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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~
198/503

198話


『血の雨作戦』は3日、続いた。

昼はメルモが使役した10匹ほどのシャドウィックが眠り薬や麻痺薬の燻煙式の罠を森のなかに仕掛け、夜になってシャドウィックたちの動きが活発になったところで、血の雨を降らせた。

3日目の朝に、獣人の少年兵が砦の様子を見に来たところを、セスに捕まえられていた。

「どうしますか? 社長」

 セスが俺に指示をくれと聞いてきた。

「捕虜にして、交渉の材料にすればいいんじゃないか? まぁ、チオーネかアプに聞いてくれ。俺たちは駆除業者だよ。捕虜の扱いなんか知らないよ」

「わかりました」

「どうしてお前たちはシャドウィックの被害を受けてないんだ!?」

 セスに連れて行かれそうになった獣人の少年兵が聞いてきた。敵側はシャドウィックが急に大量発生し、こちら側も被害を受けていると思っていたらしい。

「俺たちが仕掛けたから、こちらに被害はないんだよ」

「まさか!? あれだけの数の魔物を使役できる魔物使いがいるっていうのか? しかもシャドウィックはゴースト系の魔物だろ? どうやって……」

 使役したのはメルモの10体ほどだ。通常、ゴースト系の魔物は使役しづらいらしい。正体がわかればそう難しくはないと思うが、わからないからこそ怖いのだろう。

「敵に情報は渡さない。企業秘密だ」

 獣人の少年兵は言葉を失い、怯えた表情でセスに連れて行かれた。

 少年兵を斥候に出すくらいだから、敵もしびれを切らしているのだろう。

俺は、対『速射の杖』用の防御方法を考えていた。『速射の杖』は火魔法を使っているので、水の防御壁を張れる魔道具の杖を作ってみた。魔力を込めれば、傘のように杖の先から水の盾が現れ、放たれた火の玉をガードできる。

今のところ、ラウタロの騎馬隊だけが使いこなしているようだ。騎馬隊は星詠みの民が多いから、魔道具の扱いも上手いそうだ。確かに、商売下手だったが、器用だったことを思い出した。

 ラウタロと水の盾の杖の使い心地について話し合いをしていると、突然砦周辺に霧が立ち込め始めた。朝、霧が出るのは珍しいことではないが、一応、敵の攻撃の可能性もあるため、すぐにアイルが上空から確認し、ベルサが霧の中に毒が入っていないか調べるため、トリの魔物を捕まえていた。兵たちは砦の建物の中に入れ、俺たちはマスク着用だ。

俺が探知スキルを展開し砦の外を確認していると、森の方から人が、まっすぐ砦に向かって走ってくるのが見えた。ほどなく、砦の扉を叩く音がして、

「助けてください! シャドウィックが来ます! どうか、扉をお開けください!」

 と、叫ぶ声がした。

「十中八九、敵兵だよ。砦の周りしか霧が出てなかった」

 アイルが俺の隣に降り立って言った。

『こちらベルサ、霧に毒はなさそうだよ。たぶん、霧の中に毒仕込むなんて、私たちくらいしかしないよ』

 ベルサから通信袋で連絡が来た。

「メルモ! 俺が合図したら扉を開けてくれ!」

『了解です』

 砦の扉の前にベタベタ罠を仕掛けメルモに合図すると、落とし格子のようになっている扉を上に引き上げた。

 大きなリュックを背負い行商人に変装した小人族の少年兵が、急いで扉から砦に入ってきた。案の定、ベタベタ罠に嵌り、「グヘッ」と言いながら倒れて、さらに全身をベタベタ罠まみれになって身動きができなくなっていた。

「なんだこれは! なにをするんです!?」

 地面に転がっている小人族の少年兵からリュックを預かりメルモに検分させ、俺はベタベタ罠を外してあげながら、ロープで少年兵を縛り上げていった。

「どうしてこんなことを!? 私が何をしたと言うんです!?」

「仲間を助けに来たのか? まだ獣人の彼は生きてるぞ」

 少年兵の言葉には答えず、逆に俺が質問した。

 敵兵は二人一組で動いていたので、獣人の少年兵とこの小人族の少年兵は相棒同士だったのかもしれない。バディとかいうんだったか。

「社長、リュックの中に『速射の杖』と他にも小さい壺の魔道具と、小さい魔物用の麻痺薬と眠り薬、これはラパ・スクレなどでも売られているようなものですね。あと幻覚作用のある花が入ってました。それから、小さな固いパンと残り僅かな水袋。森での生活は厳しかったようですね」

 メルモが報告してきた。

「へぇ~敵もちゃんと毒を使ってるんだな。ただ食い物がなくなってきているってところか。森で食料を採ろうにもだいたい血まみれだしなぁ。ただ、これも俺たちを油断させるための罠かもしれないから警戒しておこう」

「コムロ社長。引き取ります」

 砦の建物から出てきたラウタロの部下たちが言ってきた。霧に毒がないとわかったので、兵たちが建物の中から出てきている。

「お願いします」

 俺は小人族の少年兵をラウタロの部下たちに預けた。


二本目の『速射の杖』が手に入ったので、水の防御壁を張れる杖の実験を始める。同じ杖でも個体差がある場合もあるし、水の防御壁を張る速度などについても気になる。魔法陣を描き替えたりしながら、訓練場でラウタロと一緒に実験していると、チオーネがやってきた。

「2人を尋問した結果、今晩、火の勇者がやってくるそうです」

「あ、本当!?」

 チオーネの報告に、声を上げてしまった。

勇者はコムロカンパニーにとって駆除対象なので、遠くからでも見ておきたい。

「火の国の軍には遠くの者と連絡を取る手段があるらしく、連日の『血の雨作戦』で疲弊した兵たちに火の勇者が『飛空船』に乗って食料を届けに来るのだとか」

 遠くの者と連絡を取る手段って、通信袋みたいなものかな? 飛空船は飛行船みたいなものだろう。この前、本で読んだが、動かすには大量の魔石を使うって書いてあったけど、よほど国が潤ってるんだなぁ。

「飛空船ってデカいんだろ? 空から下りてくるのに場所が必要だよな。社長、麻痺薬と眠り薬の燻煙式の罠っていつまで効果があるんだ?」

 チオーネの報告を聞いてラウタロが聞いてきた。

「やろうと思えば、日が落ちるまで効果ありますよ。時間を早めたいならマスクして、風魔法の……あったかな? あ、あったあった。これを使うといいです」

 前に、レッドドラゴンの移動速度を上げるために使った風魔法の魔法陣が描いてある板を見せた。

「これで、煙を飛ばしてください」

「うわっ、反動がすごいな。ただ威力がありそうだ。借りてくぞ」

「どうぞ」

 俺はラウタロに風魔法の板を貸した。

「チオーネ、俺たち騎馬隊が森に入って飛空船が下りられそうな草原を制圧してくる。社長、『水壁の杖』はいくつ用意できる?」

 ラウタロによって水の防御壁が張れる杖の名前が決まった。

「今のでいいなら、杖の分だけ用意できますよ」

「わかった。すぐ用意してくれ」

「了解。でもラウタロさん、フィーホースにも麻痺薬と眠り薬は効いちゃいますよ」

「ああ、フィーホースは置いていく。単純に『水壁の杖』を扱えるのが、今のところ星詠みの民が多い俺たちだけだからだ」

「わかりました。セスに送らせましょうか?」

「いや、目立つと狙われるから、こちらでなんとかする。チオーネ、斥候部隊にも声をかけてくれ。日暮れまでの勝負だ」

 ラウタロの主導で『北の森制圧作戦』が始まった。

 といっても、俺たちがやることはほとんどない。マスクと『水壁の杖』を用意して、ラウタロに通信袋を渡し、「なにかあればこれで助けを呼んでください」というだけ。シャドウィック用のラケットも騎馬隊がそれぞれ用意していた。ほとんどが南部の洞窟出身者なので、シャドウィック駆除は心得ているらしい。

「待ち、だね」

 騎馬隊を送り出してしまえば、待つしかない。


 晩飯の魔物の肉をじっくり焼きながら待っていると、通信袋に連絡が入った。

『社長、聞こえるか?』

「聞こえてますよ」

『任務完了だ。アプに言って、街道にフィーホースを回しといてくれ』

「了解」

 ラウタロの指示に従い、アプに言ってフィーホースを街道に向かわせた。しばらくすると、ラウタロたち騎馬隊が、敵兵を担いで街道に出てきた。

「こっちだ! いやぁ、寝ている人間は重い」

 ラウタロたちはフィーホースに敵兵を乗せて、砦に帰ってきた。西の山脈に太陽が沈む前だった。

「日暮れ前。いい時間ですね。被害は?」

「ねぇよ。社長たちの薬が効いてたから、捕まえるのは簡単だった。まぁ、全員、捕まえられたわけじゃねぇだろうがな」

「疲労もあると思いますけどね」

「ハハッ、夜は血の雨とシャドウィックに襲われるからなぁ。あ! 『水壁の杖』使えるぞ、あれ。撃ってくる方向さえわかれば防げるんだから、これを軍の防備に加えるようサッサに言っとくよ」

 図らずも金儲けのチャンスが舞い込んできたが、今は金がないんじゃなかったかな。時間をおいて売りにこよう。

「へぇ、ちょっと疲れたな……」

「晩飯の用意はできてますよ」

「助かるよ。飯食ったら、森のなかにある飛空船到着予定地に向かう。社長たちはどうする?」

「邪魔しないんで遠くから見てていいですか? 飛空船と火の勇者を確認しておきたいんですよ」

「ああ、構わねぇよ」

 俺たちの横を、フィーホースが横切った。フィーホースの背には鼻から血を流して、気絶している敵兵が積まれている。

「ちなみに、敵の被害はわかります?」

「全員生かして捕まえてきたから、死者はいないぞ。抵抗するやつは多少手荒く捕まえただけだ。あ、社長、これなんだかわかるか?」

 ラウタロが、魔法陣が描かれた壺の破片を見せてきた。魔法陣は風の魔法陣の一部のようだが、破片なのでよくはわからない。

「風魔法っぽいですけどね。敵は何に使ってたんですか?」

「もしかしたら、これで火の勇者と連絡を取ってたんじゃないかって部下たちは言っている。ま、尋問して聞くよ。よーし! 皆、今のうちに飯食っておけ~!」

 ラウタロが手を叩いて、自分の部下たちに指示を出していた。

「さて、俺たちも準備するか……」

 俺はコムロカンパニーの社員たちを集め、駆除対象である火の勇者について話し合うことに。


 日が暮れ、森が真っ黒に変わった。

 俺たちは塔の上に集まって、周囲の様子を見ながら、話し合い。

「で、どうする? 飛空船から出てきたところで殺すのか?」

 アイルが火の勇者をどうするか、聞いてきた。

「いや、火の精霊が近くにいるかもしれないから危険だろう。まずは様子見だ。こちらには捕虜も多いから、停戦合意に向けて話し合いが出来れば上々なんじゃないか」

 交渉で全面的な休戦までいって、平和条約まで結べるといいのだが、そううまくいくかどうか。双方の外交手腕が問われるのだろうけど、そこまで清掃・駆除業者には関係ない。

「捕虜の中に、違う国の人も混ざっているようですけど……」

「ああ、傭兵の国の連中だろう? セスが捕まえた少年兵も傭兵の国の者らしいよ」

 メルモとベルサが砦内で知り得た情報を報告してきた。

「あ、そいつが持ってたものなんですけど、皆さんこれ知ってます?」

 そう言ってセスがものすごい細い針のようなものを見せてきた。よく見えないので、魔石灯の明かりに近づけた。

「どっかで見たことあるような……どこだったかなぁ。あ、砂漠かな!」

 ベルサが自分の手帳を取り出して、ページをめくり始めた。

「あ、あった! ローカストホッパー駆除の時に砂漠で見つけたサボテンの針に似ているね」

「そうなんですか!? よくわかりますね!」

 ベルサの知識に、全員が驚いてしまった。

「ちょっと幻覚を見るくらいのはずだよ。マスマスカルとナオキが酔っ払った時に試したから」

「記憶がないからと言って、なんでもしていいわけじゃないからな!」

 思いっきりベルサの頬をつねってやった。

「ふいまふぇん」

「でも、敵も幻覚系の毒を使うってことですよね?」

 リタが聞いてきた。

「ただ、あんまり強い毒は使ってないみたいだけどな」

「オレたちが南半球で毒を見すぎただけかもしれないよ。フハ」

 ボウに言われて、全員納得してしまった。コムロカンパニーでは毒の基準がちょっとおかしいのかもしれない。

「一応、毒対策で魔力の壁で自分たちを守りつつ、敵側が毒を使ってくるようならグレートプレーンズの兵を守ろう。とりあえず俺たちは遠くから火の勇者を確認できれば、今回はいいだろう。うまく交渉してくれるといいんだけどなぁ」

 砦から出たラウタロたちが見えたので、塔から飛び降り、後をついていく。


 森の中をフィーホースに乗った騎馬隊の後ろを走った。今日は血の雨もなく、空を飛ぶと目立つようなので空飛ぶ箒は使わない。コムロカンパニーの中で足が遅いと言われているリタやメルモでも、遅れるということはなかった。そもそもフィーホースよりも速いのだから、ペースを合わせるのが難しいくらいだった。これも南半球を駆けずり回ったお陰だ。

 飛空船到着予定地は森のなかにぽっかり空いた花畑で、そこだけ木が生えていなかった。その花畑に、十字の形に魔石灯を置いていくのだそうだ。チオーネが尋問した捕虜が吐いたらしい。

 俺たちは花畑から30メートルほど離れた木々の上に陣取り、空を見上げて飛空船を待った。

 ゴウン、ゴウン。

 この世界で聞いたことがないような音が聞こえ始め、東の空を見上げると、飛行船のような楕円形をした黒いものがこちらに向かって飛んできていた。

「あれが飛空船か」

 飛空船は、サーチライトのような魔石灯で地面を照らしながらやってきた。近づくと大きさがよくわかる。長さ60メートルはあり、直径も20メートル位あるんじゃないだろうか。とにかく巨大だ。

「あの花畑に着陸できるのか?」

 俺たちはただ黒い飛空船を眺めていた。



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[気になる点] ベトナム戦争で北側は当初竹を使い,ナパームや枯葉剤で竹が使えなくなるとトンネル内に誘い込んで,当時最新の装備で固めていた米兵を恐怖させたものですが,砦の地下迄堀り進んで丸ごと崩落させる…
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