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駆除人  作者: 花黒子
~水の勇者と興ずる駆除業者~
135/503

135話

 翌朝。

 洞窟の民が60人になったことで、住居のスペースがいっぱいになり、広場にまでテントが張られている。ボウとリタが、懸命に住居を作っているところだ。もちろん、手が空いている者たちは手伝った。施設も洗濯所、銭湯なども建ち、充実していっている。できるだけ魔法陣は使わないようにしている。修理する時に俺がいなくなっている場合も考えてだ。

 作業も6日過ぎたので、先に作業をしていた30人にそれぞれ銀貨1枚と銅貨2枚をベルサが支払っていた。

「まだ、全ての池の掃除が終わっていないから、引き続き頼んでおいた」

「はい」

 色を付けておいてくれと言ってないのに、銅貨2枚を払っているのだから、俺からは何の文句もない。

「あと、今日1日休みにするから。モラレスで買い物して、洞窟に送りたいっていう人もいるし」

「何か、洞窟に送りたいっていう人がいたら、私に預けてくれるよう言ってくれる? 最近、全力で体動かしてないからちょっと走りたくてさ」

アイルが横から口を出してきた。無料で運送業をやるようだ。

「社長、川もあることですし、やっぱり交代の時に船があったほうが便利じゃないですかね? 水魔法使える人に聞いたら、船の周囲に水を集めれば、川下れるそうなんですよ。ちょっと避難時用の船見に行っていいですか?」

「社長、新しい作業の人たちに一通り、施設と仕事の説明終わりましたー。今、朝飯食べてもらってるところです」

 セスもメルモもどんどん自分の仕事を見つけて、頑張っているようだ。

デキる社員が増えると俺のやることがなくなっていく。

まぁ、社員がなにかやらかした時に謝ればいいか、と思っていたら、フィーホースに乗ったキラキラした素材の服を着た人たちが、こちらにやってきているのが見えた。

貴族とか役人とかだろうか。フィーホースの足取りも優雅にすら見える。

早くも誰かがやらかしたか?

「あいつら何しに来やがった! ベン爺、奥に隠れてろ!」

 ラウタロが叫んだ。やらかしたのはベンさん?

 ベンさんはラウタロに言われて、渋々丘を上り、奥の窪みに身を隠した。

「あの人たちは誰なんですか?」

 俺がラウタロに聞いた。

「領主の部下だ。手出すなよ、面倒なことになる」

 面倒なことは嫌だな。牢に入れられたり、ギロチンぐらいならどうにかできそうだけど。

 領主の部下たちは、こちらに声が届く距離で止まった。

「貴様らか! 領主様の土地を無闇に荒らしているという者たちは!」

 あ、そうか。申請出してなかったら、不法占拠で器物損壊か。

「無闇じゃない! 養魚池作りだ! どうせお前らのクソ領主が駄々こねて申請受け付けてないだけだろ!?」

「おやおや、誰かと思えば、勇敢な戦士のラウタロじゃないか? 南の洞窟から抜け出してきたのかな? 今回は勇敢なだけで、どうにかなるような問題じゃないぞ!?」

 ヘビのような目で領主の部下がラウタロを睨んだ。実際ヘビの獣人なのかもしれない。ぐぬぬ、となっているラウタロへさらに領主の部下が追い打ちをかけるように、

「貴様らがなんと言おうが、許可が下りていないのにもかかわらず、領主様の領地を荒らす奴は牢に入れられることになっている」

 と、言った。そうか。また牢通いか。

「それが嫌なら、南の洞窟でおとなしくしているんだな!」

 渾身のドヤ顔を見せる領主の部下。絵に描いたようなヒール(悪役)だ。権力がそういう人格をつくり上げるのだろうか。徐々に、声を聞きつけて洞窟の民たちも集まり始めた。

「牢に入るなら、家いらなかったかなぁ?」

「ああ、そうだね」

「アイテム袋に荷台入れとく?」

「朝こっち来る時に使うもんなぁ。牢って他に必要な物ってあったっけ?」

「なければ、モラレスで買っていけばいいだろ?」

 俺とアイルとベルサは平常運転だ。

「社長、牢は民宿じゃないんですよ」

 セスが小声でツッコんだ。

「そうだな。無料だもんな」

 その時、集まってきた洞窟の民たちをかき分けて、リタが前に出た。

「あの! 発掘調査ということで申請がでているはずですよ!」

「は?」

 リタの言葉に、面食らったように領主の部下が固まってしまった。

「いや、だから、遺跡の発掘調査としての申請はでているはずです。特に申請していた範囲よりはみ出ているというわけでもありません。発掘調査して、養魚池と水路が出てきたので、雨期の食糧難対策にもなり得る事がわかり、母が補助金の申請を出しているところなんです」

「な、な、な、何を言ってるんだ! そんな発掘許可など」

「下りてますよ。300年前、初代水の勇者マルケスが消えたとされるダンジョンの発掘はグレートプレーンズの悲願では? 今の女王もダンジョン及びそれに伴う遺跡の発掘には許可を出しています」

「ここがダンジョンに関する遺跡という確証はあるのか?」

「それはその……」

 リタが言葉に詰まった。

「先日、この避難所で革の鎧を着た人骨も発掘されました。ダンジョンに潜った経験のある戦士かと思われます」

 アイルが言った。そういえば、家建てる時に人骨が出たって言ってたな。

「お前たちは何者だ?」

「発掘調査団です!」

 ベルサが宣言した。

「主に遺物の清掃をやっております」

 俺もそれに合わせる。

「先日も壺を発掘したので磨いておりましたら、眠り薬に使われる植物の種が中から出てきましてね。ダンジョンには眠り薬が必要なほど強力な魔物がいた証拠になるのではないでしょうか」

 そう言いながら、ベルサは乾燥させた植物の種を見せていた。

「他にも発掘した壺の中から様々な物が出てきました。例えば、鼻から10日は臭いが取れないダンジョン産の竜の糞ですとか……嗅いでみますか? これがひどい臭いなんだ。汚物を脳天に突き入れたような臭いでね。強烈な悪臭って震えるんですねぇ。一度嗅いでみますか?」

 俺が畳み掛けるように聞いた。

「いや、結構だ」

 領主の部下は嗅いでもいないのにすでに鼻を押さえている。

「いえいえ、我々を疑ってらっしゃるようですから、あの臭いを嗅げば嘘でないという証拠にもなりますし、ここから発掘されたものがダンジョンに関わっているという証拠にもなる」

「あれだけはやめてくださいよー!」

「鼻がもげてしまう」

 アイルとベルサが合わせる。

「ええい! うるさい! 持ってこい! たとえ鼻がもげようとも、疑いが晴れるなら、安いもんだ!」

「結構だといっているだろう!」

 領主の部下は顔を真赤にして俺を止める。

「では信じてくれますか?」

「信じるか信じないかは領主様が判断することだ! 私からは信じても良さそうだとは報告しておく」

 そう言って領主の部下たちは逃げるように来た道を戻っていった。

「出てきた人骨って皮の鎧を着てたの?」

 俺がアイルに聞いた。

「着てない。その種、眠り薬の種なの?」

 アイルがベルサに聞いた。

「いや、おやつ用のだよ。 竜の糞って高級肥料じゃなかった?」

 ベルサが俺に聞いた。

「知らね」

「あんたら本当何者なんだ?」

 隣りにいたラウタロがドン引きしながら聞いてきた。

「「「清掃駆除業者」」」

 3人の言葉がかぶった。今日は妙に息が合う。

「しかし、申請も大変ですね。ここの領主ってそんなに頭固いんですか?」

「ああ、どうしようもないクズだ。先代の領主の頃はまだましだったんだけどな。今の領主は日和見主義で基本的には決断は人任せだ。そのくせ、案を出した部下の失敗には厳しい」

「養魚池の申請も時間がかかりそうってことかぁ。ベン爺さんは元領主の部下だったんですか?」

「あの爺さんはそんなタマじゃねぇよ。人間長く生きてると表に出られねぇ訳があるらしい。知りたきゃ自分で聞くこった」

 ラウタロは軽く笑いながら、丘を上って行った。人の秘密は言わないのが洞窟の民流か。

「レミさんの方、手伝ったほうがいいかもな」

「だね」

 俺の提案にベルサが返事をした。

「王都に行って、国に対して直接嘆願するのか?」

 アイルが聞いてきた。

「うん。アイルとセスは北の方で顔割れてんだろ?」

「そうだね。コロシアムで、はしゃぎすぎたから」

「ベルサ、池の方は?」

「はじめに清掃した池に藻が出てきた。水草も増やしてみせるよ」

 メルモには新しく入ってきた洞窟の民たちの教育をお願いする予定だ。

「俺が行くか」

「ちょうどレミさんが来たよ」

 アイルの指差す方を見ると、レミさんが早足にこちらへ向かってきていた。

「大丈夫だった!? お城の人たち来てたでしょ?」

 途中で会ったようだ。

「ええ、適当に追い返しておきました。レミさん、オレも手伝いますよ。王都行って嘆願しに行きましょう」

「行く? 行こうか!? そうしよう! リタ、丘の上にいる?」

「いますよ。たぶん、ボウと一緒です」

「じゃ、ちょっと行ってくるわ」

 レミさんも話が早い。すぐに王都へと出発する準備をし始めた。

 リタはしきりに「うちの母は大丈夫でしょうか? ナオキさんに迷惑かけないか心配です」と、どちらが母親かわからないようなことを言いつつも、旅の準備を手伝っていた。

 セスとメルモは、すぐに料理を何品も作り始めた。アイテム袋に入れておけば、出来立ての状態が保てるので、ありがたい。

「こっちは任せとけ!」

「リタちゃんのことはワシに任せとけ!」

 ラウタロもベン爺さんも胸を張った。

「フハ、ナオキは落ち着くって知らないのか?」

 ボウはそう言いながら笑っていた。

「ハハハ、確かにな。たまにはボーッとするわ。ボウもあんまり根詰めないようにな」

「わかった。ふざけた家作っておく。フハ」

 相変わらず、笑い方は下手だったが、すっかりうちの社員たちとも、洞窟の民たちとも馴染んでしまっている。

 

 アイルとセスが描いた地図を見ながら行程を決めていく。片足が義足のレミさんのために背負子も持っていくことにした。セスとメルモが出来上がった料理を持ってきたので、アイテム袋に入れていく。多少周囲の洞窟の民たちがざわついた気がしたが、誰かが説明したのか、すぐに収まった。

「メルモ、水路の方よろしく頼むな」

「はい。何かあれば、通信袋で聞きますから」

「社長は大丈夫ですか?」

 セスが手首を指差しながら聞いてきた。時間を気にしているわけではなく、復活のミサンガはつけているかを聞いているようだ。旅先で水の精霊に会った時の心配をしてくれているらしい。いっちょ前に。新人たちも最近、デキるようになってきてしまって可愛げがない。

 荷物を抱えてレミさんがやってきた。

「準備出来ました?」

「ええ。アイルちゃんが、どうせナオキくんが荷物持つんだからってこんなに着替えと日用品持たせてくれたんだけど」

「持ちます持ちます」

 俺はレミさんから受け取った荷物を全てアイテム袋にしまった。

「そうね。そういうことよね」

と、レミさんは驚きながらも頷いていた。すでに協力者だと思ってる人には隠す必要もないだろう。レミさんは「池の水がなくなったのも、そういうことね!」と納得していた。

「誰かに留守にすることを伝えたりしなくて大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫! 親子2人だから、フットワークは軽い方なの!」

「じゃ、行きますか! 疲れたら言ってください。 背負子ありますから」

「フフ、至れり尽くせりね!」

 俺とレミさんはゆっくり王都へ向かって歩き始めた。

「おかあさ~ん! 迷惑かけないようにねぇ~!」

 リタの声が大平原に響いていた。



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