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駆除人  作者: 花黒子
~風とエルフを暴く駆除業者~

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246話


「じゃあ、まあ、とりあえず、竜の娘さんたちを起こして屋敷の掃除をしよう。カーテン開けて日光を入れてください」

 戸惑いつつも黒竜さんとレッドドラゴンは指示通りに動いてくれた。

「水竜ちゃん、魚焼くならちょっと向こうでやってね」

「え……?」

 七輪を持ってきた水竜ちゃんを外に出す。

 コムロカンパニー総出で屋敷の清掃をしていく。賭場はぶっ壊したし、ソファーも外に出して徹底的にホコリと汚れを落としていった。夜のお勤めは精神がやられていく者が多いので、まずは真人間ならぬ真竜に戻ってもらわなければ。こんなことで水竜ちゃんみたいな竜が増えたら厄介すぎる。

 眠そうにしながらも竜の娘たちは起き上がり、俺とセスにしなだれかかってきた。危うく惚れそうになるも仕事中なので、心を鬼にして水竜ちゃんの方にぶん投げた。

 その後、マルケスさんとベルサには島の畑跡や魔物の調査に行ってもらう。輸入に頼るにしても、食料だけは確保しないとどうしようもない。特産品があればいいのだが。他の社員たちも屋敷の修復が終われば、マルケスさんとベルサに合流することに。

 俺は竜たちに説教。島の方針を決めていく。

「竜の娘さんたちも人の心については十分に理解できたかと思います。人の心は移ろいやすく、そっと押せば簡単に落ちたでしょう。その人心掌握の技術を今度は島の再建に活かしてください。このままだとすぐに島が滅びます」

 水竜ちゃんと一緒に焼いた魚の魔物にかぶりついている竜の娘さんたちに言った。

「でも、それじゃあ金が……」

「金でお腹は膨れません。そんな少しの魚の魔物で満腹ですか?」

 竜の娘さんたちは首を横に振った。

「もちろん、俺だって美しい女性も金も大好きです! でも、健康であればこそです。レッドドラゴンみたいに30年に一回しか起きないような生活になりますよ! いいんですか?」

 竜の娘さんたちは「いやだ」と泣きそうになりながら首を横に振った。元引きこもりのレッドドラゴンは号泣。黒竜さんは「我輩の采配ミスか」と嘆いていた。

「で、何するのよ?」

 顔を魚の魔物の脂でテカテカにした水竜ちゃんが聞いてきた。金太郎が着ているような前掛けをしているため、童貞を殺しそうな見た目をしている。

「食料調達です。水竜ちゃんはそのまま魚の魔物を調達してくるのでもいいですが、家の中で練炭を焚かないでね。死んじゃうから」

「そうなの? だから皆苦しそうだったのね?」

 屋敷が劣化し隙間風が吹いていてよかった。

 とりあえず、竜たちには普通の村人のような服を着せて、屋敷の修復作業を引き継がせた。自分たちの家くらい自分たちで直した方がいい。

『多産の魔物がいいんだよね?』

 ベルサから連絡が入った。養殖をするなら多産の方が手っ取り早い。ただ、それに伴って餌をどうするかが問題なんだけどね。

「餌があるならいいんじゃないか?」

『了解』

 なにか魔物を見つけたのかもしれない。

ある程度、竜たちに修復作業を教えたので、俺たちもベルサとマルケスさんの方に向かう。自然と魔物は女性陣が、畑は男性陣となった。性差別はまったくないがうちの男性陣は草食系というやつなのかもしれない。


畑跡は町の東側にあり、島の中腹ほどにあり、ほぼ森と化していた。

その森をかき分けてガサゴソとマルケスさんが出てきた。

「山側に果樹園があったようだね。でも虫の魔物に食われてた」

 そう言ってマルケスさんは親指サイズのカミキリムシの魔物を見せてきた。

「まずは畑の草木を掃除して、害虫を駆除しますか……」

「結局、やっていることは普段と変わらない仕事ですね」

 セスが準備運動をしながら言った。

「できることをやるだけさ、だからうまくいくんだよ」

 俺もマスクと軍手をしてから、森の中に入る。一応、崩れた石垣があるので、それを目安に草を引き抜き、木を切り倒す。そんなに太い木はないので、殴ってもよかったのだが、マルケスさんが斧を持っていたので借りた。

「この斧、すごい切れますね。文明の利器ってすごいや」

「いや、普段どうやって木を切り倒していたんだい?」

 マルケスさんが聞いてきた。

「だいたいアイルが剣で切り倒してしまいますね。あ、ほら今セスがやっているみたいにです」

 セスは自分の腕くらいの太さの木をナイフで切り倒していた。

「曲がったりしないのかい?」

「魔法陣で強化すれば、そんなに曲がることはないですね。あとは勢いとかでどうにかなってます」

「そ、そうか……」

 マルケスさんは不思議そうにセスの行動を見ていた。

セスは切り倒した木の切り株を無理やり引っこ抜いて、地面に穴を開けている。根に付着した土を払ってから石垣の外に放り投げた。

「土作りが必要ですよね? マルケスさん?」

 南半球でバレイモの畑は作っていたが、農業についてはマルケスさんのほうが詳しいだろう。

「そうだね。いやぁ、君たちといるとなんでもできそうになってくるなぁ。ああ、そうだ。ふるいか網は持ってるかい?」

 土を柔らかくするために、ふるいにかけて土の中のゴミを取り除くつもりのようだ。

「網は魚を獲る用のしかないですけど……」

「わかった。じゃ、ナオキくんたちで畑の草刈り頼むわ。ちょっと村に行って探してみる」

「了解です!」

 マルケスさんは村へと続く坂を下りていった。

 俺たちはそのまま草刈り。細い木や硬い蔦なども多かったが、刃物さえあれば作業にまったく影響がない。魔力の壁や力を込めたチョップなど使わなくてもいいなんて、道具って素晴らしい。

 1時間も作業をしていれば、石垣の中には草木がなくなった。ただ、石垣内に作物が育ったとして、竜たちと村人たちの食料が賄えるとは到底思えない。

「畑って広げるんですかね?」

セスが聞いてきた。

「多少は広げるだろうけど、島民か竜を追い出さないのであれば、やっぱり特産品を作って交易するしかなさそうだな……」

 そう簡単に特産品が見つかるとは思えないので、俺の顔も渋くなる。

「おーい。あったよ~!」

 マルケスさんがふるいを持って戻ってきた。

「使ってなかった廃墟の物置にあったんだ。軽く直せば使えるでしょ?」

「ええ、網さえあれば問題ないです」

 木工スキルを持っているので多少壊れたものでもすぐに直せる。

「マルケスさん、なにを育てたらいいですかね?」

 ふるいを直しながらマルケスさんに聞いた。

「キャッサバなら育つよ。でも、暖かい気候だからねぇ、ペピーノとかプランテインとかかなぁ」

ペピーノはメロンみたいな瓜でプランテインは甘くないバナナみたいなものらしい。マルケスさんがダンジョンから種と実を持ってきていて、俺のアイテム袋から取り出して見せてくれた。

「このくらいの畑をいくつか作れば島民たちの食べ物は賄えそうだけど……」

 マルケスさんが畑を見ながら言った。

「大食漢の竜たちはどうでしょうね。アイルたちに期待ですかね。とりあえず、果樹園の方もやっちゃいましょう。カミキリムシの魔物の駆除もですよね」

「魔物除けの薬と吸魔剤ですか?」

 セスが聞いてきた。

「いや、一旦雑草を抜いてから木を調べてみよう。メルモに鳥の魔物を使役しておくよう言っておいてくれ。木が全滅していなければなるべく吸魔剤を使いたくないんだ。世界樹と違って木に影響があるかもしれないだろ? それに魔物除けの薬も虫媒花だと結局、実ができなくなるかもしれないからな」

「了解です」

 セスがそのままメルモに連絡していると、ベルサが替わった

『ナオキ、ちょっと島の上の方に来てくれる?』

「どうかしたか?」

『魔物は見つけたんだけど、ちょっと煮詰まっちゃって』

「了解。あ、こっちにアイル呼んでくれる? 果樹園の木がカミキリムシの魔物に食われちゃってるらしくてさ。アイルは世界樹の剪定もしてたろ?」

『OK! そっち向かうわ』

 アイルから返事が来た。


 俺とアイルは空飛ぶ箒を使い、空中で場所を教え合い「よろしく~」と、それぞれの現場に向かった。

 島の洞窟近くの沼ではベルサとメルモがツナギ姿で俺を待っていた。2人の周囲には黄色いカエルの魔物であるイエローフロッグの死体が水面に浮いている。イエローフロッグと言えば即死系の毒を持っているはずだ。

「まさか、イエローフロッグを家畜にする気?」

 俺は2人の間に飛び降りながら聞いた。

「ん? ああ、そうそう。毒さえ気をつければサイズも繁殖力もいいと思うんだけどねぇ」

 ベルサは腕を組んで言った。

 イエローフロッグのサイズには個体差があり、大きいもので大型犬ほどはある。カエルの魔物なので卵はたくさん産むという。

「毒対策だよなぁ。どうやって皮を剥ぐんだ?」

「それについては鉤爪を刺して吊るしてしまえば、結構簡単ですよ」

 メルモが浮いているイエローフロッグの尻に大きな釣り針のような鉤爪を刺して、木に吊るし解体して見せてくれた。

「毒は皮のイボに溜まってるから、これも毒薬としてはいい素材で特産品になるかなって思うんだけど……」

 ベルサは洞窟スライムの粘液でコーティングして乾かした軍手を嵌め、皮のイボから毒液を絞り出し、瓶に入れた。

「なにが問題なんだ?」

「天敵がいるんだよ」

「こんな毒ガエルの魔物を食べるような魔物がいるのか?」

「洞窟にね」

 そう言ってベルサとメルモは、前に俺たちがドラゴンゾンビを駆除した洞窟へと俺を連れて行った。

 探知スキルで見ると、洞窟の中には魔物がかなりいる。ドラゴンゾンビが消えて、いろんな魔物が増えているようだ。

 そんなことより洞窟の中が明るいことが気になる。

「洞窟に魔石灯でもあるのかな?」

「火吹きトカゲと呼ばれる魔物がいるんだけど、それが……」

 ベルサが喋っている途中で、ボフッと炎が目の前に迫ってきた。

 3人とも魔力の壁で防ぐ。

「この火吹きトカゲがイエローフロッグの皮を毒ごと焼いてペロリと食べてしまうんだよ」

 ベルサが説明した。

「なるほど、ね」

 俺は探知スキルで位置を確認して、火吹きトカゲの周囲に魔力の壁を展開。空気を抜いて圧縮し捕獲した。大きさは馬くらいの大きさだ。

「この火吹きトカゲは焼いたものしか食べないから毒が効かないし、近づくと全身に火を纏うからどうやって駆除するかで悩んでたんだけど……そうかぁ」

 ベルサがつぶやいた。

「回りから空気抜いちゃえばいいんじゃない?」

「でもこの方法は社長だけしかできませんよ。島民の皆さんと竜たちでも出来る方法を考えないと」

 メルモに注意された。まったくその通り。俺たちだけできても仕方がない。

「火を吹いている瞬間や火を纏っている時は身体が固くなって、斬撃や打撃の攻撃も効きにくいので何か罠を考えてほしいんですけど」

「ん~、この火吹きトカゲは解剖した?」

 俺はベルサに聞いた。

「いや、まだ。皮膚が固くて、ナイフに強化魔法の魔法陣を描いてもらえると助かる」

「OK」

 窒息死した火吹きトカゲを洞窟から引きずり出して、沼の岸辺で解剖した。

 黒い身体に黄色いまだら模様。上顎と舌の奥には硬い火打ち石のような器官があり、これをこすり合わせることで火を点けるようだ。さらに顎の下に引火性の液体を溜めておく袋があり、霧状に噴射することで火を吹き出しているのだろう。

 魔物の皮は火に強く、熱すれば斬撃や打撃にも耐えうるというすごい性能なので、普通に特産品として売れそうだ。

「皮を売ればいい気がするけどな」

「それもいいね。内臓は特に耐性があるわけじゃなさそうだよ。胸の魔石も大きいね」

 ベルサが血だらけになりながら、毒を内臓に垂らして試していた。

 メルモは肉を焼いて毒味している。固いが脂身が少なく燻製にして保存食にするといいとのこと。

「火吹きトカゲも食べられそうですね」

「そうだな。肉と内臓が焼けることがわかったから、とりあえず駆除方法は決まりだ」

「どうするつもりですか?」

 メルモが聞いてきた。

「イエローフロッグの死体から魔石を取り出して、加熱の石を入れておけばいいだろう」

「なるほど、爬虫類系の魔物は咀嚼しないもんね」

 ベルサが頷いていた。

「イエローフロッグの牧場はどのくらいの大きさにするつもり?」

「沼ごとでいいんじゃないか。当面の間、島民は立入禁止にして竜たちに管理してもらおう。あとは洞窟も鉱石がないかちゃんと調べたほうがいいね。いやぁ、特産品が出てきてよかった」

 俺は火吹きトカゲの皮を持って言った。


 夕方、俺たちは合流して竜たちの屋敷に戻り、調査結果を報告。竜たちに畑の今後とイエローフロッグ牧場についてプレゼンをしてから、就寝した。

 島の未来を決めるのは竜たちと島民たちだ。



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