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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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230/506

230話


 俺たちは宿に向かった。セーラの治療をするためだ。空から落ちて、空中でキャッチされたのだ。どこか脱臼ぐらいしているだろう。

うちの社員たちは誰に言われるでもなく、飛行船と楼閣の片付けをしている。なくなった人の数を確認し、魔族のテロリストたちの遺体を砂の上に並べていた。コムロカンパニーの仕事は清掃・駆除業者。汚れ仕事には慣れている。俺もセーラの治療が終われば、作業に加わるつもりだ。

「怖い顔をしていますね。ご主人様」

 部屋に入る前にスーフに言われてしまった。どうしてもネイサンの死と、火の勇者への怒りが湧き上がってしまう。ネイサンと大した付き合いがあったというわけではないが、初めて会ったときから面白い気のいい兄ちゃんで、愚痴を言ってもちゃんと仕事をする優秀な商人だと思っていた。

 俺はスーフに回復薬を渡し、井戸で顔を洗ってくることにした。

 顔を洗ってさっぱりし表情だけでも明るくして部屋に入ると、ベッドがもぬけの殻だった。

「セーラは?」

「あれ? さっきまでいたんですけどね。ナオキ様の回復薬が」

 スーフが天井や壁を確認したが、たしかに見当たらない。ただ、俺の探知スキルでは屋上に誰かがいるのが見える。

 ベッドの枕元には、メモが残されていた。

『未だ、私は魔法学院を卒業しておりません。ナオキさんに会うのは卒業してからという約束でしたので、今は合わせる顔がありません。セーラ』

 と書かれていた。

 1人でエディバラまで行けたのだから、アリスフェイにだって帰れるはずだ。途中、傭兵の国にはドヴァンもいるし、大丈夫だろう。

 窓の外では、砂漠なのに雪が降り始めた。珍しいこともあるものだ。無理していた顔から、自然に力が抜けた。

「セーラ。いつか俺の隣に立つと約束したな。強くなければ、俺の隣には立てない。強くなれ。でも、焦るなよ。友を、大事な人を見失うんじゃない。全てを糧にして強くなれ」

 俺はそう言って、そっと窓を締めた。

 外は「雪だ!」「砂漠で雪が降るなんて!」と大騒ぎをしている。そんななか、屋上にいるセーラは「いってきます!」と大きな声で気合を入れて、アリスフェイに帰っていった。


「追わなくていいんですか?」

「本人にはやり遂げることがあるんだ。俺はそれを待つだけだよ。お前らもそうだぞ」

「え? 私たちも!」

 ゴーゴン族の姉者が自分を指差して言った。

「魔族領に行け。お前たちがいる場所は俺の隣じゃない。適材適所だ」

「でも私はナオキ様の奴隷ですよ」

 スーフが訴えるような目で俺を見てきた。

「セーラも俺の元奴隷だ。足手まといだから魔法学院にやったんだ。どうしても俺についてくるなら、少なくとも丸2日間ぶっ続けで魔法を扱えないと話にならないから、そのつもりで」

「丸2日ってそんな!」

「無理か? 魔族領にいるボウがきっと教えてくれる。俺たちは仕事で忙しいから、かまってやれる暇があるかどうかわからん」

「じゃあ、ナオキ様の夜伽はどうされるおつもりですか?」

「金がある。どうとでもなるさ」

「では、なぜナオキ様は私を買ったのですか?」

「ボウのためだ。魔族の国を建国しているっていうのに、同じ魔族は火の国でテロをしている始末。これじゃどこの国とも交易ができない。だろ? だから奴隷商にいたゴーゴン族のテロリストたちの要望に応え、スーフを買った。これで、3人のテロリストが減った、と思ったんだけどな……違うテロリストが飛行船を落としちまった。なにごとも思うようにはいかないね」

「つまり、私を買ったのは、そのボウという方のためですか?」

「そうだ。友のため。他に理由はない。」

「そんな……! 今もそう思ってますか?」

 セーラを助け出した自分に価値がないと思ってるのか、とスーフは聞いているようだ。

「セーラを助け出してくれたことに関しては、本当に感謝してる。ありがとう。大事な人が助かった。スーフにも周りにいる大事な人を大切にしてほしい」

 俺に言われ、スーフはゴーゴン族の娘たちを見た。

「奴隷になっても慕ってくれる人たちなんかなかなかいないぞ。この先のことは4人で決めてくれ。スーフ1人の意見は聞きたくない。俺は魔族領を勧めるよ。一度見に行ってから決めてもいいしな」

 俺は部屋を出ていこうとして振り返ると、ゴーゴン族の3人はうつむいて話しづらそうだった。近しい人だから、言い出しにくいこともある。今までスーフに意見らしいことを言ってなかったのかもしれない。

「ちなみに俺は、もし夜伽をしてくれるなら、ゴーゴン族の姉者が一番好みだけどな」

 診断スキルで全身見ちゃってるしねぇ。

「な! 早く部屋から出てけ!」

 ゴーゴン族の姉者に枕を投げられて、俺は部屋から出た。


 俺は、燃えた飛行船と楼閣の片付けに向かった。

 砂漠の商人たちも恐る恐る作業に加わっている。

「メルモ、作業している人たちに、軍手とマスクを支給してやってくれ」

「はい」

「社長、飛行船はどうします? 全部解体しちゃいますか?」

 セスが聞いてきた。

 飛行船の残骸は黒焦げで、ガス袋がなくなり、すっかりしぼんでしまっている。

「とりあえず、遺体の回収と魔石も危ないから回収してまとめておいておけばいいだろう。魔法陣が描いてあるものとかも外に出しておいたほうがいい。いつ起動してもいいように。あとは、事故調査があるかもしれないから放っておいてもいいような気がするけど、火の勇者が解体していいって言ったら解体しよう」

「わかりました」

 そう言いつつも、ねじれた鉄製の柱などで先に進めないところはアイルがスパンと切って通路を作っていた。落ちてきたら危険そうな魔石灯、ヒートボックス、推進力のために使っていたであろう風魔法の魔法陣が描かれた機器などを取り出して、砂の上に並べていった。後から来た人が見てわかりやすいようにだ。

 雪が降る中の作業なので、結構寒い。さすがに砂漠の商人たちもはしゃぐことはなかったが、珍しそうに雪を眺めている。

 楼閣は魔道具も魔石を使っていないので瓦礫をまとめるだけ。崩れるかもしれないので、砂漠の商人たちには手伝わせなかった。


「これから、どうする?」

 一通り、自分たちが出来ることが終わり、アイルが聞いてきた。

「俺たちは俺達の仕事をしよう。これ以上、この国が戦争を続けるようなら、火の精霊は火の悪魔に変わるはずだ。今回の件で、ほとんどなりかけてたしな。まぁ、飛行船もなくなって、傭兵も少ないんだからそう簡単には戦争は仕掛けられないだろう。ただ、ネイサンが言ってた『砂漠の大輪デザートダリア』は、調べないとな」

 大量破壊兵器の可能性もある。だが、それを輸送できる飛行船はない。今から作るとしても時間はかかるだろう。

「じゃあ、勇者を駆除するんだね」

 ベルサが言った。

「他に手はないだろう。神様からの依頼も、この国も」

 魔道具の通信機も火の国の商人ギルドに行き渡っている。あとは、火の勇者を引きずり下ろすだけ。

「火の勇者と火の精霊にはこの国から出ていってもらう。新年の選挙のために動くぞ」

「「「「了解」」」」

 精霊と戦って勝てる見込みはない。それは土と水の精霊のときに十分わかっていることだ。精霊がサボっている証拠を見つければいいのだが、人々の生活に火はかかせず、サボっている証拠も見つからなかった。見つけたのはこの星に魔素の龍脈があるってことだけ。マグマとは関係ない。精霊をクビにできるだけの証拠は見つけられなかった。

 ただ、火の勇者をクビにできる証拠は見つけた。


「勇者を追い払おうと思ってます」

 俺は神様に計画を話した。

『でも、それだとどこかに逃げ出しちゃうんじゃない?』

「駆除ってのは、その場所にある害を追い払うことですから、俺たちの仕事である勇者駆除は間違っていませんよ。それに火の国の周辺の国は連合にしますから、逃げ出す場所がほとんどない」

『まぁ、そうか。逃げ出すとしても北極大陸くらいか』

 この世界には北極に大陸があるのか。

『なるほど、国から追い出して、火の精霊の影響力を減らすってことだね。相変わらず、殺さない方法を考えるね』

「火の勇者を殺したら、俺たちが火の精霊に殺されますからね。火の勇者を殺して、火の精霊が仕事をしなくなっても困る。困るのは人々です。ただ、火の精霊は、ちゃんと仕事をしてても火の勇者に構いすぎだとは思います。それによる被害が出始めていますし。勇者駆除は神様の依頼としても、この国と周辺諸国にとっても、やらなければならない。ということで、追い出すということなんですけど、こんな落とし所でどうです?」

『わかった。今回はそれでいい。もし、またなにかあれば、駆除してね。いやぁ、そうかぁ、マグマの動きはわからなかったかぁ』

「さすがに俺は清掃・駆除が専門で、火山とか地層についてはわかりませんよ」

『でも地震が発生する理由はわかったんでしょ?』

「どうですかね。そういう説も成り立つんじゃないか、という程度です。魔素溜まりがあったところで必ず地震があるわけではないですから」

 魔族領では地震がなかった。いや、俺たちが訪れる前にはあったかもしれないな。調べてみるか。

『そうか。そういえば、この前、邪神が世界樹の花見のことで嫌味言ってきてさぁ……』

 その後、数十分に渡り、神様の愚痴を聞かされ、報告は終了。

「あ、また報酬について話すのを忘れた」

 ベルサに言われるまでは黙っていよう。



 翌日、砂漠のオアシスの宿に泊まった俺たちは、久しぶりに砂漠の料理屋で、飯を食っていた。たとえ、砂上の楼閣が壊れようと、飛行船が爆発しようと、そこに住む人たちには普通の生活が待っている。商人たちも火の勇者や商人ギルドからなにも言われていないので、いつもの商売をするしかない。

 ネイサンや他の船員の遺体は棺に入れられたままだ。ネイサンの家族や近しい人が到着次第、葬儀が執り行われるという。飛行船がなくなったので、かなりの遠出らしい。俺たちが協力すれば早く済むことだが、遺体は黒焦げでカラカラ、さらに乾燥した地域なのでこれなら急ぐ必要はないと、ターバンを巻いた砂漠のギルド長が言ってくれた。昔ながらの遺体の保存方法もあるらしい。


「それで、どうするか決めたか?」

 俺はスーフたちに聞いた。

「決めました。私たちは全員、ナオキ様の奴隷になって魔族領に行きます。よろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いします!」」」

 4人が頭を下げた。

「いや、待て。まったく意味がわからん。なんで俺の奴隷になる必要があるんだ?」

「私たちは幼いときからいつも一緒でしたから、1人だけナオキ様の奴隷というのも変です」

 スーフが説明した。

「それに新たな場所に住むにあたり、また誰かに騙され、離れ離れになる可能性もある。しかし、貴様の奴隷なら、手を出してくる者もそういないだろうという結論に達したのだ」

 ゴーゴン族の姉者が言った。

「じゃ、別に一緒に住んだり、ご主人様らしいことをしろ! と言ってるわけじゃなく、ただ名前を借りたいってことだな。なら、いいよ」

「いいのかよ!」

「「いいんですか!?」」

「おい、またなにも考えてないんじゃないか?」

 隣で聞いていたアイルたちが驚いていた。

「なんか、マズいことでもあるのか? まぁ、好きな人が出来たら、奴隷じゃなくなりました! って言っておけばいいんだからさ。いんじゃない? よし、ちゃちゃっと奴隷印描いちゃうか」

 俺はゴーゴン族の娘たちの肩甲骨あたりに、さっと奴隷印を描いていった。あまりにもあっさり受け入れたことに、ゴーゴン族の娘たちも驚いていたが、自分たちが言い始めたことなので黙って奴隷印を描かれていた。

「じゃ、出発しよう。冬が終わるまで1ヶ月と少しか。忙しくなるぞ! 奴隷たちも途中まで一緒だから乗せてってやるよ」

「え! もう行くんですか?」

 スーフが驚いている。

「うん、時間がないからな。とりあえず、誰かの箒に乗せてもらえ、上空まで行ったら、セスが運んでくれるから」

 俺はゴーゴン族の娘たちに言って、スーフを連れ窓から外に出た。空飛ぶ箒で一気に上空へ。気圧で耳が痛い。

 昨日、砂漠に降った雪は早くも解け始めている。

 俺たちは砂漠を東に向かい、馬屋の上空を通過。東へと飛んだ。

 目指すはレイクショア。

 まずは、サムエルさんを口説きにいく。



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