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駆除人  作者: 花黒子
~風とエルフを暴く駆除業者~

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242/506

242話


「ナオキ様、おはようございます!」

「ん~おはよう」

 昨夜は造船所の食堂に寝袋を敷いてもらって寝た。

 すでに窓の外はかなり明るい。

「悪い、寝すぎたか?」

「いえ、すぐに朝食ができますよ。セスさんとメルモさんは料理がうまいんですね」

「うん。あいつらのお陰で南半球ではだいぶ助かった」

 俺はそう言ってのそのそと起き上がり、洗面所で顔を洗いに行く。食堂に戻ると、寝袋は片付けられ、工員たちが朝食を食べていた。

「うめぇ!」

「なんだこれは!?」

「これ、なんという料理ですか?」

「ミネストローネです」

 メルモが工員たちに質問され、ミネストローネと言い切っていた。前に俺が教えたスープだが、味も近いので文句はない。

「昨日は宴会してここに泊まったのか?」

 ベルサに聞きながら、俺もメルモのミネストローネを頂く。

「いや、私たちは宿に泊まったよ。あ、地図見つけた。小さい岩の島が幾つかあるから、シーサーペントがいるとすればそこかな」

 ベルサが報告してきた。

「了解。小舟を借りられるから飯食ったら行ってみよう。大きさがわからないと麻痺薬と眠り薬の量も決まらないからな」

「やっぱり毒を以て毒を制す、ですか?」

 メルモが聞いてきた。

「まぁな。わざわざ戦いに行く必要もないだろ? 俺たちは身体が資本だからね。安全第一。アイルを突っ込ませないように皆注意しておいてね」

「「「了解」」」

 当のアイルは昨日宴会で知り合った工員たちと仲良く談笑中。そういう奴も会社には必要。現地の人とすぐに打ち解けるのも才能のうちだからなぁ。とはいえ、自分たちの仕事は忘れないでほしい。

「ご飯食べたらお皿を洗って仕事開始してください~今日も元気に怪我しないように!」

 テルが工員たちに声をかけている。すっかり造船所の女将さんが板についているようだ。

 それまでアイルとバカ話していた工員たちもテルの声で時計を確認。急いでミネストローネを飲み干し、自分の使った食器を片付けていた。

「どんな仕事でもバランスが大事ってことだな。そのバランスのリズムとペースを作ってくれるテルは工員たちにとっては必要不可欠な存在になってる。うちの会社だとそれをアイルがやってくれるといいんだけどなぁ……」

 とぼけたふりをしてアイルに言ってみたが、本人に伝わっているのかどうか。


 朝食後、俺たちは小舟でシーサーペントの下見に向かうことに。小舟は古い小さな帆船で、俺たちが休める大きさなので十分。借り賃は、仕事の後で魚の魔物を獲って帰ろう。

「お気をつけていってらっしゃいませ」

 テルがトーマスを抱きかかえて見送ってくれた。

「ちょっと改造すると思うけど壊さずに返すから」

「どうぞどうぞ、古いものなので底が抜けなければどうとでもしてください」

 俺たちは手を振って海に出た。

 帆に風を受けて進む。もちろん防御魔法の魔法陣や風魔法の魔法陣、水魔法の魔法陣などは描いているが、他の港近くには船もいるので速度はゆっくり。あまり速いと造船所に注文が殺到してしまったり変な輩に狙われたりして迷惑をかけかねない。

ウミネコの魔物の鳴き声を聞きながら沖に出ていく。

地図上では東に10キロほど進むと岩の島が幾つか現れるはず。マルケスさんの島はそのさらに先のようで地図にも描かれていない。

周りから船が見えなくなったので、魔法陣を使って進んでいくと岩の島が現れる前に紫色の霧が海面に見えた。

「わかりやすい毒の霧が発生しているね」

 俺たちは距離を取って霧の周囲を回りながら、霧を観察した。遠くから見ると、風が吹いているにも拘らず、ほぼマッシュルームのような形をしている。

「中心にシーサーペントがいると思っていいみたいだね」

 ベルサが言った。

「あっ! 社長! 向こうにも!」

 メルモが船首の方を指差した。

 指の先にはやはりマッシュルームの形をした紫色の霧が発生している。

「1匹だけじゃなかったか」

 全員ツナギにマスク、耳栓など完全防備で警戒しながら出来る限り近づき、俺が探知スキルで大きさを確認。だいたい25メートルほどのウミヘビの魔物がとぐろを巻いて岩場で眠っていた。

霧の成分も調べたいので、魔力の壁で霧の一部を覆い圧縮。毒魔法などだったら圧縮しても何も残らないが、ちゃんと紫色の液体が残った。空の瓶に詰めて後でマスマスカルなどの適当な魔物で実験することに。

「じゃ、町に戻りつつ魚の魔物を獲っていこう」

「「「「了解」」」」

 注意していたせいか、アイルは突っ込むこともせず、「リズム、バランス……」とぶつぶつ言っていた。

 魚の魔物は音爆弾でいつものように捕獲。とっととマリナポートに帰る。

 

 昼頃に帰ると、テルが「もう帰ってきたんですか?」と驚いていた。

「今日は様子見だけだから。駆除は明日以降だよ。あ、シーサーペントは1匹じゃないから出港する船に注意しておいてほしいんだけど……」

「わかりました。私たちの方で役所や冒険者ギルドには伝えておきます」

「助かるよ」

 テルは察しがよく、仕事が速いのですぐに動いてくれた。


 昼飯はランチをやっている居酒屋で済ませることに。ついでに打ち合わせも食べながらやってしまう。

「作戦はどうするんです?」

 セスが聞いてきた。

「相手はヘビ系の魔物だからな。罠は熱に関するものがいいんじゃないかと思ってる。活動的な夜はたぶんあの岩島にはいないだろうから、樽に温かいお湯か酒を入れて、岩場に置いとこうかと」

「それはいいと思うよ。ヘビの魔物の熱検知能力が高いことは師匠も言ってたし」

 ベルサが俺の案を推した。

「毒はどうする?」

 俺がベルサに聞いた。

「あとで実験するけど、あのシーサーペントたぶん麻痺系の毒を使ってると思うんだよね。だから、こっちは出血性の毒でどうかなって」

「どうやってその毒を手に入れる?」

「ん~それなんだよね。父親のコレクションから持ってきたものがあるけど、あのシーサーペントの大きさだと量が必要でしょ。一応、私はここら辺に住んでたからね。毒キノコとか知らないことはないんだけど……ナオキの薬学スキルでどうにか毒の濃度を上げたりできないかな?」

「わかった。やってみるよ」

 俺が返すと、なぜかアイルが「無理するなよ」と言ってきた。

「アイル、惜しい。もうちょっと南半球の時みたいに命の危険があるときにバランスを見てくれ」

「ん~難しいな……」

 

大盛り海鮮パスタをしっかり食べてから、町の西側、山近くの森へと向かう。ベルサの案内もあるので、毒キノコは目当て以外も大量に手に入った。

ついでに森で捕まえた小さなリスの魔物にシーサーペントの霧の毒を近くで嗅がせたところ、動きが鈍くなり痺れていた。

「やっぱり麻痺系だね」

 リスの魔物は麻痺が解けてから、森に逃した。

「さて、どこで毒作るかな?」

「雨宿り用の洞窟があるよ」

 ベルサが山にある洞窟へと案内してくれた。クマの魔物が冬眠していたようで、ものすごく獣臭かったが、クリーナップをかけて使うことに。

 鍋に脳みそのような形の毒キノコを入れて木の棒で潰していく。もちろんマスクと軍手着用で作業する。

「樽買ってきて。酒ごと買うと高いから、古い酒樽とかのほうがいいよな?」

 俺がセスに指示を出しながら、会計のベルサに聞いた。

「うん、中身が漏れない樽ならなんでもいいんじゃない? 魔物の肉も入れてかさ増ししたほうが安上がりだし、シーサーペントもちゃんと飲み込んでくれると思う。アイルたちは適当に魔物の方を頼むよ」

 ベルサがアイルとメルモに指示を出した。

「「了解」」

「メルモ、血も使うからきれいに狩ってきてくれよ」

「は~い」


 毒は熱で消毒されると意味がないので、ぬるい水を入れながら液状化させていく。

 セスが古い酒樽を8樽買ってきたので、ベルサと交代。俺は樽に保温の魔法陣を描き込んだ。火を焚いて、樽で囲む。熱くなりすぎないよう距離のバランスを見ながらの作業だ。

 そのうちアイルとメルモがクマの魔物を狩ってきたので、解体して血を残さず肉を樽に詰めていった。クマの胆は薬になっちゃうので、内臓系は外す。

 樽に出来上がった毒と果実酒を入れて樽いっぱいにぬるま湯を入れて完成。コムロカンパニー特製の出血毒の樽罠だ。

「夜になるまで待って、岩の島に仕掛けに行こう」

 使った焚き火の跡や洞窟内をきれいに清掃して、樽を借りている小舟に運ぶ。布をかけて、夜までは待ちだ。

 テルに洗濯板を借りて、ツナギを洗濯。テルは、俺が教えた柑橘系の匂いがする石鹸を今でも作って使っているらしい。造船所の屋上で、風魔法の魔法陣を描いた板を使って乾燥させていると、夕食の匂いがしてきた。

「夕飯できましたよ~」

 テルが呼びに来てくれた。

「ん、今行く。悪いね。造船所を家みたいに使っちゃって」

「フフフ、なにをいまさら。ナオキさんは遠慮しないでください。私たちは恩を返せるだけ幸せですから」

 テルは奴隷出身で親はいないし、親方の両親も他界しているのだという。「孝行したい時分に親はなし」ということわざがこちらの世界にもあるらしく、テルは俺が生きててよかったと笑っていた。

「俺も返せる人には返していかないとな」

 そう言って乾いたツナギを着て、食堂に降りていった。


うちの社員と造船所の工員たちと一緒に夕飯を食べ、テルとお茶を飲みながら旅の話をしていると、とっぷりと日が暮れていた。

「社長、そろそろ」

 セスが呼びに来たので、シーサーペント駆除へと向かう。

「こんな夜中に仕事ですか?」

 テルに聞かれた。

「俺たちの仕事は魔物の生活スタイルで決まってくるからね。ねぐらにいない時を狙って罠を仕掛けてくるだけだよ」

「春になったとはいえ、夜の海は冷えますから十分気をつけていってらっしゃいませ」

「はーい、いってきまーす!」

 テルに見送られて、出港した。


空は雲ひとつなく星が煌めき、陸から吹く風が船を進ませる。

探知スキルを使うと海の中にシーサーペントらしき魔物が見えたが、水魔法の魔法陣を使ってなるべく出会わないように岩の島へと向かった。

島の周囲に紫色の霧はない。

 樽の外側を触って温度を確かめ、保温の魔法陣に魔力を込めて、島の岩陰に設置。2つの岩の島に8樽全て設置してから、ゆっくりマリナポートに帰る。

 あとは明け方、様子を見に行って死体を回収すれば依頼達成である。

「あ、死体の回収どうする?」

「ああ、肝心な事を忘れてた」

「死体がないと報酬貰えませんよね?」

 俺とベルサ、セスが頭を掻いた。

「解体して持っていけばいいじゃないか?」

「引っ張ればいいじゃないですか?」

 アイルとメルモが無茶をいう。

「引っ張ろうにもこの小舟じゃ、船のほうが沈むだろ? もっと大きな船がいるよ。大きなシーサーペントが2匹もいるんだから。太いロープも必要だなぁ」

 俺は造船所で何度も頭を下げて親方に掛け合い、どうにかマリナポートの漁業組合から一隻大きな船を出してもらうことに。ロープも造船所で使っている物を貸してもらった。

「夜が明ける前に船を出すなんて何ヶ月ぶりかだよ。あんちゃんたち本当にシーサーペントから船を守ってくれるんだろうね?」

 漁業組合の組合長も見届人として乗り込んできた。

 今まではシーサーペントの動きが活発な夜は一切船を沖に出せなかったという。

「死んだら、すいません」

「ええっ、やっぱり奴隷に任せるべきだったかぁ……」

 組合長は黒い顔を青くして言った。

「やっぱり闘技会で優勝した奴隷たちが船に乗って退治しに行くんですか?」

「まぁ、始めのうちはそうだったけどね。最近は闘技会の主催者も船が帰ってこないことがわかってるんで、勝負を賭けにして儲けてるみたいよ。こっちは見捨てられちゃってにっちもさっちもいかないよぅ」

 組合長は情けない声で汗を拭いていた。

 岩の島に着く頃にはしっかり夜が明けており、東の水平線から太陽が昇っていた。白黒の縞模様のシーサーペントもしっかり3匹岩場で死んでいる。

「2匹じゃなくて3匹いたのか……ま、いっか。アイル! 牙と毒袋だけ先に回収しておきたいんだけど!」

「了解」

 アイルはピョンと跳んで、岩の島に降り立ち、サクッと頭を割り牙と毒袋を回収。壺に入れてしっかりアイテム袋に入れた。ついでに出血毒が詰まった内臓も引きずり出し海に捨てる。毒は拡散されて、海底に沈んでいくだろう。

 その間、組合長はずっと「あわわわ……」と言い続け、目の焦点が合っていない様子だった。

 周囲の海に血が流れたので、サメの魔物が集まってきたが、音爆弾で追い返す。音爆弾の音で組合長が正気に戻った。

「あんたら何をやったんだ?」

「いや、シーサーペントの駆除です。3匹倒したんで、報酬も3匹分くれると思います?」

 俺が聞くと、組合長は首を横に振っていた。

 確か、シーサーペントの討伐依頼は金貨1500枚だったはずだから1匹、金貨500枚と考えて納得するか。

 とりあえず、シーサーペント3匹と船をロープで結び、引っ張って見ることに。

「かなり傾くね」

 ベルサが心配そうに言った。

船が後ろに傾き、ロープが千切れそう。

「1匹だけ持っていって、あとの2匹はうちの組合で回収させてもらうよ。もうシーサーペントはいないんだろ?」

 組合長が聞いてきた。

「ええ、もう見当たりませんね。報酬は……」

「報酬は全額、そっちで持ってけ! 夜の漁が解禁すりゃ、こっちは稼げるんだから」

「じゃ、お願いします」

 そういうことになった。


 港に帰ると大騒ぎ。

 本格的な解体は漁業組合の漁師たちが総出でやってくれるらしいので、全て任せる。

「あとで魔石を取りに来てくれ」

「すみませんね。後片付けを任せてしまって。毒で殺したので、マスクや軍手をしてください。血管を切る時は慎重に。一度熱処理したほうがいいかもしれません」

 注意事項を言っておく。注意はしたので、ここからは自己責任で。

「わかったわかった。よーし! 野郎ども、仕事だぁ!」

 組合長が声をあげると、漁師たちが「おおっ!」とフィーホースを真っ二つにできそうなくらい長い包丁を掲げた。

 俺たちは、その足で冒険者ギルドへ向かう。

「シーサーペント3匹を討伐しました。1匹は港で今解体中です」

 牙を見せて報告。アイリーンが偽造してくれた冒険者カードも見せる。

「は? ……はい。ちょっと待って下さいね。確認しますので……」

 ギルド職員たちが急に慌てだした。

「じゃ、確認が終わったら声かけてもらえますか? 造船所にいますから」


 俺たちは造船所に行って、依頼達成を報告。テルや親方はもちろん工員たちも拍手で祝ってくれた。

「仕事しただけだから。でも報酬が結構入るから、あの借りている古い帆船を売ってくれませんか?」

「ああ、もちろん、構わないですよ!」

 親方の了承を得た。


 その後、2日ほどシーサーペントの解体と冒険者ギルドの確認作業が続いた。



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