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駆除人  作者: 花黒子
~風とエルフを暴く駆除業者~

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247話


 翌朝、黒竜さんとレッドドラゴンが、島民たちと島の今後について話し合うために村へと向かった。

 朝飯はイエローフロッグの足をじっくり焼いてバーベキューだ。甘辛ソースが竜の娘達に大好評。俺は適当に食べつつ、魔法陣を焼き付けて加熱の石をせっせと作る。

「まぁ、火吹きトカゲくらい私たちの爪でも倒せないことはないのよ」

 水竜ちゃんの言う通りだが、「もしかしたら火吹きトカゲの皮が特産品にできるかもしれないし、人間でも駆除できるようにさ」と提案しておいた。

 畑の方はキャッサバとペピーノを育てようとしているらしく、すでに消石灰を土に混ぜているとのこと。果樹園の方は、燻煙式の魔物除けの薬を焚いてカミキリムシの魔物を駆除し、食われた枝を切って剪定したという。ただ、なんの木なのかマルケスさんでもわかっていないらしい。「たぶん柑橘系じゃないか?」とのこと。

ただ同じ木が何本も植えられているので夏を待とう。もしかしたら、前に住んでいた島民が特別な果物を育てていたのかもしれない。

「俺たちはいつまでもこの島にいられないんだけどね」


 黒竜さんたちが戻ってきて、「とりあえず島民たちとやってみる」ということになった。

「このまま滅びるくらいなら、やるしかあるまい。ただ島民のほとんどが漁師出身の者で、畑仕事をやったことないらしいのだ」

 黒竜さんが渋い顔で言った。

「僕が教えてもいいけど、時間がかかるよね。まぁ、キャッサバを育てるのはそんなに難しくないよ」

 マルケスさんが答えた。

「フロウラの冒険者ギルドか商人ギルドで、できる人をスカウトしてくればいいんじゃないですか? せっかくお金はたくさんあるんですし」

 セスが提案すると、「おおっ! そうだな!」と竜たちが手を叩いて納得していた。

 結局、俺たちとともにレッドドラゴンがフロウラに向かい、農業スキルや使役スキルを持つ者をスカウトしてくることに。

 マルケスさんはキャッサバの育て方と、毒の抜き方を丁寧に描いた羊皮紙を竜の娘たちに渡していた。キャッサバを広めるため、ずっと戦略を練っていたようで、羊皮紙はいくつもあるようだ。

「そんなことより、イエローフロッグをどうやって倒すのか考えてる?」

 水竜ちゃんが話しかけてきた。初め俺は何を言っているのかわからなかった。尻に鉤爪を引っ掛けて皮を剥げばいいだけだと言っていたはずだが、理解していなかったのかな、などと考えていた。

「ん? ……あ、そうか! まず倒し方を考えないといけないのか」

 目に見える大きさの倒せないかもしれない魔物がいるという考えが俺にはなかった。精霊ならいざしらず魔物の倒し方なんてどうにでもなると思っていたが、それはうちの会社でだけ通用する常識だったのだ。

昨夜のプレゼンではイボから毒液を採取したら特産品になるかも、くらいしか言っていない。通常はイエローフロッグの毒は即死系で、扱いは慎重にならければならない。触れずにどうやって倒すべきなのか考えなくてはいけないようだ。

「竜の皆さんはイエローフロッグって倒したことないですか?」

「そうねぇ。わざわざ倒すような魔物でもないし、無理に毒を食べる必要もないから倒さなかったわよ」

 水竜ちゃんは顎に指を当てて首を傾げた。

「俺たちはどうやって倒してた?」

「え? ……音爆弾だったかな? メルモ、私たちどうやってイエローフロッグを倒してたっけ?」

 俺がベルサに聞き、ベルサがメルモに聞いた。

「解体方法や駆除方法じゃなくてですか? どうでしたかね? 気づいたら沼に浮いてましたから思い出せませんよ」

 ダメだこりゃ。

「私が音爆弾を投げたんだよ。剣撃の風圧とかでも簡単にひっくり返るはずだよ」

 アイルが説明した。

「だそうです。ちょっと一緒に行ってやってみましょう。意外なところに落とし穴があったなぁ」

 俺は竜の娘たちを連れ、島の沼へと向かった。


 沼に向かいながら竜なのだから火を吹けばいいのではと思い聞いてみたが、火を吹けるのはレッドドラゴンなどの竜だけで、本来、風の竜や氷の竜である娘たちは違うブレス攻撃を使うのだとか。

 沼に着くと、早々にイエローフロッグを見つけた。音爆弾を投げつけると、周囲にいた水鳥の魔物などとともにイエローフロッグがひっくり返る。その尻に鉤爪を引っ掛けて岸に上げ、毒のイボなどについて竜の娘たちに説明。

「毒はどうすればいいの?」

「搾り取るのがいいと思うのですが、できなければ、焼いてしまっても構いません」

 俺は松明でイボを焼いていった。イボがあるのは頭部と背中の決まった場所なので、吊るしてしまえばそんなに危険ではない。

「倒し方はなんでもいいんですけど、紐をつけた石とかでもいけるんじゃないかなぁ?」

 俺はその辺の石に紐を巻き付けたものを作った。ボーラというんだったか。ボーラをぐるぐる回し遠心力をつけて、イエローフロッグの下顎に向け放つと、あっさりひっくり返った。

「まぁ、このようにどうにかしてひっくり返してしまえば、難しくはないと思います。皆さんなら、人化の魔法を解いて雄叫びでも上げればひっくり返るんじゃないですかね?」

 そう言うと、なぜか竜の娘たちはもじもじとし始め、「イヤーン」「エローい」と言われた。

 なにがエロいのかさっぱりわからない。竜の娘たちは俺の倍以上は生きているはずなので、年をとると恥ずかしさも増すのかな。

「不穏なことを考えてはダメなのよ?」

 黙っている俺を見て水竜ちゃんが声をかけてきた。見透かされているのか? 年上怖い。

 俺は後ろを向いて座っていると、するすると後ろで竜の娘たちが服を脱ぐ音がした。

「もう、いいのよ~」

 と言われ、振り返ると緑や青、水色、黄色などのバカでかい竜が歯をむき出して笑っていた。どの竜も大型バスくらいはある。

 その竜たちが一斉に雄叫びをあげると、見える範囲にいる沼中の魔物たちが泡を吹いて倒れた。俺も耳栓をしていなかったら倒れていたと思う。

「音爆弾とか使わなくても大丈夫そうですね。毒に気をつけて管理していけば、たくさん肉も手に入るかと思います」

「「「「ありがとう!」」」」

 竜の娘たちによる重い擦り寄り攻撃に耐え、どうにか逃げ出した。

 火吹きトカゲを使役できる人材を採用して、早めに管理を引き継いだほうがいいだろう。レッドドラゴンに期待だ。

 さて、竜にばかり構っていられない。

 竜の娘たちが人化の魔法を使い、服を着ている間に俺は港の方まで下りる。

「おおっ、娘たちにレクチャーしてくれたようですまんな」

 黒竜さんが頭を下げてお礼を言ってきた。

「いやいや、なんてことないです。さすがは竜の一族ですね。優秀な娘さんたちだ」

 お世辞を言っておいた。

「それで果樹園と畑に関しては、ヴァージニア大陸の市場を調査してからでも構わないだろうか?」

「ええ、それはそうですよね。交易に有利な物を育てたほうがいいかと思います。レッドドラゴンは責任重大ですね」

 俺がレッドドラゴンに話を振ると、汗をかきながら笑っていた。数年前まで洞窟に引きこもっていたので、人を見る目があるのかどうか不安なのかもしれない。

「金に糸目はつけない。優秀な人材をスカウトしてくるように」

 黒竜さんがレッドドラゴンにプレッシャーをかけていた。

 とりあえず、俺はとっとと船に乗り込み出発を待つことに。

 待っている間に服を着た竜の娘たちが港に来たため、島民たちが集まってきてる。竜の娘は島民たちにとってアイドル扱いらしい。

さらに竜の娘の一人が「男に裸を見られた」と言ったため、大騒ぎになった。

俺は知らぬ存ぜぬで、船の中に隠れて、アイテム袋に入っている毒薬の整理。社員たちが来て「なにをやっているのか」聞かれた。

「竜は面倒だ。早いところ、出港しちまおう」

 レッドドラゴンが大きな荷物を抱えて船に乗り込むと、俺は縄を解いてしまった。

「おいおい、出発してるよ!」

「ちょっと待って!」

「酷いですよ~!」

 女性陣が船に飛び乗ってきた。マルケスさんは驚異的なジャンプ力でマストの上に飛び乗った。

「さらばだ! また会おう!」

 黒竜さんは手を振って見送ってくれた。


「セス! ちょっと飛ばそう! 水竜ちゃんがついてきたら厄介だ」

 俺は帆に風魔法の魔法陣を描いて魔力を込めた。

 船は東へと向かう。


 前は島を出てからヴァージニア大陸のフロウラまで2日ほどかかったが、今回は丸1日で済んだ。海流や季節風の影響もあるだろうが、なにより辛い恋バナを聞かなかったのが良かったと思っている。

 やはりフロウラの港には大きな箱がいくつも並んでいるが、それを積んでいる船はない。クレーンらしきものが倒れているので、現在は使っていないのだろう。

「よし! 宿取ってセスは寝ておけ。ベルサとメルモはいつも通り、依頼を探しつつ情報収集で」

「「「了解!」」」

 ベルサとメルモはとっとと船を降りた。セスは船の中を掃除してから下船するという。

「アイルはマーガレットさんのところに挨拶に行っといてくれ」

「了解。お土産は回復薬でいいかな」

「レッドドラゴンもついていくといいかも。マーガレットさんは人脈が広そうだし」

「ガハハ、了解。我もなにか持っていこう」

 アイルとレッドドラゴンは俺から回復薬を受け取って、フロウラの町に繰り出していった。

「マルケスさんは……俺と一緒に役所行きますか? キャッサバを売り込めるかもしれませんよ」

「うん、わかった」

 俺とマルケスさんは役所へと向かう。

 町港周辺では船乗りと荷運びの業者たちが拳闘で賭けをしているのが見えた。活気がある証拠とも言えるが、多少治安が悪くなっているのかもしれない。

 通りを歩くと、少ないながらも大きな箱を荷台に乗せた馬車を見た。コンテナは使われていないというわけではないらしい。

以前はデモ隊を集めていた教会はすっかり立派に改築されている。役所の近くではフロウラ名物として、アンチョビのサンドイッチが屋台で売られていた。


「こんにちは」

 役所の扉を開けて、受付にいた猫耳のお姉さんに声をかける。昼時で役所にはあまり人がいない。

「あ、その青い服! もしかして砂漠の英雄さんですか?」

 俺を見て受付のお姉さんが叫んだ。

「えーっと、そうだね。リドルさんいる?」

「わかりました。すぐに呼びます!」

 そう言ってお姉さんは飛び出していった。

 いないなら、いいんだけど。

しばらく待っていると、カンカンカンという鐘の音が響き渡った。なにかあったのかと窓の外を見ると、乗り合い馬車やフィーホースが役所に殺到してきた。

馬車から出てきたのは以前と変わらぬ小人族の老人。リドルさんだ。周りにはお付きの人たちや弟のジェリの姿もある。

「なにごとじゃ!?」

「砂漠の英雄が帰還されました!」

「なんじゃと!?」

 外から会話が聞こえてくる。

 バンッ

 と、役所の扉が開いた。

「こんにちは、お久しぶりです。リドルさん」

「おおっ! ナオキ殿、生きておられたか!」

 リドルさんはそう言って俺の腕や肩を叩きながら笑った。

「近くに寄ったんで挨拶をと思いまして。お元気そうでなによりです」

「元気も元気、それよりナオキ殿も元気そうでなによりじゃ。遥か西の大陸で消えたと聞いていたが、やはりデマだったようじゃな」

「ん~っと、消えたというのは間違っていないんですけどね」

「では、ロックソルトイースト王国で捕まったというのも本当か?」

「ああ、知られたくない事実ですが本当です」

 俺が頭を掻いて正直に言うと、リドルさんは高い声で「ハハハ」と笑った。

「積もる話があるようじゃな」

 リドルさんは振り返り、役所の職員とお付きの人たちに向かって「すまんが茶を地下室まで持ってきてくれ。ジェリたちはここで待機じゃ」と指示を出した。

 俺とマルケスさんはリドルさんに案内されて、地下室へ。

地下室の壁の本棚には資料と思われる本が並び、部屋の中央には大きな机があった。机の上には砂漠の地図が広げられており、赤いバツ印や緑の丸印などが書き込まれている。

「ローカストホッパーですか?」

 俺はバツ印を見ながら聞いた。

「うむ、それもあるが……ちょっとな。そちらの御仁の用は急ぎですかな?」

 リドルさんがマルケスさんに聞いた。

「僕は、ただ新しい作物を売り込みに来ただけですから。それよりもナオキくんに聞くことがあれば、お先にどうぞ」

「では、お言葉に甘えて。ナオキ殿……なにから聞けばよいのやら」

「俺たちが捕まったのは、たまたま海で死体を拾ってしまったからで、遥か西の大陸で消えたのは南半球に行っていたからです」

「なるほど、わからん」

 リドルさんの言葉にマルケスさんが「ナオキくんの話は信じられないことばかりですよ」と笑った。

「それもそうじゃな。コムロカンパニーの旅の話は夜に皆を集めてゆっくり聞くとしようかのう」

「その方がいいですね」

 なんども旅の話をするのはいいが、一度にしてもらえると助かる。

「他にナオキ殿に聞くことといえば、ローカストホッパー駆除のことなのじゃが……」

「なにかありましたか?」

「うむ、厄介なことになってなぁ」

 リドルさんは眉間にしわを寄せて、唸るように言った。



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