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駆除人  作者: 花黒子
~南半球を往く駆除業者~
168/502

168話

 コウモリは俺たちの頭上を旋回したあと、浜の方に飛んでいってしまった。

「追わなくていいのか?」

「あ、そうか。追おう!」

 ボウに言われて、俺は急いでコウモリの後を追った。

探知スキルでは見えないため、視覚で追うしかない。魔石灯は明るすぎて、逆に影を作ってしまうため使わなかった。

辺りは暗く、周囲を照らす光もないため、何度も見失ってしまう。暗視スキルを取っておけばよかったのだが、この時は追うことで精一杯でまったく気が付かず、ボウと2人、必死にコウモリを追った。

「そんなに大事なことなのか?」

 途中、ボウの心が折れかけた。コウモリの飛ぶ軌道が読めず、惑わされる。

「コウモリがいるってことは、コウモリが生きていけるくらいの食料があるということだろ? それにコウモリも焼いたら食べられるかもしれない」

「そうか! フハ。でもなんで探知スキルに引っかからないようなコウモリの魔物がいるんだ?」

「それはわからん。いるものはいるさ。調査が必要だな。あとでベルサを呼んでこないと」

 正直なところ、あのコウモリは魔物ではないんじゃないかと思っている。魔物であるならば、魔力を保持し魔石が身体のどこかにあるはずで、探知スキルで見た時にボウと同じように赤い光で見えるはずなのだが、あのコウモリは赤い光が見えない。

魔力を使わず、動いているモノ。つまり、魔物ではなく、『動物』に分類されるんじゃないか。

この世界で、少なくとも北半球で、動物を見たことはない。全て魔物だったはずだ。

「やっぱり不思議だ。南半球で独自の進化をしたのか、はたまた異世界からやってきたのか、仲間はいるのか、どうして魔力を持たないのか、ボウも知りたくないか?」

「フハハ。やっぱりナオキといると面白いものが見れそうだ。前は駆除業者というから駆除するだけが仕事だと思ってたけどな」

「いや駆除するだけが仕事だよ。スライムの群れから生き残ってるんだから、理由があるはずだ。それを知ることは効率的なスライム駆除のヒントになる。仕事は効率的かつ効果的にだ!」

「ナオキはやりすぎだと思うけどなぁ。フハ」

 月明かりの下、ボウと話しながらコウモリを追った。


しばらくフラフラと飛んでいるコウモリの後をついていくと、入江に出た。砂浜と固そうな岩の崖。その崖が裂けたような大きな洞窟。コウモリはその洞窟に入っていった。

以前、海賊のアジトを訪れたことがあり、それとよく似ているが、洞窟から海に向かって川が流れている。

「地下水脈か」

「うん。スライムがいないね」

 ボウの言うとおり洞窟内にもスライムの気配はない。この地下水脈は、未だスライムに発見されていないのか、それともスライムがいない理由があるのか。


洞窟内は真っ暗。

探知スキルで地形は見えるので俺は問題ないが、ボウのために魔石灯を取り出した。


キョー!! キョー!! キョー!!


ボウが魔石灯に魔力を込めた瞬間、けたたましい鳴き声が洞窟で響き、洞窟から飛び出したコウモリの群れが頭上を飛び回った。

「やっぱり仲間がいたようだな」

コウモリの群れも探知スキルに引っかからない。探知スキルでは石と同じような黒い影が蠢いているようにしか見えないので、崖や洞窟の天井に張り付かれると同化して見えなくなってしまう。

川は緩やかにカーブしており、川岸があった。水深もそんなに深くないので進もうと思えば進める。

「この洞窟には先があるようなんだけど、どうする?」

「どうするって言ったって、行くつもりだろ? フハ」

「まぁな」

 コウモリの鳴き声を聞きながら、俺とボウは洞窟の奥に入っていった。


 洞窟を進んでいくと、いくつか天井が崩落している箇所があり、月明かりが差し込んでいる。いつ崩落が起きるかわからないので、ボウの帽子に衝撃耐性の魔法陣を描いてやった。俺も久しぶりに自分のヘルメットを取り出し、衝撃耐性の魔法陣を描いた。

「何だそれ?」

 ボウがヘルメットに付いているライトについて聞いてきた。

「ライトだよ」

 この世界に来た当初は使っていたが、電池が切れてしまっていたはずだ。

 試しにスイッチを入れると、ちゃんと点灯した。ちょっと電池が復活している。

「フハ、眩しいな!」

 天井にめがけてライトの光を当てると、コウモリが30匹ほど鳴き声を上げて飛び回り始める。一瞬だが、コウモリは前の世界で見たものと変わらない姿かたちをしていて、ショブスリというコウモリの魔物とは明らかに違った。

「やめろよ」

「ごめんごめん。ちゃんと正体を見たかったんだ。進もう」

コウモリの群れから逃げるように洞窟を進み、すぐにライトが点滅し始め程なく消えた。

「フハ、ライトは効果時間が短いんだな」

「電池がないからね。これは魔石や魔力を使わずに明るくなるんだ」

「へ~すごいな!」

「あ! でもこれ、ライトの裏に光魔法の魔法陣が描いてあるな。いつ描いたんだっけなぁ、覚えてないや」

「ナオキの場合、そういう忘れられた魔道具がたくさんありそうだよな。フハ」

「確かに。使わないものは覚えてないかもしれない」

 ライトの裏に描いた魔法陣に魔力を流すと、ライトは先程よりも洞窟内を明るく照らした。文明の利器が負けた気がするが、仕方がない。


 コウモリの群れは入口付近に固まっていたのか、洞窟を進むにつれ鳴き声が聞こえなくなった。その代わり、洞窟の天井が崩壊している箇所が増えた。ぶら下がれる天井がないからいなくなったのかもしれない。

 さらに、月光でしっかり確認したわけではないが、天井が崩落した場所の岩には苔が生えていて、背の低い草も伸びていた。

とは言え、苔がコウモリたちの食料とは思えない。さらに、川があるというのにスライムが侵入していない。なぜだ? 

理由はボウが教えてくれた。

「ナオキ。鼻が曲がりそうだよ。前の方から嫌な臭いが漂ってくる~」

 ボウに言われ、周辺の臭いを嗅いでみると懐かしい臭いがした。

 前方には天井に巨大な丸い穴が空いている場所が見える。

穴の下は川の水が溜まり、半分ほど湖になっている。まるで天然のプールのようだ。岸には草木が生い茂り、果物がなる木や薬草に使う草に紛れ、魔物除けの小さな白い花が月光に照らされている。

「そうか。魔物除けの薬を忘れてたな」

 魔物よけの薬は、ボウがいたため、無意識のうちに使わないようにしていたのかもしれない。

「ぐぅお~臭い! 臭いよ!」

 このように魔物には効果抜群だ。スライムにも効果があるのだろう。

 とりあえず、のたうち回っているボウにはマスクを渡し洞窟を出ることにした。



 翌朝、早めに起きて先に池に寄ってから本拠地へと向かう。基本的に畑組は朝が早く、朝食前に誰かが水やりをしているかもしれない。

 早朝ランニングは結構急いだが、ボウもしっかりついてきている。

「ぜいぜい。フハ……」

 ボウは膝に片腕をついて、肩で息をしている。

「すまん、ペース上げすぎた」

「いや、ナオキはそのままでいてくれ。オレたちが上がるから。フハ」

 相変わらず下手な笑顔で笑うボウは、何かを決意したようだった。

 

 池の畑には不自然な形で霧が立ち込めていた。

「リタの水魔法だ! フハ、魔力が増えたから魔法で水やりも出来るようになったんだな。お~い!リター!」

 手を振りながら、ボウが畑に走っていった。先程まで死にそうだった男とは思えん。これが愛のパワーなのか。

「仕事ほっぽりだして帰ってきちゃダメですよ!」

 ボウはしっかりリタに怒られている。ただ怒っているはずのリタの顔はにやけている。これも愛か。

「違う違う、ほらナオキも帰ってきてるだろ? フハ」

「おはよう、リタ。大事な発見をしたから戻ってきたんだ。スライムじゃない魔物と植物の群生地を見つけてね」

 ま、俺は魔物とは思ってないんだけどね。

「ナオキさん! なんだ、私に会うために戻ってきたんじゃないんですね?」

「フハ、そうだよ」

 ボウの言葉で急激にリタが真顔になった。

「まだ、皆さん寝てます。水やりも終わりましたから、一緒に本拠地に戻りましょう。ほら、早く報告しなくちゃ。ボウさん何疲れてるんですか!」

「いや、ナオキのペースに合わせて走ってきたから、ちょっと疲れて……」

「いいわけですか!? まったく」

 女心って難しいな。


 本拠地に帰り、全員叩き起こし、コウモリと植物に関して報告。

「ふぁ~あ、そうか! 魔物除けの薬忘れてたな」

「ふぁ~あっ!? 探知スキルに引っかからない魔物? それ魔物じゃないんじゃないか?」

 アイルとベルサがあくびをしながら、俺の前でのそのそと着替え始めた。リタがボウの目を隠したところで、ようやく俺も気づいた。今さら何も思わないが、アイルもベルサも女なんだよな。

 ちなみにセスとメルモも寝床の近くにあった自分のツナギを着ながら、俺の報告を「へー」とか「はー」とか生返事をしていたので気にしていないのだろう。

「皆、北半球に戻ったら結婚相手探そうな」

「は? なんで?」

「私は結婚に向いてないよ!」

「自分より強い男がいいです」

「僕はめんどくさくない人がいいです」

 我々の婚活は道のりが険しそうだ。


 リタが畑の水やりを済ませてくれたので、そのままコウモリと植物を全員で見に行くということになった。「朝飯は後の方がいい」というボウの提案で、朝飯も食べずに出発。見かけたスライムを駆除しつつ、なるべくペースを保って走った。

 火山の脇を通り、町の発掘現場をちら見して海岸線に出て北上。夜に見つけた入江に出た。

「あの洞窟?」

 アイルが指差した。

「そう」

「地下水の洞窟かぁ」

 洞窟に入り魔石灯を点けるとすぐにコウモリが騒ぎ始めた。

 アイルがさっと飛び上がり、コウモリを捕獲。診断スキルで確認したが、やはり身体の中に魔石はなかった。

「確かに不思議だ。魔力も感じられない」

「これどうやって動いてるんですか?」

「でも魔力には敏感なんですよね?」

 いつの間にか、全員それぞれコウモリを捕獲して観察している。

「こらこら乱獲するんじゃない。個体数は少ないはずだから、観察したら放すんだよ」

 コウモリたちはフラフラと飛び上がりながら、洞窟の天井に帰っていった。

「邪神や悪魔が暴れていたんでしょ?」

 ベルサが聞いてきた。

「そう聞いてる」

「逃げも隠れもしないと生きていけなかったから、魔力を捨てたんだろうなぁ。魔力を捨てた魔物か」

「前に俺がいた世界では『動物』って言ってたよ」

「そうか。ナオキの前いた世界では魔法も魔石もなかったんだっけ? 動物……動く物か。まんまだな」

 ベルサは顎に手を当てて納得していた。

「おーい! こっちの洞窟の天井崩落してるぞ~!」

 先に行ったアイルが呼んでいる。

 天井が崩落している場所は、夜よりも遥かに明るく、魔石灯がまったくいらなかった。さらに夜には気づかなかったが、崩落した岩にはところどころ苔が生している。

夜は探知スキルでも地面と同化しているようにしか見えなかったが、虫も結構見かけた。


「うわぁ~!」

「……っ!」

「おおっ!」

「これは!」

「こんな景色あるんですね!」

 天井に巨大な穴が開いた天然プールに全員、驚いていた。

「やっぱり臭い」

 ボウはマスクをしていた。

「この場所と洞窟の中だけで、循環してるんだね」

 言葉を失っていたベルサが口を開いた。

 

 バシャン!


「イヤッハー! 真水だよ! 真水!」

 アイルが湖に飛び込むと、セスもメルモも飛び込んだ。

 ボウ以外、少しだけ天然プールで遊んだ後、魔物除けの白い小さな花を取りすぎないように注意しながら採取しアイテム袋に入れた。これでスライム駆除も、スライムを追い込んでからまとめて駆除できるようになるだろう。

「そういえばナオキが邪神にスライムを使ったらって提案したのはいつのことなの?」

 アイルが聞いてきた。

「フロウラの教会跡だったはずだから……数ヶ月前かな」

「ってことは、まだこういう場所があるかもしれないよね?」

「そうだなぁ」

「でも、灰色のスライムみたいに環境に適応しちゃうスライムも出てきてるんだよね?」

「うん、そうだ……急ぐか」

 それ以降、俺たちはスライム駆除を急いだ。

もしかしたら南半球には、この場所以外にも、邪神や悪魔のケンカから隠れ潜み生き残った動物や、スライムの群れからも逃れた環境があるかもしれない。


「まったく、スライムなんてナオキが提案するから、こんな目にあうんだ」

 スライム駆除をしながらアイルがぼやいた。

「あの時は、何もいないって言われたからだよ」

「神の言うことより、生命の力を信じろってことですね」

 セスが尤もらしいことを言った。

 俺たちはその後3ヶ月間、生命の力を信じて大陸中のスライムを駆除しながら走り回ることになる。



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