22話
「全く、わからなかった」
洞窟のそばでテントを張りながら、アイルが言った。
俺に付いていってみたが、強さの秘密がわからなかったということだろう。
それもそのはずだ。
鈴を鳴らして、レッドドラゴンを起こしただけ、なのだから。
それでも、冒険者カードの裏を見るとレベルが77に上がっていた。
ワイバーンの経験値は多かったようだ。
「本当に強い者は強さを隠すといいます。ナオキ様は本当にお強いのでしょう」
鍋をかき回しているテルが言った。
「俺は強くないよ」
「いや、一度ギルドでステータスを見てもらうべきだ」
「気が向いたらな」
「いや、港町に行ったらギルドに寄ってもらうぞ」
「わかったわかった。とりあえず、腹が減った。飯にしよう」
アイルは文句を言いながらも、パンとスープを食べていた。
俺は、レッドドラゴンが言っていた溶岩の流れについて考えていた。
どこかで溶岩が吹き上がっているのかもしれない。
食器の片付けをテルに任せ、俺は洞窟の周囲を歩き回っていた。
だが、探知スキルで見える範囲で溶岩が吹き上がっている形跡はなかった。
そういえば、洞窟を掘ったというシマントというアリの魔物を見ていない。
キャンプに戻って、アイルに聞いてみると、シマントはダンジョンが出来上がると、女王アリが羽の生えたシマントを産み、次の場所に飛んでいってしまうという。
残ったシマントは他の魔物の餌になるので、姿が見えなかったのだと説明してくれた。
「そういうものかぁ」
「ナオキはあまり、魔物について詳しくないのか?」
「ああ、ほとんど町から出たこともなかったからな」
「そうか。旅を続けているうちに魔物学者に会えればいいな」
「魔物学者かぁ。そんな人達がいるのか?」
「ああ、海を渡った島や魔境に調査で行っていると聞いた事がある。確か、この先の港町にもいたはずだ」
「そうか、会えたらいいなぁ」
その後、取り留めもない恋愛話をテルとアイルがし始めたので、俺は自分の寝床で寝た。
翌日、何故かテルとアイルは俺のそばで寝ており、酒臭かった。
アイテム袋から、相当な量の酒が消えていたので、2人でだいぶ深酒をしたらしい。
2人は起きる気配がない。
このまま暫く放っておいたほうが良さそうだ。
俺は寝床を片付け、山を登ってみた。
山頂は洞窟から、30分も歩けば着いた。
森の向こうに海が見えた。
キャンプ地もしっかり見える。
久しぶりにバルザックとセーラに連絡を取ってみることにした。
通話袋に少しだけ、魔力を通す。
「久しぶりだな。元気か?」
『おおっ!ナオキ様お久しぶりです。どうですか?旅は?』
通話袋からバルザックの声が答えた。
セーラからは何も反応がない。
「こっちは順調だよ。セーラは寝ているのかな?」
『ええ、魔法学院は厳しいところだそうですから、夜も遅いのでしょう』
「そうだな。バルザックはどうだ?」
『ええ、問題なくやっています。この前、カミーラ様とアイリーン様がやって来ました。ナオキ様のことを聞かれましたよ』
「そうか。今はアイルという冒険者と、テルという奴隷と一緒に旅をしているよ」
『ほう。両方共、女性ですかな?』
「そうだね」
『相変わらず、女性運が強いですな。ナオキ様は』
「女運が強くても、男女の仲にならないから、あまり意味はないよ」
『向こうはそうと思ってないかもしれませんよ』
「こっちにその気がないからな。ま、気長に探すよ」
『楽しみにしています』
『ドッギャシャン!!!! ナオキ様! ナオキ様ぁあああ!!!』
何かが倒れる音の後にセーラの叫び声が聞こえてきた。
「セーラ、うるさいぞ」
『すみません! お変わりないですか?』
「ああ、ないよ。セーラは元気か?」
『元気じゃないです。早くナオキ様に会いたいですよ。王都には来られませんか?』
「ああ、もうすぐ港町に行くところだ」
『冒険者と奴隷の女性たちと一緒に旅をしているそうだよ』
バルザックが言う。
『な!? なにをしてるんですか!!! ナオキ様! すぐに離れてください! ナオキ様は女性に騙されやすいですからね!』
「バルザック、余計なこと言うなよ」
『失礼しました』
ちょうど、寝床のテルが起きて、俺を探している。
「じゃ、そろそろ切るぞ」
『ちょっと待って下さい!私はまだそんなに話してないですよ!』
セーラが抗議する。
「そのうち手紙を書くから、気長に待っててくれ」
『絶対ですよ!お願いしますよ!』
「じゃ、2人ともまた連絡する」
『『はい』』
通話袋をしまった。
「おーい!」
俺は手を振り、テルに居場所を教えた。