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駆除人  作者: 花黒子
~南半球を往く駆除業者~
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179話


 日が暮れて、拠点で食事を摂りながら、明日の打ち合わせ。

「明日は、今日とは別の場所から世界樹に入ってみよう。夜明けを待たずに出発したい。多少、風があっても、植物が活発になる前に入ってしまいたいんだ」

「「「「了解」」」」

「明日のメンバーは?」

 ボウが聞いた。ボウもリタも俺たちの話を聞いて、世界樹に行ってみたくなっているようだ。

「明日は全員で行こう。目的は世界樹の上層部で、魔物と植物の採取。時間があれば、下層部で毒薬の罠の実験を行う。アイルとメルモは周囲の警戒、ベルサとリタは魔物と植物の中で危険な物や採取しておいたほうがいい物を判断してほしい。ボウと俺でそれを採取していこう」

「フハ、わかった。オレは魔力の手が使えるから採取はたぶん得意だと思う」

 ボウは自信を持って言ったが、アイルたちは心配そうに見ていた。

「まさかボウにまで、あんなことをさせようとしないよな?」

「あれはナオキだから出来たことだからな。他のヤツが同じように出来ると思うなよ」

 アイルとベルサは俺に向かって諭すように注意してきた。魔力の壁と性質変化で作った魔力の圧縮袋のことを言っているのだろう。

「もちろん、そんなことは思ってない。それぞれ得意不得意があるんだから、出来ることを最大限やろう」

 アイルとベルサは俺の言葉が耳に入ってないようで、「ナオキについては気にしないことだ」「ちょっと気持ち悪いが悪いヤツじゃない」と念を押していた。

 晩飯の後片付けは俺たちがやり、昼寝をしていないボウとリタは寝かせ、夜の出発に備える。


 月が中天を過ぎた頃、ボウとリタを起こし、世界樹へと向かう。

 強風で魔力の壁ごと吹き飛ばされそうになるので、各々を魔力の紐で縛ってゆっくりと進む。

 世界樹の中に入ってしまえば、風の影響は少ない。

 チチチチチ……。

 植物は動いていないが夜行性の魔物は活発に動いており、周囲から鳴き声がする。

探知スキルを展開すれば、夜行性のネズミの魔物が世界樹の枝を駆け回っているのが見えた。

実験用に使えそうだとベルサが言うので、魔力の壁でネズミの魔物を覆い、中にクリーナップをかけてから、圧縮。俺は、死んだことを確認して昨日と同じようにアイテム袋に入れた。

「フハ、アイルとベルサは、このことを言ってたのか。このネズミの魔物は殺されていると意識すらできなかったんじゃないか?」

「そうかもね」

 逃げ出そうとする前に圧縮してしまうと、身動きが取れなくなる。魔物からすれば、身動きが取れないまま息ができず、死に至るわけだから反撃しようがない。むしろ、俺に気づいてすらいない可能性だって大いにある。

「フハ、その技って、魔力の壁の大きさだけ出来るの?」

「まぁ、そうだね」

「じゃ、一匹だけに限らないんだな。またしても不思議な駆除方法を見つけたんじゃないか? フハハ」

 駆除業者としては便利な技術を手に入れたが、人としてはちょっとアレだ。


 上層部では、世界樹の葉や枯れた他の種類の葉や枝が幾重にも重なり、自然の床のようになっている場所がいくつかある。

 世界樹の樹上には雪が積もっており、雪解け水が滝となって流れてくることもしばしば。雪解け水が自然の床のくぼみに溜まれば、水飲み場として魔物たちが集まっていた。

 俺は集まった魔物たちを捕獲。ボウも魔力の手でどんどん捕まえ、全て殺してアイテム袋に入れる。

後でベルサが解剖するためだ。食べられそうなものは、俺が毒味することになるだろう。虫系の魔物と小動物系の魔物が多く、俺のチャレンジ精神を試されている気がする。

 クモの魔物、ネズミの魔物、カメムシっぽい魔物など、いずれも中型犬くらいある。世界樹の上層部では最も生きやすい大きさなのかもしれない。

 断末魔のような鳴き声をあげていた鳥の魔物は、声量に見合わず、サイズは小さかった。

 世界樹の幹に近づくと、サソリの魔物も現れた。

「サソリの魔物は砂漠にいると思ってたけどなぁ」

 俺はサソリの魔物の死体をアイテム袋に入れながら、言った。

「いやいや、サソリの魔物はどこにでもいるよ。砂漠にいる方が毒が強いから有名なだけじゃないか」

 ベルサが説明した。基本的に緑の多い場所に生息しているサソリの魔物は毒が弱く、危険はないらしい。世界樹産のサソリの魔物は、尻尾が小さく、ハサミで攻撃してきた。

 正直、単純な武力で戦おうとする魔物のほうが扱いは楽だ。

「毒やスキルを持ってるか、群れで行動する魔物が厄介だね」

 ベルサの判断は的確だ。山頂付近で遭遇したトンボの魔物の群れは厄介だった。

「植物の場合は成長スピード勝負って感じで、勝負に勝った種が他の種を追い出しているように見えますね」

 リタの言うとおり、場所によって群生している植物が違った。種子を飛ばすため触れると爆発する植物が群生している場所では、連鎖的に爆発が起こり、飛び散った種で甲虫の魔物に穴が空いていた。もし、魔力の壁を展開していなかったらと思うと恐ろしい。

他にも、特に危険そうな植物がないのに魔物の死骸が多い場所もあった。怖すぎるので死骸だけ持ち帰ることに。

 もちろん、ネズミの魔物や鳥の魔物が食べていた木の実や、凶暴すぎるカム実など、食べられそうなものは採取していく。


 小腹がすいたとメルモが言うので休憩。

頭上から、ミシミシと音が聞こえてくる。

 見上げれば枝と葉の隙間から見えた空は青い。

いつの間にか夜が明けたようだ。

 かなり動き回った気がするが、未だ世界樹のほんの一部しか回れていない。

 アイルは地図製作を試みていたが、世界樹は立体的な自然の床を作っているので、平面にするのは難しかったようだ。

「何か法則でもあればいいんだけどな」

 アイルは悔しそうに木炭と羊皮紙を片付けていた。

「法則ですか……そもそも、世界樹ってなんの木なんでしょうね?」

 リタが木漏れ日を見上げながら、つぶやいた。

「世界樹は『世界樹』って種類の木じゃないんですか? だいたいこんな大きくなる植物なんて他に……」

 メルモはサンドイッチを食べつつ、考えている。

「邪神が育てたものだからな。もともとあった植物の種を大きくなるように変えた可能性はある」

「葉の形で種類を特定出来ないかな?」

 俺とベルサの意見で、世界樹の葉を採取することになった。

 周囲には、緑の巨大な葉が多いが、どれも種類が違い、どこから生えているのかわからない。世界樹の枝を辿り、細い方へと向かうと山肌にぶつかってしまう。

 結果、下層部との境にあるのが世界樹の葉なのではないか、という考えで俺たちは下層部との境へと向かった。


 上層部と下層部の境は枯れ葉だらけだ。枯れ葉を退けると葉が積み重なった層が現れ、一枚一枚確認しながら引き剥がしていく。

 葉の縁がギザギザになっているもの、厚みがあり固い葉、カエデのような形をした葉などなど、茶や赤に変色した葉が多かったが、結局、どれが世界樹の葉なのかわからない。

「まぁ、でもこれが一番大きい葉っぱかなぁ」

 アイルが広げたのは、葉の縁がギザギザになっているものだ。

「私、地面から生えている花ばかり見てきたから、なんの種類か、ちょっと……ただ、本で見たような……」

 リタは困ったように言った。

「ん~私もどこかで見たことあるんだよなぁ。うちの父親が育てていた木の葉っぱによく似ているんだけど、なんの木だったかなぁ……」

 ベルサが頭に手を当てて思い出そうとしている。

「俺も、どこかで見たことがあるような気がする」

 俺の場合は、前の世界での話だが、結構有名な木だったと思う。ただ、まったく思い出せない。

 誰も思い出せないまま、葉をめくり続け、下層部に辿り着いてしまった。


「うわぁっ! フハ……」

「はぁ~……」

 ボウとリタは下層部の森の光景に言葉を失っていた。


 俺たちはなるべく息を潜めて低木地帯まで下り、周囲を確認。

こちらに気づいている魔物はいないようだ。

「今日は湿気が多いな」

 アイルが言った。確かに、遠くの森に靄がかかっているように見える。

 俺は燻煙式の罠を用意して、森の入口まで行って仕掛けた。魔物除けの薬から試していく。

 探知スキルで見ていると、煙に気づいた魔物から、徐々に森の奥へと逃げていった。

「よし、世界樹でも魔物除けは効果があるな」

 低木地帯に戻り、全員に報告した。

「そうか。なら、ドワーフの墓があるかもしれないって言ってた場所まで行かないか? もしかしたら、遺品があるかもしれないし」

 目的地もなく無闇に森に入るのは危険だが、見えるぐらいの距離なら行って帰って来れるかもしれない。遺品があれば、ドワーフたちにも渡せる。

「やってみよう。ただし危険が迫ったらすぐに離脱するぞ。全員、空飛ぶ箒の用意を」

 俺はポンプを取り出し、魔物除けの薬とツーネックフラワー麻痺薬の液体を用意した。

 魔物除けの煙は森の入口付近から魔物を一掃したが、奥に行くとどうなるかわからない。地面からの攻撃も危険だ。

 全員が空飛ぶ箒を手に持ったのを確認して、森に入る。

 魔物除けの深緑色した煙が森のなかに漂っていた。

小さな虫の魔物も、ヒョウの魔物も見当たらなかった。探知スキルで反応があったのは巨大な動かない魔物だけ。たぶん木の魔物だろう。近づかなければ、襲ってくる気配はない。

 アイルが枝払いをして道を切り開き、俺が魔物除けの薬を撒く。怖いのは群れで襲ってきて、魔力の壁そのものを破壊しようとするやつだ。


 真っすぐ進んでいると、急に目の前がひらけた。

 花畑の真ん中に太い幹の木が枝葉を広げている。花畑には一種類の花しか咲いていない。スズランのように小さな白い鈴状の花がいくつも咲いた花だ。

「魔物の死骸だらけだな」

 アイルの言葉通り、白い花に隠れているが、魔物の骨や毛が花畑のあちらこちらに落ちていた。

「ここはヤバイ。迂回しよう」

「ただ、あの木の周りがドワーフたちの墓っぽいよ」

 ベルサが指さした。太い幹の木の周りには、後ろが透けている白いドワーフたちが、浮かんでいる発光スライムを見上げている。シンメモリーと呼ばれる白い玉も太い木の枝葉に集まっていた。

「もう魔物化が始まってるな」

 ベルサはそう言って、俺にリュックから液体状の回復薬を取り出すよう指示を出した。

 俺はポンプの液体を回復薬に入れ替える。

「どうやってあの木まで行く? アイルに花を切ってもらって道を作る?」

「切れないことはないと思うけど、花の成分を調べてからのほうが良くない? もし魔力を吸い取るような花だったら、魔力の壁を壊されるよ」

 俺とアイルが、判断をするベルサとリタに聞いた。

「いや、あのシンメモリーの集合体はすでにドワーフの姿かたちを再現してしまっているでしょ? 魔石でも転がってきたら、すぐに魔物になっちゃうと思う。この花畑は魔物を殺しているようだから、急がないと時間がない」

 ベルサの顔には焦りの色が見える。透けている白いドワーフたちはシンメモリーの集合体なのか。

「だったら、空飛ぶ箒で上から行くのはどうです?」

「よし! それで行こう」

 リタの案を採用し、すぐに俺は空飛ぶ箒にまたがった。

「どんな攻撃が来るかわからないから、全員、すぐ退避できるように準備しておいて。ボウ、この魔力の紐の端を持っておいてくれ」

「フハ、わかった」

 俺は魔力の紐を自分の腰に巻き、空飛ぶ箒で一気に上へ飛んだ。

 突然、樹上に浮かんできた俺に発光スライムたちは驚いたようで、離れていってしまった。明かりが減ってしまった。

 ゆっくりと太い幹の木へと下りていき、高純度の回復薬を噴射。

 シンメモリーの群れが霧散していく。

『悪魔の残滓が来る……』

『世界樹の実を……』

『もう一度、会いたい』

透けた白いドワーフたちは、かすれた叫び声をあげて煙のように消えた。

 暗がりの中、木の周囲を見て回り、全てのシンメモリーが消えたことを確認。木の根元には銀縁のメガネが落ちていたので、拾っておいた。

 花畑の反対側にいるアイルたちに手を上げて、「今から戻る」と伝え、空飛ぶ箒にまたがった。

魔物除けの煙も薄れ始めているので、できるだけ早く戻りたい。発光スライムを驚かせたくはないし、帰りは低く飛ぼうと思った。

 樹上まで上がらず、俺は花のすぐ上を飛んだ。

 リィイイイインンンンンン……!

 鈴状の花弁が揺れ、鈴の音が辺りに響き渡る。

 いつの間にか目の前に地面があった。

まっすぐ飛んでいたはずなのに、景色がグルグルと回転している。

 それでも、絶対に魔力の壁だけは消してはいけない。

そう思いながら、俺は墜落。さらに、鈴の音が響き渡った。

「全員、退避――!!!」

そう叫びながら、アイテム袋から綿を取り出し、唾液で湿らせ耳の穴に突っ込んだ。

 もちろん、そんなことでは三半規管が治ることはなく、俺の見ている景色はグルングルンに回っている。


 腰に巻いた魔力の紐に引っ張られ花畑は脱出したものの、探知スキルでは赤い点が近くに迫ってきているのが見える。

「逃げろ~!! なんか来るぞー!!」

回る景色の中、俺は木をなぎ倒しながら進むバカでかいカタツムリの魔物の姿を見た。と思ったら、次の瞬間には俺の身体がそのカタツムリの魔物の下敷きになっているようだ。魔力の壁が押しつぶされ、変形している。

アイルとメルモが何か叫びながら攻撃しているようだが、カタツムリの魔物に効いている様子はない。

すまん、誰か時間を稼いでくれ。今の俺は全然使い物にならねぇんだ。人間、目が回っただけで、こうも自分の身体を使いこなせないものか。今の俺が出来るのは耳栓代わりの綿を取ることくらい。何かないかとアイテム袋を探るものの、目が回りすぎて、吐き気を催す始末。

「こっちよ! 魔物さん!」

 リタがカタツムリの魔物の周囲に雨雲を発生させて、別の方向に誘導しようとしているようだが、効果なし。

「どりぁああああああああっ!!!!!」

 ボウの咆哮が聞こえ、突然、カタツムリの魔物が浮き上がり飛んでいった。

全身を真っ赤にさせたボウが、倒れている俺を覗き込む。

「フハ、ナオキ無事か?」

 特大の魔力の手でカタツムリの魔物をぶん投げたらしい。

 ボウの目は虚ろで魔力切れを起こしかけている。俺は一瞬息を止めて、魔力の壁を解除し、ボウごと魔力の壁で覆った。もちろん、中にはクリーナップをかける。

「すまん。誰か俺とボウを運んでくれ」

 すぐにアイルとメルモが近寄ってきた。俺は2人の魔力の壁に魔力の紐を巻きつけ、運んでもらった。

 周囲の森には、魔物除けの煙もなくなり、あの花の音を聞いた魔物たちが集まってきている。

「悪いけど、急いでくれ。魔物たちが近づいている」

 アイルとベルサに声をかけた。

「うん。全速力で帰るよ! はぁ、まったく3人もヤラれるとはね」

 アイルが言った。俺とボウとあと1人は?

「ベルサさんが自分の魔力の壁を広げて、皆を花の音から守ってくれたんです」

「ベルサが一番、花畑に近かったからな」

 後ろからベルサの「オエッ」という声が聞こえてくる。

 こうして、俺たちは第2回「世界樹」調査を終え、拠点に戻った。

 


 拠点にはすでにセスがいて、俺たちの帰りを待っていた。

「どうしたんですか?」

 セスの問いに、「あとで説明する」と返し、とりあえずドワーフの洞窟に運んでもらった。

 俺たちの帰りを待っていたドワーフのおばさんに、拾った銀縁メガネを見せると、

「これはアタシの亭主のメガネだ! ありがとう! ありがとね」

 と、涙を流して喜んでいた。

無茶した甲斐があったようだ。

 その後2日間、俺たちは体調を戻すことに費やした。



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