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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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217/504

217話


「命あっての物種ですね」

 紙問屋の主人が、湖を見た。舟型の棺が燃えている。

 瓦礫の中から遺体を掘り出し、町では合同の葬儀が執り行われたのだ。

 地震から3日目。

 小さい余震はまだ続いている。町には周辺の村からも被災した人々がやってきており、瓦礫を撤去した空き地に簡易的なテントが建てられていた。

森の中にも避難所を作る。地震により魔物たちがいなくなっていたので、木と草を刈るだけでよかった。

「道が崩れ、建築資材が足りません。情報の伝達も遅れています」

 紙問屋の主人が疲れたように言った。

 通信手段がないから、同じ国の中で地震が起きたことすら知らない人たちがいるようだ。

 さらに道が崩れているため、建築資材が届かない。

 ただ、船は無事なようで、食料だけは町に集まってきている。あとは町の行政がどうにかするだろう。


 救助活動や瓦礫の撤去、避難所の設置などはコムロカンパニーが率先してやった。

 スキルや単純な力で、できることはやる。壊れた魔石灯も直した。崩れた橋を渡す作業などは町の職人たちに任すしかないが、露天風呂はすぐに作った。

「すごい手際がいいですね」

 ざっと湯船を作った俺にドヴァンが言った。

「風呂はどこでも作ってるからな」

「いや、地震のあと救助とか……」

「ああ、昔住んでた場所でよく地震が起こってたんだよ。だからかな、やるべきことがだいたいわかってるんだ」

「会社では回復薬も売ってるんですか?」

「まぁな。ゴースト系の魔物が大発生している場所もあるだろ?」

「でも、あんな純度の高い回復薬を見たことないっすよ」

 やけに話しかけてくるな。

「薬学のスキルレベルが高いから、補正かかってるんだ。レベルを上げさえすれば、スキルポイントを割り振れるだろ? ドヴァン、うちの会社ではレベルとか、冒険者のランクとかはどうでもいいが、手に職を持ってないと厳しいぞ」

「はい!」

 強制はしないが、出来れば投擲スキル以外のスキルを取ってもらいたいものだ。それなら即雇用も考えるのに。


 この3日間、あまり寝てなかったので、今日は宿にて寝る。

「コムロカンパニーさん。ちょっとよろしいですか?」

 夕方起きると、紙問屋の主人が俺を訪ねてきた。商人ギルドの本部長は倒れてきた本棚で圧死していたため、現在、紙問屋の主人がこの町のギルド長として動いている。この人もあまり寝ていないはずだ。

「なにか問題が発生しましたか?」

「私と一緒に火の勇者に会いに行き、直談判してもらえませんか?」

 いずれ火の勇者には会わないといけないのだから、会いに行くのは吝かではない。

「シマントの駆除を含めて、地震で被災した人命の救助、復興への尽力。こんな小さな湖畔の町ですが、国としてコムロカンパニーには報酬を出さなくては信用に関わる。ぜひ一緒に来て、町の様子などを伝えていただきたい」

「わかりました。一応、確認してもいいですか?」

「ええ、構いませんが、なにか?」

「この地方の知事がいるとか町長がいるわけじゃないんですか? この町で役所を見てなかったものですから」

「知事というと、以前この町が含まれていた国の王のような者ですかね? 火の国になると同時に死にましたよ」

 それはそうか。

「役所は、王の目としてありましたが、王が死んだのでありません。道や橋などに関して、ほとんど商人ギルドが差配し、冒険者ができることは冒険者ギルドが請け負ってくれているので、いらないんです」

 なるほど、本当に商人の国なんだなぁ。ただ、町として国の支援が欲しければ、直談判するしかないのか。不便だ。

「わかりました。で、火の勇者はどこにいるんですか?」

「今は冬の初め、『火祭り』の時期ですから、西の砂漠でしょう。1年に1度、ファイヤーワーカーズの各地方のギルド長が集まる会議も開かれるはずです。火の勇者にはそこで会えるかと思います」

「了解しました」

「よかった! 助かります! 出発は明日の朝、霧が晴れた頃に」

 紙問屋の主人はほっとしたように宿を出ていった。



「……ということになった」

 夕方に朝飯を食べながら、火の勇者に会いに行くことを全員に共有しておく。

「『火祭り』っていうのが気になるけど、火の勇者に会えるなら面倒が省けたね」

 アイルが言った。

「あの紙問屋の主人も大変だなぁ。私たちへの報酬も払えないし、なにをあげていいかわからなくなったんじゃないか。火の勇者に丸投げされるかもしれないよ」

「いや、単純に私たちは護衛なんじゃないですか? シマントを駆除してますし」

「冬にお祭りですか、いいですねぇ。向かう先が砂漠なら、この後、森に狩りに行きますか?」

 ベルサ、メルモ、セスがそれぞれの感想を言った。

「全員、火の精霊の情報収集も忘れるなよ」

「「「「了解」」」」

「あの……いろいろわからなかったんですけど」

 端に座っていたドヴァンが手を上げた。

「大丈夫。どうせ今、説明してもわからないから。おいおい説明するから、今は流しておきな」

 セスがアドバイスしている。妹と弟がいるから面倒見はいい。

「わかりました!」

「ドヴァンはこの後、セスと俺と一緒に森で魔物狩りをしよう。肉と食べられる野草を取っておかないと砂漠で死ぬかもしれないからな」

 ドヴァンは俺とセスを交互に見て、「やります!」と頷いた。いつまで付いてくるのかは知らないが、少しはレベルが上がればいい。

「私たちのレベルは隠したほうがいいだろ? どうせ騒ぎになるから。1人、ドヴァンみたいなレベルが低い奴がいると冒険者の依頼も受けやすいと思うんだ」

 と、副社長のアイルは言っていた。神々からの依頼では役に立ちそうもないが、普通の冒険者の依頼を受けるために雇用してもいいかな、と思い始めている。

「とはいえ、手に職だぞ。ドヴァン! 俺たちがいついなくなってもいいようにな」

「は、はい! え!? いなくなるんですか?」

「そりゃそうさ。出会いがあれば別れもある。いつ会社がなくなるかわからないから、俺たちはそれぞれちゃんとスキルを持っているんだ」

「そうだったのか!?」

 アイルが驚いている。そういう意識はしていなかったようだ。

「そうだよ。俺なんか、いつ精霊に狙われるかわからないだろ? たとえ、俺が死んでも皆、一人でも生きていけるようにさ」

「OK!」

 ベルサは軽く返事をして自室に戻っていき、アイルは深刻そうに地図を見ながら考え始めた。

ドヴァンが不安そうにセスとメルモを見ると、

「大丈夫よ。社長はバグローチよりもしぶといから、そんな簡単に死なない」

 と、メルモが大ナマズの煮物に手をつけながら言った。


 その後、俺とセスとドヴァンは明け方まで森で魔物を狩り、解体。少しずつではあるが、逃げ出した魔物たちも戻ってきていた。



 翌朝、霧が消えてから町の入り口に行くと、空の荷馬車を用意した紙問屋の主人が待っていた。

「改めてよろしくお願いします。レイクショアの紙問屋主人兼商人ギルド長代理・サムエルです」

「コムロカンパニー社長、ナオキ・コムロです。よろしくお願いします」

「さ、乗ってください」

 走ったほうが早いのだが、せっかくなのでお言葉に甘えることに。眠いし。

 俺たちは荷台に乗り込み、揺られること1時間。橋が崩れている場所に出た。

「この道もダメでしたか。すみません、時間はかかりますが回り道をします」

「大丈夫です。崖の向こうに行けばいいんですよね?」

 俺たちはフィーホースと荷台をヒョイと持ち上げ、崖の向こうまで跳んだ。

 サムエルもフィーホースも目が点になって固まっていたが、俺たちが荷台に乗り込み再び眠ると、静かに荷馬車は動き出した。


 昼、照りつける太陽が眩しくて起きた。

「ふぁ~あ、よく寝た」

 周囲を見渡すと、森がなくなり草原に出ていた

「サムエルさん、疲れたら代わりますからね」

「ええ、ありがとうございます。まだまだ大丈夫です。1日目ですから。もし途中で野盗やテロリストが現れたら、お願いします」

「砂漠まで何日くらいかかりますか?」

「早くて3日。フィーホースも老馬ですから、4日か5日くらいかかるかと」

「結構かかるんですね。一本道ですかね?」

「そうですね。ほとんど一本道です。途中の村で宿を取りつつ行きましょう」

「わかりました。あ~、起きたら腹減ったなぁ」

「ハハハ、お昼にしますか?」

「はい!」

 俺たちは黄色い小さな花が咲く、草原の道端に荷馬車を停め、昼飯をたべることに。

 調理はセスとメルモに頼み、俺のリクエスト通りの物が出てきた。昨晩獲ってきたグリーンディアのモモ肉をじっくりと香草と一緒に焼いたステーキとサラダ、それにバレイモのマッシュポテトだ。

「やはり獲れたての肉は違いますね。元気が出る」

「獲れたて?」

 サムエルが聞いてきた。

「昨晩、森で獲ってきたんです。砂漠に出ると食料を調達するのが難しいかなぁ、と思って」

「ああ、それはそれは。さすがコムロカンパニーですね。ですが、砂漠にはオアシスの町がありますから食料は問題ありませんよ。全てファイヤーワーカーズが用意してくれますし」

 なんて親切なギルドなんだろう。ファイヤーワーカーズに加入すれば、衣食住には困らないらしく、商売を始める時も何かと支援してくれるという。

「我々は火の精霊の下に集まる家族ですから」

 と、言っていた。食べ終わるとサムエルは「精霊のご加護を」と言って、指からライターで点けるほどの火を出し、息で吹き消していた。「ごちそうさま」の挨拶のようなものらしい。火魔法は俺も使えるので、やってみると指先が結構熱かった。

「ハハハ、意外とコムロさんは魔法は下手なんですね」

 サムエルが笑った。確かに、魔法陣ばかり使っているせいもあって、魔法はあまりうまくない。魔法陣を焼き付けるときくらいしかほとんど使わないし。クリーナップや魔力操作なら得意なんだけどな。アイルたちも意外そうに俺を見ていた。

「社長にも弱点があるんですね」

 ドヴァンが言った。

「俺なんか弱点だらけだよ」

「社長はキレイな女性にも弱いよ」

 セスがいらないことを言う。

「特に娼婦にはめっぽう弱い」

「女奴隷にも弱いはずだ」

 ベルサとアイルも口を挟んできた。

「……谷間」

 メルモは単語だけ言って横目で俺を見てきた。普段、メルモの谷間をちら見していることがバレているようだ。

「大きいとな。嫌でも目がいってしまうんだ」

 俺はお茶を用意しながら言い訳した。サムエルのお茶には眠り薬を入れる。薬が効いて、サムエルはすぐに眠ってしまった。

「よし、じゃ走ろう!」

 俺たちは荷台を持ち上げて走った。フィーホースの脚には風魔法の魔法陣を描き、ドヴァンと眠ったサムエルを乗せる。

「俺、あんまりフィーホースは得意じゃないんですよ~……」

 という声を置き去りにして、一本道を荷台を持ち上げながら走った。道で行き交う人もいなかったので、とっとと中継地点の村まで一気に移動。村人と世間話をしながら30分ほど待つと、ドヴァンたちも追いついてきた。

「こんな速いフィーホースに乗ったのは初めてです」

 ドヴァンは足をガクガクさせてフィーホースから降りていた。フィーホースはいい汗をかいたと鼻息を荒くしている。

 村にいるファイヤーワーカーズの商人に宿を取ってもらい、サムエルを寝かせた。フィーホースの世話も忘れない。

あとは適当に村を観光。村人からサスリカスというプレーリードックのような魔物が穴を掘って畑を荒らすと聞いたので、駆除してあげることに。

ベタベタ罠で100匹ほど捕まえると、村人から「うちの娘と結婚しないか?」と誘われた。

「いやぁ~、いいんですか?」

 思わぬところで嫁を見つけてしまった。その村人の娘さんに会ってみると、まだ12歳だという。

「ちょっと早いかな……」

 大きくなったら、また会いに来ると約束して、夕飯をごちそうになる。「また、金にならない仕事をして」とアイルたちから小言を言われつつ、宿で就寝。夕飯はアイルたちもごちそうになっているので、文句を言われる筋合いはない。


 サムエルは疲れていたのか、ずっと眠ったまま朝を迎えた。夕食を食べていないので、お腹が減って起きたようだ。

村人からもらった夕飯の残りを渡し、出発。

「いやぁ、昨日は昼ごはんを食べたら、すーっと寝てしまって、すみません」

「いいえ、一本道なので迷うこともありませんでしたよ。この先に分かれ道があれば教えてください」

 今日は俺が御者台に乗っている。

「分かれ道があったら、ずっと西に向かっていただければいいですよ」

「そうですか」

 その日も昼食後、サムエルには眠ってもらった。地震で忙しかったから、しっかりと休息を取ってもらいたい。

「ただ、フィーホースに合わせてられないってだけでしょ?」

 アイルからツッコまれた。

「そうともいう」

 中継地点の村で道を聞き、鉄砲水や風によって侵食されたという砂岩の渓谷を抜け、砂漠に出る。

渓谷と砂漠の境目に馬宿があった。今日はそこで泊まることに。

日が沈むにつれ、馬宿はどんどん混んできた。

「あんたがたはどこから?」

 色の白いガチムチ系の行商人が話しかけてきた。

「えーっと、レイクショアって湖畔の町からです」

「そうかいそうかい。俺はスノウフィールドって北の方から来たんだけど、こっちは暑いねぇ」

 そう言って行商人は身体の汗を拭った。北国の人からすると砂漠は暑すぎるようだ。確かに、俺も汗に砂が混じり気持ち悪い。クリーナップをかけてあげると喜んでいた。

「いやぁ、助かった。汗が酷いもんね。これ、よかったらどうぞ」

 行商人はミカンのような果物をくれた。

「あんたがたは『火祭り』の観光?」

「それもあるんですが、ギルド長の会議に出るためにギルド長代理を連れてきました」

「代理?」

「ええ、町のギルド長が地震で亡くなってしまいまして」

「そらぁ、大変だったなぁ」

「俺たちは火の勇者にお願いと調査も兼ねてなんですけどね」

「はぁ~いろいろ大変なんだなぁ。いや、俺も会議に出ないといけないんだけどね。ここであんたがたに会えて良かった。心強いわぁ」

 この人、ミカン農家の人じゃなくてスノウフィールドの商人ギルドのギルド長だったのか。せっかくもらったので、ミカンっぽい果物を剥いて口に入れた。

 ギルド長はじっと俺の方を見ている。

「甘いですね」

「でしょう!? それは旬のシトラスだからね。これが旬以外にも実りだして、どんどん苦くなっていくんだぁ……どうすりゃいいんだろうなぁ」

 魔族領でも旬以外の木の実は苦かった。魔力回復シロップにしたけどね。

「いや、ごめんごめん。最近、俺が担当しているスノウフィールドで魔石の採石場が見つかって、魔石を採掘してるところなんだけど、前も似たようなところでギルド長をやっていてね。旬じゃないのに木の実がなって、それがまた苦いんだぁ」

 それってもしかして魔族領では? というかギルド長っていろんなところに飛ばされるのか。

「今担当しているスノウフィールドは、傭兵の国の隣だし、変な物が実り始めるとピリピリするんだよ。賄賂のためにヒートボックスも買わないといけないし、いいことないよ」

 完全に愚痴り始めた。

「家畜の魔物は主人の牧場主を襲っちゃうし、周辺の魔物は強くなっちゃうし、魔力測定器は壊れっぱなしだし……はぁ~」

「娼婦が魔物を生んだり?」

「え!? どうしてそれを!?」

 スノウフィールドのギルド長はギョッとして俺を見た。

「あ、いや、風の噂で聞いたことがあって、魔石の採石場の近くに住んでいる妊婦は魔物を生むって。本当なんですか?」

「……時々、そういうことがあるみたいけど、魔石の採石場が関係しているかどうかはわからないよ。ただ、この前もスノウフィールドで家畜のゴートシップが人の顔をした魔物を産んでいたけどね。全て採石場のせいだと疑いだせばキリがないさ。ただ1つ確実なことは、魔石の採石場に関わると胃が痛くなるってこと。イタタタ」

 俺はスノウフィールドの商人ギルドのギルド長に回復薬を渡した。

ここで、この人に会っておいてよかった。

 もしかしたら、火の勇者駆除のきっかけを掴んだかもしれない。



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