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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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232/506

232話


 翌日、俺たちは傭兵の国に向かう。昨夜は、喪中のためスノウフィールドは自粛ムードで、夜はなにもなかった。本当に、残念。酒場で飲んでいた娼婦と商人のおネエさんにお酒を奢って終わりだ。

 『魔体術』の道場でウーシュー師範に軽く挨拶をして、最近の火の国について報告。傭兵の王は南の漁村から魔族領に向かうところだというので、傭兵の王にも報告がてら、漁村に向かった。

 漁村ではスナイダーさんとドヴァンが、魔族領から来た船の荷のリストを作っているところだった。海ではサハギン族とセイレーン族のリーダーがラッコの魔物の毛皮の服に文句を言っている。魔族の中に裁縫スキルを持つものが少ないらしく、冷たい海水が入ってくることに怒っているようだ。それを見て、傭兵たちがちょっと怯えている。

「元気でやってるか?」

 ドヴァンに声をかけた。

「おおっ! コムロ社長とセス先輩!」

「この前は突然、国境線から消えちまってどうしてたんだ?」

 俺は2人に飛行船が爆破した事件のあらましを教えた。

「それでセス先輩が気を利かせて、火の勇者を連れて行ったんですね?」

「社長が『砂漠に向かえ』って言ってるのに、あの人は飛行船もなかったからね」

 セスが説明した。俺の足りない部分をよく見ている。

「あのあとどうしたんですか?」

 国境線でにらみ合いのあとのことだ。

「どうもこうも、向こうに火の勇者がいなくなっちまって終わりだ。別になにもねぇよ。こっちだって難民なんて出す気はねぇし、火の国に行く用もない。俺たちは仕事に戻っただけだ。俺たちも同盟を破棄しようって考えてたしな」

 スナイダーさんが荷運びをしている傭兵に指示を出しながら言った。

「傭兵の王はいますか?」

「ああ、船に乗ってる」

「そうですか。ちょっと話してきます。ああ、ドヴァン、あのセイレーン族とサハギン族に裁縫スキルを持っている人を紹介してやってくれないか?」

「そんなのおばちゃんぐらいしかいないっすよ」

「それが一番いい。まだあんまり魔族と仲良くなってないんだろ? おばちゃんはコミュニケーション能力が高いからな」

「わかりました」

 ドヴァンは漁村の建物に向かって走っていった。

 

 俺たちはセイレーン族のリーダーたちに手を上げて挨拶し、船に乗り込む。見知った船だ。魔族たちは俺たちが黒竜さんからもらった船を使っているようだ。セスも船の整備が行き届いていることに満足している。

「おはようございます!」

「おう、コムロの」

 いつの間にか、傭兵の王からは「コムロの」と呼ばれるようになったようだ。

「すみませんね。この前は急に国境線から消えてしまって」

「いや、いい。俺たちには迷惑はかかってない」

 俺は傭兵の王にも砂漠で起こったことを話した。

「なるほど、飛行船を失ったら、火の勇者も戦力半減だな」

「あ、戦力についてもわかりました。新兵器はやっぱり危険な代物でしたよ」

 俺は『砂漠の大輪デザートダリア』について説明した。

「そんなんで戦争がなくなるかよ。商人の国だってのに、人の業がまるでわかってねぇようだな。あいつらは」

 傭兵の王らしい。

「ただ製作者のドワーフの娘はもう武器も兵器も作る気はないそうです」

「そうか……うちで雇えればいいんだけどな」

 この前は殺しておけばよかったと言っていたのに。アーリムの実力をそれだけ認めているということだろう。

「これから俺たちは魔族の国に向かうが、どうすんだ? お前らは」

「火の国で新年の選挙に向けて動きます」

「選挙だと? お前が火の国のトップになる気か?」

「いや、俺は清掃・駆除業者ですよ。紙問屋のご主人になってもらうつもりです」

「そうか……フフ、コムロの、お前がやってることはほとんど清掃・駆除業者じゃないぞ」

「そうなんですよねぇ、どうしてこうなっちゃったかなぁ」

 俺は自分の頭を抱えて言った。

「ハハハ、まぁ、お前みたいな奴がいたほうが世の中、面白いだろうけどな。たまにはこれで連絡してこい。いつでもいいぞ」

 傭兵の王は懐から通信シールを出して言った。スナイダーさんとの連絡するのに重宝しているという。

「あ、そうだ。ドヴァンについてなんですけど」

「ああ、スナイダーの息子か。見込みはあるが、まだ知らなければならないことが山ほどあるな。ことが終わったら、アリスフェイの魔法学院に戻してやれればいいのだが」

 俺も似たようなことを思っていた。今回のことで、俺も単純な強さよりも人とのつながりの方が圧倒的に大事であることがわかった。人と繋がれるという強みや、自分で考えて動くという強さ、信頼し信頼されるほどの魅力、1人で生きていける強さ、意志力、うちの会社で必要なのはそういう強さだ。レベルをいくらあげても精霊には勝てそうにないしな。ドヴァンは俺たちにどうにかついていこうという意志力はある。ただ、同世代とともに魔法学院で学び、人とつながって揉まれたほうがいいように思う。セーラとともに。

「俺の元奴隷が火の国からアリスフェイに帰るんですよ。ドヴァンとも顔見知りの奴なんですけど一緒に帰らせることってできないですかね」

 そうは言ってもドヴァンが俺たちについていくという意志の強さがあれば、また変わってくるだろう。そうすると、どういう役回りをさせるかな。

「そうか、わかった。伝えておく。そう心配するな。今のスナイダーの息子ではお前らについていくことはできん。口ではなんとでも言えるが、環境が人を規定するからな。思想も行動も。どういう環境にいたのか知らんが、お前たちほど動いている奴らを俺は知らん。自分たちを普通だと思うなよ」

 どういう環境って南半球だよ、とは答えられないな。

「わかりました。今後も非常識で行きます」

「ああ、それを俺は期待している」

「それじゃ」

 俺たちは甲板から飛び上がり、空飛ぶ箒で一気に上空へと飛んだ。


 空を飛びながら、アイルたちに連絡を取る。

「魔法国はどうだった?」

『ん? ああ、どうもこうも今すぐにでも私1人で町を占拠できそうなくらい、平穏だね』

『バカみたいに、魔力回復シロップが売れてるよ。魔族領にとってはこれ以上ない取引相手だと思うね』

『魔法国というだけあって、魔法に頼り切った生活をしています。魔道具もかなりあるんですけど、意外にヒートボックスを使っていないみたいで、暖炉が多いですね』

 アイルとベルサ、メルモの順に報告してきた。

『そっちはどうだった?』

「こっちは広範囲殲滅型の兵器だったよ」

 俺は『砂漠の大輪デザートダリア』について説明した。

『ウソだろ! なんだその武器!』

『危険すぎる! ナオキ以外にも頭おかしい奴がいるんだな』

『本当にそんなものが存在するなんて』

「エディバラの人たちにこの話して、信用してもらえるかな?」

『どうだろうな。設計図でもないと信用されないんじゃないか? 私たちはナオキの魔道具を散々見ているから、可能性があることはわかるけど……』

「じゃ、一度砂漠で落ち合おう。火の勇者もいい加減、火の精霊の部屋から出てきているだろう」

『『『了解』』』

 俺とセスはそのまま砂漠へと飛んだ。


 砂漠のオアシスでは火の勇者が演説をしていた。

「我々はテロに屈してはいけない! 幾度も倒されたとしても、立ち上がろうではないか! 火の精霊様が住まう楼閣も飛行船も、我らファイヤーワーカーズの力を結集すれば必ず復活させることができる! 絶対にテロには屈しないぞ!」

「「「「おおっ!」」」」

 火の勇者の言葉に、商人たちが声をあげる。

「ちょっと待ってくれ!」

「お、コムロカンパニーの社長だ!」

「どうした? お前たちにはずっと借りを作りっぱなしだ。なにかあるなら言ってくれ!」

 俺が演説に割り込むと、商人たちから声がした。

「楼閣を建て直すのはやったほうがいいと思います。だけど、飛行船は大量の魔石が必要ですよね? どうするつもりですか?」

「それは、もちろんスノウフィールドで採掘したものを使うつもりだ。ネイサンの代わりのギルド長を選出するのが急務だ」

 火の勇者が答えた。

「いや、俺たちが採石場と、周辺を調査した書類は、スノウフィールドの商人ギルドにも提出しているはずですが、伝わっていませんか? ネイサンさんと一緒に、今後の採掘に関して対処法を考える予定だったんですが、飛行船の事故があって有耶無耶に。せめて、採掘業者のシフトだけでも再考していただけないでしょうか!?」

「調査というのは君らと、傭兵の国の者が行った調査だろ? 信用はできないな」

 火の勇者は冷たい目で俺たちを見た。

「どうしてですか?」

「傭兵の国とはすでに同盟関係はないし、君ら、コムロカンパニーについても信用はできない。おかしいじゃないか、飛行船よりも速い移動手段を持っているのに、君らはそれを売ろうとしない。なぜだ? 自分たちの得しか考えてないからじゃないか? 自分たちがすぐに被災地に駆けつけて恩を売るためなんじゃないか? 君らはヒーローにでもなったつもりなのかい?」

「違います! 俺たちは戦争に反対しているから、空飛ぶ箒を売れないんです。俺たちはヒーローでもなんでもない。俺たちは清掃・駆除業者、いつも汚れ役です。別に感謝されたくてやってなんかいません。ただ助けられる命を、俺たちがなにも手を出さなければ失われる命を、黙って見過ごせない。それがそんなにおかしいことですか? 人として普通のことではありませんか?」

「君らが手を出し助けた者が、あのテロリストの仲間であっても、君らを信用しろというのかい? 君の奴隷が、『砂漠の火花』という爆弾を受け取っているのを見た者がいるよ。それでも、自分たちはテロリストと関係ない? さすがにそれは虫がよすぎるね」

 スーフたちのことか。

「彼女たちはすでにテロリストではありませんでした。だからこそ俺たちは『テロリストの動きが活発になっている』という情報を通信機で伝えたのです」

「社長、それは毎日、誰かが通信機で伝えていることだぜ」

 横から、聞いていた商人が教えてくれた。忙しくて俺は各地方のギルドからの通信を全て聞いているわけではなかった。いつもの情報に紛れて、最も危険な情報が伝わってなかったようだ。もっと強くネイサンに言っておけばよかったのか。そうすれば、今頃ネイサンも……。いや、違う。見失ってはいけない。信じよう火の国の商人たちを。そうしなければ、俺を信用してもらえないから。たとえ今はわかってくれなくとも。

「今はまだ信用してもらえないかもしれないけれど、魔族という者たちがいる」

 俺は火の勇者にではなく、その場にいる火の国の商人たちに語りかけた。

「見た目は魔物だが、彼らとはちゃんと意思疎通ができ、普通の日常会話も問題なくできます。スキルを持ち、我々人間と変わらない生活を送っています。ただ最後に魔王を輩出した種族で、見た目が魔物なので人は接触を避けてきただけ。でも、俺たちは魔族と会話し、友人になることができました。少なくとも俺たちは2年、寝食をともにし、命の危機にはなんどもあったが、その度に助け合って今こうしてあなたたちと話せているのです。魔族は、ボウは、俺の大事な友だちです。だからこそ、魔族の印象を悪くするようなテロリストは許せない。全ての魔族がテロリストというわけではありません。人の中に人殺しと医者がいるように、魔族の中にもテロリストがいれば、建国者もいる。人と同じように多様なんです」

「ちょっと待ってくれ。建国って、魔族の国があるのか?」

 商人たちの1人は怯えている。

「あります。ぜひ一度会って交易をしてみてほしい。きっと彼らも怯えている。それでも手を取り合って握手したら、意外に友だちになれますよ」

「手を取った瞬間に食われるんじゃないか?」

 他の商人も聞いてきた。

「食うに困れば人を襲うかもしれませんが、基本的に飯をちゃんと食べていれば襲うことはありません。その辺も人間と同じ、食うに困って盗賊になるものもいれば、人に情けをかけて飯をおごる人もいる。でしょ?」

「なぜ我々が、そんなわけのわからぬ魔族とかいう者たちと交易をしなければならないんだ? 気味が悪いね」

 火の勇者が不安を煽るように言った。

「じゃあ、どこと交易する気ですか!?」

 俺は火の勇者を一喝するように言った。

「東の傭兵の国とは同盟を破棄し、南西にあるグレートプレーンズとは休戦状態とはいえ戦争中。西のエディバラは、本を借りて燃やしてしまった。本の損害賠償はいつ払うつもりですか? レイクショアとスノウフィールドで起こった地震の復興支援金は足りていますか? ちなみに俺たちへの報酬も全額頂いておりません! この金がない時に楼閣を直し、飛行船を復活させる!? どこにその金があるんです? どうやって捻出するつもりですか?」

「それは各地方の商人ギルドから募ればいいだけのことだ! 我々は家族なのだから、国が困っている時は地方が金を出すさ」

「なら、今すぐ各商人ギルドから金を募って、エディバラに本の損害賠償を支払ってください。商人は信用が大事でしょう。レイクショアとスノウフィールドにも、復興支援金を。スノウフィールドは雪でなかなか復興が進んでいないようですから。俺たちの報酬は最後でいいです」

「だから全て飛行船があれば収まることだよ。飛行船と『砂漠の大輪デザートダリア』さえあれば、戦争にすらならないんだから」

 マジかよ、こいつ。俺とは違ったところがイカれてる。人がどんなに火を恐れようと平気で使う気でいる。一発撃ち込みさえすれば、反撃すらしてこないと考えているんだ。つまり火の精霊を悪魔にすることも、自分が勇者から魔王になることも、なんとも思っていない。火の精霊を人にできればいいのか。精霊だろうと、悪魔であろうと、人にさえできれば関係ないと思ってやがる。

「エディバラを獲れば、西の海に進出できる。西の海には群島もあれば、大陸もあるからね。火の国の魔道具を売れば、莫大な利益を生むのは間違いない。だからこそ、スノウフィールドの魔石は早急に必要なんだよ。おわかりかい? コムロくん」

「ええ、理解しました。その時まで勇者でいられるといいですね」

 俺はその場から立ち去ることにした。

「君らへの報酬は来年の夏を予定している! 商人だからね、必ず払うよ!」

 俺の背に火の勇者が声をかけてきたが、俺はガン無視をして立ち去った。



「クソ野郎だな!」

 砂漠のオアシスから、少し離れた場所で合流したアイルたちに、今の火の勇者の話をしたところ、全員がブチ切れた。

「もう殺してしまったほうが世のため人のためなんじゃないか!?」

「エディバラの人々をなんだと思ってるんですか!?」

「次は社長より先に僕が手を出しますよ!」

 俺たちは生温かったんだ。火の国から追い出せばいいなんてのは失笑ものだ。確実に力を削ぎ、完膚無きまでに叩きのめす。


「神様、これはあかんわぁ。たとえ、どんなに仕事が優秀でも、こんな勇者育てたら、精霊の仕事を手伝っていることにはならないっす。人にとって害悪です」

 俺は神様に連絡を取って、事情を説明した。

『それは、そうみたいだね。わかった、どうする?』

「選挙の時に、一気に火の精霊の戦力を削ぎます。そん時にクビの宣告お願いします」

『りょうかい~、じゃあ、新年にね』

 

 俺たちはその後、考えられることを全て行動に移していった。

 エディバラには、アーリムの『砂漠の大輪デザートダリア』の設計図を見せ、火の国包囲連合に加入してもらった。設計図を見せて、飛行船が完成すると撃ち込まれることを伝えると、すぐ連合に加わってくれた。当たり前か。

 サムエルさんには、神の依頼以外の全て情報を話した。何度も質問されたが、俺たちは全てに答えたと思う。

「エディバラの人たちにも家族がいます。戦争が起こらなかったとしても、『砂漠の大輪デザートダリア』を使用すれば、多くの犠牲者が出る。その一人一人に家族がいます。火の国の人たちと同じようにです。しかもその人たちは戦争も知らない民間人の可能性すらある。もし家族が大事だと言うなら、火の国の家族だけでなく、相手の国の家族も考えるべきなんじゃないでしょうか」

「わかった。私にどこまでできるかわからないが、コムロさんの気持ちはよく理解した。もし至らない点があれば教えて欲しい。選挙までの期間、全力で火の国を回ろうと思う」

「わかりました。協力します」

「やはり私にとってファイヤーワーカーズは家族なんだ。だから、これを一軒一軒、商人たちの店に、いや、火の国中の人に渡していこうと思う。私は紙問屋だから、これくらいしかできないけれど」

 そう言って、『火族』と書かれた紙を見せてきた。サムエルさんはその紙を3万枚刷ったという。

「そろそろ皆も新しいお守りがほしいかと思ってね。お守りも火の国のトップも替えどきってことで」

サムエル家総出で3日3晩かかったという。

「ありがとうございます! 必ず勝ちましょう! 全力でうちの会社がサポートします!」

 それから1ヶ月、サムエルさんは家族を引き連れ、火の国中を回った。お守りを替えるという名目のもと、火の勇者がまだ戦争をしようとしていること、それよりも今は家族に目を向けて他国と交流し国を安定させたほうがいいんじゃないかと思っていることなどを、時間の許す限り、伝えてくれた。それこそ熱が出たり、冬の寒さで震えることもあった。全て俺たちがサポートした。回復薬も惜しみなく出し、寒ければ風呂を作る。それによって火の国には多くの露天風呂が出来上がってしまった。もちろん、清掃・駆除の依頼があれば受け付けるし、回復薬や魔力回復シロップ、吸魔剤も需要があれば売っていく。

 火の国中を回っている間にも、スノウフィールドでは魔石の採掘が行われ、魔力過多や家畜の暴走などの被害が続出した。俺たちは無理をしないよう言って回り、吸魔剤をかけたり、眠り薬で眠らせてやったりした。


 それから、俺は魔族領にも行った。

 アフィーネたちにも協力してもらう。マジックパウンドと呼ばれた村で一番の被害者なのだから声をあげる権利がある。

「頼む。怖いかもしれないけど、どうか協力してくれないか」

「わかった。ちゃんと守ってね」

「美人は守るタイプだ」

「フフ、皆も連れて行っていい? 子どもたちも」

「もちろんだよ。自慢の息子、娘たちだろ? 火の国の皆にも見せなくちゃね」

 アフィーネには選挙前日に決戦の地である砂漠のオアシスに来てもらうことに。


「それから、これもだな」

 俺は魔族領にある魔素溜まりの地底湖の水を汲んだ。

「フハ、なにをやってるのかと思ったら……なにをやってるんだ?」

 今では魔族領の代表者で火の国包囲連合の代表者でもあるボウが様子を見に来た。

「これが俺の最終兵器だ」

「ただの水がか」

「そうよ。お前もキレイな水にやられただろ?」

 リタのことだ。

「フハ。そういえば、ナオキの奴隷だっていう4人が来たけど」

「ああ、こき使ってやってくれ。文句言ったらケツ蹴り上げていい」

「ああ、もう蹴り上げた。フハ」

「そういえば、ボウ、ここら辺で地震はなかったのか? 過去でもいい」

「地震? 地揺れのことか? 小さい地揺れなら何度も起きてるが、ナオキが言っていたような大地震は起こっていないと思う」

「え? 本当か? 小さい揺れでも被害はなかったのか?」

「あ、私は地揺れで死んで魔物になった口ですよ」

 ボウの隣りにいたゴースト系の魔物が言った。お付きと言うやつだ。

「他の奴らもそうです。横穴で岩を掘ってる時にグラグラと揺れて、ぐしゃっと、こう」

「それで魔族になったのか?」

 俺はお付きのゴースト系の魔物に聞いた。

「そうですね。魔物になって、それからボスに拾ってもらってこうなりました。この辺で俺たちゴースト系が多いのはそのせいですよ。今もほら、岩を掘る音が……」

 カキーン、カキーン。

 という音がどこかから聞こえてくる。

「あれも、いずれ僕みたいになります」

「そうか。いいことを聞いた。避難訓練の方はどうだ?」

 もし飛行船が来た時の対処法を4カ国全てでやってもらっている。『砂漠の大輪デザートダリア』を放ってくる前に地下壕に避難する。俺は設計図で、『砂漠の大輪デザートダリア』の穴を見つけていた。それは地上を焼き尽くすが、地下には熱線が向かわないということだ。地上で溶けてきたものに入り口を塞がれてしまうかもしれないが、場所さえわかれば俺たちが助けに行ける。冬の間、各国の主要な町の中心には地下壕が掘られ、避難訓練が行われていたのだ。

「問題ない。各国の通信機もバッチリだ。選挙演説とナオキの応援演説を聞いているよ。楽しみだ。フハ」

 サッサさんと傭兵の王にも挨拶。

「頑張ってくれ。この大陸の運命を握っているよ」

「かましてやれ! アイツの吠え面かくところ以外見たくねぇ」

 どちらもプレッシャーにしかならなかった。


 時がすぎるのは早いもので、どう火の精霊の力を削るか考えている間に、決戦の日が来てしまった。


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