表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

224/506

224話


 俺たちは傭兵の国の町で仮眠ができるところを探したが、宿屋は完全に崩壊していた。瓦礫を片付けてキャンプでもしようとしたら、ウーシュー師範が「うちの道場ならいくらでも使っていい」と言って、道場に案内してくれた。

 道場は町外れの坂を上った竹林の中にあり、サッカー場が2つ入りそうなほど広い。母屋も広く、コの字型になっていて、中心に訓練場があった。石造りの町の建物とは違い、木造の平屋だ。入口の看板には『魔体術』と書かれており、それがウーシュー師匠が教える拳法らしい。

 部屋数も多く、俺たちはそのうちの一室を使わせてもらうことにした。

 一眠りして、昼頃のそのそと起きると、昼飯まで用意されていた。板張りの道場に足の低い長いテーブルと、長机に合う茣蓙が敷かれている。南半球では魔物の毛皮を絨毯代わりにして床で食事をすることもあったので、文化の違いに誰も驚かない。道場裏の畑で作ったというほうれん草に似た野菜のお浸しと、なにかの魔物のロースト、パンの代わりにバレイモの蒸したものが出された。

「至れり尽くせりで、申し訳ないです」

 俺たちは残さず食べた。

「実はな。折り入って頼みがある」

 改まった様子で、ウーシュー師範が言った。

 なんだろう。戦いたいとか、体術についてとかなら全てアイルに丸投げしよう。

「今日1日、ここにいてくれんか?」

「1日ですか?」

「ああ、そうじゃ。1日じゃ」

「なぜです?」

 素直に疑問に思ったことを口にした。

「ジェラルドという、この国の王が町に来るからじゃ」

「なにか俺たちが王に会うとマズいことでも?」

 ウーシュー師範は「むぅ……」と唸るように眉を寄せて、

「お主ら、200人以上の奴隷を養えるか?」

 と、唐突に不思議な質問をしてきた。

「いや、200人なんて養っていられません。そもそも奴隷だってそんなに欲しくないです。今までも、できるだけ俺の奴隷になってしまった者たちは解放してきたくらいですから」

「うむ、よかった。やはりドヴァンの言ったとおりか」

 そういやドヴァンがいない。どこ行ったんだ?

「ならば話そう。我々、傭兵の国の民はどんなに副業をしようとも、本業は傭兵、自分の強さを金で買ってもらうのが基本的な生業じゃ。時には死地に赴くのも仕事になることがあり、自分の命も金で買わねばならん場合もある」

 死ぬのが仕事なんて、傭兵の国ならではの考え方だろうな。

「お主たちは、そういう傭兵たちの命を211人分助けてしまった」

「え!? ああ、そうか。勝手に助けちゃマズかったですか?」

「いや、命があるから返せるという考えもあるので、なんとも言えないが、傭兵の国の王は自分の力で生きられなかったような弱い民に容赦しないかもしれん。強さで成り立っている国だから王としても仕方がないのだがな」

「それで、俺たちが町にいると助けた人たちが罰を受けると……」

 サムエルは命あっての物種と言っていたが、ところ変われば、考えも変わるものだな。

「まぁ、そういうことじゃ。町の中だけでなら、いくらでも口裏は合わせられるが、助けた本人たちがいるといろいろとな。お主たちも200人の奴隷を抱えることになっても困るじゃろう?」

 町の人たちがうまくやってくれるのなら、それが一番だ。

「そうですね。わかりました。1日ご厄介になります」

「うむ、自分の家の様に使ってくれて構わん。なにかあれば儂にでも弟子にでもいいつけてくれればよい」

「ありがとうございます」

 時刻は昼過ぎ。

 午前中、町で発見された遺体を掘り出していたという弟子たちも戻ってきており、外で『魔体術』の訓練をするという。俺たちは回復薬などを補充しつつ、縁側からそれを見ることに。

「まず、己の中の魔力を感じ、敵の魔力を見定め、自然の中の魔力を吸収する。全ては魔力の流れを感じることから始まり、魔力の流れを滞らせることなく速めたり遅くさせることによって敵を退ける術じゃな」

 ウーシュー師範が簡単に説明してくれたが、意味はわからん。

「どうせ1日暇なら、私もちょっとやってみよう。セスたちも来いよ」

 アイルがセスとメルモを連れて、縁側から表に出た。ゆっくりとした太極拳の動きをする弟子たちに混ざって、アイルたちも見よう見まねで同じ動きをしている。魔力をゆっくりと移動させているようだ。それができれば、瓦礫に埋まった被災者を魔力の壁で包み、ゆっくり魔力の壁を大きくしていけば、自然と瓦礫の中から救い出せたかもしれない。

「いや、俺たちは何屋だ?」

 ツッコみつつも、俺もゆっくり魔力を移動させる練習してしまった。

「お主たち筋が良いな。そのうち自然の魔力も感じられるようになる」

 ウーシュー師範に褒められた。褒めて伸びるタイプです。

「自然の魔力ってどんな感じなんですか?」

「地面からぐわぁあああ! とくる感じじゃ」

 まったくわからん。

「お主らも魔力探知スキルを取ればわかるようになる」

 下手な精神論や「長く修業をすることじゃ」などと言わないので、ウーシュー師範を信用してもいいかなという気になってくる。

「自然の魔力って、魔素のことですか?」

「魔素? なんじゃそれは」

「魔力の元みたいなものです」

「なるほど、儂くらいになると感じられるかもしれんな」

 もしかしたら、魔素溜まりの調査をする時に役立つかもしれない。

「地面の中から吹き出すようなイメージですかね?」

 俺は前のめりになって聞いた。

「近いかもしれんな。そもそもこの星の地中奥深くには魔力の大きな流れがあり、特に流れが活発なところを龍脈と呼ぶそうだ」

 前の世界でも似たようなオカルト話は聞いたことがある。

「全て儂の師匠が書いたほら話じゃ。読んでみるか?」

 ウーシュー師範は薄い本を見せてくれた。師匠の話はまったく信用していないらしい。

 本によると龍脈が乱れると、天変地異が起こるらしい。火山が噴火したり、地震が起こり、ハリケーンがやってくるのだとか。

「ということは、魔素溜まりで魔素が噴出して龍脈が乱れ、地震が起こったのかもしれないですね」

 レイクショアの岩山でも魔素が噴き出してシマントの女王が成長しまくっていた。

「お主、信用しておるのか。おめでたい頭じゃな」

 失礼な。

「いや、ちゃんと因果関係を調べないと、またどこかで地震が起こるかもしれないじゃないですか」

 魔族領にもあるので心配ではある。

 どうせ火の勇者を駆除するためには、魔素溜まりの影響による健康被害くらいしか手がかりがないので、この冬はスノウフィールドで調査でもしようかな。

「今度、スノウフィールドってここから近い火の国の町で魔素溜まりの調査をするんですが、手伝ってもらえませんか?」

「んん……火の国か。いくら出す?」

 傭兵だから報酬が重要なようだ。俺たちも今なら、金貨もたくさん持っている。

「魔力探知スキルを持つ『魔体術』の門徒の方々に来ていただけるなら、そこそこ出せると思いますよ」

 理由があれば、ベルサたちも文句はないだろう。

「なら、行く」

 金を間に挟むことによって信頼関係ができることもある。商人の国と、傭兵の国が同盟を結ぶわけだ。


「ウーシュー師範!」

 突然、弟子と思われる服を着た坊主頭の女性が駆け込んできた。

「なんじゃ、騒がしいな」

 ウーシュー師範がその女性に厳しい目を向ける。

「ドヴァンの父親が王の一団に捕まりました!」

「スナイダーが? なぜじゃ?」

「地震時にフェンリルに興奮剤を嗅がせたため、フェンリルが檻から出てしまったとかで……」

「なんじゃ、そりゃ。ドヴァンはどうしておる? スナイダーに会いに行ったはずじゃろ?」

「ドヴァンの目の前で逮捕されたようです。アイツは今、フェンリルの檻がある騎獣部隊の宿舎に向かっていると思います」

 なんだか面倒なことになっているな。

 回復薬作りの手を止め、俺は「よっこいせ」と立ち上がった。

「ふぁ~あ、なんかあった?」

 頭を掻きながら、ベルサがようやく起きてきた。

「ドヴァンの親父さんが捕まったらしい。ちょっと行ってくる」

「へいへい。ふぁ~あっ! よし、私も準備万端」

 一度伸びをすると、ベルサの準備が万端になってしまった。どうやら一緒に行く気のようだ。アイルたちを見ると「こっちもいつでも行けるよ」と言った。

「ちょっと、お主らが町に行くと……」

「誰を見ても知らぬ存ぜぬを通しますよ。ただ、仮でもうちの社員が面倒なことになっているらしいので、ちょっと手伝いに行くだけです。ダメなら、町中眠らせるだけです」

「大丈夫。無事に帰ってくるよ。お爺ちゃん」

 ベルサはウーシュー師範の肩を叩いて、靴を履いていた。

「悪いけど、騎獣部隊の宿舎の場所を教えてくれる?」

 俺は駆け込んできた坊主頭の女性に聞いた。宿舎は町の東側にあると教えてくれた。

「フェンリルの看板が柵に張ってあるかと思います」

「あ、そこ僕、わかります。昨日、けが人の手当してて行きましたから」

 セスが行ったことがあるらしい。

「じゃ、ちょっと行ってきます」

「むぅ、ちょっと待ってろ。おい、誰でもいいからコート持って来い!」

 ウーシュー師範が弟子たちに声をかけ、魔物の革のコートを用意して俺たちに着せた。

「これで少しは町に馴染むはずじゃ。すでに冬じゃ。あまり無理はしないように」

「すいませんね。ありがとうございます」 

 俺たちは道場を出て、町の東へと向かった。

 なるべく目立たないように、道行く傭兵たちに紛れながら、騎獣部隊の宿舎を目指す。何人か昨日助けた者たちと目があったが、ガン無視で通り過ぎ、宿舎までたどり着いた。

 フェンリルたちの鳴き声が聞こえる。

 人気のない敷地内の檻の前で、ぽつんとドヴァンが1人立っていた。

「親父さん、捕まったって?」

「あ、社長! 皆さんも! 親父になにがあったのか。俺が家を出ていった4年前とはまるで別人になっていて……すみません」

「お前が謝ることじゃないさ」

「でも、俺、どうしても親父がフェンリルたちを町に放ったとは思えなくて……」

「じゃ、ちょっと証拠探してみよう。見つからなければ無罪も主張できるだろ?」

 俺たちは人がいないことをいいことに、周囲を探索。檻の中のフェンリルたちにクンクン臭いを嗅がれながら、何かの骨や、壺の破片、エロ本の切れ端、使い古したハンカチ、どう考えてもゴミなどを見つけた。ここは体育会系の部室かなにかか。確かにフェンリルたちがいるし、あまり人も来る気配はないので、溜まり場には持って来いだが、少しはフェンリルたちの世話もしたほうがいいように思う。あまりにも汚かったので、クリーナップをかけておいた。

「ドヴァン坊、この近くに薬とか毒を置いておく部屋はないか?」

 ベルサがドヴァンに聞いた。

「たぶん、宿舎じゃなくて、倉庫の方だと思います」

 ドヴァンは宿舎とは反対側にある建物を指差した。

「証拠になりそうなものは、この赤いペンキの付いた壺の破片くらいだろう。同じ壺を見つけよう」

 ベルサの推理で、俺たちは倉庫に向かった。

 もちろん倉庫番はいたが、メルモがポイズンスパイダーに眠り薬を持たせ、倉庫番が飲んでいるお茶に眠り薬を入れたので、入りたい放題だった。ドアにかかった鍵もアイルがスパンと剣で斬ってしまうため、うちの会社で鍵というのはほとんど意味がない。

 薬棚から、赤いペンキの付いた壺を見つけるのは簡単だった。

「興奮剤だな。少量なら、夜、元気になるタイプだね。ああ、ほら、結構減ってる」

 壺の中の白い粉はよく使われているようで、壺の半分以下しか量がなかった。

「社長、リスト上では壺があと2つあるみたいですけど」

 セスが倉庫の帳簿を見つけてきて、報告してきた。

「ドヴァン。お前の親父さん、相当モテるんだな」

「いや、さすがに、それはないと思うんですけど……」

「壺の破片があそこにあったということは誰かが、地震の時にフェンリルの檻の前で壺を思いっきり割ったんだよ。そう思えば、フェンリルたちが興奮して檻を壊すのも理解できる」

 ベルサが推理した。

「興奮剤を壺ごと飲んだら多分死んじゃうよ」

 薬学スキルを持っている俺が説明した。

「誰かと取引でもしてたんじゃないか? ドヴァンの親父さん、闇の薬屋でもやってたのか? カッコいいな。おい」

「いや、うちの親父は傭兵としては肉体系ですから、薬に関しては素人だったと思うのですが……」

「人は変わるからねぇ」

 俺とベルサに挟まれて、ドヴァンは戸惑っている。

「とりあえず、牢屋に会いに行こうか? 捕まってるんだろ?」

「捕まってます。でも、接見禁止かと……」

 そういうドヴァンを置いて、俺たちは通りに出た。

「いやぁ、牢なんて久しぶりですねぇ」

「イーストエンドを思い出します」

 セスもメルモもなぜか顔がほころんでいる。王子殺人容疑で捕まったときのことを、いい思い出にしちゃっているようだ。

「ちょっと待って下さい。皆さん! 牢屋は反対側です!」

 ドヴァンが俺たちを追いかけてきて、案内してくれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ