30話
森から、地面を埋め尽くすようなマスマスカルの大群が押し寄せてくる。
とっさに俺たちは船に逃げた。
沖に出ようとした瞬間、ボタボタボタボタと、海から巻き上げたエチッゼンが降ってきた。
島にもエチッゼンが降り、巨大な魔物たちは口を開けて食べている。
巨大な魔物たちの中には地面を踏みつけ、マスマスカルが動きを止めたところで、掬い取るように餌にしている物もいる。
圧倒的な弱肉強食。
マスマスカルには為す術がない。
逃げ惑いながらも、何故か海に向かってくる。
巨大な魔物たちが巨体を維持している方法はわかった。ただ、このままでは俺たちはマスマスカルの大群に食われてしまう。
アイルは対人や巨大な魔物に対しては対応できるが、大群となると対処はできないだろう。
ベルサは研究のために、大群に近づきすぎてしまいそうだ。
対応できるのは俺しかいない。
アイルとベルサを船の中に押し込み、俺は防御結界を張り、混乱の鈴を鳴らす。
押し寄せてきたマスマスカルが混乱し共食いを始め、急激にレベル上昇する個体も現れ始めた。
巨大魔物の脚に噛みつき血が噴き出ると、狂ったようにマスマスカルの大群が血をめがけて噛み付いていく。
巨大な魔物が、逆に捕食される。
弱肉強食というルールが反転していく。
弱者が強者を食い破る。
ちょっとした傷が命取りになる。
断末魔の咆哮が島中に響き渡り、巨大なヘイズタートルは数秒で骨と甲羅に変わっていった。
防御結界がなければ、俺も「ああなってしまうのか」と思うと、背筋が凍る。
とにかく、マスマスカルを駆除するためには個体数を減らす必要がある。
アイテム袋から殺鼠団子を取り出し、森へと投げつける。
殺鼠団子を食べたマスマスカルが死に、その死体を食べたマスマスカルが死んでいく。
ただ、そのコンボも数回で終わってしまうだろう。
死体を食べ、毒を食べた個体は耐性を作り、体内に毒を宿すポイズンマスカルへと進化を遂げる。
相手は魔物。
数分のうちに進化を遂げてしまう。
早くも島の生態系を狂わせてしまった。
それでも、罠を仕掛けていく。
あるものはなんでも使う。
罠のベトベトの板がなくなると、直接地面に魔法陣を描き、大群の足止めをする。
睡眠薬と麻痺薬の入ったバ○サン(燻煙殺鼠剤)を、手当たり次第に投げていく。
あたり一面に煙が立ち込める。
防御結界の中に煙は入ってこなかったが、視界を奪われてしまった。
探知スキルで見ていると、マスマスカルの大群がゆっくりと状態異常になっていくのがわかる。
風魔法の魔法陣を展開し、島の奥へと煙を送り続ける。
30分ほど経っただろうか。
探知スキルで見える範囲の魔物は全て、状態異常になった。
煙が出なくなった頃、俺は防御結界を解いた。
すでにエチッゼンの雨も降り終わっていた。
船の中の2人を呼んで、後片付け。
ベルサが何匹かマスマスカルを研究のためと言って、生かしておく以外は全て焼き払う。
何箇所かに集め、一気に焼いた。
消し炭しか残らないだろうと思ったが、小さな魔石が個体数分だけ残った。
進化した物の魔石は色違いだった。
何かに使えるかもしれないので、全て回収。
島中を歩きまわり、見える範囲のマスマスカルとエチッゼンの死体は焼いて回る。
巨大な魔物も動けなくなっていたものはアイルが首を落とし、解体していった。
マスマスカルやポイズンマスカルにちょっとでも食べられていたものは、毒が肉に周ってるかもしれないので、すぐに焼いた。
船の周囲、100メートルほどの範囲の魔物が消えたところで、日が落ちた。
「疲れた」
巨大な魔物から肉を切り出してきたアイルが言う。
3人とも同じ気持ちだった。
船の側の砂浜で、肉を焼き、夕食にする。
夕食後、俺は一人ジャングルに入り、毒草や眠り薬の材料などがないか、探すことにした。
こんなことが、またあったら、すぐに対処できない。
アイルは「こんな島、早いところ出よう」と言ったが、ベルサは「いや、こんな島は聞いたことがないから、できるだけ調査しよう」と言う。
どちらにせよ、船は落ちてきたエチッゼンのせいで、ちょっと壊れているので、直すにも時間がいる。
幸い、木は豊富にあるので、適した木材を探そうということになった。
とは言え、この島で生き残らなくてはいけないので、毒草と眠り薬、麻痺薬は必須だろう、と俺はジャングルに入った。