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駆除人  作者: 花黒子
~風とエルフを暴く駆除業者~

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269話



 世界樹焼失から一週間後、エルフの里の再建が始まった。

 大森林の各所で地すべりの傷跡があり、相変わらず食料事情は悪く、エルフの里の大問題となっている。だが、エルフたちは笑顔だった。

 王国軍もナチュラリストもいなくなり、里による差別もなく種族による上下もなく等しくエルフとして立ち上がる決意をしたからだろう。里の再建をするエルフたちは皆、腕に包帯や紐を巻いて結んでいる。東の砂漠に避難したときに助け合い、お互いに傷の手当をしていた。その包帯が、『派閥もなく差別もない』という意思表示となり、傷が治って包帯が要らなくなっても、結び目自体がその意思表示になったそうだ。

ウェイストランドとの国境線は開かれ、多くの技術者たちが大森林から商売をしに南へと向かった。エルフたちは『芸は身を助く』を地で行っている。

「食料がとにかく足りない。森があるのにタネもない。それぞれの里の技術だけが残った。それを売るしか再建の道がないからな。わかりやすいよ」

 隊長が言った。技術者たちが技術を売り、食料やタネを持って里に帰る。ウェイストランドとの間ではすでにそういう交易が始まっている。次はルージニア連合と交易がしたいから、話をつないでくれと言われた。

グリーンディアだけは大量にいるので、肉を加工して売る計画も始まった。今までは食べてこなかったが、古文書にはどういう加工をしていたのか書かれていたので、再現するという。

知識や知恵も制限をかけることを止めた。文化や技術が発展しないからとのこと。大陸の各国に手紙を送って留学生の募集も始めた。エルフは学者が多いので人気になってくれればいい。

大まかに言ってしまうと、大森林の事情はそんな感じ。


俺たちの周りでは、マルケスさんがソニアと付き合い始めた。やはりフィーリングが合うらしい。マルケスさんはソニアに、里の再建が終わったら、いずれダンジョンを案内すると言っていた。毎日のように、元ナチュラリストの精霊使いたちが2人をからかっている。

「最初は邪魔だと思っていたが、祝福してくれているようなんだよ」

 マルケスさんは嬉しそうに笑った。惚気かよ。


シオセさんとリッサ師匠はフラワーアピスの研究を続けるそうだ。

「だって今回は農薬が原因だったってだけで他の地域ではエルフの農薬なんて使ってないでしょ?」

「リッサ、頼むからパンツを穿いてくれないか? 恥ずかしいとかじゃない。変な病気になったら困るからだ」

 2人はバランスが取れているようだ。

「これからどこに行くんですか?」

「どうする? 戦争が終わったんなら火の国に行ってみたいけど」

「どうせ途中で道草を食うことになるだろうけど、なるべく俺はお前のいうことを叶えてやりたいとは思ってる」

「アレ? そういえば、別種だと思っていた魔物が同一種だったっていう研究が済んでいないわね」

 リッサ師匠はそう言ってどこかへフラフラと行ってしまった。「どこに行くんだ?」と言いながらもシオセさんは見守るようについて行っていた。


 これにて、マルケスさんとシオセさんがコムロカンパニーの所属ではなくなった。所属していたかどうかわからないけど。

『風の勇者は?』

 通信袋の向こうで神様が聞いてきた。

「勇者を引退することにしたそうです。今はレヴンさんってダークエルフのお父さんと種苗屋をやっています」

『じゃあ、風の精霊は消えたのかい?』

「世界樹があった場所の地下で休眠していますね。今回の件でだいぶ力を出し尽くしてしまったらしいですから」

『それはそれで仕事する奴がいなくなるから困るんだけどなぁ。コムロ氏、風の精霊やる?』

「やりません。とりあえず、勇者駆除の依頼は達成ということでお願い事の借金は増えましたからね。よろしくおねがいします」

『ん? ああ、そうだね』

「大森林の精霊たちに関しては教育的指導ということで対処はしておきました。間伐も教えておきましたから、砂漠化が止まるようなことがあれば、こちらも依頼達成とカウントさせていただきます」

 事務的に話すことで、既成事実として進めてしまおう。

『あれ? そうなっちゃう? そうなっちゃうかぁ』

「そうなりますね。それから今回露呈したんですけど、ちょっと俺のレベルが上がりすぎているようです。どうにか対処する方法を考えていただけると助かります」

『それはさぁ、コムロ氏の自業自得じゃないか?』

「いいんですけどね。困るのは神様たちですから」

『ん~、わかったよ。何か考えておく』

「じゃ、そんな感じで報告は以上です」

『はい。じゃ、結局花見はあと半年待たないといけないってことだよね』

「そうですね。南半球で咲くことを祈っていてください」

『OK!』

 通信袋を切ってから、邪神について聞くのを忘れたことに気がついた。ま、適当に遊んでいるだろう。


「それで? 神様は私についてなんか言ってた?」

 薬師の里でカミーラが聞いてきた。

 大罪人だったカミーラだが、どさくさに紛れて罪が免除されたという。

「神様はカミーラのことは認識してないんじゃないかな?」

「なによそれ。ちょっと紹介してよ。神の加護とかほしいじゃない」

「止めておいたほうがいいよ。称号とかがなくなるだけだって」

「ええっ!? ナオキって称号ないの? そんなに強いのに!?」

「ないよ。人にはいろいろ言われてるけど、精霊たちに存在がバレると仕事しにくくなるからね」

「でも、もうバレちゃってるじゃない?」

「そうなんだよね……そろそろレベルもリセットしたい気分だよ」

「なに言ってるの! レベルなんて高いに越したことないわ」

「それはカミーラだからだよ。それで光の勇者の仲間だったって話を聞かせてよ」

「ああ、まぁ、昔ね。昔の話よ。北極大陸に住んでるポーラーって獣人の種族がいるんだけど、そこの出身でね。何千年も昔にポーラーがエルフに秘術を授けたらしいのよ」

「エルフが授けたんじゃなくて、ポーラーが授けたの? 頭いいんだ?」

「それは偏見、獣人だって頭いいわよ。それでその秘術を光の勇者がエルフの里に探しに来て仲間になったってわけ」

「へ~、カミーラがもともとその秘術を持ってたの? あの例の秘術でしょ?」

「そうそう。前世で見つけてね。なぜだか知らないけど、エルフの里に置いておいたらマズいって思って、光の勇者に連れ出してもらったのよ」

「それってなに? 自分のゴーストが囁く的な?」

「ま、そういうことね」

「で、なんで光の勇者は引きこもってんの?」

「さあ、本人に聞いてよ。急にいなくなって、私もどうするかさまよっていたらクーベニアまでたどり着いちゃったんだから」

「ふーん。いや、光の勇者がさ、知り合いの竜の師匠に勝ったらしいんだよね」

「竜の師匠って竜?」

「そうそう。光竜っていう結構強い竜だったらしいんだけど、とどめを刺さずにどっか行っちゃったみたいなんだ。それで竜の方はゾンビ化しちゃってさ、一時島民がゾンビだらけになっちゃって大変だったんだよ」

「はた迷惑な奴なのよ。ナオキが行って何発かぶん殴って外に出してあげてよ」

「ん~じゃあ、そうするか。他の勇者がどこにいるかもわからないからね。とりあえず、光の勇者を訪ねてみるよ」

 そんな会話で次の目的地が決まった。


「夏の極地でしょ? 夜が来ないんだよ」

 俺が社員たちに次の目的地を告げるとベルサが言った。

「白夜ね。問題ある?」

「明るいと眠れなくなっちゃうよ」

「行ってみないとわからないだろ?」

「メルモ、アイマスクを縫って!」

「はーい」

 メルモが、また夜なべをすることになりそうだ。

「夏の北極大陸ってどんなところなんでしょうね?」

 セスがアイルに聞いていた。

「蚊の魔物が多いって聞いたことがあるよ。でも、北極大陸って言っても、いくつか国が分かれてるんだよね?」

 アイルが聞いてきた。

「あ、そうなの。なにも知らないけど、どうにかなるんじゃない?」

 そんな適当な思いで行く場所じゃなかったと全員が後悔することを、俺たちはまだ知らない。


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