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駆除人  作者: 花黒子
~極地にて見つめ直す駆除業者~

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282/506

282話


 俺の魂がなぜこの世界に連れてこられたのかわかった。

地峡からの魔物を駆除したのだから、俺を連れてきた目的は達成されたはず。にもかかわらず、神々は好きに旅をしていた俺に『勇者駆除』を依頼した。果たして、それは神々にとって、いやこの星にとって必要な依頼だったのだろうか。

「残業、長くないですか?」

俺は天井を見ながら言った。

「ナオキくんは転生者だから、もしかしたら神々からすればサービスタイムかもしれないよ、なぁ~。どちらにせよ、ナオキくんの気分次第だと思うけど、なぁ~」

 そうか。神々からすれば、『お前はもう死んでる。少しこの世界の役に立つようなことをしたから生かしておいてやるよ』ということなのかもしれない。

「でも、依頼されてるしなぁ。報酬は貰ってないんで、やっぱり俺としてはサービス残業感が強いんですよね」

「フフフ、サービス残業って面白い考えね! 報酬の出ない居残り業務ってことでしょ?」

 フェリルはサービス残業ということ自体驚いたらしい。前の世界もそうであってほしかったな。

「ストでも起こさないとな、とは思ってますよ。いや、休暇中なんで、今がスト中かもしれませんが」

「なぁ~! それ知ってる! ストライキって物を食べないで意思表示をするってすごいことを考えるよ、なぁ~」

 セイウチさんはハンガー・ストライキのことを言っているらしい。

「でも、神々への抵抗ってなにをしたらいいんでしょうね? タブーを犯すとかですかね? でも、親も子もいないから近親相姦は無理だし、殺人だって戦争があるくらいだからタブーにならなそうだし……」

「昆虫食じゃないか、なぁ~? 教会では禁じられているよ、なぁ~?」

 セイウチさんがフェリルに聞いた。

「ええ、確かに。私たちは気にせず食べるけどね」

 俺も昆虫食くらいはする。というか、南半球では食べ物がなかったし、昆虫の魔物を食べるしかなかった。

「まぁ、なんでもいいけど神々の報酬って今までなにをもらったの?」

 フェリルに聞かれて、ちょっと言葉に詰まった。

「えっと、雨くらいですね。神の報酬は奇跡しかもらえないらしくて」

「雨!? なぁ~」

「雨の降らない地域だったの!? なんか素敵ね」

 セイウチさんもフェリルも驚いていた。

「なんの奇跡がいいんでしょうね。あれ? 俺は何回報酬をもらいそこねてるんだ? それによっても変わってくるのか」

 金山とか探したほうがいいだろうか。いや、なんだか奇跡をもらうために金山って小物感があるよな。

「あ! そうそう、血液の再検査いい?」

 俺が腕を組んで考えていると、フェリルが聞いてきた。

「ダンジョン産の身体って、やっぱり世界中どこを探してもないと思うのよね。前は病気のあるなししか検査してないの。血小板とか魔素の量とか足りてるのか調べたいから、ちょっと腕まくってくれる?」

 フェリルはそう言いながら、大きめのダニの魔物を取り出した。

この世界では魔物に採血させるところが面白い。痛みもないので、素直に血を取られた。

「ありがとね。じゃ、これ。コマちゃんに渡したら、なにか甘い物くれると思う」

 フェリルは俺に映画館のチケットのようなものを渡した。

「なんですか、このチケットは?」

「研究のために協力をしてくれた人に渡してるの。甘いものは誰でも嬉しいでしょ?」

「なるほど」

 前の世界では甘いものがたくさんあったので、そんなにほしいとは思わなかったが、たまにセスとメルモが甘いものを作ってくれると、確かに嬉しい。

「コマの作った料理は美味しいよ、なぁ~」

 セイウチさんもお気に入りのようだ。

 フェリルはダニの中にある血に夢中。メルモみたいだ。

「じゃあ、血も抜かれたし、食堂に行ってきます。お二人とも、ありがとうございました」

「いや、こちらこそ、面白い話だった、なぁ~?」

「ええ、また実験とかに協力してもらうから、よろしくね」

 フェリルは部屋を出ていく俺とセイウチさんに手を挙げて見送ってくれた。

 部屋の前で仕事があるというセイウチさんと分かれ、俺は食堂に。


 食堂には3人のポーラー族が昼食を食べていた。時間的には夕方近くなので、研究か何かで昼に食べられなかった人たちだろう。その中には族長のショーンさんもいて、本を読みながらプリンのようなものを食べている。ヨハンの報告を聞いていたはずだが、休憩をとっているのかもしれない。

「あの、このチケットで甘いものを食べられるって聞いたんですけど」

 厨房にいるゴマフアザラシ顔のコマさんに声をかけた。

「あら、ナオキくん。基地に馴染んできたわね。今、用意するから待っててね」

 コマさんが用意してくれたのはプディング状のフルーツが入ったババロアのような菓子だった。

「おおっ! 美味しそう!」

 前の世界で食べた菓子に似ている。

「美味しいわよ。鑑定スキルでもとても甘いって出てるし」

 コマさんがいれば、料理は失敗しないんじゃないか。鑑定スキルバンザイ。

「風味まではわからないけどね。あ、そうだ! ナオキくん、魔法陣描けるのよね?」

「ええ、描けますよ。なにか描きますか?」

「氷魔法の魔法陣で、食べ物を冷やせるかしら? 今は残っている氷を使ったりしてるんだけど、ちょっと厨房から遠くて行き来が面倒なのよ」

 氷室が基地の外にあるらしい。

「冷やすのはできますよ」

「本当!? よかった。あ、あと時魔法の魔法陣で発酵を早くしたりはできないかな?」

「発酵は微魔物の影響があるので難しいですね。塩漬けとかならできそうですけど」

 中の物体の時間を早める時魔法の魔法陣は描けそうな気がする。

「なるほどねぇ。魔物の影響なのね。教えておかないと……」

 コマさんはメモを取りながら聞いていた。もしかしたら、先程怒っていたポーラー族をフォローしようとしているのかもしれない。

「冷蔵庫はどんな形がいいですか? 厨房に入る大きさがいいですよね?」

「そうね。測ってから木の板か粘土板を用意するからちょっと待って」

 コマさんは厨房の中に引っ込んで、冷蔵庫を置く場所のサイズを測りに行った。

 その間に、菓子を食べてしまうことに。


「隣いいですか?」

 ひとりで食べていても寂しいので、ショーンさんに声をかけた。

「ん? ああ、いいよ」

「ヨハンの報告は休憩ですか?」

「ああ、とりあえず、論文を持ってこさせようという話になってね。私は歴史学者だから、魔物学の難しいところまでは理解しにくくて、他のポーラー族にも協力してもらうことになった」

 専門家同士のほうが話が早いと思ったのだろう。

「ナオキ殿は休暇中だそうじゃな?」

 誰から聞いたのか、基地内の噂はすぐに広まってしまうようだ。

「ええ、社員たちが業務を続けてくれるので、俺は自分探しをしているところです」

「自分探しか。じゃあ、なにか書き記しておかないとな。先人たちから教わり、後世に伝えていくことで歴史が紡がれていくからのぅ。紙や羊皮紙が足りなかったら、いつでも言ってくれ」

 歴史を研究しているショーンさんらしい。

「わかりました。紙が足りなくなったら、必ず部屋に伺います。ただ、先人というのが俺の場合、親もいないのでなにを伝えていけばいいのか」

「なぁに、親がいなかろうと教えてもらったことを書けばいい。家族はいなくても家族のような社員たちはいるじゃろう? なにも自分のことを書かなくても彼らに役に立つようなものを残そうとすれば、自ずと書けるさ」

 菓子を食べながらショーンさんは言った。

 そういうものなのだろうか。

家族、か。

前の世界の家族の記憶が曖昧で顔も覚えていないが、エピソードは時々思い出すことがある。前の世界での日常でも書いてみるかな。

「そういえば、ショーンさんは兄弟に会いたいとは思いませんか?」

「ああ、リドルとか言ってたな。北極大陸から、その弟がいる町まで時間がかかるじゃろ? そんなに基地を留守にはできん」

「まる1日くらいですよ。ヨハンが童貞を捨てたのは弟さんの町ですから」

「そ、そうなのか! あいつめ、なにも言わなかったぞ。なんじゃ、そうか! それなら、会いたい気もするな!」

「ヨハンに送ってもらうといいですよ。北極大陸の近くは風が強いけど、晴れてる日なら波の光を利用して海を渡って行けるはずですから」

 ショーンさんは「そうしよう!」と力強く頷いていた。

「ナオキくん、できたよ~」

 コマさんが冷蔵庫の設計図を書いて持ってきてくれた。

「へぇ~、壺ですか」

 コマさんの冷蔵庫は壺形で陶芸の研究者に手伝ってもらうのだとか。

「本当はもっと大きいのがほしいんだけど、厨房が狭いのよ。狭いの」

 コマさんは族長のショーンさんにわざと聞こえるように言った。ショーンさんは本に目を落として、黙っている。増築できない理由があるのだろう。

「じゃあ、魔法陣だけ教えればいいんですね?」

「ええ、そう。時魔法の魔法陣も教えてくれる?」

 時魔法の魔法陣は生物に使うと死にかねないので物体のみに制限しないとな。

 俺が頭に浮かんだ魔法陣を紙に書いていると、「ほぅ、本当になにも見ずに描くのか」とショーンさんが口を開いた。

「魔法陣学のスキルを修めた者というのは本当なんじゃな?」

「レベルアップでスキルポイントが余ってるので、いくらでもスキルは上げられるんです」

「なるほどなぁ。ならば、魔法陣を残すのもいいんじゃないか?」

 魔法陣を残す、か。

「悪用されたりするのが怖いんで、考えたこともなかったです。俺の描いた魔法陣のせいで大量に人が死んだりしたら、うかうか死んでられないじゃないですか」

「善用も悪用も、その時代の者に任せようじゃないか。人類が絶滅するようなことはないと信じるのも先人としての務めじゃよ。嫌なら無理とは言わんが、魔法陣学は今誰も研究しておらんから、基地としてはありがたいんじゃがなぁ」

 学問としてもレアなのか。

「考えておきます」

 俺は氷魔法の魔法陣と時魔法の魔法陣を紙に描いて、コマさんに渡した。

「悪用厳禁で」

「もちろんよ。行き過ぎた実験は身を滅ぼすことは歴史が教えてくれているものね? 族長」

「そのとおりじゃ」

 コマさんの言葉にショーンさんが頷いた。

「それで、厨房拡張の件なんだけど、何度も申請を出しているはずなんだけど……」

「いやぁ~、今日のおやつもうまかった! 夜食のハチミツのスコーンを待つことにするか!」

 ショーンさんはそう言って立ち上がった。

「甘いものばっかり食べてないで、申請の件も考えて……族長!?」

 コマさんがショーンさんに指摘していたら、族長がゆっくり俺の方に倒れてきた。

「え? ショーンさん?」

 俺は咄嗟に体を支え受け止めた。

 見れば、ショーンさんは気絶している。

「族長!」

 コマさん叫ぶと、周りにいたポーラー族もただごとではないと近寄ってきた。一応、診断スキルで身体を確認してみたが、息もしているし心臓も問題なく動いている。意識だけがどこかへ飛んでいってしまったらしい。立ち上がった拍子に気絶するなんて、なにかの病気だろう。

 居合わせたポーラー族たちが動いてくれて、ショーンさんはそのまま医務室に連れて行かれた。俺たちも状況を説明するためについていった。


「まぁ、老化の一種ね」

 ショーンさんの診断を終えて、フェリルが医務室で俺たちに説明してくれた。

「血圧をコントロールできなくなっているのよ。おやつで血液が内臓に集中したんじゃないかしら? 安静にしていれば治るわ。コマ、族長の食事には気をつけてあげて。あんまりパンやバレイモばかり食べさせないようにね」

「わかった。おやつも控えるわ」

 そんな事が起こるのか。

「面目ない」

 ショーンさんはすでに意識を取り戻していて、ベッドで寝かされ、申し訳なさそうにしている。

「体調に変化があればすぐに言ってくださいよ! 死期が近いってオタリーにも言われたんでしょ?」

 コマさんが説教。オタリーは予知スキルを持っているので、親族の死期がわかるのか。割と辛いスキルだったんだなぁ。

「あれは、まぁ、説教をするワシへの反抗と見ていたんじゃがなぁ」

 ショーンさんはそう言って自分の頭をなでた。

「そんなにすぐには死なないけど、準備くらいはしたほうがいいかもね。次期族長も選出しないといけないし」

 フェリルは笑っている。ドライなようだが、ポーラー族は人数が少ないので族長選びは大事なことなのだろう。

「なにかの拍子で死にそうなのはナオキくんの方だよ」

 フェリルがさらっと死の告知をしてきた。

「むしろ、どうしてその身体で生きてるのか不思議なくらいだ」

「え!?」



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