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駆除人  作者: 花黒子
~風とエルフを暴く駆除業者~

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239話


翌朝、俺はカミーラのベッドで寝ているところを、バルザックに起こされた。

「おはようございます。やっぱりここでしたか」

「おう、悪い。寝てた。朝まで回復薬作ってたから、そこにできてるよ」

「ありがとうございます。お茶入れますね」

 そう言ってバルザックは水を汲みに裏の井戸に行った。

 窓から差し込む朝日は柔らかく落ち着いてしまう。なんだか実家に帰ってきたような気分だ。


 社員たちと通信袋で連絡を取ると、アイルとメルモが二日酔いだそうだ。

 ベルサは現在、衛兵に職質を受けているところ。朝からなにやったんだ? 

セスは、なんか知らんけど後ろから女の声がしたから、娼館かもしれない。なぜ俺を呼ばなかったんだろう。なにより、セスは俺より給料をもらっているのか!? 納得行かないなぁ。

 今日も仕事をしつつ情報収集。皆それぞれ営業も仕事もできるので、不測の事態でもない限り、俺を頼るようなこともない。2、3日は滞在すると言ってあるので、明日集まればいいだろう。

「どうぞ」

 社員たちの報告を聞いている間に、バルザックが熱いお茶を淹れてくれた。

「ああ、ありがと。落ち着くなぁ……」

 しばらく、お茶を飲んでぼーっとしたあと、俺もバルザックに報告することがあったのを思い出した。

「カミーラがさ。この店好きにしてってさ」

「ナオキさんにですか?」

「ああ、里帰りしたまま、こっちに戻ってこれないみたいだよ」

「そうですかぁ……」

「まぁ、とはいえ、俺にはまだ依頼がのこってるからなぁ。クーベニアに留まって薬屋なんてできねぇよ。誰かいないかなぁ」

「薬屋ですか?」

「薬屋じゃなくてもいいけど、バルザック、ここの店を使って何かする?」

「私には墓守の仕事もありますしね。ああ……でも古道具屋くらいならできますかね」

 バルザックはそう言ってお茶を飲んだ。

「古道具屋? なんで?」

「魔物を討伐に森のなかに入ると、冒険者や行商人の忘れ物や遺品なんかがよく落ちてるんですよ。それが小屋の裏に溜まってしまっていましてね。奴隷生活が長かったものですから、どうも捨てるのはもったいなくて。それを洗ったり修理したりして、いつかもう一度、人の役に立てないかなと思っていたんですが、今はそのままになっています」

「なるほどねぇ」

「いや、しかし店番もいませんから、爺の叶わぬ夢ですかな。ハハハ」

「いや、いいんじゃない? 墓守が暇な時にここに来て古道具屋をやっても。売れたら儲けものだよ」

 そう言って、俺がお茶を飲んでいると、キーッと店のドアが開く音がした。

「いらっしゃい!」

 思わず昔の店番を思い出して、声を上げてしまった。

店の方に顔を出すと、ヤギの獣人の青年とおばさんがこちらを警戒しながら棍棒を持っている。

「強盗ですか? 今、ここに金なんてないですよ」

「あんた誰だい!?」

 おばさんが俺に恐る恐る言った。

「誰って、前にここに住んでた者ですけど……」

「ああっ! どうも! ナオキさん、ここのお隣の金物屋さんですよ」

 そう言って俺の後ろからバルザックが出てきたところで、獣人の青年とおばさんは安心したように、棍棒を下ろした。

「こちら、ナオキさん。私の元主人です」

 バルザックは金物屋さんの親子に俺を紹介してくれた。

「ああ! そうかいそうかい。いやぁ、ドアが開いてたもんだから、カミーラ婆さんが帰ってきたと思ったら、男の人の声がするから、強盗でも入ったんじゃないかと思ってね。息子を連れて来たんだよ」

 獣人のおばさんは笑いながら説明した。バルザックとは顔なじみのようだ。

 お互いに強盗だと思っていたとは。

「ハハハ、ナオキさんは私よりも強いので攻撃していたら首が飛んでいたところでしたよ」

 バルザックが獣人の青年に言うと、青年はギョッとして俺の方を見ていた。

「そんなことしないよ。ところで、この店を古道具屋にしようと思ってるのですが、いい大工さんっていませんかね? あと従業員もいると嬉しいんですけど」

「大工さんなら、知り合いがやってくれると思うけどね。従業員となると冒険者ギルドで頼んだほうがいいかもしれないよ」

 獣人のおばさんが言った。

「いや、冒険者ギルドに頼んじゃうと冒険者が来ちゃうじゃないですか」

「そうじゃないんですよ、ナオキさん。冒険者を辞めたい人もいるんです」

「ああ、そうか」

 旅を続けている俺は勝手に冒険者は一々辞める必要がない職業と思っていたが、ちゃんと自分の店を持って商人として一から出直したいと思う人もいるだろう。

「それじゃあ、ちょっとバルザックは大工さんを紹介してもらって自分の古道具屋のイメージを伝えて。俺は冒険者ギルドで、従業員を募集してみるよ」

「あーナオキさん、あんまり大々的に募集はかけなくていいですよ。昨日、アイリーンさんが言っていたように、このクーベニアでは冒険者が少なくなっているので……」

「ああ、そうか」

 なかなか難しい募集をかけないといけないようだ。

「それに先立つものが……」

 バルザックは頭巾を脱いで、ゴシゴシと頭を掻いた。

 墓守をして魔物もたくさん倒しているなら、金くらいあるだろうに。

「バルザック! 金は何に使ったんだ?」

「老い先短いですからね。宵越しの金は持たないんでさぁ」

「バクチに手出してないだろうな!」

「そっちには出してませんよ!」

「はぁ、酒と女か……まったく」

 俺が自分の額をパシッと叩くと、横でバルザックも「面目ない」と自分の額を叩いていた。金を持っている奴が金を使わないと町の経済が回らないか。

「まぁ、いいや。冒険者ギルドで回復薬売って金作ってくるから、話先に進めといてくれ」

「OK!」

 バルザックは奴隷だった頃と同じように、親指を立てながら返事をしていた。フランクになんかするんじゃなかったと思いながら、元エルフの薬屋を後にした。

 


 冒険者ギルドは、この町に俺がいた頃よりも冒険者が少ない気がする。依頼書を貼った掲示板を見ても、依頼書の数が少ない。

 俺は併設されている道具屋に回復薬を6本売ってから、アイリーンのいるカウンターに向かう。朝早かったからかアイリーンは眠そうだったが、俺の姿を見て、真面目な表情になっていた。

「なにか御用ですか?」

 冒険者ギルドにいる時のアイリーンと俺は、あくまでも職員と冒険者。デートをするような仲と思われると、周りに嫌な目で見られるのかもしれない。俺もそれに合わせよう。

「いや、実はカミーラの『エルフの薬屋』を貰い受けてね。バルザックが古道具屋をやりたいっていうんだ」

「古道具屋ですか? ああ、拾った武器や防具を直したいっておっしゃってましたからね。でも、墓守はどうするのですか?」

「墓守を続けながら、古道具屋は副業になればいいな、と思ってるんだけど、一人でも従業員がいると助かるだろ? それで依頼書を出したいんだけど、いいかな?」

「冒険者ギルドにですか?」

「そう。やっぱりマズいかな?」

 アイリーンは溜息を吐いて、頬杖をついて考え始めた。

「……どうして?」

 考えていたアイリーンが急に俺に向かって質問してきたが、質問の意味がわからない。

「いや、バルザックがやろうとしてることを応援したいってだけだよ。ん? どういうこと?」

「ナオキさんは、クーベニアに戻ってきたのは昨日ですよね?」

「そうだよ」

「タイミングが良すぎるんですよ……」

 なんの事を言っているのかわからないが、依頼書を書いて掲示板に貼っていいのかな?

「ナオキさん、ちょっとギルド長と話をしてもらっても?」

「なんで? 別に偉い人と話すようなことでもないと思うけど……」

「王都から来たんですよね? 何か王都の冒険者ギルドから言われていたりしませんよね?」

「してないよ。まさか俺の冒険者カードをギルド長に見せたり……」

「それはしてません。あんなものを見せても私が偽造したと思われるだけです。どうぞこちらへ」

 アイリーンは他人行儀で俺を奥へと案内した。

「何を怒ってるんだ? 謝るよ」

「ナオキさんは何もしてません。謝らないでください。ただ運がいいんで、羨ましいと思っているだけです」

「運なんて、ずっと悪いけどなぁ。運がいいとすれば、アイリーンと会えたことかな?」

 おどけてみたが、アイリーンは無反応だった。職場にいるアイリーンはしっかりしていて、昨夜のちょろいアイリーンとは大違いだ。こっちが本物か。

「ギルド長、入ります!」

 アイリーンはドアをノックして、返事も聞かずにドアを開けた。

「アイリーンか。どうかしたか?」

 大きな机の奥には、つるっぱげの爬虫類系の獣人が座っていた。声は低く威厳に満ちている。クーベニア冒険者ギルド・ギルド長のホワイト・スネイクと紹介された。

「こちら私が信頼をしている冒険者のナオキ・コムロさんです。バルザックさんの元主人と言えばわかりやすいかと」

 アイリーンは俺を簡単に紹介した。

「バルザックさんの元主人といえば……そうですか。お噂はかねがね。どうぞ座ってください」

 ギルド長のホワイトは俺に机の前のソファに座るように言った。

「ギルド長が今朝言っていた計画をナオキさんに話していただけますか? たぶん協力していただけるかと。いや、先にナオキさんの方から依頼の件を話したほうがいいですね」

 なにか順番が重要なのか?

「アイリーン、俺は面倒事に巻き込まれるのは嫌だよ」

 俺はソファに座りながら、アイリーンに文句を言った。

「いえ、ナオキさんの依頼に関係することですので……どうぞ」

 アイリーンは手で俺に「ギルド長に話せ」と促した。

「じゃあ。まずは俺の元奴隷であるバルザックがお世話になっているようで、どうもありがとうございます」

「いえいえ、それはこちらとしても助かっております」

 ホワイトは俺の前のソファに座ってお礼を言った。

「実は、俺が『エルフの薬屋』の主人であるカミーラから店を任されましてね。俺は未だ旅の道中ですから、バルザックに何かやりたいことはないかと聞いたところ、『古道具屋がやりたい』と言うんです。森などで拾った冒険者や商人の忘れ物や落とし物がもったいないので修理して売りたいらしくて。とはいえ、バルザックには『墓守』という仕事がありますから、従業員を募集できないかと冒険者ギルドに来たというわけです」

 俺の話を聞きながら、ホワイトは『古道具屋』という言葉に目を見開いて反応していた。

「なるほど、アイリーンがどうしてあなたを連れてきたのかわかりました。すまない、アイリーン。お茶を用意して貰えるかな?」

「かしこまりました」

 アイリーンはギルド長の部屋から出ていった。部屋には俺とギルド長の2人きり。なにか秘密の話でもあるのだろうか。

「ナオキさんはクーベニアの冒険者ギルドの現状を知っていますか?」

「なんとなく、冒険者が減っていることはアイリーンから聞いていますよ」

「そうです。なかなかランクの高い冒険者が寄り付かなくなってしまっているんです。それで中央、王都からは依頼の件数が少ないとか、報酬の回収率が悪いなどいろいろ言ってくるんですね。それで、我々も熟練の冒険者に教官に来てもらうなどを考えたのですが、金銭的に無理がある。熟練の冒険者は、自分たちで稼げてしまうわけですから、良い給料でなければ冒険者ギルドにわざわざ協力する必要がない」

「わかります」

 ホワイトはちゃんとこちらの反応を気にしながら説明してくれるのでわかりやすい。

「それに他の町でもクーベニアのようなことは起こっていて、そちらが先に熟練の冒険者を抱え込んでしまっている。それで、まぁ、クーベニアでは他の冒険者ギルドではやってないようなことをしようと考えたわけです」

「なんですか?」

 俺は少し身を乗り出して、ホワイトの話を聞いた。

「冒険者の再生です。冒険者は様々な依頼をこなしますから言ってみれば『なんでも屋』なわけです。潰しがききやすい。転職しようと思えば、簡単にできてしまう。そこに問題があるんです。とりあえず冒険者になっておくかという腰掛け冒険者が後を絶たず、ギルドには依頼を受けない冒険者ばかりになっております。そんな者に限って居酒屋で暴れ、冒険者の評判は悪くなっている。一方で、冒険者を辞めたものの冒険者時代にあったスリルや情熱を、転職先で見つけられず、冒険者に戻りたいという者もいる。我々はその手伝いができないかと考えているんですよ」

「なるほど」

「それを今朝の朝礼で職員全員に話したところ、すぐにナオキさんが来た。元冒険者たちが戻る時に、古道具屋で壊れた剣や鎧を見て、『やっぱり冒険者は辞めよう』と思うか、『やっぱり自分にはこれしかない』と思うかは人それぞれだと思うのですが、そもそもそういう場所があるとこちらとしても非常に助かる。よろしければ、従業員についても我々に任せていただけないでしょうか」

 ホワイトは冒険者の遺品とは言わなかったが、要するに「旅の終わり」を見せることで冒険者をもう一度やるのか、それともやはり堅実に町の中で暮らしていくのかを判断させたいということだろう。

「自分の将来について少しの間考える場所を提供するということですね」

「そうです。本当は冒険者ギルドがそういう場所でありたいのですが、真面目に依頼をこなす冒険者に対しての業務もありますから。それに、依頼を受けない冒険者たちへ指名依頼として古道具屋で働かせてみて、自分が冒険者に向いているかどうかを判断させてみてもいい。正直、そういった場所がないか探し始めたばかりだったのですが……」

 タイミングよく俺がやってきたということか。なるほど、カウンターでのアイリーンの対応の理由がわかった。

「わかりました。こちらとしては問題ありません。バルザックが古道具屋のオーナーということになるので、心配はないと思います。従業員については俺からバルザックに話しておきます」

「そうしていただけると助かります。今後ともよろしくお願いします」

 ホワイトに見送られ、俺は部屋を出た。

 給湯室でお茶を用意していたアイリーンに、「明日、デートしよう」と言ってから、冒険者ギルドを出た。

 急な誘いだったがアイリーンは「なんとしてでも休みますから、大丈夫です」と返事をしてくれた。無理はしなくてもいいのに。




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