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駆除人  作者: 花黒子
~旅する駆除業者~
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17話

 宿に2日分の宿賃を払い、食堂で飯を食べていたら、アイルが帰ってきた。


 全身泥で汚れ、ぐったりとしている。

 普通の冒険者はこういうものなのかもしれない。

 クリーナップをかけてやり、回復薬を渡すと一気に飲み干していた。


「すまん、助かった」

「討伐はうまくいったの?」

「ああ、倒してきたが、割に合わない仕事だったよ。それにしてもこの回復薬、すごいな。骨折も治せるのか? 高かったろ?」

「いや自分で作ったから、材料費だけだよ。それも貰い物だから実質タダだな」

「ナオキは何でも出来るんだなぁ」

「何でもは出来ないよ。魔物を駆除しているうちに覚えるさ」

「明日は違う依頼をするよ」

「そうか。俺は今日と同じだよ」

「そんなに報酬がいいのか?」

「どうだろ? とりあえず、あと2日は泊まれるようになったよ」

「本当か? すごいな。私も負けてられないな」


 そのまま食堂で、一緒に飯を食べた。

 アイルの報酬は200ノット、金貨2枚になったそうだ。


「さすがBランクだな」

「これでも安い方なんだ。それなのに骨折までしたんだぞ。ナオキの回復薬がなかったら、大損だよ」

「冒険者は身体が資本だからな」

「そうそう。ん、うまい! やはりフィールドボアの肉はうまいな」


 アイルは肉にかぶりつきながら言った。

 俺に絡んできた冒険者をアイルが殴り飛ばすなどのイベントもあったが、概ね冒険者らしくワイワイ賑やかな夕食だったのではないだろうか。

 酒も入り、ほろ酔い気分で今日は寝ることにした。

 

 翌朝、寝ぼけ眼のアイルをギルドに残し、奴隷商の屋敷に向かう。

 屋敷のそこかしこに死んだバグローチがいたので、小さな虫あみで掬って用意してくれた袋に入れていく。


 午前中に1階と地下のバグローチは全て回収し、袋に入れた。この時点で袋が3つ、玄関先に積まれている。

 続いて、昨日見なかった2、3階へ。探知スキルでは見えているので駆除しやすい。

 屋根裏部屋にはネズミの魔物・マスマスカルがいた。駆除するか聞くと「ぜひ駆除してくれ」とのこと。


 屋根裏部屋に行き、クリーナップをかけ殺鼠団子を仕掛ける。

 暫く待つ間、太った奴隷商が挨拶しに来た。


「奴隷に興味はありませんかな?」


 脂ぎった顔に汗を垂らしながら話しかけてきた。体臭を気にしているのか香水の匂いがする。


 目が泳ぎ、焦っているようだ。

 報酬はバグローチを1000匹ほど討伐したことになり、2000ノット、金貨20枚ほどになる。


 要するに、奴隷で報酬を支払おうというのだ。

 そこまで奴隷に興味はないが、金貨20枚も必要か、と言われるとそこまで金への執着もない。


 どうしようか考えているうちに、いろんな奴隷を紹介された。

 基本的にここで働いている人たちは奴隷で従業員も奴隷なのだとか。

 だったら、料理ができる人が嬉しい、と言うと料理人たちが並ばされた。

 全員、金貨30枚以上だった。


「あまり、僕はお金がありませんので今回はやめておきます」

「そ、そうですか」


 俺が断ると、奴隷商は残念そうに顔をしかめた。

 ちょうどマスマスカルも全滅した頃だったので、屋根裏部屋に行って死体を袋に詰めた。

 全部で50匹ほどになるだろうか。

 1匹5ノットと考えると250ノット。バグローチの分も合わせると2250ノット、金貨22枚に銀貨5枚。


 奴隷商の汗が止まらなくなっていた。

「もし、持ち合わせがなければ、後日でもいいですけど」

「いや、そ、それではうちの信用に関わる」

 額の汗が痛々しい。


 こんな屋敷に住んで、密売もしているのにお金がないなんておかしい。出し渋っているのか。

 それとも、実は借金まみれでこの屋敷ごと全て抵当に入れられているのか。

 とりあえず、俺は出されたハーブティーを飲みながら、待つことにした。


「私などいかがでしょうか?」

 メイドの女性が急に言った。

「テル」

「私はすでに性奴隷の務めはできませんし、価格もそこまで高くありません。料理ならある程度できます。いかがですか?」

「そう言われましても、おいくらになりますか?」

「金貨20枚になります」

「では、彼女でお願いします」

「テル。お前が出て行くと誰がメイドたちを束ねるんだ?」


 奴隷商が縋りつくようにメイドに言う。


「大丈夫ですよ。皆、しっかりできますから。そうでしょ?」

「「「はい」」」

 メイドたちが声を揃えて返事をした。

「大丈夫ですよ。ご主人様、また軌道に乗れば屋敷も取り戻せます」


 メイドの女性は主人を諭すように言った。

 どうやら、すでにこの屋敷は奴隷商のものではないようだ。


「それに奥様もそのほうがいいでしょう」

「わかった。お前を売ろう。ナオキさんと言ったかな? テルをよろしくお願いします」


 メイドのテルさんが荷物をまとめている間、裏庭でバグローチとマスマスカルを焼いて、門の外で待っていた。

 テルさんは屋敷の人たちと別れの挨拶を交わし、門から出てきた。

 手には革の鞄を下げている。


「お待たせしました。不束者ですがよろしくお願いします」

 そう言って、差額の250ノット、金貨2枚に銀貨5枚の入った財布袋を渡してくれた。

「こちらこそ、よろしくお願いします。テルさん」

「さん付けはお止めください。ナオキ様」

「わかりました」


 テルの年齢は50歳ほどだろうか。

 茶色い髪を後ろでまとめ、如何にもメイドという雰囲気を醸し出している。

 この先、この人とやっていけるだろうか。

 まぁ、慣れてもらうしかないな。

 俺が主人なんだし。


 ギルドの宿に帰ると、ちょっとした騒ぎになった。

 ツナギ姿のFランク冒険者がおばちゃんのメイドを連れて戻ってきたのだ。

 誰がどう考えてもおかしい。


 Fランクの冒険者が奴隷を買えるほど、報酬をもらえるはずがないし、奴隷にするにしてもテルは年を取り過ぎている。

 色々腑に落ちないことが多すぎる。

 だが、冒険者の誰かが言った「お袋じゃね?」の一言で、冒険者たちはテルを俺の母親として認識し、興味を無くしたようだった。


 俺は受付で依頼完了の手続きを済ませた。

 宿でもう一つ部屋を用意してもらうように言おうとしたら、テルに止められた。


「私は奴隷なので、今、ナオキ様が泊まられている部屋で大丈夫です」


 宿の主人も、それならばと宿帳を引っ込めてしまった。

 とりあえず、テルの荷物を部屋に置き、食堂で飯を食べることにした。

 その内、アイルも帰ってくるだろう。

 

 食堂で俺が2人分頼もうとすると、テルがまたしても止めた。

「私はナオキ様と一緒には食べられません。あとで一番安い食事を頂きます」

「いや、すでにテルは俺の奴隷なのだから、これからは俺のルールに従ってもらわないといけないよ」

「しょ、承知しました」

「じゃ、座って、一緒に飯を食おう」

「ですが、奴隷と主人が一緒に夕飯を食べるなど…」

「テル。何度も言わせるな」

「申し訳ございません」

「肉料理が嫌いなら、他のものを頼んでくれ」

「いえ、ナオキ様と同じものでお願いします」

 フィールドボアの肉料理とワインを注文した。


「それで、これからの予定とルールを決めよう」

「はい」

「俺はこれから、南の港町に行く。そこで地図を手に入れて世界を旅して回ることになる。いろいろな景色を見て、世界中の料理に舌鼓をうち、自分のレベルとスキルを伸ばしていこうと思っている」

「世界ですか?」

「そう、特にアリスフェイに限らず、旅して回るつもりだ」

「外国に行かれるんですね」

「そうだ。一緒に来るか?」

「私は奴隷なので、ナオキ様の行くところについていきます」

「それなんだけど俺としては、テルが仕事を見つければ、奴隷から解放しようと思っている。ちなみにクーベニアでは2人、奴隷を解放している」

「そうなんですか?」

「一人は墓守をやっていて、もう一人は王都の魔法学院に行っている。元奴隷だと仕事を見つけるのが大変だと聞いた。それでも、もしいい仕事が見つかれば、俺はすぐにでも奴隷から解放しようと思う。もしあれだったら、すぐに解放して屋敷に戻ってもいいけど」

「いえ、それはできません。あの屋敷に私の居場所はありませんから」

「そうか、なら暫く俺についてきてくれ」

「もちろんです。ですが、あの一つ伺ってもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「私はほとんど屋敷で過ごしてまいりました。計算や料理などは出来るのですが、魔物と戦ったことはありません。大丈夫でしょうか?」

「ああ、それなら問題ない。俺もほとんど戦ったことがないし、冒険者としてはFランクだから」

「そ、そうなんですか? 私はてっきり……」

「ああ、そうか。俺は職業柄、低ランクの冒険者の割にレベルが高いんだ」

「職業柄?」

「害虫駆除だよ。屋敷での仕事もそうでしょ?」

「それで、レベルが上がるものなのですか?」

「まぁ、そうだね。その内、理由がわかると思うから。こればっかりは慣れてもらうしかない」

「……わかりました」


 料理が来たので、頂くことにする。

 テルはワインが好きらしく、何度も「おかわりしてもよろしいでしょうか?」と聞いてきた。

 瓶ごとワインを頼み、テルの前に置いてやった。

「好きなだけ飲むといい。足りなくなったら、また言ってくれ」

 ギルドの宿の食堂はどれだけ食べても銀貨2、3枚もあればお釣りが来る。


 アイルが食堂にやってくる頃には、すでに俺たちの食事は終わっていた。

 相変わらず、泥だらけで傷だらけのアイルにクリーナップをかけ、塗るタイプの傷薬を渡し、事情を説明した。


 テルには、アイルのことを何故かついてくる冒険者と言ってたため「よろしくお願いします」と言って睨みを利かせていた。酔っているだけかもしれない。


 アイルはテルを見て、「また奴隷を拾ってきて、解放する気だな」と言われてしまった。


 明日、1日旅の準備をして、南に行くことを伝えるとアイルは「わかった」と言ってフィールドボアの肉料理を頼んでいた。

 

 部屋に戻り、ベッドに潜り込もうとしたところ、テルが一緒に入ってきた。

 酔っ払っているようなので、ベッドをテルに明け渡し、俺はアイテム袋からフォラビットの毛皮とゴートシップのマントを取り出し、ベッドの横に寝床を作って寝た。



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