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駆除人  作者: 花黒子
~極地にて見つめ直す駆除業者~

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294/506

294話


 翌朝、俺は洞窟前の地面を耕していた。

「いや、なにしているのでござるか?」

 トキオリが聞いてきた。

「野菜育てようと思って」

「一週間しかないのでござるよ。野菜が育つわけ……」

「魔物だって巨大化するわけですよね? だったら野菜だって巨大化するかもしれない。芽が出ているバレイモください」

 転移魔法で移動して集落跡から食料を持ってきたシャルロッテに言った。

「自由ってのは意味のないことをやるってことかい?」

「いいえ、まるで可能性がないことでも挑戦してみるということです」

「だけど、さ……」

「じゃあ、バレイモじゃなくてもなんでもいいです。花の種でもいいのでください」

 シャルロッテはバレイモの代わりにヒマワリの種のような花の種をくれた。

「意味がなさそう、ですか?」

 俺は耕した畑に花の種を植えながら勇者2人に聞くと、頷いていた。

 もちろん、勝算もなくこんなことをやっているわけではない。

「魔物が巨大化する原因はわかります?」

「魔素溜まりでもあったか」

「それともレベルが大きく跳ね上がったか」

 俺の問いに2人が予想を言った。

「魔素溜まりは魔力過多になりますし、レベルが上がりすぎると爆散するか違う形態に変わる可能性があります。単純な巨大化なら、たぶん成長剤に使うようなキノコを食べたんじゃないかと思うので、今週はキノコ探しをしましょう。実験はこの畑で」

「実験用だったのか!」

「2人とも俺をただのアホだと思ってるでしょう?」

 俺がそう聞くと、「うん」と2人は大きく頷いていた。

「いいですか。魔物が巨大化すると、食べる量も増えます。そうするとその周辺にいた魔物たちは逃げ出しますし、島の環境が荒れる。魔物の群れが大移動する原因かもしれません」

「なんだよ。そうならそうと言ってくれればいいのに!」

「そうでござる! 先に目的を教えていただきたい」

 俺は改めて、2人の方に向き直った。

「まず第一に俺は2人の生活を守ると決めました」

 そう言うと、勇者2人は「フフ」と鼻で笑った。

「レベルもないのに、どうやって? と思うかもしれませんが、俺がやっている駆除業という仕事にレベルはそんなに必要ありません。罠を張って毒を使って魔物を駆除するだけですから」

「毒使いだったのでござるか?」

 トキオリが聞いてきた。

「ええ、そうです。世界中でいろんな毒を使ってきました。ずるいと思いますか?」

「いや、暗殺家業をしていれば、通る道でござる」

 そう言えばトキオリはシャルロッテを暗殺しようとしていたんだっけ。

「サバイバルは、より狡猾な方が勝ちます。魔物の群れの脅威からお2人を守りたい。そのために、まず魔物除けの薬から作っていきましょう。面倒な戦いを避けるためです。それから、このヤブカの魔物から身を守らないと、もう、痒い~~~!」

 俺は身体のそこら中を刺されているし、2人もボリボリ腕や脚を掻いている。

「ウィルスという病気の原因となるものを保有している可能性もありますから、なるべく早めに魔物除けの薬は作っちゃいましょう」

「もしかして、その魔物除けの薬ってあの白い花のやつかい?」

「そうです! よくわかりますね」

「これでも鑑定スキルを持っているからね。でも、あの花は魔物が嫌う匂いがするだけで、あまり役に立たないと思ってたけど、使いみちがあるんだね」

「どんな毒や薬にも正しく使えば使いみちはあります。煮詰めて匂いの濃度を上げれば立派な魔物除けの薬になるんですよ。確か、島の北西の方に花畑があったような……」

「うん、大丈夫。私がわかるから、すぐに採ってくるよ」

 そう言ってシャルロッテは転移魔法で、その場から消えた。

 残ったのは男2人。

「トキオリさん、今のうちに話しておきたいことが……」

「なんでござるか? シャルロッテに惚れたか?」

 トキオリは、そんなことを気にしていたのか。

「それはないです。シャルロッテさんの病気のことです。できれば治したい」

「拙者ももちろんその方がいいと思うが、しかし……」

「原因がわからない?」

「うむ。いろいろと薬草も毒草も試してはみたのだがな」

「診断スキルというスキルを持ったことは?」

「いや、ない」

「俺がスキルを取得できればいいのですが、レベルすらないので、できればトキオリさんが取得してください。病気の経過を診たいし、どんな病気かをはっきりさせないと対処のしようがないからです」

「わかった。しかし、診断スキルなど聞いたこともなく、どういうスキルなのか教えてくださるか?」

「もちろんです」

 俺は、手のひらを太陽に向けながら、血管の説明や骨や筋肉の構造などを教えた。

「なるほど、殺すために対象を見るのではなく、医者のように診ればいいのだな?」

「その通りです。魔力を放ち返ってきたものを見て判断する感じですかね」

 俺は以前、どういう感覚でスキルを使っていたか思い出していた。

「実は拙者もシャルロッテの病気の原因が知りたくて、死亡後に解剖したことがある。結局、そもそも普通の人間の身体を腑分けしたことないので、よくはわからなかったのでござる。あとで信じられないくらい怒られ20週くらいは口も聞いてくれず、大変寂しい思いをした」

「病気を治したいという思いがあることを伝えて、もう一度解剖をしてみましょう。1人では気づかないことも2人なら気づくかもしれません。この島なら何度も失敗できますしね」

「承知した。解剖の件は危険なので拙者から言うがよろしいか?」

「お願いします」

 そんな会話をしている間に、早くもシャルロッテが魔物除けの花を大量に採って帰ってきた。

「男2人でなに突っ立てるんだい? ほら、薬を作るんだろ?」

 目的があるシャルロッテは明るい。やることがなくなると気が沈んでしまうのかもしれない。

「はい! 今焚き火の用意をします!」

 森で枯れ木を拾い、焚き火の準備。

 

 この島で得た記憶として、火魔法は脳みそねじ切れるかと思うほどイメージすると成功することがわかっている。一度イメージできるようになると、簡単に指先からマッチで点けたくらいの火を出すことができる。

「レベルがないって大変だね」

 焚き火を前に「芸術は爆発だ!」とでも言うような顔とポーズをとる俺にシャルロッテが言った。

 集落から持ってきた鍋で花を煮て焦げないようにかき回す。深緑色の煮汁が出てくれば魔物除けの薬の完成だ。この世界で何度となくやっている作業なので間違えようがない。

「簡単だね。ただ、すごい臭い」

「その分、効果が強いんです」

 俺は鍋の上で、自分のツナギを揺らし、湯気を全体的に染み込ませた。

 効果はテキメン。周囲からヤブカの魔物が消えた。

「弱い魔物はもちろん、大型の魔物もあまり寄ってきません。これを自分の身体にふりかけてから、成長剤のキノコ探しに行きましょう。不要な戦いで時間を無駄にしたくない」

「なるほど、納得でござる」

 2人とも自分の服に深緑色の薬を振りかけていた。


「じゃあ、最後に巨大化した魔物は火吹きトカゲだから、東の火山付近だね」

 シャルロッテは俺とトキオリの手を握り、島の東に空間魔法で転移した。

 火山付近には、背の低い木々や草が生い茂っている。洞窟も多い。

「この辺の草木もキノコも鑑定済みだけど、成長を促進させるなんて効能があるものはなかったよ」

「洞窟探検も散々やったのでござる」

 確かに、島の中で2人に見つけていないキノコなんてないのか。マルケスさんのところで見たキノコのイメージが強くて勝手にキノコだと思っていたが、葉や草、魔物の臓器なんかも成長剤になるかもしれない。

「焼いたり、熱したりすることで性質が変化するものもありますから、いろいろ採取して実験していきましょう。魔物の臓器なんかも視野に入れて下さい」

 3人で手分けして探す。

 とりあえず、手当たり次第に採取しまくる。草木やキノコ類に限らず、本当になんでもかんでも袋に詰めていった。

昼頃、集合し一旦、住処の方の洞窟に戻って、シャルロッテが鑑定。その間に俺とトキオリはお湯を沸かしたり、薬研の用意をしておく。

2人には薬学スキルを取ってもらうことに。肉体に宿るレベルやスキルは一週間経てば元に戻ってしまうが、俺の火魔法のスキルのようにどうやれば早くスキルが上がるのか知っておいてもいいだろう。

「この石はなんだい?」

鑑定していたシャルロッテが素っ頓狂な声を挙げた。

どうやら俺が岩場で見つけた多肉植物を石だと思ったようだ。

「多肉植物ですよ。石と違って柔らかいでしょ?」

「へぇ~、これは鑑定したことがなかったね。いや、そもそも石だと思うじゃないか? でも、これは魔力を少しだけ吸収するだけらしいね」

「ああ、やはり吸魔草でしたか。分けておいて下さい。それも虫系の魔物には効果のある毒になりますから」

「鑑定スキルを持っていても見逃すことがあるんだね。あ、これ! 成長を促進させる効果があるよ!」

「なんと! 早くも見つけたと申すか!?」

 シャルロッテとトキオリが興奮していたが、鑑定したのは乾燥した火吹きトカゲの糞だった。

「なんだ、魔物の糞か。肥料にはなるからね。実験しておくかい?」

「ええ、効能がどのくらいのものなのか実験しておかないと」

 畑に撒いておく。なんでもやってみないことにはわからない。

 火山に生息するカタツムリの魔物の殻や毒沼に落ちていた冒険者の骨。カビの生えたボロ布など、今まで鑑定しようともしなかったものを鑑定してもらい、少しでも不明と出たものは焼いたり煮たりして、畑に撒いてみた。

「バカげているように見えますか?」

「見えるんじゃなくて、バカげているね」

 シャルロッテはそう言って、にっこり微笑んだ。

「これも拙者たちの生活を守るためなのでござるか?」

「その通り! 発明したり、発見するには常識を逸脱しないと」

 そう言うと、2人とも笑っていた。

「やっぱり俺のことをアホだと思ってませんか?」

 そう聞くと、2人とも「うん」と大きく頷いていた。


 そんな風に鑑定と実験を繰り返したが、6日目になるとシャルロッテの体調も悪くなり、成長剤探しは中止。畑の種の芽が出ることはなかった。

 翌週は、集落に畑を作り、種を植えたが実験は失敗。どこを探しても成長剤らしきものは見つからない。1000年もいる人たちが見つけてないのだから当たり前といえば当たり前。ただ、魔物が急激に成長する証拠は見つけた。2メートル以上あるコウモリの魔物であるショブスリの骨が見つかったのだ。本来なら30センチほど。すでに化石のようになっているので、島がループする前に死んでいるのだが、なんらかの原因で魔物は巨大化する。

成長剤を探し始めて3週経ち、なんの成果もないまま6日目を迎えた。何度でも失敗できるというが、徐々にやる気は削られていく。

トキオリが、夕食後にシャルロッテに意を決して解剖を提案すると、

「意味のないことで私の身体を傷つけるんじゃない!」

 と、シャルロッテが激高した。

「いや、そうではござらん。拙者たちはシャルロッテの病を治したいだけなのでござる!」

「拙者たちってことは、ナオキ、あんたも私の身体を解体したいってことかい?」

 俺にも矛先が向けられた。

「別に解剖をしたくてするわけじゃないんです」

「じゃあ、なんだい? もう私の病は治らないんだよ。それは決まっていることじゃないか」

「本当にそうですか? 運命は変えられないと?」

「そうだよ!」

「だったら、もしあの畑の花の芽が出たら、考え直してもらえませんか? 3週もあの花は発芽しないままです。あの花は咲かない運命にある。でも、もしその運命を変えられたら、シャルロッテさんの運命も変えられるかもしれない」

 シャルロッテは俺を正面から睨みつけた。

「私は何度も治そうとしたよ。自分の病気だからね。薬学スキルだって取ったこともあるが、薬は見つからないんだ。どうしようもないんだよ」

「俺たちはただ、7日目の夕日を3人で見たいだけです。最後の晩餐はいつも男2人、なんの味気もない。どうにか生き残って欲しいんです!」

 俺がそう言うと、シャルロッテは目を瞑り、大きく息を吐いた。

「夕日のためだね?」

「夕日のためです」

 俺の横でトキオリも頷いている。

「2対1か。わかった。もしあの花の芽が出たら、解剖に応じるよ」

 少しだけ、運命が傾き始めていた。



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