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駆除人  作者: 花黒子
~水の勇者と興ずる駆除業者~
142/502

142話


 俺はボウとリタの畑を見に行き、ついでにセスの船を見送り、アイルと壺の大きさを決めた。アイルはそのままモラレスの雑貨屋に行き、俺とベルサとメルモは避難所の養魚池で、窒素について話し合っていた。

「つまり、窒素っていうのは、よく水に混ざる気体ということだな?」

「そう。たぶん、こうやって息している空気の中にも入ってるから、俺たちは窒素を吸って吐いてる」

「それで、どうやって栄養にするんだろ?」

「知らね。知らないけど、すげー難しいと思う」

「な~んだ! 知らないのか!」

「社長でも知らないことってあるんですね」

 悪いけど俺は前の世界で飽食の時代を生きた駆除業者であったわけで、人口爆発中の化学者ではない。

「とはいえ、微魔物の中には窒素を栄養に変えるヤツがいるはずなんだ」

 そうじゃないと、生態系が壊れる。

「ってことは水草がよく育っている池には、その微魔物がいるっていうことだな?」

「そういうこと!」

 養魚池の中で、最も水草が育っている池に3人で向かう。


「いや、え!?」

 水草の育っている池の水をコップに入れて、顕微スキルで見たベルサが固まった。

「とんでもない量がいるな!」

 相当な量の微魔物がいたようだ。

「たくさんいるなら、水路開けたほうがいい。メルモ!」

「は~い!」

 俺とメルモは水路を塞き止めている木の板を外しに行った。

「この池を一番初めの養魚池にした方がいいな。メルモ、虫系の魔物を捕りに行こうか?」

「は~い。社長、虫系の魔物を捕りに行くのはいいんですけど、虫食べるんですか?」

「いや、そうじゃなくて、虫は大型の魚の魔物の餌だよ」

「そんな! かわいそう!」

 メルモは頬を膨らませて言った。

「自然界は弱肉強食だろ?」

「なるほど! だったら強い虫系の魔物を捕まえればいいんですね!」

「それじゃ、養魚池にならないだろ? この池で大型の虫系の魔物を育てる気はないぞ!」

「まぁ、そうなったらしょうがないじゃないですか」

 メルモはそう言って避難所の外に元気よく向かった。

「コラコラ……変なことしないようにな!」

 俺はメルモに説教しながら追いかけた。


 回復薬を作っているベン爺さんとラウタロ達の様子を見てから、モラレスの男たちが渡り鳥を捕まえている池に向かうことに。たぶん、カプーのいる池なら、虫系の魔物も多いだろう。

回復薬を作っていた洞窟の民たちはすでにどこに売りに行くか、話し合っていた。

ベン爺さんとラウタロは避難所に残り、後から来る洞窟の民たちに仕事を教えることになったらしい。あと、養魚池と畑を手伝ってくれる洞窟の民たちも残ってくれる。その他の者たちは売り歩く部隊と薬草を探す部隊に別れ、それぞれの方向に散っていった。

誰もサボろうとするものがいないというのは素晴らしい。俺は出来ればサボりたい。休んでないし。


池に向かう途中で、畑にいるボウに「魔物を入れるための壺を貸してくれ」と頼んだ。

「小屋の壺でも樽でも持ってっていいよ。フハ」

「ありがと」

「あ、ナオキ。養魚池の水草って肥料にならないかなぁ。チッソ?を小さい魔物が栄養にしてるんだろ? その栄養を水草はたくさん摂ってるから、肥料になるかと思ったんだけど……いや、ならないか? フハ」

 ボウはリタと一緒に、水草が肥料にならないか、考えていたらしい。ただ、自信はないようだ。

「いや、なるかもしれないな」

「やっぱりなりますかね!?」

 ボウの隣にいたリタが前のめりで聞いてきた。

「やってみないとわからないことは、やってみよう! 水草を撒いた畑と撒いてない畑を作って実験してみればいいんだから。水草はベルサに言って貰ってきな」

「いいんですか!? やったー! ありがとうございます!」

「よし、行こう!」

 リタとボウは、養魚池の方に走っていった。


 俺とメルモはボウの小屋から、壺を持って、渡り鳥の鳴き声がする池に向かった。

 絶対にカプーに噛まれたくないので、ハーフパンツに魔法陣を描き防御力を高めまくった。

「社長、何してるんですか?」

「用心に越したことはないからな」

 なんだか、とても動きづらいハーフパンツが出来たが、必要なことなので割り切ろう。

「よし、それで今まではどうやって捕まえてたんだ?」

「私が川で、テイム出来た虫ちゃんたちを捕まえてたんですよ」

「一匹一匹か?」

「そうですよ~」

 なんという効率の悪いことを!

「罠作ったり、網とかで一気に捕まえたほうが早いだろ」

「社長! 虫の魔物に愛はないんですか!?」

「ないね」

 メルモは鬼を見たような顔で俺を睨んだ。

「前に生態系は大事だって言ってたじゃないですか!?」

「だからって一匹一匹捕まえてたら養魚池が完成する前に雨期になっちゃうだろ。愛情も程々がいいんだよ」

 そう言いながら、俺はアイテム袋から余っていた布を取り出し、フォークで穴を開けていった。網がないので、即席で作る。

「そんなぁ~……」

 メルモはふてくされつつも俺と同じように作業に加わった。

「だいたい、メルモは虫系の魔物に愛情を注ぎすぎてるんだよ。少しセスとかにも愛情を注いでやればいいじゃないか」

「いやですよ。あんな口うるさい脳筋バカ」

 ヒドい言われようだ。

「あんまり陰口は言わないほうがいいぞ」

「大丈夫です。本人にも言ってますから。最近、ラウタロさんたちと仕事終わってから対人戦の練習してるみたいで、調子に乗ってるんですよ」

「強くなってるのか?」

「まぁ、多少は……」

「いいことじゃないか。ああ! ライバルが力をつけてきてるんで、メルモは焦ってるんだな?」

 セスとメルモは同期だから、張り合おうとするところがある。

「焦ってませんよ! 社長! 帰ってきたんだから、夜手合わせしてくださいよ!」

「ヤダよ。面倒くさい」

 アイルの影響なのか、セスとメルモが脳筋の要素が強くなってきている。

「アイルにお願いしてみたら?」

「それは、地獄です」


 即席の網を作ったら、池の近くの木立から棒を拾ってきて、V字にして網をかけ、掬う用の網を作った。

 他にも木枠を口にした網の袋を作り、中にエサを入れて池の底に設置する罠を作った。

「さあ、虫を捕ろう!」

「は~い!」

 俺はツナギを脱ぎ、メルモは「防水性があるから」とツナギを着て、池の中に入った。罠の口を垂直にして池の底に仕掛けて待ち、網で掬って虫系の魔物を捕った。

 始めのうちは全然捕れなかったが、池の底や水草なんかに隠れていることがわかってから、探知スキルを使うようになったので大量に捕れた。あんまり捕りすぎるのはよくないと思ったが、池の中には相当な量の虫系の魔物がうようよしていたので問題はなさそうだ。


「さて、そろそろいいか」

 結果的に壺の中いっぱいに虫系の魔物が捕れた。

「早いところ、養魚池に持って行きましょう。共食いを始めてしまいますから!」

「蠱毒かな」

 メルモに急かされて、俺たちはベルサがいる養魚池に走った。


 養魚池に行くと、ベルサが水草を解剖していた。ボウとリタはいない。ベルサは相変わらず、1人にすると怪しげなことしかしない。

「何してんの?」

「ああ、ちょっと水草を部位別で顕微スキル使って見てるんだ」

 ナイフを片手に水草を切り刻んでいるベルサに、俺は本当に切り刻んでいるのが水草で良かったと思った。

「収獲は?」

 ベルサが聞いてきた。

「大漁。池に入れるよ」

 俺は虫系の魔物でいっぱいの壺を叩いた。

「うん。水草の生えてない方に入れて。今だったらエサが豊富にある。2つの池の水路を開けたから、微魔物が流れていってるんだ」

 ベルサの指示を受けて、メルモが水草の生えていない方の池に壺を持って行った。

「見つけたよ」

 ベルサが言った。

「何を?」

「栄養素を生み出す微魔物。ほら水草の根っこの塊の周辺に固まってるんだ」

「ふーん。じゃ、この根っこの塊に栄養が詰まってるってこと?」

「たぶん、そうだと思う。ボウとリタに渡しておいたよ」

「あ、よかった。ありがとう。でも、大丈夫なのか? 水草減っちゃうだろ?」

「大丈夫だよ。この水草、結構繁殖力が高いから。他の養魚池も見てみればわかる。後で見に行こう」

 すでに太陽は中天。

「そうだな。メルモ! 終わったら昼飯にしよう!」

 メルモに声をかけて、避難所の住居へと向かう。

 本日の俺の昼飯は、船で南の洞窟に向かったセスが行く前に作ってくれていたカプーの煮付けだった。

 今朝食べたものより、格段に泥臭さはないが、身がトロトロになってしまっていた。

「カプー料理は難しいな」

 俺がカプーの煮付けを勢いに任せて掻っ込んでいたら、アイルが大きな壺を背負って帰ってきた。

 メルモの美味しい料理に舌鼓を打っていた洞窟の民たちも驚いている。

「よくそんな壺見つけたな」

「ああ、昔ワインを熟成する時に使ってたそうだ。もう酒蔵が北部に移っちゃったから使わないって言って銅貨1枚で譲ってくれた」

「樽で熟成させるんじゃないんだな」

 それぞれの地域で酒の作り方は違うようだ。

「ほー! 樽壺か。よく見つけてきたな」

 ベン爺さんが感心していた。

 ベン爺さんによると、大きな樽壺でワインを熟成させてから、普通の樽に移して追熟させるのだとか。

「よく知ってますね」

「グレートプレーンズの酒のことは、ワシに聞け。それより6日に一度くらいここで酒盛りをしてもいいか?」

 洞窟の民たちはお酒が好きらしい。ベン爺さんの後ろには、残っていた洞窟の民たちが音も立てずに、じっと耳をそばだてている。宴が気に入ったらしい。

「次の日の仕事に影響がなければ構わないですよ。酒は百薬の長ともいいますしね」

「『酒は百薬の長』か! うまいこと言うなぁ!」

「「「「よっしゃー!!」」」」

 少し先に良いことが待っている方が仕事のモチベーションも上がるだろう、と思っていたが、アイルとベルサから、

「酒はナオキが用意するんだろ?」

「ツマミも頼む」

と言われた。

「え? ウソだろ? この会社、社長が働き過ぎじゃないか?」

 そう言った俺と誰も目を合わせてはくれなかった。

「フハ、ナオキ何食べてるんだ?」

 ちょうどボウとリタが昼飯を食べにやってきた。

「ボウ、助けてくれ!」

「えーっと……断る。フハッ」

 ボウは周囲を見てから断ってきた。

「そう! それです!」

 ボウの隣でリタが褒めていた。

「フハ。最近、空気を読むことをリタが教えてくれたんだ」

 余計なことを教えるんじゃない!

 仕事が一つ増えてしまった。

 


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