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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~
218/502

218話


 砂漠のオアシスまでは、ずっと商人たちの列が連なっていたので迷うことはなかった。

 そのオアシスからさらに西に進んだところに、巨大な木製人形とオリエンタルな重層の建物が見える。そこが『火祭り』の会場になるという。砂上の楼閣を実際に見るとは思わなかった。砂の中から船首の竜骨のような物が突き出ているので、移動できるのだろう。

 『火祭り』というだけあって、各所で火が焚かれている。絨毯を広げアクセサリーを売る行商人も香炉の火を絶やさないようにしていた。

オアシスには、2000人ほど集まっているだろうか。夜にはさらに増えるという。会議に参加する者たちは少なく、ほとんどが祭りを楽しみに来るのだそうだ。昨日知り合ったスノウフィールドの商人ギルドのギルド長、ネイサンが教えてくれた。

「まだ、スパイクマンは到着してないみたいだ。飛行船がないし、傭兵たちもいないだろ」

 なんども『火祭り』に来ているネイサンに案内してもらいたかったが、「仕事が待っているんだわ~」と相変わらず愚痴を言っていた。

「砂嵐が来たら、あの建物に逃げてきていいからね」

 ネイサンとはオアシスで別れ、俺たちは少し観光することに。といっても祭りが始まっているわけではなく、前夜祭のようなものらしい。

オアシスの中心に泉が湧き出しており、周囲に砂岩でできた建物が並んでいる。さらに砂岩の建物を囲むようにテントを建てていた。人手が足りないらしく、どこのテントでも怒号のような声が飛んでいる。

俺たちはオアシスの水を汲み、勝手に水質検査。透明度は高く、吸魔草はそれほど成長しない。魔素含有量は低いようだ。飲める!


「いやぁ、少し落ち着きました。話には聞いていましたが……本当に、暑いですな」

 紙問屋のサムエルは、紙の素材を探すためにいろんな場所に行ったが、砂漠には素材がないので来たことがなかったという。

 砂岩でできた建物には、今年の『火祭り』に関するグッズなどとともに魔道具が売られていた。簡易的なコンロや暖房ヒーターなど、火魔法を使った魔道具が多い。売る方も買う方も商人で、見本市のようだ。サムエルはここを見て回りたいと言って、後で落ち合うことに。

「そもそも魔道具屋なんて初めてみたな」

 アイルが感心していた。魔道具師と呼ばれる職人はいるものの、長い修行を経なければ、一人前になれないため数が少ないという。

「じゃあ、俺はかなり特殊なんだ」

「なにを今さら……」

「社長は私が人生の中で出会った一番の奇人ですよ」

 ベルサとメルモが呆れている。

「コムロ社長、向こうの方で奴隷を売っているらしいですよ」

 ドヴァンが気を利かせて俺に教えてくれた。

「よし、行ってみよう」

「ナオキ、無駄遣いするなよ」

 アイルは俺が女奴隷を買うと思っているらしい。

「そうじゃない。もしかしたら魔族が売られているかもしれないだろ? ほら、自称・魔王だったら買って魔族領に送ろうかと思ってさ。ボウの役に立つかもしれない」

「それもそうだな」

 アイルは納得していたが、ドヴァンは「魔族領?」と何を言っているのかわからない様子だった。



 奴隷商がいるという違う砂岩の建物に行くと、獣人やダークエルフ、小人族などいろんな人種の奴隷が裸で鎖につながれ、台の上に乗せられていた。奴隷たちは後で競売にかけられるらしい。すごく混雑しており、酸素が薄い気がした。

 探知スキルで見ると、奴隷たちの中にも客の中にも魔族が混じっている。

奴隷の方は、『翼が生えた珍奇な種族』として紹介されていた。ハーピーのように手が羽根でできているというわけではなく、背中にワシのような羽根が生えており、客の目を引いている。女性の身体で胸が大きい。

「あれは何の魔族かな?」

「さあ?」

 ベルサに聞いてみたが、見たことはないという。

「人化の魔法を失敗しただけかもしれませんよ」

 セスは手厳しい。ただその可能性が一番高い気がする。

客の方にいる魔族は、3人フードを目深にかぶって壁際で固まっていた。いずれも女性らしい体つきをしている。

全員に知らせて、徐々に囲みながら近づいていく。

「やあ、こんちは」

「っ!」

 魔族の女は声をかけた俺をきつい目で睨んだ。周囲をアイルとセス、メルモたちが囲み、魔族たちに逃げ場はない。

「大丈夫、敵ではない」

「私たちのことを知っているのか?」

「探知スキルを持っているからね。でも、もしここに鑑定スキルを持っている人が現れたら、もっと厄介なことになるよ」

 3人の魔族はお互いを見合わせ、俺を見た。見られただけで、肘から先の皮膚が石化を始める。水の精霊が使っていた呪いと同じものだろう。

 すぐに回復薬に漬け込んだ針を取り出して石化した皮膚に突き刺して石化を解除していった。

「前に同じ呪いを使う者と戦ったことがあってね。ちょっと話を聞きたいだけなんだけど無理かな?」

 魔族の1人が懐に手を入れた。

「止めておいたほうがいい。ナイフを取り出した瞬間に3人とも首が飛ぶ。気がついていないかもしれないが、3人とも我々に捕獲されているんだよ」

 アイルが言った。事実、俺に呪いをかけた時点で、3人はうちの社員たちの魔力の壁で覆われている。アイルは魔力の壁の中をミキサーのように切り刻めるし、セスもメルモも魔力の壁ごとぶん回すことくらいわけない。

「わかった」

 俺たちは3人を、建物から出てオアシスの端の砂漠まで連れて行った。


「君たちは奴隷の彼女を奪うためならなんでもするのか?」

 単刀直入に3人の魔族に聞いた。

「無論だ」

「金はいくらあるんだ?」

「金で買うつもりはない」

 ボウが魔族領を作っている中、なにも知らない魔族のテロリストたちが他国でテロ行為をしようとしている。まったく、迷惑な話だ。

「皆、報酬の一部をあの羽根の娘を買うことにしても構わないか?」

「反対しても、どうせそのつもりだろ?」

「やっぱり女奴隷に弱い」

 アイルとベルサが文句を言った。なんとでも言え。

「ここでこの娘さんたちにテロを起こされたら、ボウの作る国に迷惑がかかる」

「仕方ないか」

 結局は折れてくれた。

「俺たちに時間をくれ。平和的に俺たちが彼女を買い取って必ず解放する。無用に場を荒らすな」

「それを私たちに信用しろと?」

「貴様、何者だ? 何の得がある?」

「私たちを魔族と知り、何をさせようとしてる?」

 同時に3人から詰め寄られた。フードの隙間から見える顔はとんでもない美人だが、髪がヘビだ。クビは細く、鎖骨が見えている。まるでモデルのようだが、それにしては腹の辺りがおかしい。

「南に国がある。魔族の国だ。お前たちが出ていった魔王の城を中心に人間の国とも交易をする立派な国だ。俺は魔王の血を引くゴブリン族と2年間一緒に働いていた」

「まさか……!?」

「魔族と人間が?」

「魔王の血を引くって、もしかして……!?」

 俺の言葉に3人の魔族たちは耳を疑っているようだ。

「ボウは今も俺の大事な友人だ。あいつの邪魔をすることだけは許さん」

「どうする? 姉者」

「ボウ様を知っているぞ。この人族は」

「ん~……いや、ウソよ! 私たちがなんど人に騙されてきたと思ってるの!? 人族が甘言で言葉巧みに私たちを操り、スーフ様を奴隷落ちさせたのを忘れるな!」

 姉者と呼ばれた魔族が腰を低くして、臨戦態勢をとった。アイルが剣に手をかけたのを、俺が止める。

 魔族の姉者は懐からナイフを取り出し、そのまま俺に切りかかってきた。そんなに速い攻撃でもない。

「今度は私たちを奴隷にするつもりかぁ!!」

 魔族の姉者は俺に攻撃し続けながら叫んだ。俺は徐々にオアシスから離れていく。

「奴隷にするといいことでもあるのか? そんなことに興味はない。それよりも、こんな祭りでテロでも起こされたら、せっかく作った魔族領に迷惑なんだよ!」

 躱しながら俺は説得した。

「魔王領から逃げた者のことなど知るか! 人族は私たちと魔物の区別もついていないのだろう!」

 フェイントを絡ませ、魔族の姉者は正確に俺の急所を狙ってくる。正直、アイルの訓練の様子などを見ているせいか、まるで当たる気はしない。

 上段に突きを放ち、俺が躱せば、横に振り、そのまま回転して蹴りが飛んでくる。体術スキルが高いのかもしれない。ただ、アイルのように空を駆け上がるようなことはしなかった。やっぱり、あいつちょっとおかしいんだ。

「なぜだ!? 私をバカにしているのか!」

 攻撃してこない俺に痺れを切らしたのか、魔族の姉者はナイフを投げつけ、飛び上がった。俺はナイフを首をひねって躱し、かかと落としを片手で受け止める。受け止めた拍子に診断スキルで、魔族の姉者の身体を診断。やはり腹に何かを隠し持っている。

「ふっ、とうに命など捨てている。私たちの恨みを知って死んでゆけ!」

 魔族の姉者が、そう叫んで懐に手を突っ込んだ。俺は思わずローブを引っ張り転ばせる。ただ、ローブの布が劣化していたのかビリビリに破け、魔族の姉者はインナー姿になってしまった。腹にはなにか筒のようなものがいくつも巻きついている。

 テロリストといえば、自爆か。そう思った瞬間に魔族の姉者がニヤッと笑った。腹に巻きついた筒から飛び出た導火線に火がついている。俺は無理やり腹に巻いたベルトを引きちぎり、導火線が付いた筒を空へとぶん投げた。

「誰か、ナイフ!」

 俺はナイフを貸してくれという意味で叫んだが、ドヴァンがナイフを投擲して空中の筒に突き刺した。

ボガンッ!

空中で筒が爆発。周囲で音を聞いた者は花火が誤爆したと思ったかもしれない。

「姉者ぁ!」

一瞬気を取られた隙に魔族の姉者が何かを飲み込もうとしていた。俺は正確にみぞおちを掌底で打ち、気絶させる。間一髪、姉者が致死量の睡眠薬を飲むのを止めた。

 俺は魔族の姉者を肩に担いだ。

「よし、サムエルさんと合流して、宿を取ろう。君たちもおいで。見ていたとおり、自殺でもしようとしない限り手は出さないから」

 魔族の妹たちにも声をかける。メルモが担いだ魔族の姉者に布をかけてくれた。これで、荷物を運んでいるようにみえるだろう。


 サムエルと合流し、今日の宿に向かう。宿はオアシスの泉に最も近い砂岩の建物で、俺たちは人数が増えたため、大部屋を貸し切りにしてもらった。サムエルは代理とはいえ、ギルド長なので楼閣にある一室を借りられるらしい。

「私たちはゴーゴン族と呼ばれる魔族の中でも少ない種族だ」

 魔族の妹たちが話し始めた。俺は気絶している魔族の姉者の腹に回復薬を塗りながら話を聞いた。

「どの種族も平等に接してくれた魔王が死んで300年。少数種族は集まって徒党を組むしかなくなっていたのよ。その中でもスフィンクス族のスーフ様は思慮深く、他の種族からも尊敬され、7大魔王に担ぎ上げられるのは当然だったわ」

 スフィンクス族ってことは人化の魔法が解けると、奴隷の彼女は身体が獅子になっちゃうのかな。

「いち早く火の国の魔道具に目をつけたスーフ様だったが……商人たちに騙され、結果的に捕まってしまった」

「私たちはスーフ様を助けるために、魔族解放戦線に入ったわ。人族に捕まった魔族を解放するための集団よ」

 テロリストも組織を作っているらしい。ボウにぶっ飛ばされてたのも、そのグループの一員なのかな。

「私たちはスーフ様が解放されれば、それでいい。もし本当に貴様がスーフ様を解放してくれるのなら、私たちが代わりに貴様の奴隷になってもいい」

「いらない、いらない。いいか、スーフ様を解放したら、そのまま南へ向かえ。かつて魔王がいた城を覚えているか? そこにボウって奴がいるから、そいつに言って国民にしてくれるよう頼めばいいだけだ」

「それで、貴様になんの得がある?」

 突然、ゴーゴン族の姉者が起きて、俺の腕を握った。くすぐったかったのかもしれない。

「だから、俺たちに得はないよ。ただ、ボウにかかる損を考えると君たちを止めたほうがいいって話だ。わかる?」

「わからん。人族は得しか求めないだろ? なぜわざわざ貴様が動く?」

「損得に関係なく、ボウの幸せを願っているからだ。それを友という。君らもスーフ様と一緒にいると得をするから助けたいのか?」

「私たちは人族じゃない。損得など……!」

 ゴーゴン族の姉者は急に黙ってしまった。損得を求めたがゆえにスーフ様は捕まったのかな。

「まぁ、いいや。しばらく待っててくれ。火の勇者に謁見できれば、報酬の一部としてスーフ様を買い取るから。平和的にいこう。とりあえず、髪洗ったほうがいいよ。ヘビにカビが生えると大変だから」

 3人とも髪の毛のヘビが黒ずんでしまって元気がない。クリーナップをかけてあげたが、あまり効果がなかった。ぬるいお湯でゆっくり洗うといいだろう。

 俺は床に加熱の魔法陣を描きポットの水を温めた。

「美人はちゃんとした格好をしておいたほうがいい。それだけで武器になるから」

 それだけ言って、男性陣は部屋を出た。あとはうちの女性陣がなんとかするだろう。リタがいなくなっちゃって頼りないけどな。


 外から太鼓の音が聞こえてきた。

「火焔太鼓かな?」

 俺がつぶやいた。

「あ、見てください! 空に飛行船が……!」

 ドヴァンが指差した空に飛行船が浮かんでいる。太鼓は飛行船から聞こえてくるようだ。

「ようやく、火の勇者様のご到着だぜ!」

「ついに『火祭り』も本番だな!」

「見ろよ! 火の鳥が舞っているぜ!」

 外から、商人たちの声が聞こえてきた。見れば確かに太鼓の音に合わせて、火でできたトリの魔物が飛行船の回りを舞っている。本当に『火焔太鼓』なのかもしれない。

「なんで太鼓なんですかね? 来たことを知らせるなら、半鐘とかのほうがいい気がするんですが」

 セスが飛行船を見上げながら言った。

「半鐘はいけない。おジャンになるから」

 俺は落語の有名なオチを思い出しながら、飛行船を見上げた。


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[良い点] 古◯亭志ん生ですな。懐かしい。
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