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駆除人  作者: 花黒子
~南半球を往く駆除業者~
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164話


「う~ん。打撃は効かないね。斬撃も核まで届けば、なんとかって感じだけど」

 アイルがスライムに向かって攻撃したようだが、あまり効果的ではなかったようだ。

「ナオキさん、魔法の威力が……!」

 リタが水魔法でスライムに攻撃したようだが、そもそも南半球では魔素が少ないため、水魔法を放っても、指先からチョロチョロとしか水が出なかった。

 毒は即死系の毒だけ効果があったが、その他の麻痺や眠り効果のある毒はただ身体の中に取り込まれただけだった。即死系のイエローフロッグの毒はそんなに持っていないので、このままだと先はない。

「こちらもダメです。南半球だと魔物の雰囲気も違って、全然仲良くなってくれません!」

「言語は理解出来ないみたいだ」

 メルモの使役スキルもボウの魔族言語も効果なし。

「吸魔剤は効果あるけど、量がないね」

 ベルサの方は多少効果があったようだが、やはり量が問題だ。

 ちなみに、ずっと黙っているセスはというと、大量のスライムの上に板を乗せて進めないか、という実験をして失敗。木の板を溶かされ、スライムの群れに襲われて現在魔力切れで気絶している。

 できれば走りっぱなしだったので眠りたかったのだが、これでは寝床すらままならない。

 ひとまず、通ってきた洞窟に戻って土の悪魔に相談しようとしたが、すでにダンジョン造りを始めているようで近くにはいなかった。油断していると洞窟の中にも入ってきて、出入り口を塞がれてしまう。アイルが何度か吹き飛ばしていた。埒が明かないので、一旦出入り口は岩で塞ぎ、あとで、天井に穴を開けて出ることに。

 通路を軽く掘って、全員が座れるくらいの部屋を作った。腕力は南半球でも同じなので、アイルと、魔力回復シロップで復活したセスが頑張ってくれた。

「まずはボウとリタ、悪かったな。こんなことに付き合わせちまって。今はもうダンジョンが造られ始めちゃって簡単に帰れなくなってるかもしれない」

「いや、自分で付いていくと決めたから。それに面白そうだし。フハ」

「私はボウさんの右腕ですので当然です!」

 リタとボウについてはスライム駆除が終わるまでコムロカンパニーで臨時的に雇うことにした。レミさんに連絡するため、リタに通信袋を貸したが、空気中の魔素が足りず全く連絡できなかった。俺が思いっきり魔力を込めてみても壊れたラジオから聞こえるノイズのような音しか聞こえなかった。

「いやぁ、南半球を舐めてたな。ハハハ」

 笑ってごまかせる状況ではなく、うちの社員たちは顰め面をしていた。

「確認しておくけど、スライムってどういう魔物なの?」

 ベルサに聞いた。

「身体のほとんどが水分でできていて、いかようにも身体の形を変えられ、打撃は元より斬撃にもほぼ対応している。駆除するには身体の中心にある核を壊さなければならないが、攻撃された時に位置を変え、回避行動をするくらいかな」

「ほとんど水分ということは電気ショックは効くのかな。試してみよう」

 一度、出入り口を開けて、水の精霊駆除の際に使った電気の玉を放つ杖で攻撃してみた。

 結果は魔力が足りず、スライムは一瞬ビリッと固まり、すぐに動いていた。むしろ、電気ショックを与えたあとの方が、ちょっと機敏になっていた。俺が全力で魔力を込めると3匹死んだ。ただ、これでは魔力も保たないし効率が悪い。


「ということで、これは乾燥剤を作るしかないな!」

 再び出入り口を塞ぎ、俺は宣言した。

「洞窟を通ってきた時に白い岩の地層があったから、そこまでちょっと戻ろう」

「待て待て! ナオキ、説明してくれ!」

「現物見ながら説明したほうが早い」

 アイルの制止はひとまず置いておいて、白い岩があった地層のところまで通路を進む。ちゃんと全員ついてきてくれるところが、うちの会社の素晴らしいところだ。

 魔石灯の明かりで照らすと白い壁が浮かび上がった。

「これがたぶん石灰岩だ」

 白い壁を叩きながら説明を始める。

「この石灰岩を砕いて、窯にいれて焼くと生石灰という乾燥剤ができるはずなんだ。その乾燥剤をスライムにぶつけてやっつけよう!」

 体操のお兄さん的な爽やかさで言ってみた。正直、スライムに対抗するには乾燥剤くらいしか思いつかない。なので、ふざけているというよりは背水の陣で、どうせ怒られるなら、明るく怒られようという気分だ。

「う~む、ナオキ、それいつから考えていたことだ?」

 腕を組んだアイルとベルサが迫ってきた。

「実は……邪神に提案した時にはすでに……こういうことになるんじゃないかと思って」

 あの頃は、いつか実験して作っておこうくらいにしか思っていなかった。まさか、こんなに早く機会がやってくるとは。

「……たぶん実験は大変だと思うけど、お願いします!」

「まったく、そんなことだろうと思ったよ」

「っは~! これだからナオキは」

「社長らしいですね」

「僕は社長についていきますよ!」

 なんだかんだ言って、うちの社員たちは俺の言うことを聞いてくれる。

「魔物の駆除って、スキルを上げたり魔法を使って対抗したりはしないんですね」

 リタが感心していた。

「フハッ! よしオレは窯を作ればいいんだな!」

 ボウはすでにやる気だ。

 その後、俺たちは手分けして、石灰石を採取しつつ石灰窯の作成に取り掛かった。

 もちろん、洞窟の中に石灰窯を作るわけにも行かず、外で作ることになったのだが、石灰窯用のスペースを作っている最中にスライムの意外な弱点を発見した。

「やっぱりだ! スライムは辛いものが苦手なんだ!」

 ベルサが「ユリイカ!」と叫ぶように皆を呼んだ。

 洞窟の外に出るとベルサが赤く濁った液体をポンプに入れてスライムの群れに吹きかけていた。あの液体は、確かジャングルで唐辛子のような赤い植物を水につけて濃縮したものだ。

 液体を吹きかけられたスライムは身を捩るようにして後ろへ下がり群れの中に入り込んだ。液体が他のスライムにも付着すると、そのスライムも身を捩るようにして後ろへ下がり、徐々にスペースが空いていった。

「良かったー! ナオキがサボったときの罰ゲームとしてたくさん採っておいてー!」

 と、ベルサは自分のリュックの中を見ながら、唐辛子のような実の量を確認していた。

そんな物を採っておくんじゃない!

とはいえ、周辺の地面に赤く濁った液体を撒いておくと、スライムは近づかなくなったので「でかした!」とベルサを褒めておいた。

 スペースも出来たことで石灰窯の製作をボウが始める。片腕なのでリタとセスも補助することに。セスは南半球に来てから船の操作をする機会がないかもしれないので、どうにか役に立ちたいらしい。

 俺は前の世界にいた頃、教科書か本で見た石灰窯についてうろ覚えだが説明した。

「まぁ、ものは試しだ。いろいろやってみよう! フハ」

 ボウは石灰窯製作に前向きだ。

「ところで燃料はどうするんだ?」

 ボウに言われ肝心なことを思い出した。

「石炭とかあればいいんだけど、ないからやっぱりこれかなぁ」

 俺はアイテム袋から、魔石を取り出して見せた。

「鍋の底に加熱の魔法陣を刻んで魔石と石灰石を一緒に入れて、石灰石が粉になるまで加熱し続ければいいんじゃないかと思うんだ。だから、熱が逃げないような窯がいいんだよ」

「どのくらい温度を上げるつもりだ?」

「確か……銀が溶けるくらいの温度じゃなかったかなぁ~?」

 俺はボサボサ頭を掻きながら、必死に前世の記憶を思い出す。

「銀貨は鉄とか混ざっているから、少し溶けるくらいか……」

 いつの間にか顔に白い粉がついたアイルが隣りにいた。

「粉にするなら始めから細かく砕いて置いたほうが良いですかね?」

 同じくツナギを白く汚したメルモが腕を組んで提案した。

「これだけ、魔素が少なくて魔法が弱くなっているんだから2、3日窯の中で熱してたほうがいいかもよ?」

 ポンプを背負ったベルサも話に加わってきた。

 この日から、全員で乾燥剤作りの試行錯誤が始まった。

そこから、乾燥剤が出来上がるまでに一ヶ月以上かかることを俺たちはまだ知らない。


初めの7日間は窯の中に石灰石を入れても粉になるどころか、窯に入れたときと全く形が変わらなかった。窯の形は何度もトライアンドエラーを繰り返した。煙突は横につけた方が良いとか、窯の素材は乾燥レンガが良いとか、そんなんじゃ脆すぎるとか、いろいろ意見が飛び交った。

「そもそも小さな魔石では魔法陣からの熱が熱くならないんだよ!」

「そのためには大きめの窯が必要ってこと!」

「本格的なレンガ造りからだ!」

 7日目の夜、アイルとベルサとボウが酒を飲みながら熱く語り合っていた。

 次の7日間で、レンガ造りのための窯を作り、スライムの核である魔石を採取することになった。

「スライム駆除のために、スライムの魔石を取るなんて本末転倒じゃないか!」

 アイルの言うことは尤もだが、南半球には他に魔物が見当たらないのだから仕方がない。

 土の精霊の精霊石はグレートプレーンズに置いてきてしまっていたし、水の精霊の精霊石はなかったので、「レッドドラゴンの魔石を使おう」と俺が言ったら止められた。

「それは最終手段に取っておこう」

 レッドドラゴンの魔石は一回しか使えないかもしれないし、本格的な窯が出来上がってからでも遅くはない、と説得された。

 ということで、他の選択肢がないのでスライムを傷つけないように狩る。

 まずは、アイルとセスにスライムが簡単に這い上がれないほどの深い堀を作ってもらう。我々の居住スペースを守るように扇形に掘ってもらった。アイルが斬撃で荒く地面を掘り、セスが形を整えていっていた。

 俺が堀の底にベタベタ罠を改良した加熱罠を敷き詰めていく。スライムが踏むと自分の魔力で加熱され、身体の水分が蒸発し核の魔石だけ残るという仕掛けだ。

 加熱罠を仕掛けて1日後、堀の中を見てみると縮んだスライムたちが何度も飛び上がって、堀から出ようとしていた。

 ベルサの虫取り網で、サッカーボールくらいになったスライムを掬って集める。

 あとは表面の膜をナイフで切って、軍手をした手を突っ込んで核である魔石を取り出す。魔石を傷つけずにスライムを討伐する方法が確立された瞬間だった。ただ、もちろん堀と加熱罠でどうにかなる量のスライムではないので、やはり乾燥剤が必要だ。

 スライムの魔石を採る作業は6日間続いた。

 水分と一緒に魔素もスライムの身体から拡散したのか、寝て起きた時に魔力が少しだけ回復している気がしたのもこの頃だ。それまでは全然魔力が回復せずにセス、メルモ、リタはよく魔力切れを起こしていた。

 レンガを作って本格的な石灰窯が出来たのはそれからまた7日後だ。

「まだまだレンガが足りないよ!」

 ボウが珍しく文句を言っていたが、なんとか作っていた。すでに、洞窟から石灰石は掘り出され、洞窟の入口にうず高く積まれている。石灰窯作りも石灰石掘りも作業はコムロカンパニー総出で、休日はない。

 あとは実験を繰り返し、適切な魔石の量や燃焼時間を探っていく。

 その間に、俺とベルサは南半球にも微魔物がいることを確認していた。極小の魔物で、魔石を取り出したスライムの亡骸を分解していた。南半球を破壊した邪神も気づかなかったようだ。

 レンガ造りの石灰窯が出来上がって10日後、ようやく石灰石が粉になって出てきた。

 注意深く生石灰をスコップで袋に入れ、堀の外のスライムを相手に撒いてみた。


 ジュウウウウッ!! ブクブクブクッ!

 

 範囲は狭いが、効果は抜群だ。煙を上げながら面白いようにスライムが溶けていく。

 スライムの核である魔石と生石灰から化学反応で変化した消石灰が地面に残った。

「それは何かに使えるのか?」

 消石灰を集めて袋に入れている俺にベルサが聞いた。

「消毒とかに使えるんだよ。あとは酸性が強い土とかに混ぜて、植物が育ちやすい土に変えたりとかさ。あ、目や口に入れるなよ」

「なるほど、そんなことにも使えるのかぁ。そろそろ食糧事情を考えないとね。このままだと、アイテム袋にある食料は食い尽くしてしまうからね」

「ああ! そうだな。どれだけ南半球にいるかわからないけど、食料を得る手段がないとヤバいね」

「とりあえず、水辺を探そう。養魚池で使った水草は確保してあるから増やして、畑の肥料にしよう」

 石灰窯が出来てから、ようやく南半球での生活が回り始めた。

 リタとベルサとメルモは畑作りをして食糧確保。残りのアイテム袋に入っている食料も管理してもらうことにした。

俺とアイルとセスで、スライムの駆除。スライムの魔石と残った消石灰をかき集める。

ボウはすっかり窯の主となっていて、魔石量の調整や、石灰窯第二弾の製作に取り掛かっている。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「微魔物」の読みが「びまもの」なのか「びまぶつ」なのか,明記して頂きたいです。
[一言] 消石灰は500~600℃で生石灰になるので、回収、加熱後再利用した方が燃料の消費が抑えられると思いました
[気になる点] そういや主人公さん発案のスライム作戦は魔素とか瘴気的なものだけでなく南半球特有の生態系も根絶やしにしてしまったのではないか?
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