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駆除人  作者: 花黒子
~風とエルフを暴く駆除業者~

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235/506

235話


 俺たちは冒険者ギルドで討伐部位を換金し、ワニの魔物が地下道にいたことを報告し魔法学院に向かう。魔法学院の場所については冒険者ギルドの職員に聞いた。

 アリスポートの魔法学院は町の東側にあり、敷地が広く、建物もこちらの世界では見たことがないくらい大きい。大型ショッピングモールくらいあるのではないだろうか。

「やっぱり勝手に入っちゃマズいんですよね?」

 魔法学院の門にいた門兵に聞いた。

「一応、関係者以外立ち入り禁止になってるんですけど……」

 気の弱そうな門兵がか細い声で言った。セスの筋肉を見てビビっているのかもしれないと思って振り返ると、メルモが血の付いたメイスを手に持って門を見上げていた。見慣れた光景といえば見慣れた光景なのだが、初めて見た人からメルモは完全にヤバい奴に見えるだろう。

 俺はすぐメルモの全身にクリーナップをかけ、メイスをしまうよう言った。

「ベルベ先生の娘さんに来るよう言われたんですけど……」

「そ、そうですか。今ちょっと確認してまいりますのでお待ち下さい」

「はい。お願いします!」

 門兵は仲間の衛兵に話を通してくれて、確認を取ってくれた。とはいえ、確認なんか取ったところで、ベルサに俺たちを魔法学院に入れる権限を持っているのかどうかあやしい。

 しばらく待っていると、衛兵が背の高い細身の中年男性を連れて戻ってきた。中年男性は寝癖のついた髪を梳かしながら、俺たちを見て笑った。

「ヤハハハハ! 娘の友だちだそうですね。ただ、私も随分会っていなくて、どこでなにをやっているのやら、ちょっとわかりかねます」

 この中年男性が、ベルサの父でドヴァンの先生のベルベさんのようだ。どことなく顔はベルサに似ているが、とても落ち着いた雰囲気を醸し出している。

「たぶんベルサは魔法学院の中にいると思うんですけど、会ってないんですかね?」

「ほう。ベルサが来てるんですか? 本当に? どうしましょうか?」

 ベルベさんは静かな口調で聞いてきた。

「いや、まぁ、会ったほうがいいんじゃないですか? 娘さんですし。俺たちも呼ばれてるんで中に入れてもらいたいんですけど」

「そうですか。どうぞ」

 ベルベさんは簡単に魔法学院に入れてくれた。門兵がいる割にセキュリティーは甘いようだ。それだけの戦力が学院内にあるってことかな。

「あ、ベルサさんが勤めている清掃・駆除業者の社長をやっております。ナオキ・コムロと申します。よろしくお願いします」

「後輩のセスです」

「同じく後輩のメルモッチ・ゼファソンです」

 歩きながら挨拶をすると、ベルベさんは立ち止まって、俺たちを見た。

「ベルサが仕事をしていると?」

 信じられないと言うようにベルベさんが聞いてきた。

「そうです。うちの会社では会計と魔物学者をやってますよ」

「いや、失礼。あまりにも予想していたこととかけ離れていたため、少々驚いています。魔物学者にはなるだろうと思っていたのですが、まさか仕事をしているなんて……清掃・駆除業者と言いましたか?」

「ええ、お店の清掃やマスマスカルやバグローチの駆除なんかが主な業務です」

「それは儲かるものなんですか?」

「一応、社員たちを食わせていく分には。給料は滞ることもありますが……」

 俺の言葉を聞いてベルベさんは眉間に皺を寄せた。

「ベルサが金のためではなく動くとは……もしかして社長さんはベルサと、その……恋仲なのですか?」

「いや、それはありえないですね。ベルサがこの会社で働いているのは研究のためだと思いますよ」

「本当ですか?」

 ベルベさんはセスたちに聞いた。

「んーまぁ、僕は研究以外にも目的はあると思いますけどね」

「この会社にいると、絶対に他でできない経験ができますから」

 セスとメルモはコムロカンパニーについて簡単に説明した。

『あ、魔法学院の門兵が通してくれないかもしれないから空から来てね』

 突然、ベルサから通信袋で連絡が入った。

「あ、大丈夫。親父さんに入れてもらったから」

『え? そうなの! まぁ、いいや。ベルベの部屋にいるから案内してもらってきて』

 俺は通信袋を切った。

「だそうです」

「今、ベルサの声が聞こえましたよね?」

 ベルベさんが通信袋を見て、目を見開いている。

「ええ、部屋にいるそうです。案内してもらってもよろしいですか?」

「わかりました。こちらです」

 ベルベさんは先に歩きだし、俺たちを案内してくれた。

 

石造りの道を、魔法書を持つ学生たちやメガネを掛けた教師たちが急ぎ足で歩いていた。皆、黒いローブを着ている。ベルベさんの話では西の大陸で戦争があり、学生の何人かが捕虜になったため、あまり派手な服装はしないようにしているのだとか。

「火の国の戦争なら終わりましたよ」

 一応、伝えておく。

「ええっ!? なぜそんなことを知ってるんですか?」

 ベルベさんが聞いてきた。

「俺たちは火の国の方から来たんです」

 俺の言葉を聞いて、ベルベさんはセスとメルモに確認を取った。

「社長の言うとおりですよ。傭兵の国に伝令を出して聞いてみるといいですよ」

 セスがベルベさんに説明した。

「わかりました。僕の部屋に案内したら、すぐにでも城に伝えに行きます」

 国交の断絶もあるだろうけど、やはり外国への情報伝達は数日、数週間かかるようだ。

 建物の中は、壁の隙間や階段の下などいろんなところに隠し通路や隠し部屋などがあり探知スキルで確認しながらでないと道に迷いそうだった。

「あ、ここです。ただ天井から入るので……あれ?」

ベルベさんの部屋は隠し通路の先にあったようだが、普通にドアが開いていた。

「入り口に棚があったはずなのですが……」

 ベルベさんが自分の部屋の中を覗くと、ベルサが丸いすに座って手紙を読んでいた。

「邪魔だったから退けておいた」

 ベルサは顔も上げずに言った。棚は床に倒れている。

「ベルサ! 棚の中には危険な薬品も……」

「毒薬の瓶は机の上。消費期限が切れてほとんど使えない毒が多い。少しは整理したら?」

 ベルサに言われ、ベルベさんは机の上の瓶を確認するために部屋の中に入った。

 俺たちも後から入る。床には幾何学模様が描かれた絨毯。壁には魔物の骨やどこかの民族の仮面、本などがぎっしり詰まった棚。窓際には鉢植えが並んでいる。重厚な机の上には書類が積み重ねられ、瓶が並んでいた。

「ナオキたちも来たか。実は師匠から手紙が来ててね。ほら、今まで私の住所がなかったでしょ? だからここに手紙が来てたみたいでね」

「いや、先に親子の会話をしたほうがいいんじゃないか? 久しぶりなんだろ?」

 ベルサがベルベさんを露骨に無視して話し始めたので、俺は親子の会話を促した。

「ああ、久しぶり。懲りずにまた爵位取ったって? 領地が王都の西側一帯って、うまくやってるみたいだけど、あんまり領民に迷惑かけないようにね」

「実質、領地を治めているのは王族だよ。僕は形式上そうなってるだけ。土地が広いから植物の研究には役立っているけどね」

 毒薬が漏れていないことを確認したベルベさんが答えた。

 久しぶりの会話がそれかよ! と思わなくはないが、そういう親子関係もあるのだろう。

「ほらね。形式上とか言って愚かでしょ? この人とはあまり会話をしないほうがいい。疲れるだけで意味がない」

 ベルサは俺たちに向かって言った。

「ヤハハハ! 我が娘は辛辣だな」

 ベルベさんは笑っている。どんなことを言われても娘に会えたことが嬉しいようだ。

「ところでベルサ、仕事を始めたって?」

 ベルベさんがひとしきり笑ってからベルサに聞いた。

「お金が降って湧いてこないから自分で働いているんだ。あんまり儲からないけど楽しいよ。はっきり言ってマリナポートにいる時より遥かに魔物の研究には役立っているし、南半球にも行けたしね」

「南半球ってのはどこにあるんだい?」

 ベルベさんがベルサに聞いていた。

「知らなくていいこともある。まぁ、この国で一生を過ごす我が父には関係のないことだよ」

「そこにはこの国で手に入らない植物の種があるのかい? それって高ランクの冒険者に頼んでも手に入れられないのかい?」

 ベルベさんが興奮したようにベルサに迫った。

「無理だね。途中で悪魔が作ったダンジョンを越えなくちゃならないし、入り口すら見つけられないよ」

「そんな……」

 ベルベさんは絨毯に倒れ、動かなくなった。

「ね。人として反応が愚かしいでしょ? この親に構う必要はないんだよ」

 ベルサは俺たちに向かって言った。特にショック死したわけでもなさそうなので俺たちも放っておくことに。

「それで、師匠の依頼の件なんだけどさ」

 ベルサは俺たちに丸いすを勧めながら言った。

メルモが「お茶を淹れますね」と言うと、ベルサは「そこの瓶に高い茶葉が入っているからたくさん使っていいよ」と棚を指差していた。

「我が師匠リッサによると、ハチの魔物であるフラワーアピスが原因不明で死んでいくっていうんだ。巣が真っ黒になって巣ごと全滅するらしい」

 ベルサが前のめりになって話し始めた。

「それって、前に見なかった?」

 俺が聞いた。

「覚えていたか。実はヴァージニア大陸のイーストエンドの町でフラワーアピスの駆除をした時、やっぱり巣が真っ黒になってたでしょ。で、この手紙によると師匠はエルフの里にいるらしいんだけど、虫媒花の作物が危機に瀕しているらしい。フラワーアピスが作物の花粉を運んでいくから、果物とか実になる野菜なんかは影響が大きいと思う」

「それって僕たちが食べる作物にどのくらい影響するんですか?」

 セスが聞いた。

「だいたい私たちが今食べている作物の4割程度が影響を受けるだろうね」

 結構、厳しい。

「蜂群崩壊症候群か……」

「ナオキ、知っているのか?」

 ベルサが俺が小声で言ったことを聞き逃さずに聞いてきた。

「いや、名前だけね。前の世界でも原因が不明だって言われていたはずだよ」

「特効薬があるわけではないんだね?」

「むしろ農薬が関係してるんじゃなかったかな」

 俺は頭をひねって前の世界の新聞に書いてあったことを思い出そうとしたが、結局思い出せなかった。

「すまん、思い出せない」

「いいよ。どうせ行って確かめないといけないから。それより、このフラワーアピス大量死の原因究明の依頼を受けてもいいかな?」

 ベルサが俺に聞いてきた。

「いいんじゃない。エルフの里には世界樹を見に行かないといけなかったし、今のところ勇者も見つけてないし」

「じゃあ、決まりですね!」

 メルモがお茶を出しながら言った。白いキレイなティーカップに紅茶が入っている。まるで前世のカフェのようだ。

「ん。うまい! で、エルフの里ってどこにあるの?」

「さ、さあ?」

 俺が皆に聞いたが、誰も知らないようだ。

「ヴァージニア大陸の北部。大森林地帯の深部にエルフの里はある」

 床の絨毯に倒れていたベルベさんが突然、顔を上げて言った。

「冒険者の日誌は読んでおいたほうがいい。我が娘よ」

 そう言ってベルベさんは棚から本を取り出して、ベルサに渡した。

「あ~本当だ。私たちはヴァージニア大陸でローカストホッパーを駆除した後、砂漠を東に向かったけど、この冒険者は砂漠を北に向かったらしい。ルージニア連合国の北方の山を越えると大森林地帯があるみたいだね。セスとメルモはルージニア連合の出身だろ? 知らなかったのか?」

 ベルサが本を読みながら聞いた。

「僕はまったく知りませんでした。社長たちに会うまでほとんど湖しか知らなかったですから」

「北方には野蛮な民族がいるという噂を聞いたことがありますよ。実際、うちの実家でゴートシップがいなくなった時、北にある崖より向こうは探しに行きませんでした」

 セスとメルモが答えた。

「エルフってそんな野蛮なのか? あんまりイメージないけど」

「人種が同じでも、民族で個性は違うだろ? 見た目のイメージとかけ離れているやつだっている。ナオキなんて見た目と中身がまるで違う典型なのに、自分のことが見えていないのか?」

 俺の質問にベルサが説明してくれた。

「そういうもんか。それで、どうやってエルフの里まで行くんだ?」

「フラワーアピスの調査しながら養蜂家を回っていくしかないだろうね。この大陸でも調査はしておいたほうがいいよ。2年以上前にヴァージニア大陸の端でも見つかってるんだから、フラワーアピスが船に乗って病気が感染しているかもしれない」

「ヤハハハ! 小さなハチの魔物がそんなに影響力があるとはね。君たちはいつもそんな感じで仕事をしているのかい?」

 ベルベさんが笑いながら聞いてきた。

「そうですね。だいたい小さなことなのにいつの間にか大事になっていることはよくあります」

 セスが答えた。

「清掃・駆除業者か……案外、ベルサには合っているのかもね? ヤハハハハ!」

 そう言ってベルベさんは俺の前にあったティーカップのお茶を飲んだ。まぁ、いいんだけどね。

「ところで、魔法学院の敷地内にダンジョンがあるんだけど、君らの会社は調査依頼も受け付けているのかい?」

「受け付けているけど、やらないよ」

 ベルサは無碍に断っていた。

「皆に注意しておくけど、我が父には関わらないように。いつの間にか低賃金で使われる側に回っていることが多い。それより、どうせこの学院の敷地内に薬草畑があるはずだから、適当にピックアップして持っていこう!」

 ベルサが手を叩いて、部屋から出た。俺たちもついていく。探知スキルで探せば、薬草畑くらいすぐに見つかりそうだ。

「ちょ、ちょっと!」

 ベルベさんはティーカップを持ったまま追いかけてきたが、俺たちに追いつけるはずもなく、部屋の前で呆然と立ち尽くしていた。


 すぐに薬草畑は見つかり珍しい薬草や麻痺薬に使う毒草を採取していると、通信袋からアイルの溜め息が聞こえてきた。

『はぁ~。ナオキ、悪いんだけど今だけ結婚してくれないか?』

「嫌だよ。断る。断固拒否」

『いや、今だけでいいんだよ! 頼むよ! 私を助けると思って』

「助けない。面倒」

『形式上だけでいいんだよ』

「形式上っていうやつは愚かだってさっきベルサが言ってた」

『ベルサー、結婚してくれ』

 今度はベルサに向かっていった。

「アイル、今家?」

『……そう』

「私たちが行くまで持ちこたえておいて。結婚はできないけど連れ出すことはできる」

『わかった』

 俺とベルサは通信袋を切った。

「はぁ~あ、副社長を迎えに行くか」

「「「了解」」」

 そういうことになった。



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