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駆除人  作者: 花黒子
~極地にて見つめ直す駆除業者~

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287/506

287話


 俺は自分の魔法陣帳を作り始めた。

 紙や羊皮紙は族長のショーンさんが用意してくれるし、インクは雑貨を研究している若手の研究者がいてオタリーが紹介してくれた。あとは思い浮かぶ魔法陣を描いていくだけ。

 火、水、土、風、氷などの魔法陣は当たり前として、ベタベタ罠のような性質変化系の魔法陣や、時魔法や空間魔法の魔法陣なども描いていく。

「これって、俺のイメージ次第でいくらでも描いていけるんじゃないか?」

 ペンを片手にひとり、自分たちの部屋で、ふと疑問が湧いてきた。

「独り言ですか?」

「おわっ、セス、戻ってきてたのか?」

「ええ、基地の中は狭いので、午前中には清掃も終わってしまいますからね」

 社員たちは、現在、本当に独り立ちできるかどうか試しているところ。お客との報酬の交渉も含めて、やってもらっている。回復薬やベタベタ罠などの作成も、難しくないはずだ。

「ダンジョンにいるベルサさんが呼んでましたよ。ホムンクルスを作るのに、社長の血液と細胞が必要だそうです」

「そうか。あとで行かなきゃな。セス、人の精神を惑わせたり、高揚させたりする魔法陣も描いておいたほうがいいかな?」

「危険ではありますが、あったほうがいいんじゃないですか? そういうのは社長しか見られないようにすればいいと思います」

「そ、そうだよな。肉体強化系は見られても困らないよな?」

「ええ、好きにしていいんじゃないですか?」

 セスは仕事の依頼書を見たりして、あまり構ってはくれない。寂しくないと言ったら、嘘になります! これも独り立ちのためなので、上司としてはなにも言えない。

「社長、部下を持ったりするときってどうしてました?」

 気が早いセスが聞いてきた。

「どうって、冒険者ギルドとか商人ギルドに募集かけたよ。セスの場合はスカウトだったけどね。欲しい能力を持ったやつで、できればハングリーでバカなやつがいいな、とは思ってたかも」

「ああ、社長らしいですね。え? 僕とメルモはハングリーでバカですか!?」

「清掃・駆除は、汚れ仕事だろ? 皆から嫌われている虫の魔物だって駆除しないといけないし。それを考えると、あんまり気取ったやつとかプライドの高いやつは面倒なんだよ」

「なるほど。それはそうかもしれませんね。アイルさんとベルサさんはどうやって見つけたんですか?」

「どうやってって、アイルは勝手についてきちゃっただけだよ。ベルサは町にいられなくなってたから誘った感じかな。まぁ、成り行きだね」

「類は友を呼ぶってことですか?」

「いや、俺はあの2人みたいに貴族のお嬢様じゃないよ」

「でも、わが道を行ってますよね」

「そりゃ、人それぞれ違う考えを持ってるんだから、奴隷だろうとなんだろうと、犯罪さえ侵さなければ、わが道を行ってもいいんじゃないか」


 バンッ!


 荒々しくドアが開いてメルモが部屋に入ってきた。

「社長! やっぱり私ひとりだとお客さんに舐められてしまいます! 知り合いだから、おまけしてくれとか、自分の壊した物を弁償しろとか、研究者じゃないからわからないんだとか、もーう!」

 相当、ストレスが溜まっているようだ。

「メルモは自分の衣装を作ったほうがいいかもな。ふわふわした町娘みたいな格好じゃ、そりゃ舐められるよ。パシッと体の線を見せて、腰に血のついたメイスをぶら下げておけば、誰も舐めてこないと思うぞ」

「衣装ですか? ん~そう言えば確かに青のツナギを着ていったときは、普通に報酬を払ってくれたような……」

「せっかくここにいるんだから服装について研究してみてもいいかもしれないぞ。そういう研究者もいるかも知れない」

 俺の言葉にメルモは何度も頷いていた。


 バンッ!


「おい、駆除屋! なんなんだ、あの娘は!」

 ケルビンさんが俺たちの部屋に入ってくるなりクレームを言ってきた。

「誰のことです?」

「アイルとかいう卑猥な格好をした娘だ。お主の会社の者なのだろう?」

「そうですけど、なにかやらかしました?」

「ああ、北極大陸の地図が見たいと言うから、ショーンのやつが見せたら、古文書呼ばわりだ。そのまま、基地の外に出かけていって戻ってきたら、我ら死者の国は30人いれば奪えると抜かしおった。どういうつもりだ?」

「どういうって、奪われちゃうんじゃないですか?」

「貴様ら戦争を仕掛ける気か!?」

「そういうことじゃなくて、防衛上の弱点を教えただけだと思いますよ。今は氷の国に火の勇者が滞在しているんでしょう? 彼は新型の武器を持っていますからね。注意を促したんじゃないですかね」

 そういうと、ケルビンさんは「なんだ。そういうことか」と目を白黒させていた。

「早急に手配をしたほうがいいということだな?」

「まぁ、そうなんじゃないですかね? 地図や地形はアイルが担当なので、聞いてみてください」

「わかった。んん、まったくわかりづらい奴らだ。素直が一番という言葉を贈ろう」

ケルビンさんは鼻息荒く、部屋を出ていった。

「まったく次から次へと問題が起こる会社だ。あ、そういや、誰かベルサに飯食わせたか?」

「メルモが……」

「え? セスでしょ?」

 セスとメルモはお互いの顔を見合わせ、青くなっていた。

「俺が持っていくから適当なものを用意してくれ。ベルサには食うことを覚えさせないといけないな。研究に集中すると飯も取らないなんて、生物として致命的だ」

 

 俺はセスとメルモが作ってくれた肉たっぷりの煮込み料理と固めのパンを持って、ダンジョンへ。わざわざ調理に時間かけたのは、食べやすく腹持ちのいいものというセスとメルモの気遣いらしい。

 ベルサとヨハンが作業しているのは俺が清掃し、コムロカンパニーの寝床になっていた部屋だ。元々、ホムンクルスの実験をしていた部屋を今回も使っている。

「飯持ってきたよ~」

 俺はベルサたちに声をかけた。

 魔石灯の明かりに照らされた2人は頬が痩せているように見える。

「ああっ! 忘れてた!」

「今、何時ですか? ここは光鉱石もないから時間がわからなくなるんですよね」

 ヨハンが周囲を部屋の外を見ていた。

「昼飯時だよ。ヨハン、あの光る鉱石は時間を教えてくれるのか?」

「ええ、外の時間と同じくらいの明るさを出すはずなんですけどね」

 そういう鉱石だったのか。

「あれ? 昼飯時って、昼から作業してたから丸一日経ってるってことじゃないですか! 寝なくちゃ」

 ヨハンは俺が持ってきた固いパンを口に入れて、その場に横になった。と思ったら、いびきをかいて寝始めた。

「すごいな。寝ようと思えばすぐに寝られるって才能だな」

「疲れてるし、しょうがないよ」

 ベルサは大きな石に座って、持ってきた料理を食べ始めた。

「できてる?」

 目の前には、子どもが一人は入れそうなくらい大きな、ラグビーボールの形をしたものが台座に置かれていた。

「まだ、ナオキの血と細胞を貰わないとね。たぶん失敗もすると思うから、何回か貰うことになるから」

「うん、この楕円の玉はなに?」

「人工の子宮みたいなものだね。あとで上につなげるんだ。プヨプヨしてるんだけど元は竹の一種らしい」

「竹で子宮を作るってすごいな」

 まるで竹取物語じゃないか。

「基地の人たちにも協力してもらうことになるかもしれないから、ナオキはちゃんと挨拶回りとかして機嫌とっておいてね。道具とかフェリルさんからも借りたりしてるんだから」

「はい。で、どのくらいでできそうなんだ?」

「形になるまでに3週間くらいじゃないか。その後、成長させるのに、1週間くらいはどうしたってかかるから、1ヶ月は見ておいて」

「1週間で育っちゃうのか!?」

「成長剤の力だよ。あとはネクロマンサーたちに賭けるしかなさそうだ」

 ネクロマンサーたちにはアイルが対応してるから、どうにかなるかな。

「順調のようだねぇ……」

「なんだ? もう後悔してるのか? 止めてもいいんだよ」

 含みのある言い方をしてしまったせいで、ベルサにツッコまれてしまった。

「いや、後悔はしていない。邪神にはこのままだとあと2年で死ぬって言われたしね」

 神様と邪神のパワーバランスが気がかりではあるが、俺がどうこうするものでもないだろう。正直、表には出さないようにしているが緊張もしている。失敗したら死ぬからな。

「やるだけのことをやるだけだ」

「なにをいまさら。今までだってやることやってきたじゃないか」

「そう言われるとそうだな」

「ご飯食べたら寝るから、ナオキは血液と上顎の裏と髪の毛を置いていって」

「無理やり精子とか絞り出さなくてもいいの?」

「いいよ。出ないから悩んでるんでしょ? それにそもそもナオキの身体はここで作られたんだから、よほど情報が変わってなければ使い回すつもりでいるしね。そのための検査だから」

 なるほどね。

 俺は机においてある瓶に自分の血を入れて、ベルサの弁当箱のような箱に、髪の毛数本と爪楊枝で歯の裏をグリグリやって入れておいた。血は手のひらをナイフで切ってギュッと絞る。ダニの魔物が居ればそちらでも良かったのだが、回復薬で治るのでこのくらいは別にどうってことない。

「じゃあ、一旦寝るから、魔物の毛皮貸してくれる? 持ってきてないや」

 飯を食べ終わったベルサに言われ、毛皮を渡しておいた。寝ているヨハンにもかけてやった。

「ヨハンに襲われないようにな」

「魔力の壁を張るから問題ない。虫の魔物に刺されたくないしね」

「じゃ、おやすみ~」

「おやすみ~」

 俺は夜行性の魔物学者たちを置いて、基地に戻り魔法陣を描く作業に戻った。


 基地では俺がレベルをなくそうとしている噂が広まっており、「それなら今のうちに」といろんな依頼が舞い込んできた。

 基地の壁や屋根の補修作業のような力仕事はもちろん、木の植え替え、基地の外にいる珍しい魔物の捕獲。北極大陸の山に夏の間だけ咲く花の採取。凍っているはずだが歴史上に存在していた魔王の探索などなど、結構な無茶振りも多かった。

「できることはやりますけどね。これ俺じゃなくてもできるよな」

「皆やりたがらないだけです」

 と、セスがフォローしてくれたが、こいつもポーラー族の雑貨店を開いている研究者と仲良くなってしまい、手伝ってはくれなかった。


 そんなことをしていたら、またたく間に1ヶ月など過ぎてしまう。

 転生日を決め、若いネクロマンサーたちと打ち合わせ。このネクロマンサーたちはケルビンさんの警告も無視して俺のために基地に残ってくれた。

「どうせ墓掃除するなら、やってから罰を受けようかと」

「一生の間に、外に出られる機会は限られていますから今のうちにいろいろ経験しておきたいんです」

 ネクロマンサーだから、根暗なやつばかりだと思っていたが、若い奴らの目は輝いていた。

 転生日の7日前に、セイウチさんから幻覚剤をもらい、社員たちの前で使った。

「どう? なんか見える?」

 俺を幻覚剤のついたナイフで刺したアイルが聞いてきた。

「ああ、ヒットポイントのメーターみたいなのが見えるね」

 なんかわかりやすい緑色の体力ゲージが見えた。疲れたら減るらしいのだが、どんなに動き回っても全然減っている気がしない。

 とりあえず、社員たちにボコボコにしてもらったのだが、反射的に魔力の壁を使っちゃったりして、ゲージの半分も減らせなかった。

「どうしよう! 死ぬのってこんな難しいのか!」

「ナオキが固すぎるんだよ」

「体力バカ!」

「社長、レベルを上げすぎです!」

「血も全然出ないじゃないですか!? こっちは頭かち割るつもりで攻撃してるっていうのに!」

 社員たちからは苦情が寄せられた。

「しょうがない。一番近くにいる精霊に殺してもらうか」

 俺はダンジョンに向かった。


「……ということで、お邪魔します!」

「ま、ま、ま、また来たの! 迷路を難しくしておいたのに、どうして!?」

 丸顔の光の精霊は動揺していた。

「いや、ちょっと殺してもらおうかと思って」

「こ、こ、殺すって? 誰を?」

「いや、俺をです。魂には傷つけず、体力だけを減らす感じで殺してくれませんか?」

「なによ。難しいこと言わないで! こっちはあなたが迷路を攻略してしまったから、より難しい迷路を作ってて世情には疎いんだから、少しは説明なさい!」

 なんだかぷりぷりしているので、経緯を説明した。

「本当に違う身体に転生するつもりなの!? あなた! この前言ったのは冗談のつもりだったのよ! 私!」

 そういえば、光の精霊にも転生しなおせばいいって言われた。あの時は、実際に自らやることになるとは思っても見なかったが。

「でも殺してもらわないと、レベルがなくならないんでちょっと殴るなり蹴るなりして殺してもらえますか?」

「暴力は嫌いだから迷路を作ってるっていうのよ、もう~!」

 そう言いながらも、ちゃんと殴ってくれた。

 さすが精霊だけあって、一発一発が重くちゃんと体力ゲージが減っている。

「はぁはぁ、疲れたわ」

「ちょっと、もう一息ですから! ああ! うわぁ、休んだら体力が戻るんだ。わぁ、ヤバい! ちょっと光の精霊様、もう少し殴って!」

 体力ゲージが減り続けて緑色から赤く変化した。ただ、少し休憩を挟むと、一気に体力が回復してしまい、再び赤から緑色に変わり体力ゲージが戻ってしまう。

 復活のミサンガはつけていないので、レベルによって自然治癒力が上がってしまっているらしい。

「ほら、蹴って! 叩いて!」

 俺は尻を光の精霊に突き出して懇願。

「止めてよ! 笑っちゃうから! もう! ふん!」

 蹴られてふっとばされて痛がってるのになぜか嬉しいという状況は、特殊な性癖しか楽しめない。前の世界でいろいろ経験しておいてよかった。

「ほら、もっと来いよぉ!」

「いい加減倒れなさいよ! あなたそれでも人間!?」

「はい、連打連打連打!」

 まるでボクシングのコーチのように俺は光の精霊を追い込んでいった。

「はい、ラストアッパー!」

 

 ゴキンッ!


 という音とともに俺の体力ゲージはゼロになり、目の前がブラックアウト。

遠くから「え? これで、どうするの!? ちゃんと言っておきなさいよ!」という光の精霊の声がしたが、俺は全身に力を込めたが、まったく動けなかった。昔経験した金縛りに近いかもしれない。

ただ、そのうちに自分の感覚もなくなっていき、ふと意識が遠のいていった。

まさか、これが死。いや、今死ぬわけにはいかない。ちょっと待て、俺はまだ死ねない。


「おい! 生きろ! 体力がゼロになろうと、お前の生命力はそんなものじゃないはずだ!」

 暗闇の中でセイウチさんの声が聞こえてきた。

 その声の方に俺は意識を傾けた。

「「ナオキ!」」

「「社長!」」

 うちの社員たちの声もする。

声が一筋の光のように見えてきたと思った途端、俺は目を覚ました。

周囲には社員たちと俺と関わりのあるポーラー族の姿。

「戻ってきたな!」

 セイウチさんにそう言われたが、めちゃくちゃのどが渇いていて返事ができなかった。

「ヨハンが光の精霊に呼ばれて、運んでくれたんだよ」

 ベルサに言われ、お礼を言おうとしたのだが、身体が動かない。

「今まで力を制御していたから、うまく動かせないんだろう。誰か水を持ってきてくれ」

 セイウチさんが俺を介抱してくれて、水を飲ませてくれた。

 大きく息を吸うだけでも、結構疲労感がある。

「全身に思いっきり力を入れて動かしてごらん」

 セイウチさんに言われて、ようやく全力で手を挙げると手が動いた。今まで力加減をしていたが、今は全力で手を挙げても、風も起きない。

 立ち上がってみると、膝がフラフラとしていて揺れてしまう。

「どうだい?」

「全然力が入りませんね」

「ハハハ、そうだろう。神々のシステムから外れるとそうなる。おめでとう。君のレベルはなくなった」

 セイウチさんが俺の冒険者カードを裏返して見せてくれた。

 レベルの欄にはなにも書かれておらず、名前だけが記載されていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 人物にそれぞれ物語があり、登場人物たちのその後が知りたくなりました。 面白かったです。 [気になる点] レベルが無くなりスキルも失ったので、言語スキルも失ったと思うのですが、会話は普通にで…
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