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駆除人  作者: 花黒子
~水の勇者と興ずる駆除業者~
146/502

146話


 モラレスの冒険者ギルドのテントで魔石や魔物の素材を換金してもらおうと思ったら、「今ギルドにある金では全て買い取ることができない」と、小人族のギルド職員が申し訳なさそうに謝った。

ギルド長のチーノは現金獲得のために、北部の冒険者ギルドに出張中とのことだ。魔石とすぐに使えそうな素材だけ、銀貨15枚に替えてもらった。ボウとベン爺さんと山分けなので、1人銀貨5枚だ。

「シャドウィックの討伐報酬すら払えず、申し訳ない」

 小人族のギルド職員は頭を下げた。

「いや、いいんです。それより大変でしょう。お金払うんで、今夜一晩この冒険者ギルドのテントを貸してくれませんか?」

「え!? それは……」

「いやいや、なにも変なことに使おうと言うのではなく、うちの会社の会議をしようと思ってて、ちょうど場所を探していたんですよ。もし、夜中冒険者ギルドに用があるような人が来たら適当に対応しておきますし、ギルドの羊皮紙とか使った場合はその分お支払いしますよ」

「ちょ、ちょっと待って下さい。前例がないものですから……」

 小人族のギルド職員は、唯一の同僚であるもう一人の小人族のギルド職員と話し合い、「南部の冒険者ギルドは、あまり冒険者が利用してくれないので、出来るだけ要望は叶えたい」と、結局貸してくれることになった。対応力のある職員で良かった。

「もしかしたら、今夜あたりにギルド長が帰ってくるかもしれないんで、帰ってきたら我々が裏の酒屋にいると言ってください」

「わかりました。無理を言ってすみません」

 正直、宿屋でも良かったのだが、サッサさんたちが泊まっているかもしれないので、別の場所が押さえられて助かった。

 

 続いて、鍛冶屋に行き、篝火の脚用に鉄の棒を買うことに。

「何に使うんだい?」

 鉄の棒が欲しいというと、鍛冶屋の女将さんに聞かれた。

「篝火の台を作ろうと思って」

「篝火? 何するんだい、そんなもの?」

「魔物寄せです。こう見えて冒険者をやっているので、草原で篝火を焚いてシャドウィックをおびき寄せ、罠を仕掛けて一網打尽にしようかと」

「なるほど。罠でね。そりゃいいね。わかった、篝火の台なら、うちの人がすぐに作れるから、言っておくよ。明日の朝、取りにきな。材料費込みで銅貨5枚で請け負うよ」

 いつの間にか、購入する流れになっていた。

 ま、自分で作るのが面倒なので、頼むのもいいだろう。

「じゃ、4つお願いします」

 俺は鍛冶屋の女将さんの「よ、4つ!?」という言葉を無視して、銀貨2枚支払い、とっとと外に出た。


 一旦、避難所の方に戻り、ボウとベン爺さんに、報酬を山分けする。

「フハ、こんなにか。今日も、行くか?」

「今日は会議なんだ。明日の朝には篝火の台も出来るらしいから、明日以降に、また行こう」

「わかった。フハ、楽しみだ」

「うむ。了解した」

 ボウもベン爺さんも大事そうに自分の財布袋に報酬をしまっていた。

「サッサさんたちはモラレスに戻りました?」

「いや、今夜はあいつらが帰さないさ。久しぶりに昔の仲間にあったんだ。ちょっと付き合ってもらうつもりだ」

 ベン爺さんは、広場に向かう洞窟の民たちを指しながら言った。

「明日の仕事に支障がないように」

 一応、社長らしいことを言っておいた。

 そろそろ、夕飯の時間。広場の方を見ると、白い煙が立ち上っていた。

 セスとメルモが夕飯を作ってくれているようだ。


 広場に行くと、洞窟の民やうちの社員たちが集まっていた。

 服を洗って干している洞窟の民たちは、腰に布一枚という出で立ちだったが、それを咎める者はいない。

 夕飯は魚料理が多く、種類も盛り沢山でバイキングのようになっていた。

「今日は、種類が多いな」

「新人さんたちも来たし、アイルさんや社長が獲ってきた魔物の肉も余っているので、いろいろ試すことにしたんです」

 鍋をかき混ぜていたメルモが、汗を拭いながら言った。セスは汗を流しながら、鉄板の前で料理を作り続けている。

 味はどれも格別に美味しい。たぶん、メルモとセスの二人なら、どこに行っても料理人としてやっていけるだろうと思えるレベルだ。

「後で、モラレスの冒険者ギルドに集合な」

 料理を作り続ける二人に言って、俺はアイルとベルサと一緒にモラレスの冒険者ギルドに向かう。


 夜のモラレスの町では、相変わらず吟遊詩人の歌声が聞こえてくる。

 じっと耳を澄ませて聞いてると、やはり勇者の悲恋の歌で、歴代の水の勇者は恋愛でうまくいかない運命になってるようだ。

冒険者ギルドで小人族のギルド職員にテントを貸してもらい、音漏れしないよう防音の魔法陣を描いていく。

「5人だけで集まるのは久しぶりな気がするな」

「うん、なんだか忙しかったからね」

 アイルとベルサが絨毯代わりの魔物の毛皮を広げながら言った。

「酒はないけど、お茶でも出すか」

 俺はカウンターに加熱の魔法陣を描き、ポットでお茶を沸かす。

 ちょうど沸いた頃にメルモとセスがやってきた。


 車座になって淹れたお茶を皆に配る。

「さて、始めるか。前回の会議では、水の精霊が吟遊詩人たちを使って水の勇者を探してるんじゃないかって話だったっけ?」

「あ、そういう話でしたっけ?」

 セスが思い出そうと、頭を掻いた。

「あれ? なんだかいろいろありすぎて忘れていることが多いです」

「私も実はよくわかってないんだ」

 メルモとアイルが言う。

「じゃ、いろいろ確認しつつ、やっていこう。まず、水の勇者は、継承されていくんだよねってところからで、いい?」

「「はい」」

 新人二人が返事をする。

「継承されていくんだけど、ボリさんが何らかの理由で次の勇者を隠そうとして、グレートプレーンズの国民の男全員を水の勇者と宣言したよね」

「この理由とか経緯とかは、今のところわかってない。たぶん、次の、つまり今の勇者を守ろうとしてるとは思うんだけどね」

 ベルサが補足してくれる。

「で、国民の女性全員を水の精霊というのも宣言した」

「これも理由がわかってないね」

「その宣言の後から、南部で雨期になると平原が冠水し始めるようになった」

「雨を降らせて冠水させるような力を持っているのは神様か水の精霊くらいだろうから、水の精霊のしわざなんじゃないかってこと」

「ふんふん、よくわかった。それでそれで?」

 アイルがお茶をすすりながら聞いた。

「なんで水の精霊がそんなことをするのか考えると、水の勇者を探すためなんじゃないか、と。で、セスに絡んだ吟遊詩人たちも水の勇者を探してることを踏まえると、水の精霊と吟遊詩人たちは繋がっているんじゃないかっていうことを考えて、調べていたはずなんだけど……、忘れてたでしょ?」

「「忘れてました!」」

「やっと理解した」

 メルモとセス、アイルは正直に答えた。こういう正直さは我々の強みなんだけど、これでは神様の依頼は進まない。

「ナオキは王都に行って、なにか気づいたことはないの?」

 ベルサが聞いてきた。

「別にこれといってないなぁ。吟遊詩人たちと軍が仲悪いってことくらいかな。そういや、ベルサ、『気になることがある』とか言ってなかった?」

「ああ、えーっと、あんまり自信がないんだけど……」

「まぁ、言ってみてよ」

「ん~シャドウィックの正体が微魔物の集合体なんじゃないかってことと、今の水の勇者は洞窟の民の中にいるかもしれないってこと」

 ベルサは恥ずかしそうに照れながら、指を2つ立てながら、ぶっこんできた。

「とりあえず、シャドウィックについては後にして、水の勇者が洞窟の民の中にいるっていうのはなんで?」

「いや、だってさ。20年も水の精霊や吟遊詩人たちが探したのに見つかってないってことは、モラレスとか南部の町にはいないんじゃないのかなぁ、と思って。洞窟の民なら、雨期の間はずっと洞窟にいるだろうから見つからないし、吟遊詩人たちも探してないんじゃないかなぁ」

「なるほどね」

 考えてみれば、その通りだ。

「あり得るなぁ」

「確かに、水魔法がうまい人たちが多いです」

 アイルとセスも納得したようだ。

「……それで、勇者が見つかったとして、駆除するんですか? 社長」

 メルモが根本的なことを聞いてきた。

「ちょっとこれだけ関わっちゃうと駆除出来ないよね。やっぱり精霊をクビにする方向で考えていこう」

「それも、なんだけどさ……」

 またしてもベルサが恥ずかしそうに口を開いた。

「なに? なにかあるの?」

「水の精霊が冠水させているとしたら、南部と北部の格差を生んでるし証拠にならないかなぁ」

「うん、確かにそうだなぁ。決め手には欠けるかもしれないけど、証拠になりそうだなぁ」

「でもそれって、僕たちが解決しようとしてませんか?」

 セスが尤もなことを聞いてきた。

「そうなんだよ!……避難所に養魚池復活させて、水路引いて畑作って、回復薬売って、北部と南部の格差をなくそうとしちゃってるんだよね。私たち!」

「え!? それじゃ、水の精霊をクビにする前に証拠がなくならない!?」

 ベルサとアイルが焦ったように声を挙げた。

「あれ~? 私たち、いけないことをしてたんですか?」

 メルモが情けない声を出した。

 確かに土の勇者の時は、精霊をクビにしてからアフターサービスをしていたけど、今回は水の勇者がすでにこちら側についてて、アフターサービスを先にやってしまっている感じになっちゃってるなぁ。

 このままだと、仕事をすればするほど、水の精霊をクビにする証拠がなくなっていってしまう。

「困ったことになった……」

 俺は頭を抱えた。




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