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駆除人  作者: 花黒子
~極地にて見つめ直す駆除業者~

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283/506

283話


 フェリルから、死ぬと聞いて動揺を隠せない。

俺は自分の身体に診断スキルを使っても異常はないのに、一体全体どういうことなのか。

「血中の魔素の量が異常値を超えたわ」

 動揺している俺にフェリルが言った。

「正常値を超える、ではなく、異常値を超えた?」

「ええ、我々研究者が想定していた異常値のラインを超えたの。なのに生きてるのは不思議でしょ?」

 そう言われてもなぁ……。

「なにかショックを受けて死をイメージした瞬間に死ぬんじゃないかしら? はっきり言って人間って言うよりも魔物に近いんじゃない?」

 魔力はイメージを具現化するため、俺の死もあり得る話だ。

「え~なにその危ない身体ぁ。魔物に近いのはどうでもいいけど、イメージで死ぬのやだなぁ~」

 思わず、情けない声が出てしまう。

「なにか魔法でも習得して魔力を使ったほうがいいんじゃない? そうすれば、血中の魔素も減ると思うのよ」

 フェリルが提案してきた。

「魔法を習得すれば、死なないですか?」

「それはどうかわからないけど、血中の魔素濃度は下がると思うわ」

 魔法って言われても、今さらなにを習得すればいいんだ?

「魔力操作って魔法を使ったことになりませんかね?」

「魔力操作って例えばどんなものなの?」

 俺は魔力の壁でボールを作って見せた。

「こんな感じで自分の周りに魔力を展開して防御したりする技術なんですけど……」

 フェリルもコマさんも透明な魔力のボールを見て、ポカンとしている。あ、魔力操作って魔族の秘技なんだっけ?

「それは魔力を使うの?」

 フェリルが魔力のボールを見たまま、聞いてきた。

「ええ、魔力操作なので慣れればそんなに使わないんですが、大きいのとなると結構魔力を使いますよ。この前は世界樹を包みましたし」

 フェリルとコマさんが俺を「あんたなんなの?」というような目で見てきた。

「それは、魔力を好きな形にできるのか?」

 寝ているショーンさんが聞いてきた。

「得意不得意はありますがある程度は。練習すれば誰でもできるんじゃないですかね? 俺たちは南半球で必要にかられて習得しましたけど」

 俺がそう言うと、ショーンさんは唸り腕を組んだ。

「ワシは魔王に関する歴史書でしか読んだことがない。まさか今生で見れるとも思っていなかった。ナオキ殿、お主、やらなければならぬことが山ほどあるようじゃな。魔法陣も魔力操作も後世に伝えたほうがいい。無論、危険はあるが、それは適格な人物に受け継げるような仕組みを作ればよいのじゃ」

「適格な人物と言われても想像できないし、仕組みと言われても……」

 ショーンさんはベッドの上で上半身を起こし、あぐらをかいて前のめりになった。

「仕組みについては長年研究をしている我々がサポートできるだろう。それよりも明かされていない技術や、世のため人のためになる知識が残らないことのほうが問題じゃ」

 歴史学者としては俺が持っている技術や知識は残すべきものなのだろう。

「誰に受け継ぐか、ですか。ん~やっぱり同じ仕事をしている者ですかね」

 その場その時で清掃技術や駆除方法も違ってくる。事例が多いほうが後世の駆除業者も仕事しやすいはずだ。

「いやいやいや、ナオキくん?」

 コマさんが俺の顔を見た。

「え? なんですか?」

「魔力操作も魔法陣も清掃・駆除業者だけじゃなく万人に受け入れられる技術や知識よ」

 え、ああ、そうか。魔力操作や魔法陣は皆恩恵を受けることができるのか。

「え~そうすると、軍人に渡ったら戦争が変わりそうじゃないですか? だったら同じ清掃・駆除業者に受け継いでいってほしいと思いますけどね」

「その受け継いだ清掃・駆除業者が転職して軍人になる可能性だってあるんじゃない?」

 フェリルが聞いてきた。

「あ~、そうか。俺が転生しても転職をしなかったから、転職って考えがなかったけど、そういう人もいますよねぇ。え~……じゃあ、人間らしい普通の生活を大事にしている人がいいです。今の俺の目標でもありますし」

 医務室の時間が止まったように感じられるくらい誰もなにも発しなかった。

「あれ? 俺、変なこと言ってます?」

「そうね。変ね」

「だって、普通の生活している人が何人いると思ってるの? 世界中のほとんどの人が普通の生活をしているのよ」

 フェリルもコマさんも共感してくれなかった。

「ナオキ殿、魔法陣学も魔力操作も普通の生活を送っている者には届かない分野なのじゃ」

 ショーンさんがため息混じりに説明してくれた。

「それはわかりますよ。でも、なにかを残すなら、全員に知らせないとフェアじゃない気がするんです。俺の持っている技術を使った武器を片方しか持っていなかったら、戦争にすらならない。ただの虐殺になります。人道的にそれはできない」

 どうも倫理観の話になってしまう。でも、俺は前の世界の核兵器も火の国の『砂漠の大輪デザートダリア』も知っているので、ここは譲れないんだよなぁ。

「『スキルは人生を楽しむために使ったほうがいい』。300年生きたダンジョンマスターから教わった言葉です。後世の人たちにも、人生が豊かにならないようなスキルの使い方はしてほしくはないんです」

 そう言うと、ショーンさんは大きく息を吐いた。

「学問を追求する者として、重い言葉じゃな」

「ショーンさんたちが言う残しておいたほうがいい、というのもわかりますけどね。魅了スキルや交渉スキルがあるこの世界では、特に危険度が高い。もしかしたら、俺は他人をあまり信用していないのかもしれないです。本当に信用しているのは、元も含めて、うちの社員たちくらいです。全人類に残せないのなら、あいつらにだけしか残しません」

「そうか。魔法陣学も魔力操作も理解できれば、急速に人類を発展させることができるかもしれないのじゃがなぁ」

 ショーンさんは寂しそうに言った。

「その時代に合わせて発展するべきですよ。慌てず、ゆっくり時間をかけて変わっていってもいいじゃないですか? せっかく開発した技術への理解が得られなくなってしまいますよ。これは火の国やエルフの里で学んだことですけどね」

 そう言うと、フェリルとコマさんが互いを見合わせて、クスッと笑った。

「また、俺が変なこと言いました?」

「いや、技術の力を信じてるんだなって。技術ってのは人の身に宿るものでしょ?」

「他人を信用していないって言う割に、時間をかければわかってくれるって思ってるでしょ? ニヒルは気取れなかったわね」

 研究者2人に指摘されて、笑ってしまった。医務室にいる全員が笑っている。たぶん俺の顔は真っ赤だ。

「じゃ、これ以上、研究者たちにバカにされないうちに俺は自分探しの旅に戻りますよ」

「ごめんごめん、そう怒らないで!」

 コマさんがフォローしてくれた。ただショーンさんも笑顔をみせているのでこれ以上医務室にいる意味はない。

「怒ってはいません。恥ずかしいだけです。それじゃあ、ショーンさん、身体にお気をつけて」

「ああ、ナオキ殿も十分気をつけて、魔力を使うようにな」

「ええ、死ぬこと以外はかすり傷ですから」

 まさか、この言葉を地で行くとは思わなかったけど。

 俺は医務室を出て、魔力を使うために再びダンジョンへ向かった。


「とりあえず、魔力の壁を維持しながら、魔力のボールでも投げていくか」

 ダンジョンの広い部屋で、魔力のボールをポコポコ大量に投げていく。少しずつ体の中の魔力も減っていっているはずなんだが、あまり実感はない。

「南半球では魔力切れも起きたんだけど、北半球は魔素の濃度が違うからなぁ」

 休憩してしまうと魔力が回復するんじゃないかと思って、休みなくポコポコ魔力のボールを投げていたら、天井がシャボン玉のような魔力のボールで埋め尽くされてしまった。

「なにやってんの?」

 通路の方から突然、ベルサが現れた。

「おおっ、ベルサ。なにって、魔力を消費しないと死んじゃうらしくてさ……」

 ベルサに、医務室で3人と話したことを説明した。

「はぁ? 休暇中になにをやっているかと思ったら、バカなことを……」

 完全に呆れられてしまった。

「いい? ナオキはそんな簡単に死なないし、死にたいとか思わないでしょ? 研究者たちのバカげた話に騙されてないで、ちゃんと自分を持って! そのための休暇でしょ?」

 そう言われると、なにも言い返せない。

「研究者だって間違うことはあるし、時とともに研究も進んで違う事実が浮かび上がってくることもある。この前、砂漠のローカストホッパーを駆除した時、時代によって駆除方法を更新していくって言ったのはナオキでしょ!」

 説教されてしまった。

「いや、そうなんだけどさ。研究者とか専門家って聞くと、どうしても信じちゃうんだよね」

「普段、狡猾に魔物を駆除しようって言ってるナオキの発言とは思えないよ。今、普通に生きてる事実を見つめなさいよ」

「そう言うな。十分、恥はかいたから。それより、ベルサはなんでこんなところに?」

 急いで話題を変えないと、このままいくと本当に死にたくなりそうなくらい精神的なダメージを食らいそうだ。

「ああ、ヨハンにホムンクルスについて聞いてたの。ナオキが休暇に入った後すぐに、ポーラー族の族長からヨハンの研究成果について正しい評価をしてくれって頼まれてね」

 ショーンさんはベルサに頼んだのか。

「それで、どうだった?」

「うん、ダンジョンの魔物を発生させるだけだから、マルケスさんの論文どおりだったかな。人工的な生育期を作って初めから実体を持たせようっていう発想は面白い、と思ったけど、それだけって感じ。魔石のない魔物もさ、なんか南半球で生物見てたから真新しさがないっていうか、なんかこう天地がひっくり返るような研究ではなかったね」

「やろうと思えば、ベルサもできる?」

「ん~、私の場合は自分が面白いと感じたことしか研究しないから、気分が乗らなきゃやらないね」

 話が長くなりそうなので、近くに転がっている岩に座って落ち着いて話すことに。地面に加熱の魔法陣を描き、ポットでお湯も沸かす。

「魂については? ヨハンは死者の国からネクロマンサーを連れてきてたって言ってただろ?」

「ああ、それはちょっと面白かったよ。シンメモリーとは違うみたいで、死者の国では死者の魂を名前を書いた木の板に移したりするんだって。その木の板は位牌って呼ぶらしいんだけど」

「前の世界で同じような宗教を見たことがあるな。というか、たぶん、俺の葬式もそんなふうにしたんだと思うけど」

「そうなの!? どの世界でも位牌は共通なのかな?」

「どうだろう。この世界の死生観はよく知らないけど、前の世界では肉体と魂って考え方をする人たちは多かったんじゃないかな」

 お湯が沸いたのでお茶を淹れながら、ベルサの疑問に答えた。

「実際、あるんでしょ? ナオキがこちらの世界に転生してきたわけだから」

「まぁ、そういうことだな」

「死者の国にも夏の間に行っておきたいね。同じ北極大陸なんだからさ」

「機会があればな。ネクロマンサーとは話してみたいけど……」

 死者を操ったり、魂と交信したりするのだろう。面白そうだ。

「シンメモリーとは違うのかな?」

「どうなんだろうな」

 シンメモリーとは人の後悔の念や罪の意識が魔力と混ざって半具現化した白い半透明の玉だ。見た目は心霊写真に写っているオーブと呼ばれるものに近い。

朝から、目まぐるしく動いていたためか、精神的に疲れているのか、空中に漂う魔力のボールを見ながらシンメモリーの事を考えていたら、ぼーっとしてしまった。

「あ、そうだ。今、何時くらいかわかる?」

「夕方くらいじゃないか?」

「基地に戻っても明るいよね?」

「白夜だからな」

「だったらダンジョンの暗い部屋で寝ようかなぁ。清掃の仕事をしてるうちにダンジョンにも詳しくなってさ、あの光る鉱物がない部屋も見つけてるんだよね。皆もいるし、ナオキもどう?」

「結局、夜になったらいつもの日常じゃないか。休暇の意味がない」

「だって、普通の生活がしたいんでしょ? アイルから聞いて爆笑したけど」

 ベルサは小馬鹿にしたように笑いながら言った。

「人間らしい普通の生活を大事にしたいっていう目標にしたんだ」

「で、この有様でしょ?」

 ベルサは大量の魔力のボールを指さして笑った。

「なにがおかしいんだよ!」

「これ、普通じゃないでしょ。世界中探してもこんなことしてる奴いないよ。しかも魔力を無駄に消費するためだなんて。このお茶に吸魔剤を混ぜたほうがよっぽど効果的なんじゃない?」

 俺は頭を掻いて「そのとおりだな」と言うしかなかった。

「ナオキの場合は多少ぶっ飛んでるくらいが普通なんだから、無理しないほうがいいよ。ダメでもともとだ!」

 ベルサは拳を握って俺に向かって突き出した。

「うるせぇ」

 結局、自分探しなんて言っても、本当に信用している者たちと話しながら自分を見つけるのが一番早い気がしてきた。

 まったく、今日一日なにをやっていたんだか。

「眠い、ダンジョンの暗い部屋に案内してくれ」

「あれ? もう休暇は終わり?」

「休暇の途中にお前たちの様子を見たっていいだろ?」

「好きにして。休暇の迷子なんて、ナオキくらいだ」

 ベルサはお茶を飲みながら笑っていた。



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