時はどこから水を持ってきますか?」

「ああ、そうか。そもそも、この地底湖の水の入り口と出口ってどうなってんだ?」

「前に来た時の資料があります」

 地底湖の地図には、排水口が底の方に描かれているが、どこから水が来ているのかはわからなかった。

「湧き水ってことか? これ入水口を止めないと水を抜けないぞ」

 困ったなぁと思っていたら、遠くで「わっ!」と叫び声がした。

「あ、やべ。獣人のおっさんが襲われました」

 セスは淡々と言いながら、魔力の壁で獣人のおっさんごと魔物を確保。

俺達がいる岸まで運んでくると、魔物は3メートルほどの大きなスライムだった。

「ゴースト系の魔物じゃなくてスライムだったか」

 俺は空間ナイフでスライムの表皮に傷をつけながら言った。スライムから、ゼリー状の体液が噴出。みるみるスライムが小さくなった。

「社長、その技はなんですか?」

「ああ、『空間ナイフ』。ちょっとした空間なら切れるんだ。空間の精霊に教えてもらった」

「空間の精霊から教えてもらった技術ってことですか!? すげ~!」

 そう言われるとすごい感じに聞こえるが、空間の精霊を知っていると別に大した事ではない。

 すっかりしぼんだスライムの膜を剥がしてやると、獣人のおっさんは意識を取り戻した。

「すまん、助かった」

「いえ、お互い様です」

 獣人のおっさんは護衛をしているくらいだから強いと思ったが、そうでもなかったな。もちろん、俺よりも圧倒的に強いんだけど。

獣人のおっさんを介抱しながら、スライムの駆除方法を考える。

「やっぱり、湖の水を抜いて掃除するのが、一番早いんじゃないか?」

「でも、入水口はどうやって止めます?」

 セスが聞いてきた。

「スライムが勝手に止めるんじゃないか?」

「なるほど」

「まず排水口の掃除をして、水の流れを速くしよう」

「了解」

 計画が決まった。

 

 セスが俺ごと魔力の壁で覆い排水口まで向かった。これならセスの魔力の壁の中には空気が入っているため、水中でも活動できる。

排水口にたどり着くと、固めのタワシとオリジナルの洗剤でこすり、へばりついた泥やヘドロを落とした。オリジナルの洗剤は俺がいなかった5年の間にベルサとカミーラが開発したものだという。

「手が荒れやすいので、粘液手袋を使って下さい」

 粘液手袋は軍手に洞窟スライムの粘液を浸し乾かして作ったもので、ゴム手袋のようだ。

 1時間ほど、ひたすら排水口の中に詰まったゴミをかき出し、周辺に溜まった魔物の骨や人の骨なども掃除。死んだスライムの膜がへばりついたりしていて、排水口から排水できていなかった。

 汚れを落としてわかったことは、排水口には蓋が取り付けられており、排水口の開閉ができるってことだ。

「開けたり締めたりできるってことは、本来、掃除することを前提に作られたんじゃないか?」

「そうかも知れませんね」

排水口の先も確認したところ、地下を流れる地下水脈に行き当たった。

「地下水脈なら流します?」

「そうだな。とりあえず水魔法の魔法陣で水流を作っちゃおう」

 俺とセスは、魔法陣帳を元に、排水口の壁に水流を作る魔法陣を描いた。

「あとは俺たちが離れるだけだな」

「魔力の網を排水口に仕掛けておいたほうがいいですよね? またゴミが溜まって排水できなくなるかもしれませんし」

「それいいな。そうしよう」

 セスは元漁師だった頃に漁の網を使っていたためか、魔力で網を再現できる。魔力なので網は破けず、大きめのゴミの回収も楽だ。

 俺たちが排水口を離れると、勢いよく水が流れ始めた。

「どのくらいかかりますかね?」

「湖だからな。1週間くらい見ておいたほうがいいかもしれないぞ」

「了解っす」

「セス、お前運送会社の方は大丈夫か?」

 代表なのだから、いろいろ業務があるだろうに。

「大丈夫です。月に一回、全体の会議に出ればいいだけなので。それに、社長が帰ってきたら、コムロカンパニーに戻ることは社員たちにも伝えていますから」

「そうか。理解のある社員たちだな。羨ましい」

 アイルたちから、よく呆れられていた俺とは違うらしい。


 結局、俺たちは5日間待ちの状態が続いた。

 その間、獣人のおっさんが本当に抜け道を見つけてしまい、穴を埋める作業を手伝った。

「度々、すまんな」

「いえ、お互い様です。水が抜けたら、手伝いよろしくおねがいします」

 そう言うと、獣人のおっさんは大きく頷いていた。

 水が抜け、ヘドロや大型のスライムの姿が現れた。

「はい、じゃあ掃除しながら駆除しましょう。小人族の遺体や保管していた品物などもあるかと思いますので、掃除がメインですね。スライムはセスが相手してくれ。できるだけ入水口にいるスライムの死骸は放置して水止めておくこと」

「了解です」

「わかった」

 マスクに軍手、ツナギと完全装備で水位が下がった湖に入る。ヘドロや白い水草と泥が多い。魔力の網にかかった骨はいずれも小人族のものだった。持ち物を確認して、後で遺族に渡すため丁寧に布に包んでおく。

「ヘドロは南半球の荒野に移動させれば肥料になるから、ドワーフたちに連絡しておこう」

「了解です」

 スライムを殲滅したセスが通信袋で南半球にいるドワーフの族長に連絡をとって、空からヘドロが降ってくるかもしれない事を伝えておいた。魔法陣帳に描いてあるのは南半球への転移魔法の魔法陣であって、場所を指定することはできない。もう少し、ちゃんと描いておくべきだった。

「行方不明になった小人族ってこんなにいるんですか?」

 ヘドロの中から小人族の頭骨を取り出しながら、獣人のおっさんに聞いた。

「いや、盗賊のものもあると思う。盗賊だとわかる死体は捨ててしまっても構わんぞ」

 そうは言っても、どの遺体の服もボロボロだし、職員と盗賊を見分けるのが難しい。

品物も、指輪やブローチ、宝石など小さいものもあるため、慎重にヘドロを掬っていく。確認だけでかなり時間がかかってしまった。

3日かけて地底湖の底を掃除し、23人もの遺体と盗まれた物が小型自動車くらいの袋いっぱい見つかった。

「こんなに盗品や遺失物があって、この保管庫は大丈夫なの?」

「どうなんでしょう?」

 俺とセスが袋を見ながら獣人のおっさんを見ると、頭を抱えていた。

「保管庫には亡くなられた方々の遺品も多い。家族からも隠したい物や残しておくと骨肉の争いになる物もある。失くしてよかったというケースも年に数回はあるにはあるが、この量は……」

 獣人のおっさんは「どうすりゃいいんだ。こんなの報告できないぞ」などと呟いていた。この保管庫の闇を暴いてしまったのかもしれない。

 排水口の蓋を半分ほど閉めて、入水口を覆っていたスライムの死骸を剥がした。

「これ数年に一度掃除したほうがいいかもしれないな。それから盗賊対策の魔物は違う魔物を使役したほうがいい」

「そうですね。もろもろ報告しておきましょう」

 俺たちは喋らなくなってしまった獣人のおっさんを連れて、再び3日かけて保管庫から脱出。

すぐに保管庫の事務局に獣人のおっさんと向かい、事情を説明した。保管庫の警備員である獣人のおっさんの証言により、職員の小人族は大慌てだった。

「この件はくれぐれも内密にお願い申し上げる」

 立派な髭を蓄えた小人族の老人から多めの報酬を受け取り、依頼完了。

「これにて任務完了。寿司でも食い行っか~」

「寿司ってなんですか?」

 セスは寿司を知らないらしい。米の炊き方も知らなかったのだから当たり前か。

「俺の好物だよ」

 冒険者ギルドに依頼達成を報告したところ、コムロカンパニーへの指名でまた依頼が来ていた。

「休みはないのか?」

「後半は移動だけでしたから、そんなに疲れてませんよね?」

「はい」

 俺とセスは再び、空飛ぶ箒でシャングリラの北部へと向かった。



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