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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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214/505

214話


 北に向かえば、自然と肌寒くなった。

「冬か」

 立冬を過ぎたが、本格的な冬になるにはまだ早い。

 俺たちは森の中の街道をひた走った。森は緑が消え、紅葉した木々が現れ始め、針葉樹林もちらほら見える。水場もあるのか魔物も多い。

「食うには困らなそうだな」

 たとえ、獣人の青年がまだついてきたとしても飢えで死ぬことはなさそうだ。ほとんど一本道なので、いつか追いついてくるかもしれない。


 関所のようなところがあったが、魔族領から攻撃はされないと思っているのか、特に止められるということもなくあっさり入れた。

「元国境線かな?」

「火の国は魔族領も自国とみなしているんだろう」

 アイルが答えた。

いつの間にか火の国に入っていたようだ。

 アイルが地図を描き、俺たちはお茶を飲みながら休憩。最近はだいぶ描き慣れたのか、周りに人がいないことを確認すると、タタンッと空中を駆け上がり、空から周囲の様子を見て、地図を描いている。俺たちもアイルの趣味を理解しているし、仕事の役にたつこともあるのでなにも言わない。


 さらに走ると切り立った山と山の合間に湖と川が見えた。

分かれ道も増え、徐々に行商人たちとも会い、挨拶を交わす。疲れてはいないが走っていてぶつかると面倒なので、ここからは歩き。空を飛んでいってもよかったが、目立ってもあまりいいことはないだろう。

 川のほとりには村があり、今夜はそこで宿を取ることに。村には木造の古い旅館のような家が、ほとんど隙間なく並んでいる。日が落ち始めていたので、川の対岸から見ると、提灯型の魔石灯の明かりが村の建物を照らしていて、なんともキレイだ。

 宿を探しながら、村を回り、夕飯に肉まんのようなものを買う。中身はヤギの魔物の肉と根菜などが詰まっていて、非常に美味しい。宿をとって、セスとメルモは食料と生活用品の補充。俺たちは仕事探し。

「相変わらず、金がないなぁ」

「ほとんど、城で使っちゃったからね」

 俺とアイルがボヤく。

「そういや、セスは船どうしたんだろうな?」

「森の東に川があって、そこから海に出られるらしい。セイレーン族が言ってた。餞別に置いていったか、忘れているだけなのか。いずれにせよ、私たちの船も調達しないとね」

 ベルサは川に浮かぶ細長い屋根付きの船を見ながら言った。川の船は底が平らなんだっけ。夜にも拘らず、川の交通量は多い。

「もしかして、遊郭があるんじゃないかしら……」

 急にドキドキしてきた。

「お金がないって言ってんのに、行けるわけないでしょ。稼ぎな」

 うちの副社長と会計は厳しい。

 商人ギルドは村の中で一番大きな4階建ての建物で、すぐに見つかった。


「コムロカンパニー? 聞かない名だな」

 受付で髭の長い職員に言われた。夜勤のせいか眠そうだ。

「ええ、違う大陸からやってきました。停戦したと聞いたのですが、仕事ありませんか?」

「違う大陸だと!? ギルドの派閥が違う業者に頼む仕事となると、ゴミ掃除くらいなもんだぞ」

 そういや商人ギルドは世界中にいくつか派閥があると聞いたな。

「あ、それでいいです。うちは清掃・駆除業者なんで。虫の魔物やネズミの魔物なんかでお困りの飲食店とかがあれば、冒険者に頼むよりも安く請け負っているんです」

「はぁ、変な仕事してるんだな。そういう店があれば紹介するよ。張り紙も出しておいていい」

「ありがとうございます」

 とりあえず、張り紙を掲示板に張って、俺たちは商人ギルドを出た。

「じゃ、いつも通り。飲食店に営業をかけつつ、火の勇者についての聞き込み。無理はしないようにな」

 そう言って俺はアイルとベルサに回復薬と毒消し薬のアンチドーテを渡す。

「夜だからな。見つからなくてもしょうがない。すぐに切り上げてもいいからな」

 村の十字路で3人違う方向に歩き出した。


 俺が狙うのは、もちろん遊郭。村はほとんど坂道で、人の流れを注意深く見ながら、まだ開いている飲食店に営業をかける。変な仕事なのでだいたい空振りだけど、中には「明日、オーナーがいる時にまた顔を出してくれ」という店もあった。

不思議なことにこの村には教会が見当たらない。屋台も多いし、行商人も見かけるから、商売の神様くらい祀っていても良さそうなものだが。川の方に行き、船の船頭さんに聞いてみると、火の精霊に拝むことはあっても神様に拝むことはほとんどないらしい。

「お前さん、商売が失敗した時、誰に助けを求める?」

 逆に船頭さんから質問された。

「ん~神様ですかね?」

「はっ、神様は何もしてくれやしないさ。神様ってのは奇跡を扱うのみだからな。生活まで保証してくれねぇ」

 船頭さんは長い煙管を吸って、煙を吐き出しながら言った。

「家族だろ? 助けてくれるのは家族だ。頼るのは神様じゃなくて、うちの女房、つまり上さんだ。弟もいるし、親父たちは死んじまったから頼れねぇが、この先の町には叔父や叔母もいる。皆、商売人だ。商売には燃える火のように、強火のときもあれば弱火のときもある。『火の国の商売人は、皆家族だ。頼り頼られながら生きる』ってな。火の勇者の受け売りだ。ほら見てみろ」

 船頭さんが懐から出した紙には『火族』と書かれていた。

「ファイヤーワーカーズ。火の国にある商人ギルドの名前だ。ここは数年前まで違う国だった。今じゃすっかり火の国さ。国ごと惚れちまったんだよ、ファイヤーワーカーズのギルド長、スパイクマンにさ。つまり、火の勇者にな」

 数年前に占領した国の国民からこれほどに慕われているとは。これが、カリスマか。


「まいったね。どうも」

 遊郭を探す気が失せてしまった。敵はカリスマ、崩し方がわからん。というか、駆除しても大丈夫なのか。

 他の飲食店にも『火族』と書かれた紙が貼られている。

火の勇者は他国に侵攻しているものの、しっかり人心掌握をして、人に愛されている。怖いのは武器の開発と戦争。でも、それを止めるのは政治家の役割だ。俺たちにできることはあるのか。


 とぼとぼと宿屋に帰ると、アイルとベルサはしっかり仕事を見つけていてくれた。

 村で2件。船に乗って湖の畔にある町まで行くと、1件の駆除依頼があるそうだ。仕事があってなにより。 セスとメルモも食料と生活用品を補充できたらしく、本当に財布袋の中はすっからかん。

 懐が軽くなったところで、今日は就寝。


 翌朝、湖が近いからか濃霧が発生して村中が白く、5メートル先も見えなかった。宿の主人に、村の地図を描いてもらって、村での2件の駆除依頼を済ませてしまう。1件は蜘蛛の巣だらけになった館の清掃とクモの魔物の駆除。小さなクモの魔物はほとんど益虫のはずなのだが、依頼人のおじさんは蜘蛛の巣と毒が怖いらしい。

 木の棒の先にタオルを巻いて、蜘蛛の巣ごとクモの魔物を獲っていき、クリーナップでキレイにしていく。動きが速く捕まえられないなどということはまったくない。最後に、魔物除けの薬をポンプで散布し終了。クモの魔物が入ってこないよう窓の隙間などは洞窟スライムの粘液で埋めておいた。

「毒なんてないのにね」

 メルモが袋の中のクモの魔物たちに話しかけていた。

 次は倉の中にヤスデの魔物が大量発生したという依頼。ムカデの魔物と違って、ヤスデの魔物も無害のはずなのだが、見た目が怖いのだとか。

「ヤスデの魔物なんて朽木とか落ち葉の中にいるはずだよ。その倉自体がヤバいんじゃないかと思う」

 うちの魔物学者のベルサが言う。倉の中に入ってみると、床板も壁の板もボロボロ。虫の魔物が入りたい放題だった。

「駆除するのはいいのですが、俺たちリフォーム業者じゃないんで、すぐにまた発生しますよ」

 そういったのだが、「とりあえず、中にいるものだけでも駆除してくれ」と依頼人がいうので、魔物除けの薬を散布して追い込み、一箇所にまとめてベタベタ罠で捕獲。裏庭を借りて、クモの魔物と一緒に焼いた。

「金になったから、よしとしよう」

 霧が晴れてきたので、昨日会った船頭さんに湖の向こうにあるという町まで連れて行ってもらった。

 湖の中ほどに来たところで、霧が晴れ景色が一変。昨夜は見れなかったが、切り立った柱のような山がいくつも点在し、山肌が見えるものの地面と平行な場所は緑の木々で埋め尽くされている。霧の上から山の頂上が見えると、まるで空に浮かぶ島のようだ。

「こりゃ、いい景色ですね」

「そうだろう!」

 船頭さんは、この地に住んでいることが誇らしいようだ。


 湖の畔の町には、船で交易する商人たちが集まる市場があり、船の数がとにかく多い。

 俺たちが受けた依頼のすべてがアリの魔物による被害だった。中型犬ほどのシマントと呼ばれるアリの魔物だそうだ。

「洞窟掘ったりする魔物だよな? 何回か聞いたことがある」

 ベルサに確認すると、「そうだよ」と言って、『リッサの魔物手帳』を見せてきた。見た目は完全にアリで、岩をも砕く顎を持っているのだとか。それが中型犬くらいの大きさなのだから恐ろしい。

 アイルは適当な剣術の演舞をして客寄せしていた時に、声をかけられ依頼されたと言っていた。

依頼人の紙問屋の主人に話を聞くと、町の中に時々入り込んで食料を持っていったり、家の柱をかじって壊したりしていくのだそうだ。紙問屋の主人は商人ギルドの偉い人らしく、「うまくいったら宣伝しますよ」と言ってくれた。

「ただ、何人もの冒険者が挑んで行方知れずになっています。無理だけなさらないでください。そこまで期待はしておりませんので。命あっての物種でございます」

 商人らしく、腰は低いが辛辣ではある。火の国の商人らしいのかもしれない。


 俺たちは町の宿屋に拠点を置いて、話し合う。

「実際、歴史上では町ごとシマントに乗っ取られるケースもあったみたいだよ。社会性のある魔物だからね。気をつけないと」

 ベルサが全員に注意した。

「社会性はあっても魔族ではないんだよね?」

「交渉は無理だろう。冒険者が襲われているんだから魔物だよ」

 アイルが言った。

「町の中にいるわけじゃなくて、外ですよね。これって広域範囲の駆除ってことになるんでしょうか?」

 セスが聞いてきた。

「そうだろうね。巣が近くにあって、シマントの女王を駆除することになると思う」

 レッドドラゴンがいた洞窟や、グレートプレーンズの南にある洞窟もシマントが作ったと言われていたので、巣は俺たちが普通に入れる大きさのはずだ。

「ダンジョン攻略みたいで楽しそうではありますけど」

 メルモが適当なことを言う。いざとなったらメルモが一番警戒するはずだ。

「アリの魔物か……」

「ナオキは前の世界で駆除してなかったのか?」

 ベルサに聞かれた。

「基本的には毒餌と毒スプレーだよ。あとは重曹と砂糖混ぜて腹を爆発させたり、消化できない餌を与えて餓死させたりするというのもあったけど、こちらの世界のはサイズが違うからね」

 餌代がバカみたいにかかる。

「まずは巣を見つけて、入り口を塞いで睡眠薬。その後、吸魔剤の流れで。いつもの感じでいいんじゃないか?」

「とりあえず、毒は各種準備。その場で臨機応変に対応で、通信シールと空飛ぶ箒も忘れずにな。私たちに倒せない魔物はめったにいないからと言って、油断しないように」

 アイルが副社長らしく、締めてくれた。


 町は村と同じように旅館のような建物が多く、冒険者ギルドもあった。一応、覗いてみると、シマント駆除の依頼書が掲示板で日焼けしていた。相当前に依頼は出されているが、誰も達成はしていない。依頼主は紙問屋の主人だった。

 冒険者の数もそこそこ多い。戦争が停まって、流れてくる傭兵がとりあえずの日銭を稼ぐこともあるという。

 ここでもやっぱり、火の勇者は大人気。『速射の杖』による戦術がほとんどの戦場で嵌ったらしい。

「そんななか、火の勇者を駆除しようなんて私たちの依頼主はなにを考えているのやら……」

 アイルがボヤく。

「まさに神のみぞ知る、だな」

 そう言って、冒険者ギルドを出た。


町の外の森は、紅葉した木と緑の葉をつけた木が半々くらい。街道を毛皮のローブを着た行商人が行き交う中、俺たちは森に入った。

木の実や魔物が多い豊かな森で、シマントがわざわざ町まで来る理由がない。たぶん、たまたま町に出てしまったのではないか。

観光がてら、切り立った柱のような山に行ってみると、あっさりシマントの巣が見つかった。

「やっべぇぞ……」

 柱のような岩山の一つ一つに巣ができていた。まるで蟻塚のようだ。数も1000とか2000とかではきかず、数えてられないくらいいる。

「どうする? 入り口塞げないよ。これじゃあ」

 ベルサが言った。

「どうするったってなぁ……」



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