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駆除人  作者: 花黒子
~南半球を往く駆除業者~
188/502

188話


 俺はアイルとベルサと一緒に、世界樹の南に向かった。

 南半球なので、南へ進めば進むほど寒くなってくる。一面雪景色でなんの目印もない。

「なんだこの寒さはアホか!」

 ベルサが怒っているが、ツナギに防寒の魔法陣が描かれているワッペンを縫い付けているので、まだ耐えられる。

探知スキルで見ると雪の中に魔物が埋まっている。掘ってみると、スライムが凍っていた。

「スライムの拡散率は本当にすごいな」

「天敵がいないってだけでこんなに広がるとは……」

 アイルとベルサが魔石を取るため凍ったスライムの身体を削りながら言った。

「スライムの天敵って?」

「カメの魔物だね。あとは、冒険者」

「冒険者のルーキーはスライムの魔石で稼ぐのが普通だよ。討伐部位がそのまま金になるからね。冒険者ギルドも力を入れるんだ」

 俺の問いにベルサとアイルが答えた。

「じゃあ、そのうち土の悪魔が作ったダンジョンに抜け道作って、南半球に冒険者ギルドを建てなきゃなぁ。初代ギルド長はアイルかな」

「嫌だよ、私は」

「でも、ギルド職員だったじゃないか」

「あれは家族への反発からちゃんと働いているところを見せていただけで……今思うとなんで試験官みたいなことをしてたのかわからないよ。やっぱり冒険者は冒険に出ないとね!」

「あれ? そういやアイルの家族って何やってる人?」

「……」

 聞いちゃいけなかった? 地雷を踏んでしまったかな? 

「アイル、ナオキに言ってなかったの?」

 ベルサは知っているらしい。

「言わなくてもわかると思ってたから。でも、ナオキはわかってなかったのか……だとしたら、本当にバカなのかな?」

 アイルは腕を組んで考え込んでしまった。

「ナオキ、アイルと私はわりと幼い頃から知り合いだったんだよ」

「うん、だから?」

「だからぁ、貴族の出なんだよ。私もアイルも」

「嘘つけぇ! 木こりとか鍛冶屋とかじゃないの? あ、剣術の道場とか開いてたり?」

「「……」」

「……え!? マジで! マジで貴族なの!?」

 衝撃的事実にあまり実感が湧かないんだが。

「代々騎士の家系で、おじいちゃんは将軍とかだったんじゃなかった?」

 ベルサがアイルに聞いた。

「たぶん、今頃、父も将軍になっていると思う」

 そう言われてみれば、アイルに貴族の片鱗が……全く見えてこない。

「一応、もう一回聞くけど、俺を騙そうとしてないよね?」

「ナオキを騙すなら、もうちょっとマシな嘘をつくよ。だいたい、小さい頃に会ってなかったら、ベルサと私の接点がないでしょ?」

「それも……そうか。いや、ベルサのフィールドワークとかに付き合わされてたのかと思ってた」

「それは付き合わされたけど……」

「うちは放任主義だったけど、アイルの家は厳しかったからね。アイルが剣術の稽古をサボる理由として、私に連れ回されているってことにしてたんだよ」

「うちの家族、ちょっとおかしいんだ。兄たちと一緒に剣術の稽古をさせるんだけど、大きくなったら、女は良い貴族に嫁げとか言い出したりしてさ。顔も知らない奴と結婚なんかしたくないでしょ。だいたい貴族の息子ってグズ多いし。だから逃げ出して、冒険者になってギルド職員やって独り立ちすれば、家族も諦めると思ってたんだよ」

 すげー、本当にそういう奴いるんだ。

「あの頃思い描いていた大人とは、だいぶ遠くなっちゃったなぁ。清掃・駆除業者やってるんだからさ」

「確かに、私も会社員になるとは思わなかった。だいたい南半球なんて、あるとすら思ってなかったからね」

 アイルとベルサは、スライムの魔石を取り出し、次の凍ったスライムを削り始める。早くも作業のコツを掴んでいるらしい。

「ナオキんちは?」

 ベルサが聞いてきた。

「そういや、言ったことなかったか。別に家業があるわけじゃなかったな。詳しくは知らないけど普通の会社員だったと思う。もう顔も思い出せないけどね」

「親不孝な奴め」

「それは本当にそう思う」

 親より先に死んで、こっちの世界に来ちゃってるのだから。

「あ~……これいつまで続くんだ。次から次へとスライムが出てくるなぁ」

 アイルが雪を掘って凍ったスライムを放り投げている。飽きたようだ。

「飽きるの早いよ。地道にやっていくしかないさ」

「雪だけでもどうにかならない? 風の魔法陣描いた板使うとかさ」

「あ、そっか。使う使う」

 俺は突風が出る木の板を取り出して、除雪車のように雪を飛ばしていく。難点は凍ったスライムまで飛んでいってしまうことだ。

俺たちは魔力を調節しながら、スライムを掘り出していった。

「あ、ほら順応してる」

 だいぶ南まで作業を進めたところで、ベルサが目の前の雪原を指さした。

 見れば、風も吹いていないのに雪玉が雪原を転がっている。

「雪のスライムだね」

 アイルがすぐに一匹捕まえてきた。雪を落とすとスライムの中に雪の結晶がたくさん入っている。

「体内に雪を取り込んで体温を下げることで、どうにか順応してるんだね。氷のスライムなら聞いたことあるけど、こんな進化の仕方聞いたこともないよ」

 ベルサが言った。

 雪のスライムはスノードームみたいでキレイではある。もちろん、ちょっと切って乾燥剤で駆除していく。


 世界樹から見て、かなり南まで来た。ほとんど起伏のない雪原でアイルが「地図に描くことがない」とボヤいていた。

 せっかくの冬休みなので、明日は世界樹の方まで戻って東に向かうことに。

今日は雪原にテントを張って一泊。

「あいつら、ちゃんと休んでるかな」

 アイルが寝ながらつぶやいた。

 意外にも、アイルは副社長として後輩たちが気になるようだ。

 セスとメルモは世界樹に残って服作りや料理作りをしたいと言っていた。ボウとリタは海を渡ってドワーフの集落を見に行っているらしい。

 4人とも俺たちよりはしっかりしてるので、俺は心配していない。

 

 翌日、飯食って空飛ぶ箒で移動を開始。

 昨日1日かけて移動した距離をひとっ飛びだった。

 世界樹は山脈に囲まれているが、この大陸の他の地域はほぼ砂漠。

 砂、石、岩、時々、エアープランツ。

「ベルサ、この根っこがない植物って、どこででも育つのかな?」

「根なし草だからね。この辺は砂漠の中でも夜になると霧が立ち込める場所があるでしょ。そういうところに多いはずだよ。いいよね、風に吹かれて砂漠を旅してるって?」

「「いいなぁ」」


「うわっ! うんこ踏んだ!」

 砂まみれの黒い柔らかいものを踏んで、思わず声を上げてしまった。

「うんこじゃないんじゃない? こんなところに誰もいないよ」

「じゃ、なに?」

 ブーツを脱いで確認すると、アスファルトが溶けたような臭いがした。

「石油かな? タールっぽいけど……」

 とりあえず、ボロ布で拭いた。そのボロ布に火をつけるとよく燃えたので、やはり石油か何かなのだろう。

「近くに油田があるぞ! ここらへん一帯を俺の土地にしていいかな?」

「いいんじゃない? 誰も来ないし。で、油田ってなんなの?」

「大金持ちになれるはずの田んぼだよ」

「なんだって! どうやって大金持ちになるんだ!?」

「ナオキだけズルいぞ! どうやるんだ?」

 二人とも興奮して聞いてきたが、どうやって大金持ちになるか、はさっぱりわからない。

「燃料とかにするんだよ。あと、プラスチックとか……フリースとか……」

「だから、それにするにはどうやるんだよ!?」

「……知らね」

「「知らんのかい!!」」

 前の世界でも、ただの清掃・駆除業者なのだから、石油からプラスチックのような素材を作る方法なんかわかるはずもない。

「じゃ、金持ちになれないじゃん!」

「そうだな。燃料だってこちらの世界には魔法も魔石もあるし、石油を使わなくていいもんな」

 落ち込みながら砂の丘を越えると、谷底に大量の黒いスライムが蠢いていた。スライムが油田で順応して、進化したようだ。黒く柔らかい玉が脈打つように動くさまが、ちょっと気持ち悪すぎた。

 あまりのおぞましさに3人とも空飛ぶ箒で一気に上空まで逃げてしまった。

「なんの呪いだ!」

 アイルは剣を振ったが、黒いスライムは斬撃に強いようで死ななかった。

「火をつければ燃えると思うけど、ナオキが言うように何かに使えそうではあるよね。どうする?」

 ベルサが確認を取ってくる。

「保留。一匹捕まえて中身を樽に入れておこう」

 臭いが強烈だが、魔力の壁で一匹捕まえて剣で突き刺し、中身のどろどろした黒い液体を樽に移した。先ほど俺が踏んだものだろう。あとにはこぶし大の魔石が残った。

「スライムはどこでも順応しすぎてるよな。いったいどういう魔物なんだ?」

「それが魔物学でも最大の謎とされてるね」

 皆が知っている魔物なのに、発生要因や進化の過程は解明されてないらしい。

 その後、砂漠の中にいるスライムを駆除しつつ、10日ほどかけて東の端まで行った。

 空から確認すると北東に島がいくつかあったので、世界樹の花が咲いて落ち着いたら行ってみよう。

 冬休みだったが、スライムとの遭遇率が高かったため、あまり休んでいた感じはしない。

 アイルが地図を描き、ベルサがエアープランツを採集できただけ、良しとするか。


 世界樹に戻ってくると、枝の先に蕾の形がはっきりと見え始めていた。一つの蕾が俺の身体の半分くらいはある。どこまでデカくなるのかわからないが、世界樹の花吹雪は地獄絵図になるかもしれない。

 これから、春になるまでの間に、発光スライムたちに種団子を食わせるという作業が待っている。急に暖かくなって飛んでいってしまう前に準備しておかなくては。世界樹に残る個体も必要なので、数も増やさないといけない。洞窟スライムのように、霧吹きをかけたり、水を与え続けるだけならいいのだが。

 拠点で、ドワーフの集落から戻ってきたボウとリタと一緒に、セスが研究したという甘い芋餅を食べながら、今後の予定について表を作って確認していく。

「この芋餅、美味いな!」

「中に入っているくるみっぽい実がいいね」

 ほとんど芋餅の感想になってしまった。

 乾燥した種団子を洞窟スライムの粘液でコーティングして、発光スライムに食べさせるだけなので、特に確認する必要もない。

「南半球はスライムづくしだな」

「ナオキが邪神に変な提案をするからだ」

 アイルの言葉に反論のしようがない。


『ザザ……コムロ氏……コム……』

 突然、俺の通信袋から神様の声が聞こえてきた。

「神様? なんか用ですか?」

 大量の魔力を通信袋に流し込みながら、返答する。ちょっと危険なので、拠点から出た。

 北半球と南半球の境には空間の精霊が作った壁があるので、それを超えて会話を成立させないといけないので、ありったけ魔力を込める。

『お? おおっ! コムロ氏、久しぶりじゃないかぁ! 今、どこにいるんだい?』

「今、南半球で世界樹育ててます」

『なんで、そんなことしてるの?』

「いや、邪神の依頼ですよ。神様もフロウラの教会の跡地で聞いていたでしょ?」

『え~なんで~? 邪神の依頼なんか』

「いや、南半球の魔素を拡散してるんですよ。それから砂漠だらけだから、ちゃんと住めるようにもしてます。ドワーフの皆さんはたくましく生き残ってましたしね。見捨てるわけにもいかないでしょ?」

『そ、そうか。急に消えたからびっくりしたんだよ。で、北半球にはいつ戻ってくるんだい?』

 いつって言われてもなぁ……。

「とりあえず、世界樹の花が咲いて、植物の種と一緒に魔素が拡散していくのも見たいし、来年1年くらいは様子を見ようかと思ってます」

『え~こっちも結構、大変なことになってるんだけど~』

「それは神様がちょっとがんばってください。南半球はどうやったってゼロからなので時間がかかりますよ」

『邪神は、本当にバカだなぁ。はぁ、まぁ、コムロ氏がどこにいるかわかっただけでもいいか。世界樹の花が咲いたら、連絡して~、花見しに行くから』

 見に来る気なのか? 邪神が北半球と南半球を行き来できるのだから、神様もできるのだろう。大気圏を越えるかもしれないから燃えてるかもしれないな。なんでもいいけどめんどくさい。

「わかりました。ちょっと魔力の限界なのでもう切ります!」

『は~い。バイバイキ……』

 最後まで聞かずに通信袋を切った。

 ちょっと会話しただけなのに、魔力も精神力もかなり削られる。

「神様からだった。世界樹の花が咲いたら、花見しに来るって」

 拠点で皆に報告すると、全員慌てていた。邪神のときも特になにがあったというわけでもないので落ち着いて、普通にするように伝えておいた。



 


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