28話
「テルのことは俺に任せてくれ!」
造船所の親方・ボロックが船に乗り込む俺に言う。造船所にあった古くて 小さな船を譲り受けた俺は、一気に魔改造。
領主が俺とベルサ、アイルを指名手配にするというので、だいぶ急いだ。テルはすでに俺とは関係ないので、指名手配にされることはないらしいが、少し心配だった。それも新しい旦那が守ってくれるようなので、安心だ。
「結婚式に出られなくて悪いね。テル」
「ええ、大丈夫です。それよりもお気をつけて」
テルは俺が作った通信袋を握りしめて言った。準備ができれば、即出港。準備と言っても、荷物を船の中に入れるだけだ。譲り受けた船はヨットほどの大きさで、古いことや汚れていること以外は特に問題はないように見えた。
「結局、アイルと別れなくなったな」
「別れるつもりだったのか? たとえ闘技会で優勝して船に乗ることになっても、私はナオキをねじ込む気でいたんだがな。まぁ、これからもよろしく頼む」
アイルはそう言って、俺の肩を叩いた。
出港の際、テルとボロックはもとより、造船所の従業員たちや、街の人達が手を振ってくれた。
「旅は一期一会です! 出会いを大切に!」
テルが笑って、手を振った。
船は一路東へ向けて旅立つ。風は追い風。カモメに似た魔物が旅立つ俺たちと一緒に飛んだ。
しばらく進むと、船の底に穴が開き水が入ってきた。壁板を剥がして塞ぐ。領主の船が追ってくるかもしれないので、水流を生み出す魔法陣を船の後部に描き、スピードを上げる。
船を修復しながら、船を進ませ、寝床の確保などの雑務も三人でこなしていく。台所の掃除と、IH魔法陣の設置。トイレの床は底が抜けていたので、扉で床を作る。外から丸見えだが、今は仕方がない。正直、手が何本あっても足りないと思った。昼飯はテルが持たせてくれたサンドイッチだった。
ドンッ!
急に船が何かに当たり、乗り上げた。
「おいおい早くも座礁か!?」
アイルが叫ぶ。
俺は急いで、強化魔法陣で船を強化していく。
幸い、乗り上げたのは海の魔物、クラーケンだったので、光魔法の魔法陣と、アイルの剣撃で仕留めた。墨やイカゲソなんかも採取できたが、肉はあまり美味しくなかった。
船の被害はほぼなし。
次に襲ってきたのは風だった。
帆を張っていたのだが、一瞬にして破けて、舵が利かなくなった。
直すのも手間なので、そのまま魔法陣に魔力を流し、水流だけで進むことに。風が落ち着いた頃には、周囲に島影はなくなった。三六〇度、水平線。 地図を見たが、自分たちがどこにいるのかわからない。
羅針盤を頼りに、東へと向かう。
しばらく行けば、島が見えてくるはずである。ただ、その島までたどり着くのに、大量のクラゲの魔物・エチッゼンが襲ってきた。中が割れた丸い窓の枠を外し、風魔法の魔法陣を窓枠に描き込んでいく。
ロープをつけて海に窓枠を投げると、窓枠が海面に浮かぶ。ゆっくり旋回するように船を動かすと、面白いように水中のエチッゼンが窓枠に吸い込まれ、空中に舞い上がる。舞い上がったところを、アイルがバシュバシュ切っていく。
再生能力は乏しいようで、エチッゼンは海の藻屑と消えていった。しばらく、エチッゼンを狩っていると、東の水平線に島影が見えた。島に近づくに連れ、エチッゼンの個体がやけに大きくなっていった。
窓枠に詰まってしまったので、窓枠を回収。
魔法陣を描き足し、再び、海に流した。
窓枠から竜巻のような風が舞い上がり、エチッゼンは、面白いように空の彼方へと飛んでいった。
島までの道ができたので、急いで船を進ませる。
這々の体で島まで辿り着いた。
島はまさに密林といった様子で、奇怪な魔物の鳴き声や、地震のような魔物の足音などが聞こえてきた。