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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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229/506

229話


 どうにか砂漠に帰るために時間を作ろうとしたが、チョクロを保存していた倉庫にマスマスカルが発生していると連絡があり、本業である俺たちが行くことに。

 行ってみると、倉庫どころじゃなくて、地下道にマスマスカルが大発生していた。冬は食べ物があるところにどうしても集まってしまうようだ。眠り薬の燻煙式罠を各所に仕掛け、町の住人にはマスク着用を呼びかけた。半日後に地下道に行き、眠っているマスマスカルをすべて捕まえ、焼き殺す。森に投げたりすると大変なことになるかもしれないので、強火でしっかり焼いた。

 他の町や村でも食料が行き渡り始めると、それを狙った害虫害獣の被害が出てきたそうで、俺たちは1週間ほど傭兵の国内を回った。さらに、魔族領からの航路にはウニの魔物が大発生。それに伴いラッコの魔物が大群で押し寄せてくるというコンボを見せており、毛皮を欲しがっていたセイレーン族とサハギン族から応援要請を受けた。食卓にはウニ料理が並び、ラッコの魔物の毛皮が漁村に積まれていった。

傭兵の国側は魔族と普通に話せることがわかり、セイレーンの姿も見てしまったので、鍛冶職人などの人材を魔族領に送り始めた。漁村は魔族領に行きたいという職人たちが詰めかけ、大フィーバー状態。新しい住居まで出来上がり始めている。

 そんなことをしていたら、またしても砂漠に帰るのが遅れた。奴隷であるスフィンクス族のスーフも呆れて「春までに帰ってきてくれたらいいですよ。今、仕事が順調なんで」という始末。さすがにかわいそうになってきたので砂漠に帰る段取りをつけていた矢先のことだった。

 傭兵の国の王から呼び出された。

「どうかしました?」

 傭兵ギルドの本部である。俺たちコムロカンパニーの他にはドヴァンとスナイダーさん、『魔体術』の門徒からウーピーが招集された。

「火の国から同盟を一方的に破棄された」

「え? 破棄したんじゃなくて、破棄された」

「ああ、魔族領との交易がバレたのか、それとも俺たち傭兵が必要なくなったのか。今日、書状が届いた」

 傭兵の王は机に、羊皮紙の書状を置き、全員に見せた。確かに、同盟を破棄する内容がかかれている。

「いや、船も迂回しているし、火の国に今いる傭兵たちと接触しそうなやつもいない。アサシンたちからも情報は来てないぞ」

 スナイダーさんが傭兵の王に報告した。

「だとすれば、あのふざけたドワーフの小娘がまた新型の武器を作り出したんだろう。それで俺たちが必要なくなった。やっぱりあの時殺しておけばよかったんだ」

 『速射の杖』を傭兵の国に届けたのは、ネイサンの従者でドワーフ族のアーリムだったらしい。そもそも『速射の杖』を開発したのも彼女だという。

「そうだとしても突然すぎませんか?」

 俺が傭兵の王に聞いた。

「いや、ずっと計画していたことだったんだろう。はなっから、エディバラ侵攻に俺たち傭兵を使う気なんてなかったってことだよ」

「でも、これはいくらなんでも取引していた国とこういう断絶の仕方は商人らしくありませんよ。さすがに抗議しに行ったほうが……」

「俺たちだってそうするつもりだったんだ。人のことは言えねぇよ」

 傭兵の王は現実をちゃんと受け止めてしまったようだ。

「でも、様子ぐらいは見に行ったほうがいいんじゃないか? 真相すらわからないんじゃ傭兵たちにも説明できないぞ」

 スナイダーさんが傭兵の王に言った。

「好きにしろ。俺は魔族の代表と話してくる」

 傭兵の王は通信シールでボウと会談。切り替えが早い。俺たちは……。

「国境線まで行くならフェンリルを出すぞ」

 スナイダーさんが俺たちに言った。

「ああ、傭兵たちを乗せていってください。『魔体術』の門徒たちも。俺たちは走ったほうが早いんで」

 俺は黒いコートを着て、外に出た。

 外は吹雪。フェンリルに乗せてもらったほうがよかったか。


『ナ、ナオキさん……』

 突然、通信袋で誰かから呼ばれた。

「誰だ?」

 俺は魔力の壁で自分を覆ってから、聞いた。うちの社員たちは「誰から?」と見て待ってくれたので、手で先に行っていいと指示を出した。

『あ、やっと連絡が取れた。セーラです!』

 南半球から帰ってきたときに連絡したっきり行方不明になっていたセーラだ。俺の初めての奴隷で、アリスフェイの魔法学院に通っているはずだったが。

「お前、今どこにいるんだよ」

『どこにいると思います?』

 うわっ、めんどくせ。

「ちょっと今、急いでるんだよ。用がないなら切るぞ」

『待って待って。今、空です。私、空にいます』

「空? どういうことだ? 飛行船にでも乗ってるっていうのか?」

『そうでーす!』

「待て、なんだそれ。どうしてそうなった?」

『戦争で友だちが捕虜になっているから助けに来たんですけど、砂漠で魔物に追われてたらいつの間にか戦争終わってて。友だちも行方不明になっちゃうし、でも生きてるらしいからいいやってなったんですよ』

「その友だちってドヴァンってやつか?」

『そうです。え! ナオキさん知ってるんですか?』

「いや悪い続けてくれ」

 話すと長くなる。俺はゆっくり走りつつセーラの話を聞いた。

『それで、せっかくここまできたなら魔法国・エディバラの図書館に行ってみたいと思って行ってたんです。すごい蔵書でぇ……ただお腹減ってどうにかご飯を食べようと思って必死で仕事探して気づいたら、司書みたいなことをやってたんですね』

「元奴隷なのに、よく雇ってくれたな」

『アリスフェイの魔法学院の学生としか言ってませんからね』

 言わなくていいことは言わければいい、ということを覚えたのか。

「それで?」

『それで、火の国に本を貸すっていうから手伝ってたら、寝落ちして木箱に入れられたまま、飛行船に乗れちゃってるっていう状況です。すごくないですか?』

 ひどいドジっ子だ。

「すごいな。でもそれ密航って言うんだぜ。見つからないように隠れておけよ」

『いや、私もそうしてたんですけど……ナオキさん、「砂漠の火花」ってなんだかわかります? 鑑定スキルでもわからなくて』

「テロリストが使う爆弾だ。なんだ落ちてたんなら、近くの大人に渡して捨ててもらったほうがいいぞ」

『いえ、なんか使役された魔物が運んでいるのを見ただけなんですけど……』

「おいおい、ウソだろ!?」

『いやぁ、それが本当なんですよねぇ~』

「お前、それふざけてる場合じゃないぞ。その魔物は魔族のテロリストだ。『砂漠の火花』で飛行船ごと爆破させるつもりだ」

『ええ~! なんでぇ~!?』

「今すぐ飛行船から逃げろ!」

『空だから逃げられないですよ!』

 クソ、空飛ぶ箒でも送ってやるんだった。

「いいか。その『砂漠の火花』を持ってる魔族は鑑定できるのか?」

『できます。ただ結構それぞれ強いんですよね』

 それぞれって何人もいるのかよ!

「それはたぶん、確実に飛行船を爆破させる気だ。何人かは倒せそうか? できるだけ他の魔族に気づかれずにだぞ」

『わかりました。やってみます。諜報に向いている種族の実力見せてやりますよ。久しぶりに壁を登るなぁ』

 通信袋の向こうでセーラが靴を脱ぐ音がした。

『ナオキさん、これ私が見えている魔物全員、魔族のテロリストですか?』

 そんな人数乗っているのか。どうなってんだ飛行船のセキュリティーは。

「当たり前だ。全員倒さなきゃ、全員空の藻屑になるぞ。あ、たぶん、飛行船の中に火の勇者もいるはずだから手伝ってもらえ!」

さすがに空飛ぶ箒を使って今から砂漠に向かったとしても間に合わないだろう。セーラの成長した実力と火の勇者にかけるしかない。

『それを早く言ってくださいよ!』

「死ぬなよ」

『当たり前です。私はナオキさんの隣に立つまでは死なないと決めていますから。じゃ、1匹目いきます』

 通信袋からセーラの声が聞こえなくなった。


 すぐに先を走っているアイルに連絡する。

「すまん、まずいことになった」

『こっちもマズいことになってる。急げ!』

 アイルから緊迫した声が返ってきた。

 俺は走る速度を上げ、国境線まで突っ走った。


 吹雪の中、2つの塔を挟んで、傭兵同士がにらみ合いをしている。

「なにしに来た! 傭兵たちよ!」

「お前もこの前まで傭兵だっただろ!」

 火の国の側には寝返った元傭兵たちがずらりと並んでいる。難民すら受け入れない構えだ。アリスフェイにも行けず、火の国にも逃げられない傭兵たちを兵糧攻めにして、領土を奪う気か。

「裏切りやがって!」

「黙れ! 金も稼げねぇ傭兵は魚釣りでもして冬を凌ぐんだなぁ。この国境線は俺たちが一歩も通さねぇぞ!」

 雪に混じって傭兵たちが怒号を飛ばす。

「なぜだ? なぜこんなことを!? 傭兵が必要なくなったか? 新型の武器でも開発したのか!? 答えろ! 火の国!!」

 ようやくたどり着いた俺が、火の国側に叫んだ。出てこいネイサン。あんたには聞きたいことが山ほどある。

「ご名答! 正解だ。コムロくん! 火の国の魔道具屋が新型の武器を開発してね。もう戦争はなくなるんだ。だから傭兵は必要ない!」

 そう答えたのは、火の勇者・スパイクマンだ。

「なんであんたがここにいる!? じゃあ、今飛行船で本を運んでいるのは誰だ!?」

「決まっているじゃないか。俺の最も信頼する仲間のネイサンだよ」

「バカ野郎! 今すぐ砂漠に向かえ! 仲間をなんだと思ってやがる! 万能じゃねぇんだぞ!」

 俺はすぐに空飛ぶ箒を取り出して、上空へと一気に飛んだ。『速射の杖』の攻撃が飛んできたが、俺のスピードのほうが速い。

「全員、砂漠に集合! 火の海になりかねない! 理由はあとで!」

『『『『了解!』』』』

 通信袋で社員たちにも指示を出す。

 くそっ、今のままだと間に合わない。誰かいないか、誰か……いた!

「スーフ! スーフ、いるか!?」

 俺の奴隷であるスフィンクス族のスーフを呼び出した。

『なんですか!? 急に! 言葉も荒いし、そんなんじゃ……』

「お前の羽根は飾りか?」

『なんですか? いったいどうしたっていうんです?』

「お前の背中についている羽根は飛ぶためについてるのか、と聞いたんだ?」

『飛べますけど? なんですか?』

「お前は俺の奴隷だな?」

『そうですよ。言うことはなんでも聞きます』

「なら今すぐ飛んで、西の空を見ろ」

 俺はかなり焦っていた。南西に向けて全速力で飛びながら、通信袋に思い切り魔力を込めている。ワープができる魔道具を作っておくんだった。

『ちょっと待ってくださいよ。服だって脱がないといけないし、恥ずかしいんですよ!』

「服ならあとでなんどでも脱がしてやる! 減るもんじゃないし、とっとと飛んでくれ!」

『わかりましたよ! わかりました! 飛びますよ!』

 一瞬風を切るような音がした。

「スーフ、西の空に飛行船が見えないか?」

『待ってくださいよ! 曇りでよく見え……ああ、あれかな?』

「急いでくれ!」

『はいはい』

「その飛行船から、女の子が1人飛ぶからキャッチしてくれ」

『え!? そんな無茶な!』

「やってくれ。頼む! 死なせたくないんだ……大事な友だちなんだよ……」

『ずるいですよ。やらなきゃいけなくなるじゃないですか! もう……ぐぅわぁあ!』

 通信袋の向こうから獣のような声が聞こえた。

『ちょっとくらい怪我してもいいですね? 姿にこだわってられませんから!』

「ああ、死ななきゃ俺が治す! 気にするな! 頼んだ!」

『ぐぅわぁあ!』

 スーフは雄叫びで返してくれた。

 通信袋を一旦切り、続いて、通信シールに切り替え商人ギルド全体に知らせる。

「緊急事態です! 砂漠にいる商人たちは避難してください! 西の空に飛行船が見えたら退避を! こちらコムロカンパニー社長・コムロです! 飛行船が爆発する可能性があります! 砂漠にいる商人たちは飛行船から退避を!」

 通信シールの向こうで、『あれか?』『砂漠に親父が行ってるんだ、どうなってる?』『ウソだろ?』『コムロって、祭りの時のあの社長か!』などの声が同時に聞こえてくる。

『コムロくんの話は本当だ! 俺が今乗っている。スノウフィールドギルド長・ネイサンだ!』

 一際大きな声が聞こえてきた。

『今日の砂漠の天気は曇り、のち飛行船。ところによって爆発が伴うでしょう! 悪いな、今発信している商人ギルド。はぁ、ちょっと借りるぜ! 現在、「砂漠の火花」を装着したゴブリンたちから飛行船を乗っ取られている最中だ。俺も脇腹をやられたよ……はぁ』

『ネイサーン!』

 通信シールからアーリムの声が聞こえてきた。

『はぁははは、アーリム、笑わせるな。腹がいてぇ。すまん、砂漠の住民たちよ。この船は、もう舵が利かなくなってるんだ。頼む、どうか逃げてくれ。はぁはぁ……しんどー! スパイクマンの言うとおり探知スキルとっときゃよかったぜ、ちくしょー』

 ネイサンの声だけが通信シールから聞こえてくる。皆、火の国にある通信機の前で固唾を呑んでいるようだ。

『すまん、今飛行船に乗っている船員たちの現状はわからない。もし生き残れるのなら生き残って欲しいが……たぶん、俺は死ぬだろうな。……スパイクマン、お前の夢に付き合えないようだ。すまん。アーリム、お前は優秀な魔道具屋だ。ただ、「砂漠の大輪デザートダリア」は優秀すぎる。使わないことを願うよ。スパイクマンの言うことをよく聞いて精進しろ。ガンガンガン!』

 通信袋の向こうから鉄を叩くような音がする。

『バカめ。船長室の扉の鍵は特別製だ、ゴブリンも入ってこられねぇよ。クソ、なかなか思うように死ねないもんだな。スノウフィールドの商人たちよ。俺んちの地下室のワイン樽の裏にエロ本を隠してる。早い者勝ちだ持ってけ。特にスノウフィールドの奴らは健康に気をつけるように。時には仕事をサボってもいい。長生きしてくれ』

 鉄を叩く音から離れ、ネイサンが最期の言葉を語り始めた。

『それからギルド長の皆。すまなかった。勇者の参謀としてあまりいい仕事はできなかったように思う。まだ「火祭り」の人形も燃やしてないし、やり残していることは多い。ただ、まぁ、俺がいなくても大丈夫だろ? 皆を信じてる。俺たちは家族だ。ファイヤーワーカーズって家に住んでる家族だ。家族のために死ぬのなら本望だ。たぶん、ゴースト系の魔物にはならないから、大丈夫だと思う。あ~、でも、もしかしたら娼館に出ちゃうかも。その時は回復薬でもぶっかけてくれ。あークソ、目がチカチカしてきた……』

 ネイサンの言葉を聞きながら、俺は通信袋でセーラに連絡を取った。

「セーラ! どうだ?」

『無理ですね。大きな魔石が割られました。たぶん、飛行船は落ち』

 ボカンッ!!!

「大丈夫か!?」

『大丈夫です! ああ、ちょっと足が冷たくて動かなくなってきました……』

「ちょっと待ってろ」

 俺はセーラからスーフに切り替え、連絡を取る。

「スーフ、準備は?」

『近くに来ましたけど、どこから落ちてくるのかわかりません!』

 ボカンッ!

『ああっ!』

 飛行船のどこかが爆発したらしい。

「落ちてきたところをかっさらうように掴まえろ!」

『そんな! 無茶を言うご主人様だ。わかりましたよ、やりますよ!』

 すぐにスーフからセーラに切り替える。

「セーラ、飛べ!」

『飛べって言ったって!』

「いいから飛べ! 俺の仲間が空中で掴まえてくれる!」

 通信シールからはネイサンの声が聞こえる。

『ああ! ヤベ、これ楼閣に当たるかも……火の精霊に謝っといてくれ、スパイクマン……』

『『『『『ネイサーン!』』』』』

『アーリム、お前に会えただけでもいい旅だったぜ』

 グゥオオオンン!!!プツ……。

『ネイサーン!!!』

 アーリムの声だけが通信シールから聞こえてきた。


『掴まえたよ!』

『ええっ! 仲間って魔物!?』

 スーフとセーラの声が交互に聞こえてきた。どうやらこっちは助かったようだ。


 30分後、俺が砂漠のオアシスに到着すると、楼閣に突き刺さるようにして飛行船がぶつかり、楼閣ごと燃えていた。『火祭り』で建てた大きな木製の人形だけがなぜか無傷で立っている。

 俺は魔力の壁で楼閣を覆い、空気を抜いて火を消した。

 楼閣の地下からは、火の精霊の絶叫が聞こえてくる。砂漠の商人たちも、ネイサンの通話を聞いていたものも、火を恐れたのだろう。もしかしたら悪魔化しているかもしれない。

 俺は崩れた楼閣の隙間から入り、火の精霊がいる船底に向かう。鉄製の扉を開けると、むせ返るような暑い空気が充満していた。

「あああ……ぁあああきぃいえええい!!」

 声にならない声を発し、火の精霊がのたうち回っている。床に描いた魔法陣がなければ、飛び出してそこら中に火を放っていたかもしれない。

「うぅえあっ! 駆除人、お前なにをした!!?」

 魔法陣の縁に手をかけながら、火の精霊が俺に聞いてきた。すでに精霊としての美しさも清らかさはない。口から火を垂れ流し、目を充血させ、獣のようだ。

「俺はなにもしてねぇよ。勇者の……いや男の育て方、間違えたな」

「なんだとー! 崇めろ! 敬え! 感謝しろ! 火をー!」

 今の獣のような火の精霊の姿を見て、崇めるものはいないだろう。体中の毛穴から火が噴き出て、獣のように4足歩行で魔法陣の中を駆け回り、飛び回っている。

 俺は手のひらから火魔法でマッチで点けたような火を出した。じっと見ていると落ち着く。

「はぁはぁ……はぁ……」

 徐々に火の精霊も俺の手のひらの火を見て、落ち着いていった。落ち着くと同時に容姿も元のモデルのように美人な姿へと戻っていった。

「もう戦争は止めろ。いつか悪魔になるぞ」

「はぁはぁ……」

「愛した男を魔王にしても、人間の身体が手に入るわけじゃない。目的を見失わないでくれ」

 そう言って俺は船底の部屋から出ていった。

 楼閣の前には、遅れてセスに連れてこられた火の勇者ことスパイクマンの姿があった。地面に降り立つと、すぐに俺の脇を通り抜け、火の精霊のもとに走っていく。

 セスが「どうでした?」と目で聞いてくる。

「大丈夫。まだ悪魔にはなってないよ。皆が火に感謝しているうちはね」

 俺はまだ熱い飛行船を楼閣から出して、砂の上にそっと置く。ネイサンの遺体はわかりやすく両手の拳を突き上げるようにして丸焦げになっていた。口から、白い歯が見えている。最期は笑っていたのかもしれない。

 俺は静かに手を合わせ、黙礼した。

 

 


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