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駆除人  作者: 花黒子
~水の精霊を窺う駆除業者~

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152/506

152話

 

 ボウの小屋に飛んでいき、ドアを開けると、スープを啜っているベルサがいた。

 セスとメルモは呆れるようにベルサを見ている。特にメルモは頬杖をついて非常にだるそうだ。

「あ、社長」

 セスがスープのおかわりをベルサの皿に入れながら、顔を上げて言った。

「どうだ? 調子は?」

「お腹が減ってただけなんだから」

 いちいち心配するな、というようにベルサが答える。

「その皿ちゃんと洗ったのか? カビまで食べるなよ」

「カビは食べないよ。カビは研究用。それよりアイルはなんで泥だらけなの?」

 ベルサが怒られると思って、矛先を俺が脇に抱えているアイルに向ける。

「底なし沼にハマって、ギリギリだった」

「社長、私、もう寝ていいですか?」

 メルモが心底疲れたように聞いてきた。

「休暇は取ったろ? なんだ、寝てないのか?」

「寝てないんですよ。昼は社長の手伝い。夜はベルサさんの研究とアイルさんの修行の手伝い。朝は皆にご飯の用意で、もう……」

 そう言って、メルモが目を瞑ったまま寝始めた。どうやら、メルモは俺たちの世話をしていたせいで休暇を取れていなかったようだ。これじゃあ、ブラック企業じゃないか。

「セスはちゃんと休暇を取ったのか?」

「ええ、僕は造船技術を見に行ってました。まぁ、造船と言っても小さなボートですけど」

「そうか。ならいい。これ敷いて、メルモを寝かせてやってくれ」

 俺はアイテム袋から魔物の毛皮を取り出して、セスに渡した。

「私も眠い……」

 ベルサがスプーンを持ったまま、固まっている。

「寝る前に、風呂に入れよ。っていうか、アイルを洗ってやってくれ」

「え~、ナオキが洗えばいいじゃないか」

「俺は男だぞ。女風呂に入ったら捕まる」

「大丈夫だよ。作ったのは私たちなんだから、今日だけ混浴にすればいい」

 混浴の日か。それは良いアイディア!

「いやいや、アイルが起きたら、ぶっ飛ばされるだろ?」

「なぁに言ってんだよ~、今さら。誰もナオキを男として見てないよ~」

「じゃあ、何だと思ってんだ。このやろー」

 俺はベルサの頬をつねってやった。ついでに診察スキルで体の内部を確認。便秘以外は特に問題ない。飯を食えばそれも治るだろう。

「痛いたいたい! ナオキだって、私たちを女だと思ってないでしょ?」

「それは……そうだなぁ。じゃあ、いっか」

 一先ず、クリーナップをベルサにかけて、眠り薬の瓶をテーブルに置いておいた。出来るだけ、メルモとベルサが深く眠れるようにだ。ついでに、もう一枚魔物の毛皮を出して、セスに敷かせた。


 メルモとベルサが寝たのを確認し、眠り薬をかけて、セスと一緒にボウの小屋を出た。

脇に抱えている泥だらけのアイルは未だ魔力切れで意識がない。寝れば治るので、わざわざ魔力回復薬を使う必要はないだろう。


避難所の広場に行くと、人が集まっていて、女王の前で洞窟の民の何人かが泣いていた。女王は一人ひとり労うように肩を叩いている。ベン爺さんはその横にいて、額から流れる汗を拭っていた。

サッサさんに泥人形と化しているアイルを見せながら、「ちょっと時間がかかるので、話し合いは昼にでもお願いできますか?」とお願い。

「わかりました。こちらも時間がかかりそうなので、そうしましょう」

 そう言って、サッサさんはチオーネを呼んでくれた。

「悪いね。風呂に入れて泥を落とそうと思ってるんだ」

 近づいてきたチオーネに説明して、避難所の風呂へと向かう。

 セスはアプから昼食の準備について聞かれ、そのまま準備へ入った。王家が来てしまったので、食器類や食べられない食材について、いろいろ気をつかわないといけないようだ。


 風呂へ行き、人が入っていないことを確認してから、一先ず、アイルを湯船の中に放り込んだ。みるみるうちに風呂の水が汚れていくが、後でアイルに風呂掃除をさせよう。

その後、衝立を取っ払い、「本日混浴」と札を作って入り口にかける。

アイテム袋から前に作った石鹸を取り出し、ツナギを脱いでハーパンTシャツ姿で、アイルを湯船から上げた。チオーネも黒のインナー姿で、下は膝までズボンをまくり上げている。引き締まったボディラインに自然と目が吸い込まれていってしまった。

「なにか?」

「いえ、なんでもありません」

 やましいことがあると敬語になるのは、どうしてだろうか。

 アイルから、ビキニアーマーを取り外し、服を脱がせて、椅子に座らせる。服を脱がせたところで、俺の目はアイルよりもチオーネの方を向いてしまうのはなぜだろう。

 石鹸を半分に割り、チオーネに片方を渡す。俺が後ろ半分を洗い、チオーネが前を洗った。気分は三助か、介護士のよう。泥でゴワゴワになった髪を洗うのがすごい面倒だった。

 アイルを泡まみれにしたところで、チオーネが水魔法で、泡を洗い流した。下水は前に池を掃除した時に使った水袋に流れていくようになっている。時々、ベルサが避難所より東の方へ捨てに行くらしいが、何に使っているのか定かではない。

 チオーネが布でアイルの身体を拭いている間に、水袋を湯船の中に入れて、汚れた水を減らしていく。池用に作った水袋なので、すぐに湯船の壁が出てきた。クリーナップをかけつつ、魔法で取れない汚れはタワシでこすって落とし、床面も同じように掃除。最後にチオーネが水魔法で、汚れた水を集め、水袋に入れて、湯船全体にクリーナップをかけて、ほぼ掃除は終了。

 一応、石に刻んだ加熱の魔法陣が欠けたりしていないか確認し、湯船を乾かすことに。洞窟の民たちは水魔法を使える者も多いので、すぐに風呂は入れるだろう。

 振り返るとチオーネに服を着せられているアイルは普段から想像できないほど、覇気がなかった。死んでんじゃないか、と思って背中に手を当てて診察スキルを使うと、肋骨にヒビが入っていた。他には色んなところが筋肉痛。筋肉が切れて赤くなって見えた。ボウと一緒に笑う練習でもしていたのか、顔の表情筋まで筋肉痛になっている。

 布に回復薬を染み込ませ、ヒビが入った肋の辺りに当て、包帯で巻いておいた。今度からうちの社員には、自分の体のメンテナンスを自分でさせよう。

「優しいんですね」

「ダメな社員を持つと、社長が苦労するんだよ」

 アイルのビキニアーマーと剣は適当にクリーナップをかけておいた。アイルは未だ起きる気配がないので、住居の方まで行き、ハンモックに寝かせた。

 広場ではテーブルが必要だと騒いでいて、馬車の御者をしていた老人とボウが話をしていた。

 普段、地べたに布を敷いて食べたりしているので、あまり気にしてなかったが、たしかに女王がいるのだからテーブルや椅子があったほうが良いだろう。かと言ってボウの小屋のテーブルと椅子では足りない。幸い俺は工作技術のスキルも持っているので、素材さえあれば作れるはずだ。ちょうどベタベタ罠のために木の板を補充しておきたかった。

「ボウ、ジャングルに木を取りに行こう。昼前までに戻ってくれば良いんですよね?」

「そうなんだが……」

 俺の問に、老人は戸惑いの表情で見返してきた。

「フハ、わかった。また、鍬で飛んでいくのか?」

 ボウはキラキラした目で見てくる。どうやら空を飛びたいようだ。

「そうだね。どうせ、もう皆には見られてるし、飛んでいこう。あと、斧も必要だな」

 隣で話を聞いていたチオーネがすぐに斧を用意してくれた。使い込まれている斧で、チオーネ愛用の品らしい。

「気が利くね。使わせてもらう。昼前になったら、アイル起こしてくれ」

「わかりました」

 チオーネは頼りになる。うちの社員になってくれないかな。

「よし! じゃ、行くか」

 ボウから鍬を受け取り、浮き上がる。ボウを前に乗せて、そのまま発進。

「ヤッフィーーーーー!!!!」 

空へと飛び上がると、ボウが声をあげた。


一気にジャングルまで行って、手頃な木を探す。

「ここがジャングルかぁ。ナオキはよく来てるんだよね?」

「今日は午前中だけで、2回もジャングル来てるな。もうこっちに住んだ方がいいかも」

「フハッ!」

 ジャングルにある自然の罠にかからないようボウに注意しながら、良さそうな木を見つけ、切ることに。

 チオーネの斧は切れ味もよく、手に馴染む。

 二振りで幹に溝を作り、反対側から一振り。メキメキと音を立てながら、木が倒れていく。

「倒れるぞー!!」

「なんだそれ?」

 俺の声にボウが疑問で返してくる。

「なんとなく。木を倒すときの掛け声みたいなもん。周りに人がいる場合を考えて。どっかで聞いたことがあるんだ」

「フハッ、よく知ってるな」

 倒れた木の枝払いをして、持ち上げると結構重い。

「どうする? これを担いで空飛べるか?」

 ボウが倒れた木を叩きながら聞いた。

「無理そうだな」

「2人で、担いで走る? 昼に間に合わないよ」

「ん~……」

 ある程度短くして、持っていくか。それとも、洞窟に残っている人たちに助けを求めて、どうにか川を遡上していくか。どちらにせよ、昼には間に合わなそうだ。

 顎に手を当てて「ダメだ、こりゃ」という顔で悩んでいると、隣のボウも同じポーズだった。

「あ、この木ごと浮かせればいいんだよ」

「ん?」

 未だわかっていないボウを置いておいて、俺は倒れた木の幹に魔力で魔法陣を描いて、焼き付けた。

 焼き付けた魔法陣に魔力を込めると、ふんわり浮いた。結構、魔力の量は多めだが、いけそうだ。ただ、あんまり調節ができなさそうなので、鍬と斧を幹に深く突き刺し、掴めるようにした。

「じゃ、乗って。鍬を離すなよ」

「わ、わかった。大丈夫か?」

 大丈夫か、と問われると大丈夫じゃないかもしれないので、「これ手首に巻いておけ」と復活のミサンガをボウに渡しておいた。

 ゆっくりと魔力を魔法陣に込めて、浮かせると徐々にスピードを上げていった。思った以上にスピードが出る。

「ナオキ! これって止まれるのか!?」

 ヤベ、止まり方を知らない。箒や鍬は飛び降りてただけだが、今回はそこそこ大きな木なので、俺たちが飛び降りたあと、どこかにすっ飛んでいってしまう可能性がある。

 こうなったら地面に突き刺して止めるしかない。

「ボウ、俺が合図したら、飛び降りろ。大丈夫、そのミサンガしていれば、一回は死ねるから」

「えっ!?」

 割とすぐに水路と畑が見えてきた。

「今だ! 飛び降りろ! 早く!」

「ああぁぁぁあああっ!」

 ボウが飛び降りた。

 探知スキルで周囲を確認。人はいない。

 魔力の紐を幹に巻きつけ、自分の腰と繋ぎ、木を地面へと向ける。

 木の先端が地面に着く前に、草原に飛び降りた。

 

ズンッ!


地面を削りながら、飛んでいきそうになる木。地面を転がりながら、繋がった魔力の紐に身体を持っていかれる俺。

どうにか足を地面に埋めつつ踏ん張り、思い切り木を引っ張って魔力の紐を切った。

土埃を上げて、木は水路の手前で止まった。


両足を草原の土に埋めながら、俺はどこかで見たことがある光景だな、と思った。


「おーい! 大丈夫かぁ!」

 ボウが手を振りながら、走って近づいてきた。

「なんとかなったな。畑にぶつからなくて何よりだ」

「全身土まみれだけどな。フハハハ」

「手や足は擦り傷だらけだしな、ハハハ。でも、とりあえず死ななくて良かった」

 俺は、足を引っこ抜き、自分とボウにクリーナップをかけてから、回復薬をお互いの身体にふりかけておいた。

 音を聞きつけてか、木が飛んできたのが見えたのか、洞窟の民たちが避難所から下りて、こちらにやってきた。

 洞窟の民たちと協力して、木を洗浄し、ノコギリで幹の下の方を輪切りにしていく。輪切りにした断面は中華料理屋のテーブルくらいはあるので、そのままいくつも並べてテーブルにしてしまうことにする。割れたりしているところもあるが、布かけちゃえばわからない、ということになった。だいぶアバウトだ。時間もないし。

 2時間後には、脚の太い、大きなちゃぶ台が10個出来た。十分だろう。

 作っている途中で、めんどくさくなったのか、洞窟の民たちが「椅子は女王のだけちゃんと作って、俺たちは適当な物で構わない」と言い始めた。サッサさんもベン爺さんも王家の人間だが、気をつかわなくていいそうだ。

 それならばと、キャンプ場にあるような2人掛けの椅子を30脚。女王用に切り株を、ちゃんとくり抜き、背もたれがあるしっかりした椅子を作った。

 テーブルや椅子は洞窟の民たちが出来た先から、どんどん避難所の広場へと運び込まれていく。

空を見上げれば、太陽はすでに中天。

テーブルや椅子を運んでいる洞窟の民の話では昼食も出来上がっているらしい。

 急いで、ボウの小屋に行き、ベルサとメルモを起こし、避難所の広場へと向かう。

 

 テーブルにはテーブルクロスがかけられ、料理が並べられている。「セスとアプががんばっていた」とチオーネが言っていた。王家からの差し入れとしてフルーツも並んでいる。

 アイルも起きていて、かなり眠そうだ。

 とりあえず、うちの社員たちは固まって、端っこの方のテーブルについた。ボウもラウタロも近くの席だったが、レミさんとリタは女王の席についていた。セスとアプは給仕係らしい。

 全員が席につくと、女王が立ち上がる。談笑していた洞窟の民たちも自然と静かになる。

「我らは長く苦しい時代を生きてきました。南部の民には酷い生活をさせてきましたね。この南部開発機構の発足は遅すぎたくらいです。何も打つ手が無いまま、無為に時を過ごしてしまいました。でも、彼らに出会い、レミリアの研究が実を結びました。養魚池や一年草の野菜畑、回復薬の行商、きっとこの計画はうまくいくことでしょう! いえ、必ずうまくいきます」

 そう言うと、女王はコップを持って、こちらを見た。

「ありがとうコムロカンパニー。あなた方が南部の希望です。コムロカンパニーとの出会いに乾杯!」

「「「「「乾杯!!」」」」」

 一斉に料理に手を伸ばそうとする中、女王はなかなか自分の席には座らなかった。

「もう一つだけ、悲劇を終わらせるためにも、そろそろ水の精霊様にはこのグレートプレーンズから出ていってもらおうと思っています!」

 女王の隣りにいたベン爺さんが目を丸くして驚いていた。いや、サッサさんも御者の老人も、洞窟の民たちも同じ表情だ。そして、オレたちも。

レミさんだけが目をつぶって下を向いていた。

隻眼の女王は、なぜか俺から目を離さなかった。




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