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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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212/505

212話



 群島の南端の島を出て、北へと向かった。

 島で、聞き込みをしながら、ボリさんたち家族を探す。セスだけ船で移動し、俺たちは空飛ぶ箒でどんどん島を巡り、「世界一自由な干物屋」の目撃情報を集めた。

どの島でも「干物屋なら北の海」だという。

「北の海って言ったって、群島の北の海は広大だよ」

「潮の流れがあるはずだ。魚の魔物がよく獲れる場所にいるんじゃないか? セイレーン族にも聞いてみよう」

 群島で手に入れた地図を見ると北には大海原が広がっている。あるとしてもヴァージニア大陸側の方に小人族の長細い島があるくらい。火山でできた島やサンゴによってできた島があるが、地図では点でしか描かれていないので、よほど小さな島なのだろう。

 セイレーン族と連絡を取りながら、魚の魔物の群れを追うように、ボリさんを探した。


「今日も大漁ですね」

 セスは甲板に積み上げられた魚の魔物を見上げていた。

 セイレーン族に群れを追い込んでもらい、音爆弾によって気絶させるだけ。あとは魔力の網で引き上げると、山と積まれた魚の魔物が獲れる。魔力の網はセスが魔力の壁を元に考え出していた。砂漠のスライムを獲るのに使っていたらしい。

 食料調達も任務のうちなので、これはこれでいいのだが、目的はあくまでもボリさんだ。


 捜索開始4日目。

 北の海に出ると、人もおらず、まるで情報がないまま探し続けていたのだが、セイレーン族が地元のセイレーンから有益な情報を取ってきてくれた。「セイレーンを連れた干物屋は奥さんが妊娠しているとかで、奥さんの地元の群島の東の海にいるよ」とのこと。

「なんだ、群島まで来なくてよかったのかよ~」

 俺たちは急いで引き返し、群島の東の海を隈なく探した。

「セイレーン族はどんな場所で子どもを生むんですか?」

 セイレーン族のリーダーに聞いてみると、

「人がいない入り江がある島か、空気が残ってる海底洞窟とか、とにかく人目につかない場所が多いわね」

 と、教えてくれた。

 海底洞窟は俺たちではどうにもならないので、セイレーン族に任せ、小さい島を探すことに。前もシーライトがいるような小さな島があったので、目を凝らして水平線を見続けた。

「あ、あれ!」

「トリの魔物だろ」

「ああ……」

 メルモは期待しすぎて、トリの魔物と島を間違えて、セスにツッコまれていた。

「いや、あのトリの魔物はどっから来た? 島が近いかもしれないぞ」

 セス以外全員、空飛ぶ箒に乗り、周囲を探索。島は見つけられなかったのだが……。

「船長、船の墓場みたいなところを見つけたんだけどさ……」

 通信袋でセスに連絡を取り、来てもらう。


 岩礁地帯に船が何隻も座礁していて、魔物の住処と化していた。

「いや、人もいるぞ!?」

 探知スキルで見ると座礁している船のうち1隻に、人の反応があった。もしかしたら、船にいる魔物は魔族かもしれない。セイレーン族に来てもらい、魔族の言葉で呼びかけてみると、ほとんどが骨の魔物やゴースト系の魔物のなか、セイレーン族が直ぐ側の海面から上半身を出した。

「あ、知ってル~!」

 出てきたのはボリさんの奥さんの1人で、すぐに俺たちを見て手を振ってくれた。ただ、もうすぐ別の奥さんが出産するから、「ちょっと待ってテ」とのこと。

 それから待つこと2時間。

 座礁した船の中でも掃除しようかと思ったが、おとなしく海を眺め続けている骨の魔物やゴースト系の魔物の邪魔をしそうなので止めておいた。ボリさんたちが駆除しないのだから、この魔物たちは使役されている魔物かもしれないし、襲ってきそうな気配もない。


オンギャー!!

 魚の魔物を焼いて食べていたら、赤ん坊の泣く声が聞こえてきた。

 バタバタと座礁船の甲板を走る音がして、少年がこちらの船に手を振った。

「生まれたよ~!」

 ボリさんの息子であるコリーだ。少し大きくなっている。

 俺たちも、トンッと自分たちの船から、座礁船に飛び移り、「おめでとう!」とお祝いを言った。

「久しぶりだな。コリー、少し大きくなったか」

「うん! 妹が生まれたんだよ! フフフ」

 とにかく喜びを誰かに伝えたいらしい。俺たちはコリーと一緒にボリさんたちのもとに向かった。

「おんやぁ~! コムロ社長じゃないのぉ~!」

 ボリさんが俺を見るなり、素っ頓狂な声を上げていた。

「おめでとうございます! 出産したばかりなようで。すみません、突然来てしまって……」

「いやいや。それより、ちょうどよかった。ちょっと水の温度温めて貰えないかい?」

 産湯がぬるかったのか、ボリさんが怒られていたらしく慌てている。

 俺は世界樹の風呂を温める時に使った加熱の石を渡した。

「魔力を込めると温かくなるので、調節してみてください」

「ああ、助かる」

 そう言って、ボリさんは蝶番が錆びたドアを音を立てて開け、奥さんがいる部屋へと入っていった。

 しばらく、落ち着くまで、お茶でも飲んで待っていよう。

 甲板に出て、加熱の魔法陣を描き、お湯を沸かす。

ひとまず見つかって良かった。空を見上げれば、ウミネコっぽい魔物が飛んでいる。座礁船のどこかに巣があるようだ。

「あのトリの魔物のお陰で見つかったな」

 お茶は協力してくれたセイレーン族たちにも出す。

「あたたか~い!」

 セイレーン族にはお茶を飲むという習慣がないようで、とても喜んでいた。

 骨の魔物やゴースト系の魔物が様子を見に来たが、やっぱり特になにもしない。

「魔族と一緒にいるから、仲間だと思われているのかもしれないわ」

 と、セイレーン族のリーダーが言っていた。


 日も暮れ始め、夕飯の準備をしていると、ようやくボリさんが部屋から出てきた。

 部屋の中では生まれたばかりの赤ん坊が産着に包まれて奥さんに抱かれている。船が傾いているので、部屋の半分は海の中だ。他の奥さんたちも、そこで出産した奥さんを応援していたようだ。

「いやぁ、いい匂いがする。ごめんねぇ、お待たせしてしまって」

「いえいえ、突然来たのは俺たちの方ですから。よろしければ、うちの社員に診断させますか?」

「ああ、いいのかい? ありがたい」

 メルモが部屋に入って奥さんと赤ん坊を診断。赤ん坊は女の子で、身体はセイレーン族らしい。

「母子ともに健康です。お疲れ様でした。今、温かいスープと魚の魔物を焼いていますから」

 メルモが言うと、奥さんたちは手を叩いて喜んだ。

「社長、一応、部屋にクリーナップを」

「了解」

 座礁船の中はある程度、掃除をしていたようだが、どうしても清掃・駆除業者としてはホコリやシミが気になったようだ。部屋にクリーナップをかけて汚れを落とし、夕飯にする。

「魚の魔物だけは大量にあるので、どんどん食べてくださいね」

 料理を担当したセスが、皆に振る舞った。回復薬入りの料理も作っており、出産したばかりのセイレーンの奥さんに勧めていた。

 魔王領のセイレーン族と、ボリさんの奥さんたち4人は同じ種族なので、すぐに打ち解けたようで、お互い歌を教えあっている。

「ボリさん、こんな時になんなんですが、実はこれを……」

 俺はリタが書いた結婚式の招待状を手渡した。

「これは、なに?」

 そう言って、ボリさんは封筒を開け、中身を読んだ。

「えっ!……君たち、リタに会ったのか?」

「ええ、大事な仲間です。2年間一緒に清掃・駆除業者として働いています」

「じゃあ、レミリアにも?」

「レミさんにも、ベンジャミンさんにも、アリアナ元女王にも会いました。今のグレートプレーンズの王はサッサさんですよ」

「サッサ叔父さんが! ……そうかぁ。水の精霊が消えたという噂を聞いたんだけど、それは本当かい?」

「ええ、我々がクビにしました。もう、グレートプレーンズに水の勇者はいませんよ」

 ボリさんは、フッと笑った。

「逃げ出した僕が、リタの結婚式に行けるわけないよ。それに子どもが生まれたばかりだ」

「そうですよね。でも、リタはずっと勇者の証である帽子を大事に持っているんですよ。『父さんの帽子だから』と。そのリタが、レミさんやベンさんから反対されようと、ひと目、あなたに会いたくて、この紹介状を書いたんです。どうか、2人の結婚式に来ていただけませんか?」

 ボリさんの目には涙が溜まっていた。月夜を眺めながら、唇を噛み締め、困った表情をしている。そりゃ、そうだ。生き別れた娘が結婚式に来てくれと突然来たら、誰だって気持ちの整理がつかないだろう。しかも、ついさっき生まれたばかりの自分の子がいるのだから、なおさらだ。

「ナニナニ?」

 俺がボリさんを困らせているので、セイレーンの奥さんたちが海から上がり、こちらに近づいてきた。

「ボリさんの娘さんが結婚するんです。結婚式に来ていただけませんか? ってお誘いしたところです」

「へぇ~、人族との娘サン?」

「そうです」

「どんな? どんな人と結婚するノ?」

「優しい魔族の男ですよ」

 甲板に奥さんたちが集まってきてしまった。腕と魚の脚で水のないところでも器用に進む。

「魔族だって、私たちと同ジ!」

「血筋かナ!?」

「でも、魔族だったら、種族間の面倒事に巻き込まれるかもヨ」

「その魔族って何族?」

「何族でしょう? ゴブリン族ですかね? 一応、父親は魔王ですよ」

「「「「魔王!?」」」」

 奥さんたちが目を丸くして驚いた。美人なのに面白い顔までできるようだ。

「そりゃ、いいネ!」

「でかしタ!」

「あんた、行きナ!」

「コリーもついていったらイイ」

 あっさり、奥さんたちからOKが出てしまった。

「いやぁ、だって今、子どもが生まれたばかりだよ」

 ボリさんが奥さんたちに言った。

「生まれちゃったら、父親にできることなんてしばらくないヨ」

「そうだよ。コリーの時だって、私たちが代わりばんこに世話してたんだかラ」

「そうそう。大丈夫大丈夫。こんな座礁船しかないところに誰も来ないよ。干物屋だから食べ物の蓄えだってあるシ」

「コムロの社長さん、あの水を温かくする石だけ貸してくれル?」

「どうぞどうぞ。差しあげますよ」

 俺は貸していた加熱の石をあげた。

「え!? ええ~、僕いらないの?」

 ボリさんは呆気にとられるように驚いていた。

「コリーだけ、少しの間、かまってあげられないかもしれないから、一緒に連れて行ってあげて」

「わかりました。子どもが1人くらい増えても問題ないですよ」

 コリーは「僕も行くの?」と言っていたが、どこか嬉しそう。

「でも、その結婚式があるって場所は遠いんじゃないかい?」

「大丈夫ですよ。僕らの船、空を飛ぶので」

 セスが魔力の壁を使って、俺たちの船を浮かばせた。

「「「「「「……」」」」」」

 ボリさん一家全員が絶句。

「結婚式、来ていただけますか?」

「……はい、出席します」

 一晩、座礁船で泊まり、セイレーンの奥さんたちはボリさんとコリーの旅の準備をさせていた。

 ちなみに、座礁船の中にいる骨の魔物たちは、人除け用に飼っているそうだ。コリーが世話をしていて、時々骨を拭いてあげたり、驚いてあげたりしているのだとか。


 翌朝。

 しっかり朝飯を食べて出発。協力してくれたセイレーン族たちとボリさん、コリーを船に乗せ、奥さんたちと手を振ってわかれた。生まれたばかりの赤ん坊は泣くこともなく、ただ、浮かぶ船を見上げていた。

「いやぁ、本当に飛んでいるなぁ」

「お父さん、見て! 陸地があんなに大きいよ」

「あれを大陸っていうんだ」

 ボリさん親子の会話を聞きながら、東の大陸のジャングルを通過する。

 移動はほとんどセス任せなので、やることはない。

 せっかくなので、ボリさんとコリーに魔族の言葉を習うことに。2人ともバイリンガルで、協力してくれたセイレーン族たちとも普通に話していた。俺たちはまだ片言しかわからない。

 俺が巻き舌の練習をしているうちに昼になり、大平原の空を通過。どこまで行っても草原であることに、コリーは驚いていた。


 昼過ぎに、魔王領の城に到着。協力してくれたセイレーン族の皆さんを小川に移動させ、ボリさんを城へと案内する。

 その途中、畑で作業をするリタがいた。

 ボリさんはリタの姿を見て立ち止まり、無言で涙を流し始めた。手を繋いでいるコリーが「お父さん!」と心配するほどの号泣である。

 リタもこちらの様子に気が付いた。涙を流すボリさんを見て、照れながらポケットに入れていた赤い帽子をかぶった。今は『水の勇者の証』ではなく、ボリさんとリタとの親子の証である。

 リタは唇を噛み締め、土で汚れた手を拭って、ボリさんの前まで歩いてきた。深々と頭を下げてから、まっすぐボリさんを見て言った。

「遠いところ、お越しくださいまして、ありがとうございます! あなたの娘のリタでございます!」

 リタは涙を流しながら、笑顔でボリさんを迎えた。

「大きく……なったな……」

 ボリさんは涙で言葉を詰まらせながら言った。




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