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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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208/506

208話


城の前の街道に昨夜捕まえた魔族たちが並んでいた。全員革紐で手を縛られ、逃げ出そうとする者は問答無用でアイルの蹴りが飛んで来ることになっている。最初に蹴られたグリフォンによって威力がはっきりしたためか、それ以降逃げ出そうとする者はいない。

 城の前にはセスとメルモが座っていて、魔族たちの名前と種族、スキル、職業があれば職業のリストを作っていた。

「今のところ、軍人、野盗、騎士、兵士の類は重労働を覚悟してもらう! レベルや戦闘経験など役に立たないと思ってもらってかまわない! 当たり前だけど、お前らが飯も持たずにやってきたことを城の住人たち及び我々は非常に怒っている。フハ」

 ボウが街道の列に向かって大声で発した。

「食料最優先だが、人間と交易を行っていたものは受付で交易品や行商人について詳しく語るように! 冬が近い! 特に畑を荒らしたやつには重罰を与えるつもりだ、いいな!? フハ。返事ぃいいいっ!!!!」

「「「「はっ!」」」」


 朝早く、ボウがリーダー格の魔族たちを説教していた。

魔族たちはそれぞれ、新しい魔王ことボウの雄叫びを聞きつけ、助けを求めてやってきていたのだという。人間の侵略、冬の食料、跡継ぎ問題、そして、人間に連れ去られた自分たちの種族の奪還。皆、魔王と力を合わせればなんとかなると思ったらしい。

「フハ、そんな計画でなんとかなるわけないだろ? こんなに連れてきちゃって、飯はどうするんだよ!」

「そ、そ、それは、人間の村から奪えば……」

「人間殺したら、来年からお前らが畑で野菜育てるのか? いいか? 強さなんて今どうでもいいんだよ! フハ、集団を維持してきたのだから、お前らの中に人間とつながりがある者がいるはずだ。名乗り出ろ!」

 ボウは魔族たちを見回した。

「「「……」」」

 仲間の手前答えにくいのか魔族たちは下を向いたまま、無言。

 ボウは俺の方をちらりと見た。これだけ大所帯なのだから、自分たちだけでは賄えないだろうとカマをかけてみようと話していたのだ。そもそも人の言葉を話せるのだから、人と関わっていないはずはないだろう。

「魔王さ……いや、ボウ様、我らの中に裏切り者などおりません」

 枝のない大樹の魔族が言った。

「いなければ死ぬだけだ。遅かれ早かれ、この人数を食べさせていけるはずもない。人間との交渉で食料を得なくては……。それともグリフォン族を焼き鳥にでもするか? フハ」

 ボウがグリフォンたちを見ながら笑った。

「我らは陽の光と水さえあればよいです! だから、どうか!」

「我らも、水場さえあれば!」

「蓄えていた木の実なら隠れ家にありますから、どうか焼き鳥にだけは!!」

 大樹、ゴースト系のローブ、大きなグリフォンの魔族の順に懇願してきた。

 セイレーン族やヘビ族はグリフォン族が嫌いなのか、鼻で笑っている。種族間の争いか。

「おい、前に食べたヘビの肉もさっぱりして美味しかったし、セイレーンの肉は不老長寿の効果があるというからなぁ。なにもできないやつは食料になると思えよ。フハ」

「魔王様! いや、ボウ様! 我らほど優秀な種族はおりませんよ! 我も、ほら、見てください!」

「私たちもきっとお役に立ってみせます! 私だって、ほらこの通り、人にだってなれるんです!」

 双頭のヘビと、大きなセイレーンは人化の魔法で、大きめの人族になった。多少、鱗やエラが見え隠れしたりしているが、フードをかぶってしまえば、普通に人の町に歩いていても誰も気づかないだろう。

「竜族以外でも人化の魔法が使えるのか?」

 思わず、様子を見ていた俺が言った。

「竜族にできて我らにできないことなど、火を吐くくらいだ」

「もともと、人化の魔法はセイレーン族に伝わる秘密の魔法よ! それを黒竜が騙して……って、あっ」

「フハ、人間とつながりもないやつが人化の魔法を使えるのか? 他には?」

 大樹の魔族たちも目を泳がせて、言葉に詰まっている。

「ボウ、もういいよ。とりあえず、全員のスキルと住処があった場所を聞いて、できることからやっていこう」

 横から俺が口を挟み、説教を終了させた。


 総勢2000名ほどの魔族が街道を埋め尽くしており、酉の市を思い出した。人化の魔法が使える者は人の姿になって列を作っており、魔族の言葉で隣の者たちと話している。どうやって自分たちが捕まったのか、理解していないのだとアラクネが教えてくれた。

アラクネはクモの種族に詳しく、大きなクモの魔族は女王なのだという。まだ話しているところを見ていない気がするが、人化の魔法が使えるようで、クモの糸で編まれたケープを着ている。人の姿のクモの女王は男なら誰もが見惚れてしまうほどの絶世の美女だ。

受付にいるセスに、数学スキルを持っている魔族は、人と交渉をしている可能性が高いといってあり、そういう魔族はアイルがいる城のホールに向かってもらい、脅されながら販路や取引した物と場所などを尋問されている。こうして、旧魔王領の地図ができあがっていった。

「ハハハ! あんた面白いな!」

 意外にもアイルはクモの女王が気に入ったらしい。

「ナオキ! このクモの魔族のおネエさんは黒竜さんがやっていた娼館で働いていたことがあるんだって!」

「ああ、そうですかぁ! 黒竜さんとレッドドラゴンは知り合いです」

 やはりちょっと敬語になってしまう。

「そう。必ず復讐すると言っておいて。フフフ」

 クモの女王は笑みを浮かべながら、場を凍りつかせていた。女王は鑑定スキル持ちだったようで、アイルとベルサが持っている『竜の守り人』という称号を見た時点で嫌な予感がしていたそうだ。

「というか、あなた方は何者なの?」

「清掃・駆除業者です。ボウと知り合いになって、2年ほどうちの会社で働いてくれているんです」

「魔王の血を引くものが会社員だなんて、ボウ様は変わっているけれど、あなた方のレベルを見ると納得できるわね。私が会ったどの種族とも違う。不思議な人たちね」

 褒め言葉と受け取っておこう。

 クモの女王のお陰で、周辺の国の位置や交易品などのほとんどがわかった。こういう人が1人いるだけで、状況がかなり変わってくる。しかも鑑定スキル持ちなど、めったにいない。

 旧魔王領の南東、グレートプレーンズの東の山脈を越えた場所にアペニールという国があるそうで、そこは海に面しており、東にある大陸や途中の島々と交易が盛んなのだそうだ。こちらにも珍しい商品があれば買ってくれそうだとか。ちなみに、東にある大陸にアリスフェイ王国があるという。

「へぇ~、じゃあ、俺たちは一周してきちゃったってことか?」

 感慨深いものがある。

「南半球を回っておいてなにを今さら。それに、まだ私の師匠にも会ってないし、ボウの右腕を治せるっていう国も行ってないよ」

 ベルサは冷めていた。ベルサの師匠って『リッサの魔物手帳』を書いたリッサという魔物学者で、シオセさんの元彼女だ。どんな人なのか興味はあるけど、どこにいるのかはわからないらしい。ボウの右腕を治せる国というのはフロウラのリドルさんが言っていた医術が発展した国のことだ。

「そうだ。まだまだ行きたい場所はあるなぁ。まぁ、でも、近くまで行ったらちょっと寄っていこう。会いたい人たちもいるし、アイルとベルサは親に顔を見せておいたほうがいいだろ?」

 そう言うと、アイルもベルサも露骨に嫌な顔をしていた。本当に家族には会いたくないらしい。貴族出身というのはこういうものなのか、面倒だな。実家に帰ってダラダラするということがないのかもしれない。

「いや、しかしいまだに信じられないな。2人が貴族出身だなんて……。実家帰ったらドレスとか着るの?」

 2人から「殺すぞ」という殺気を感じた。


 魔族たちへの聞き取り調査は、日が落ちるまで続いた。

「やっぱり、どの種族も副族長らしき魔族が食料などを管理していたみたいですね」

「組織には1人のカリスマだけじゃうまくいかず、補佐が必要だってことだね」

 今夜の食事はカボチャによく似たカラバッサのスープとパン、それからフィールドボアとフォレストディアの小さな肉片だった。人数が大幅に増えたので、もっと狩りをしないといけないが、獲り尽くしてしまうと、生態系が壊れてしまう。できれば家畜にしたいものだ。

「あ、そういや森の果汁で作った魔力回復シロップは効果あったのか?」

「あるみたいだよ。ね?」

 ベルサがメルモに話を振った。

「ええ、入浴剤代わりにお風呂に入れてみたら、皆、魔力が勝手に回復したそうです」

 魔族の知らないところで実験をしていたらしい。ボウは笑っていた。

「湯治か。慢性的に魔力切れを起こすような病気でもあれば、この土地を観光地にできるんだけどなぁ」

「あぁ、年老いた魔法使いとかは魔力に乱れが出てくるとか言うけどね」

 ベルサが教えてくれた。

「輸出品として、コロシアムの魔法剣士とかはどうですか? 回復薬以外にも魔力が回復できるようになったらコロシアムも魔法使いを起用するようになるかもしれませんし、やっぱり魔法は派手ですからね」

 リタの提案は、グレートプレーンズに持っていってもいいかもしれない。

「ダンジョンでも近くにあればいいんだけどね。南半球とつながっているダンジョンはまだ公開しないのかな?」

「サッサさん次第だろうね」

 俺の疑問にアイルが答えた。

「傭兵の国に売ったらいいんじゃないですか?」

 セスがぶっこんできた。傭兵というくらいだから、剣士や戦士の姿を思い浮かべていたが、魔法だって使わないわけではないだろう。魔力を回復させる薬だって使用頻度は高いはずだ。ただ火の国と同盟を結んでいる国だからな。

「フハ、いや、オレもそれを考えていたんだ。冬を生きて乗り越えるためには、敵国とも交渉をしないといけないんじゃないかって。ただ同等の扱いというわけにはいかないだろ? 足元を見られて、大損してしまう……」

 ボウも迷っているようだ。

「市場調査から始めてみれば? リーダーたち以外にも人化の魔法を使える魔族がいたんだろ? その場所の人たちがなにを求めているのかわからないと供給もできないんだから、どうせ市場調査はやることになると思うよ」

「フハ、そうかぁ、国によって欲しいものが違うんだよなぁ」

「そう。魚屋に魚を売ったり、八百屋に野菜を売らないだろ?」

「いくつも隊を分けないといけないな。フハ。大仕事だ……」

 ボウはスープを飲みながら、考えている。すっかりこの城に集まってしまった魔族たちを束ねる魔王のようだ。俺たちは清掃・駆除業者。あくまでも国を作るのは、その地に住む者たちだ。友との別れも近いのかもしれないな。いや、今は考えないでおこう。

「ん? どうかしたか? フハ」

「いや、なんでもない」

 俺はこの時飲んだスープの味を覚えておこうと思った。

「ねぇ、ここは? グレートプレーンズの北西にある魔法国・エディバラ。魔法国っていうくらいだから、魔力回復シロップの需要はあるんじゃない?」

 地図を見ていたアイルが提案してきた。

「うん、競争も激しそうだけど、行ってみる価値はあるな。ゴースト系の魔族たちを向かわせてみるのも手じゃないか?」

「そうだな。フハ」

 



 その後、1週間ほどかけて、交易について計画を詰めていった。

 その間に、魔力回復シロップ作りや、畑作り、炭作り、木材の選別、商品の運搬の仕方、道の舗装方法など担当者を決めていく。

クモの魔族たちは、意外にも手先が器用で魔力回復シロップを作るのがうまかった。ただ、跡継ぎ問題が深刻なようで、男の魔族に色目を使っているらしく、ボウのもとに苦情が来ていた。

グリフォン族は木の実を収集する癖があるらしく、セスと一緒に木の実を回収しに行くつもりらしい。冬に備えていたので、相当な量があるという。もともとの住処は山だったのだが、鉱山が見つかったとかで、南東にあるアペニール国の方から人が来るようになってしまったとか。

樹木系の魔族は、畑作りが楽しいようだ。ただ、人化の魔法は得意じゃないのか中途半端なものだったため案山子が鍬を振っているようにしか見えない。木材の選別と炭焼きも手伝ってもらうことになる。この種族は戦争によって住処を奪われたらしい。

ゴースト系の魔族は完全に斥候タイプ。「はぁ~魂吸いたい」という口癖がなければ割りと話せる奴らだった。回復薬作りは絶対にできないし、魔力回復シロップも無理で、とにかく情報を集めることに長けた種族だ。仲間のクサった死体やガイコツ剣士を火の国に連れ去られ、困っていたようだ。実体がないので扉を開けたり、魔石灯を点けるのも一苦労なのだとか。「隙間を探さないといけないんだよ」とローブを着たリーダーが言っていた。

セイレーンの魔族は川や冠水した土地、海などでの輸送。また、漂流船や幽霊船などの水先案内をして現金獲得を目指すという。海まで出れば、魚の魔物を獲れると言っていた。頼もしいが、海まで行くのが大変なのだとか。美形揃いなので、火の国に連れ去られてしまったらしい。

 ヘビ系の魔族は果物狩りと魔物狩りを担当する。果物を採るのは得意なのだとか。前の世界では『知恵の実』を見つけていたくらいなので、不思議はない。魔物狩りも、麻痺毒が牙にある種族が多いらしく、定期的に獲っていたため問題ないという。ただ冬は魔物も冬眠に入ってしまい、食料がなくなってしまうらしい。自分たちも冬眠すればいいのに、と思うのだが、春になったら穴ごと人間に掘られて死んでいるかもしれないと怯えている。図体はデカいのに、気の小さい魔族が多い。

 平地での商品の運搬や道の舗装方法などは、城にいた魔族全員でやることに。種族も多いので、いろんな案ややり方を考えるのが楽しそうだ。一応、ルージニア連合国の有料道路の計画については教えておいた。


 グリフォンの住処に行ったセスから連絡があり、「グリフォンたちがいなくなって、ナメクジの魔物が大量に発生しています」と応援要請があったので、乾燥剤を持って駆除に向かった。山のナメクジは大型犬サイズで焦ったが、スライムにも効果的な乾燥剤なので、問題なく駆除した。

帰ってくると、村で見たカウボーイ中年と女主人が城の前の街道に立っていた。




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