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駆除人  作者: 花黒子
~風とエルフを暴く駆除業者~

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248/506

248話


「砂漠の西側、ちょうど草原と森にかけて元奴隷たちが作った村があるんじゃ。その村人たちが、急に魔力切れを起こすようになったり目眩がするようになったらしくて、その原因がローカストホッパー駆除の際に使われる吸魔剤や魔物除けの薬だと言うんじゃよ」

 薬物による環境汚染か。砂漠からの地下水脈を生活用水にしているならありうる話だ。魔物除けの薬は散々使っているので、そこまで健康を害するとも思えないが、吸魔剤なら魔力切れを起こすこともあるかもしれない。

「元奴隷たちじゃから、権利にはうるさい。しかも村にはダークエルフが多くてなぁ、無視すれば差別問題にもなりテロリストの温床になるやもしれん」

やっと手に入れた権利を手放す者もいないだろう。

「なかなか難しいことになってますね」

 俺は地図を見ながら言った。

「そうじゃろう」

「引っ越してもらうか、ローカストホッパーの発生源を予測してピンポイントに薬を散布して駆除していくしか、今は対応策は思いつかないですね」

「そうか。ナオキ殿でも難しいか」

「そりゃ、俺はただの清掃・駆除業者ですよ。清掃したり、駆除したりするのはできますが、それ以外は……」

「有料道路を見るとそうとも思えないがな」

 俺は「あれはたまたま状況的に最善策を考えた結果です」と手を振って答えた。

「コムロカンパニーは協力してくれんか?」

「できることはしますけど、できないこともたくさんあります。現場には行ったんですか?」

「ああ、弟のジェリが行った。貴族たちからは『元奴隷など放っておけ』という声が多い中、擁護していてな。『民を守れぬ貴族など、試合に出ない剣闘士のようなものだ』と啖呵を切ってのう。珍しくやる気だ」

「成長しているようでなによりじゃないですか」

「それもコムロカンパニーのおかげじゃ。目先にとらわれず、大局を見るようになった。なによりワシの言うことが理解できるようになったらしい」

 リドルさんが弟を自慢するとは。前はきつく当たっていたので、本当にジェリは変わったのだろう。

「その村をダークエルフの国と交易するための中継地点にすると夢見ているようじゃ。あやつにとっては母方の種族でもあるからのう」

 砂漠は北にあるので、ダークエルフの国はさらに北か。エルフの里もヴァージニア大陸の北のはず。

「ダークエルフの国は北なんですか?」

「ああ、砂漠の北側はダークエルフの国じゃ。ルージニア連合国と接していて以前は戦争も多かったが、お主らが竜を国境線に連れて行ってからはちょっとした小競り合いもなくなり、交易もするようにもなった」

 竜とハサミは使いようだな。

「つい数ヶ月前くらいから有料道路の影響でフロウラにも商品が届くようにもなったんじゃ」

「ダークエルフの国からはなにが送られてくるんですか?」

「織物や奴隷じゃな。こちらからは保存食などが多い」

 そうか人も交易品か。

「へぇ~進んでますね」

「うむ、進んでいるところもあれば、うまくいかないことも多い。だから少しばかりジェリをサポートしてはくれんか? ワシも老いて、なかなか馬車での移動も辛くてのう」

 リドルさんは先程までかなり元気そうだったが急に腰を曲げ始めた。

「わかりました。出来る限り、やってみます」

「そうか!」

 急にリドルさんの腰が治った。わかりやすい。

 その後、マルケスさんはキャッサバを売り込み、食糧担当の人に回されていた。

「やっぱり物があると違うね。役所の裏庭で育ててみてくれるそうだよ!」

 好感触だったようだ。

「では明日の夜にでも。あ、そうじゃ、マーガレット邸に行ってあげてくれ」

 去り際にリドルさんから言われた。

「なにか、あったんですか?」

「うむ。行けばわかる」

 意味深なリドルさんと「よろしくお願いします!」と元気なジェリに見送られ、俺たちはマーガレットさんの屋敷に向かった。


 マーガレットさんの屋敷の前ではなぜかアイルとレッドドラゴンが路上パフォーマンスをしてお客を集めていた。レッドドラゴンの頭の上に乗せたアポの実をアイルが細切れにし、ついでにレッドドラゴンの服も細切れにして怒られるというような寸劇を見せている。

「今日はここまで。これ以上やると我の着る服がなくなってしまいます! どうもありがとうございましたぁ!」

「どうもありがとうございました! 今後ともコムロカンパニーをご贔屓に!」

 ムキムキの体を晒したレッドドラゴンとアイルは客に手を振って帰らせていた。

「なにやってるんだ?」

 俺が2人に聞いた。

「おっ、ナオキ、来たか」

「まずいところを見られてしまったか?」

 レッドドラゴンがアイルに聞いた。

「いや、いつものことさ。それよりもリドルさんには挨拶が済んだのか?」

「うん。ローカストホッパー駆除の影響でちょっと面倒なことが起こってるみたいなんだ。駆除方法を変えないといけないかもしれない」

「そうか。こちらもナオキのちょっとしたアイディアのせいで大変なことになっているみたいよ」

「えっ!?」

 嫌な予感しかしない。

「それもいつものことのようだな」

 レッドドラゴンが笑いながら言った。

「砂漠の英雄は仕事が多いね」

 マルケスさんも笑っていた。


すっかり客がいなくなると門の扉が開き、マーガレットさんのメイドであるばぁやが出てきた。

「ほっ、ようやくいなくなったようですね。どうぞ皆様、中にお入りください」

「飯はできているかな? お嬢さん」

 レッドドラゴンがばぁやに聞いていた。食い意地の張った竜だ。

「もちろんですよ。でも、その前にお召し物を着ていただかないといけません!」

「なんでも着よう。貰った一張羅は、先程の演舞で切られてしまったからな」

 ふんどし姿のレッドドラゴンは屋敷に入るなり、ばぁやに連れて行かれてしまった。俺たちは「食堂でお待ち下さい」とのこと。

 食堂では疲れた様子のマーガレットさんが迎えてくれた。

「ようこそ、お越しくださいました。アイルさん、申し訳ありませんね」

「いいえ。お安い御用です」

 アイルは軽く挨拶をして、並べられた料理に手をつけ始めた。乾杯もしていないのに。こういうところは、アイルが貴族の令嬢とは思えないところだが、酒には手を付けていないので自分の中にルールがあるようだ。よほど腹が減っていたのか。

「どうぞ、皆さんも召し上がってください。あ、そちらの方は初めましてですね? マーガレット・フロウラと申します」

 マーガレットさんはマルケスさんに挨拶をした。

「マルケスと申します。遥か西の島にあるダンジョンでマスターをしておりまして、現在はコムロカンパニーで厄介になっています」

「ダンジョン……マスター? 空想の役職ではなく現存しているのですか?」

 マーガレットさんは、俺の方を見た。

「事実ですよ。それよりなにかあったんですか?」

 俺がマーガレットさんに聞いた。

「ナオキさんが案をだしたコンテナなんですけどね。運用し始めてひと月ほどは良かったのですが、船の荷揚げや荷降ろしをする沖仲仕の方々と手伝っている冒険者の方々がストライキを起こし、屋敷の前でデモをやるようになったのです」

 嫌な予感とは的中するものだ。

「やはりですか。港でクレーンが倒れていたのでそうじゃないかと思っていたのですが……すみません。俺が案を出したばっかりに」

「私の方でも沖仲仕の方々にお話はさせていただいていたのですが、箱の素材も含め至らぬところが多かったようです」

 木製の箱だと運んでいる途中でこっそり中抜されてしまうこともあるのかもしれない。

「ガルシアさんたちは?」

「有料道路の方は着実にルージニア連合国の各国に伸びていますよ。面倒事が嫌いなアルフレッドが柄にもなく各国の王を説得しに行っていましたし、ガルシアさんのお嬢さんたちもがんばってくれています」

 あとで有料道路の地図を見せてくれるという。今は、ノームフィールドにフィーホースの競馬場と厩舎を作ろうとしているのだとか。

「そうそう、以前ナオキさんがコップに描いていた氷魔法の魔法陣を使って、保冷できるコンテナも作ってみたんです」

 マーガレットさんは抜け目がない。コップに氷魔法の魔法陣を描いたことなど覚えていないが、マーガレットさんやリドルさんは、俺が魔法陣を使うたびに狙っていたそうだ。

「今後は気をつけて魔法陣を使うことにします」

「人の発展に役立っているのですからいいじゃありませんか。どんどん使ってください」

 利権の匂いがするので、簡単に使わないようにしよう。

 レッドドラゴンが貴族が着るような黒い服を着て下りてきたので、とりあえず乾杯。結局、宴になりそうな予感がする。

 そのうちにベルサとメルモもやってきた。セスは相変わらず寝ているらしい。

「セスには俺が持っていってやるか」

 俺は、ばぁやが作ったラビオリのような料理やデザートイーグルと春野菜の香草焼きなどを包んでもらい、セスが寝ている宿に持っていくことに。

「いいんですか?」

 メルモが聞いてきた。使いっ走りは自分の役目と思っているのかもしれない。

「いいよ」

「メルモ、ナオキに行かせてやれよ。ちょっと落ち込んでるからさ。外の空気でも吸いに行かせてやって」

 まだ酔っ払っていないアイルが言った。

「なんだ、妙に元気ないと思ったら落ち込んでるのか?」

 ベルサが聞いてきた。

「いや、俺のせいでうまくいってることもあれば、そうじゃないこともあることがわかったからさ」

「そんな、なんでもうまくいくわけないだろ? 時間が経って影響が出てくることだってあるんだから」

「それはわかってるんだけどさ」

「アフターサービスが充実しているのがコムロカンパニー。でしょ? ナオキが言ったんだよ」

「時とともに技術だって変わるんだ。駆除方法だって清掃技術だって変わるよ。更新していくのが私たちだよ」

 アイルとベルサが俺のコップにワインを注ぎながら言った。

「そうだな」

 俺はそう言って、ワインを飲んだ。日頃、自分の存在理由なんて考えないが、他人に影響を与えてしまっていることを見聞きすると、自問自答してしまうものだ。

「よし! そんなナオキにぴったりの仕事を見つけてきたよ。はい、これ」

 ベルサから渡された依頼書には、『娼館街の清掃・手伝い募集』と書かれていた。

「じゃあ、行ってくるかな」

「「「「いってらっしゃーい」」」」

 俺は料理を持ってマーガレットさんの屋敷を飛び出した。


 セスがとったのは前に使っていた宿だった。まだ寝てたので料理は枕元のテーブルの上に置いて、そそくさと娼館街へと向かう。

 すでに日は落ちている。

 魔石灯の明かりが輝く娼館街には多くの客とその客を呼び込む娼婦の姿があった。

 俺は奥へ奥へと向かった。

 指定された娼館の裏口に行き、ドアをノック。

 反応がない。

 再びノックを繰り返したが、まるで反応がなく、何度も依頼書を確認した。

 鍵がかかっていなかったので、勝手に入ってみることに。中は真っ暗。

「ごめんください。依頼書を見て来ました」

 裏口からそーっと入っていくと、床で女性が眠っていた。

 魔石灯の明かりを顔に近づけると、突然女性の目がカッと見開いた。

「はあっ!」

「な、なにっ!?」

「ごめんなさい! 娼館街の清掃の依頼を見て来ました」

「ああ、なんだぁ。びっくりしたぁ」

 俺もびっくりした。

「清掃は朝、客が帰ってからだよ」

 そりゃそうか。娼館街の仕事だからと、興奮しすぎたようだ。

「あれ? あんた、もしかして砂漠の英雄じゃないかい?」

 よく見たら、その女性はいつかパンティをくれたミリア嬢だった。

「お久しぶりです。ミリアさんですよね」

「よく名前を覚えてたね」

「美人の名前は覚えるようにしてるんです。ところで、なんでこんな裏口に近いところで寝てたんですか?」

「そりゃあ……あんたのせいだよ」

「え!?」



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