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駆除人  作者: 花黒子
~風とエルフを暴く駆除業者~

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245/506

245話


 2週間、マルケスさんは偽エルフことガイストテイラーたちにダンジョンの運用を教えた。ただ、ガイストテイラーたちは砂漠や冷蔵庫の魔物を倒せないため、なるべく過酷な環境に設定して強い魔物を間引くという。

「戦闘スキルがあっても、魔物はなかなか強くならないもんなんだ。身体の作りがかなり違うからしょうがないんだけど……」

 マルケスさんはキャッサバを掘っているガイストテイラーたちを優しく見守りながら言った。魔族の国では、ボウがいたからそれぞれ魔族の特性を活かしていたが、まとめられる能力がないと共存は難しいだろう。

キャッサバにもいくつか品種があるようで、マルケスさんは「これは毒が強いやつで、こっちは甘みが強い」と言いながら俺に渡してきた。俺はそれをアイテム袋に入れてメモを取っておく。

「ダンジョンの作物は限られているから病気が流行ったら一発で品種が絶滅しかねないんだ。だから、いろいろ育てておくんだよ」

 マルケスさんはダンジョンでの生き方を熟知しているようだ。

 俺たちはダンジョンで採れる成長剤になるキノコはもちろん、興奮剤になる薬草や鎮静剤になるキノコ類などを採取。マルケスさんに言われた魔物の駆除もしておいた。


 出発の日はガイストテイラーたちが全員でマルケスさんを見送りに来たが、本人は特に寂しそうではなかった。

「ガイストテイラーたちに何か言わなくていいんですか?」

 俺がマルケスさんに聞いた。

「あいつらはエルフに見えるけど魔物だよ。どうせすぐ死ぬんだから、あんまり思い入れはないよ」

 300年生きているマルケスさんはドライだった。

 

 船は一路東へと向かう。相変わらず、エチッゼンというクラゲの魔物が海に大量発生していたが、アイルの斬撃で蹴散らし海に道を作った。

 水平線から島が見えなくなると、エチッゼンも消えて、船はぐんぐん進む。

飯はキャッサバの焼き芋と、海鳥の焼き鳥。キャッサバは味の薄いサツマイモ。マルケスさんが長年の研究で作ったという濃厚ソースがめちゃくちゃ美味しい。

「前は水竜ちゃんのどうでもいい話を聞いて地獄だったなぁ」

 俺は食後のお茶を飲みながら、マストの上で水平線を見つめた。アイルとベルサは「そんなことあった?」とほざいていたので絶対に許さない。

 丸一日経ち、東の水平線に島が見えた。

「竜の島だ! 空にも注意を! 食べ物は隠すように!」

 アイルが指示を出した。

「「「「アイアイサー」」」」

 船に乗っているとなぜか返事がそれっぽくなる。

「竜はそんなに大食漢なのかい?」

 マルケスさんがキャッサバを口に詰め込んで聞いてきた。

「ええ、あいつらの胃袋は宇宙です。異空間に通じているのかもしれません」

 そう言って警戒するために、俺は探知スキルを展開した瞬間に背筋が凍った。

「そう、警戒しなくてもいいじゃないか?」

 黒竜さんが空から甲板に落下してきた。強化魔法の魔法陣を描いてなかったら、船ごと海の藻屑と化していたかもしれない。

「ごきげんよう。久しぶりだね」

 人型の黒竜さんは全身真っ黒のスーツで微笑んだ。雰囲気は悪魔と言われると、信じてしまいそう。

「お久しぶりです、黒竜さん! 皆さんお元気ですか?」

 俺はマストから降りて黒竜さんの前に立った。

「ああ、もちろん。と言いたいところだけど、なかなかうまくいかなくてね。なにかないかと辺りを見渡していたらこの船を見つけたんだ。まさかコムロカンパニーだとはね。渡りに船とはこのことだ」

「島でなにかあったんですか?」

 恐る恐る聞いてみる。前来た時はゾンビの島と化していた。どうせろくなことになっていないだろう。

「とりあえず、港に船をつけて我輩の私塾に来てくれたまえ」

 そう言うと、黒竜さんはふわっと跳び上がり、空で竜の姿に戻ると島へと飛んでいってしまった。

「どうしよう。このまま逃げ出そうか?」

「もっと厄介な目にあうよ」

 俺の願望をベルサが止めた。


 想像に反して、竜の島の港は人が多かった。

「なんでこんなに人がいるの?」

「大丈夫か? 前みたいにゾンビになってたりしない?」

 アイルとベルサが警戒しながら港にいる人々を観察した。

「大丈夫。柄が悪そうだけど人ではあるよ」

 探知スキルで見た俺が言った。

「でも、なんか元気がないように見えますよ」

 メルモが言うとおり、島の人に覇気が感じられない。目が虚ろというかやさぐれている。あまりちゃんと服を着ている人は少なく、暑いのか半裸の人が多い。まだ春だがこの島は赤道が近いからか、確かにじっとしていると汗ばむ。

「病気ですかね? とりあえず、船を着けますよ」

 セスはそう言って、港に船を着けた。

「へぇ~、近所にこんな島があったとは。あの魚も食べられるのか? 珍しい野菜もあるなぁ」

 マルケスさんは港で売っている魚や野菜が気になるようだ。

 そのまま、セスとメルモはマルケスさんと一緒に食品を見て回ることに。俺はアイルとベルサを連れて、村外れの屋敷へと向かう。

「村の建物はあんまり変わってないね」

「修繕して使ってるんだろう」

 ベルサの言葉に俺が返した。

「ん? あれは……」

 港の端に大きな木箱が並んでいた。すでに中身は空のようだが、俺が前にマーガレットさんに提案したコンテナそのもの。蔦が絡まり、周囲には雑草が茂っている。やってみたものの失敗したのだろう。木製だと壊しやすいのかもしれない。

「どうかしたか?」

 立ち止まってコンテナを見ている俺にアイルが聞いてきた。

「いや、なんでもない」


 黒竜さんの私塾こと屋敷の外観は以前と変わらない。俺たちが扉を開けると、人型のレッドドラゴンが受付のカウンターで寝ていた。

「いらっしゃ……おおっ! お主は!」

「久しぶりだね、レッドドラゴン。この島の住人たちは皆なんでそんなに疲れてるんだ?」

「ハハハ、どうもこの島は夜行性の輩が多くて。いや、それよりも突然どうした? お主たちは今までどこへ行っていたんだ? なんども通信袋で呼びかけたんだがなぁ」

「ちょっと2年ほど南半球でスライムの駆除してたんだ」

「そうか。ハハハ」

 そう笑うレッドドラゴンだったが元気がない。なんだかやつれている。

「レッドドラゴン、この島で何があった?」

「何って……はぁ」

 レッドドラゴンはカーテンに仕切られた奥の方を見た。

「我輩から説明しよう。こちらに来てくれ」

 黒竜さんが奥から俺たちを呼んだ。

 カーテンを開けると、ソファーで寝ている美しい女たちがいた。おそらく人型になった竜たちだろう。以前、何人か見たことがある。皆、パーティードレスを着ていた。

 ソファーの前にあるテーブルにはコップと水差し。奥にはカウンターがあり、人型の黒竜さんが酒瓶を棚にしまっていた。ん~キャバクラかな?

「一階は竜の娘たちと酒を飲めるスペースで、二階はサイコロの賭場になっている。夜になれば毎晩のように宴だ。我輩の私塾もこの島も変わってしまったよ。はぁ……」

 黒竜さんは溜息を吐いて、振り返った。

「変わったって言ったって変わり過ぎじゃないですか? 前に来た時は人化の魔法を教えてただけだったのに」

「うむ。どこから話せばいいのやら……」

「聞きますよ。初めから」

 俺たちはカウンターの椅子に座り、黒竜さんはお茶を入れながら話し始めた。

「お主らが発った後、この島とフロウラで交易が始まったんだ。ただ、この島には何もない。光竜がいた洞窟は人には危険すぎて採掘も難しく、畑も果樹園も荒れ地と化している。移り住めるほどの家が何軒かあるくらいだった。それでも、マーガレットやブラックス家が助けてくれて、大きな箱に食料や材木を積んで送ってくれた。新天地を求める人を募集して島に来てくれる人間も少なからずいた。あの頃が一番良かったのかもしれない」

 そう言って黒竜さんはキレイな白いカップにお茶を注いで出してくれた。

「無論、交易路の警備など我輩たちからすれば朝飯前だ。むしろそれくらいしかできなかったんだ。大陸にいる友には、すまないと思ったよ。それがいけなかった」

 黒竜さんはそこで大きな溜息を吐いた。レッドドラゴンは俺たちの後ろで腕を組んで聞いている。

「新天地に来た者たちに向け、せめてサービスくらいはしてあげようとこの屋敷を解放し、竜の娘たちに客のお酌をさせたら自然と人気になるのは道理だろう。我輩としてはトラウマを抱えた娘たちに人の心を知ってもらいたいという思いもあった。だけど、竜とはどこまでも優秀な種族なのだよ。あっさり人間を魅了してしまった。そして、竜たちは金を知ってしまった」

 黒竜さんはポケットから金貨を取り出してカウンターの上に置いた。

「金は竜を惑わせる。我も初めて知ったよ」

 レッドドラゴンがそう言って、受付から一抱えはある宝箱を持ってきて、中を見せてくれた。金貨がびっしり。

「竜の娘たちは、誰が一番人間たちから金を巻き上げられるか競争を始めた。我輩も娼館で儲けたことがあったから、少しくらいはいいだろうと思っていたのだ。人間だってこんな場所で落とす金にも限界があると思っていたのだがなぁ……」

 宝箱の中身を見るに、限界はなかったようだ。

「フロウラの友からの品も届かなくなって、我輩たちの腹は減るばかり。買い付けに行こうとしたのだが、なぜかあの大きな箱での交易は一時ストップしていると言われた」

 コンテナの交易が停まったのは、もしかしたら、波止場で働く人たちの組合に反対されているのかもしれない。黒竜さんはお茶を飲んで肩を落とした。

 直後、屋敷の扉がバンッと開いた音がした。

「帰ったのよ~!!」

 水竜ちゃんが局部だけを隠した姿で屋敷に入ってきた。肩には大きな魚の魔物を担いでいる。

「あれ!? 久しぶりじゃない? 元気してた?」 

「元気だよ。水竜ちゃんは元気なんだね」

「あーしは元気だよ。魚の魔物食べてっからね~。でも近海じゃ、全然魔物獲れなくなっちゃった。ほら、交易路の魔物を一掃しちゃったでしょ? 困るのよ~彼氏どころじゃないんだから! 皆お腹ペコペコ~」

「金はあっても腹は減る。どうすればよいのだ。コムロカンパニー」

 黒竜さんは心底疲れたというように言った。

「そう言われても、俺たち清掃・駆除業者ですからねぇ。基本的に清掃か駆除しかできませんよ」

「いや、養魚池も作ったこともあるよ」

「南半球ではバレイモの畑も散々作ったね」

 アイルとベルサが横から口を出してきた。

「世界樹の花を咲かせることだってできます」

「地震があれば真っ先に行って人命を救助しますしね」

「引きこもりのダンジョンマスターを外にだしたのもコムロカンパニーだ」

 いつの間にか、セスとメルモ、マルケスさんが屋敷に入ってきていた。

「まぁ、なんでも言ってみることだよ。うちの社長はひねくれてるけど、お人好しだから」

 アイルがそう言うと、黒竜さんとレッドドラゴンが期待の目で俺を見てきた。

「水竜ちゃん、最近どんな恋してる?」

 俺はいろいろ聞かなかったことにして、思いっきり話題を変えてみた。

「最近、してないのよー」

 逃げられそうにない。


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