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駆除人  作者: 花黒子
~水の勇者と興ずる駆除業者~

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131/506

131話


 俺は、階段上の部屋で、星詠みの民の老人に養魚池の仕事を説明した。

「本当か!? 本当にワシらに仕事を持ってきたのか?」

「そうです。人手が足りないんで、お願いしますよ。30日で銀貨5枚、30人ほど都合つきませんか?」

 ボウの小屋で、ベルサとレミさんと決めた報酬の金額を伝える。俺たちは30人を60日ほど雇うつもりでいる。

「ちょっと待て! 現金が出るのか!? 現物支給ではなく!?」

「ええ、いま食事と住むところを確保しているところです」

「食事と住むところも付いているのか! すまん! ちょっと皆と相談してくる!」

 老人は、奥の部屋にすっ飛んでいき、洞窟の住民たちを、集め始めた。

 探知スキルで見るとよくわかる。この洞窟は入り組んで迷路のようになっているのだが、住民たちは迷路を熟知しているため、すぐに奥の部屋に集合していた。

「本当か!」「30人!」「いつまで!?」など大きな声が聞こえてきた。

 話がまとまったのか、老人が戻ってきた。

「受けてくれますか?」

「無論、仕事は受ける。ただ、誰が行くかで揉めてるんだ。皆行きたがっている」

「仕事をしたいって言ってくれてるのは何人くらいいるんです?」

 少しくらい増えても、どうにかなるだろう。

「仕事はこの洞窟にいる130人、全員が受けたい。ただ、基本的には力仕事なのだろう?」

「そうですね」

 ヘドロをかき出す仕事だ。ある程度、力もいるだろう。

「ただ、養魚池なら、魚の魔物を使役できる奴がいたほうがいいんじゃないか?」

「それもそうですね」

 あまり考えていなかったが、ヘドロを清掃して、養魚池を復活させても魚の魔物が住み着くわけではない。川や沼で魚の魔物を獲ってきて運搬してくる必要がある。

「水魔法が使える奴はどうだ?」

 水魔法が使えたら、ヘドロの清掃が楽になるかもしれないし、魚の魔物を運搬するときにも役に立ちそうだ。

 ちょっと待てよ。水草も育てる実験も必要だから、農業系のスキルを持ってる人がいると助かるな。

「水草を育てたことがある人っています?」

「水草? そんなもの育てて何になるんだ?」

 そら、そうか。普通、水草なんか育てないか。

「農業系のスキルを持ってる人とかだと?」

「農業スキルを持っとる者ならいるぞ」

 進捗状況によって必要な人材が変わってくるなぁ。

「ちょっと待って下さいね」

 俺は一旦部屋を出て、外に出る。


 通信袋でうちの会計であるベルサを呼び出し、状況によって欲しい人材が変わることを説明した。

『確かに、そうだね。だったら、交代制にしてみたらどう?』

「交代制か。必要な時に必要な人材がいれば、いいんだから、そうしようか」

『うん、6日で銀貨1枚。やってくれるかな?』

「聞いてみる」

 通信袋を切り、部屋に戻る。


「6日銀貨1枚で交代制にするというのはどうでしょうか?」

「それは構わんが、仕事の出来具合で、色を付けてくれんか? 銅貨1枚でも2枚でもいいんだ」

「それくらいなら、たぶん大丈夫ですよ」

 ダメだったら、俺のポケットマネーから出すか。使う場所もないことだし。

 それに役所から補助金が出れば、問題無いだろう。

「よし!なら、初めは力仕事が出来る奴らを先発隊として行かせる」

「お願いします」

「準備に時間がかかるから、少し待っていてくれ」

 老人は奥に引っ込み、洞窟の住民たちと話し合っているようだ。


 しばらく待っていると、この前会ったムキムキ男とその仲間たちがやってきた。手首に長いクサリの手錠をしている元犯罪奴隷たちだ。そいつらが21人。俺がけがを治した人たちと、呪いにかかっていた人たちが8人。老人。総勢30人。

 皆、リュックやバッグを抱えている。テントや食料、寝床となる魔物の毛皮だろうか。

「一応、食事は用意してますけど?」

 俺が老人に聞いた。

「ん? モラレスまで2日はかかるだろ?」

 そうだった。普通の人は移動に時間がかかるんだった。

 行って帰ってきて、4日はかかるということか。なんというタイムロス。

 また、レッドドラゴンと黒竜さんに頼むか。いや、あいつらは大食いだから、食糧難のこんな土地では使えない。

「馬車の荷台みたいなものってないですか?」

「古いものなら。ただ、フィーホースはおらんぞ」

「それは大丈夫です。その荷台を見せてもらえますか?」

 

老人は俺を畑の側に案内してくれて、布部分がビリビリに破けた幌馬車を見せてくれた。埋まった車輪を持ち上げ、クリーナップをかける。軽く曳いてみると、車輪と軸は問題なさそうだったので、使うことに。少し、木の板で補強し、ゴムの魔法陣を描いて、強化する。

とりあえず、いまは出来ることをして、モラレスに着いたら、ちゃんと補強しよう。

「じゃ、乗ってください」

 俺が、避難所に向かう30人に声をかける。

「乗れと言っても、30人も乗れないぞ。それに誰がこの荷台を曳くんじゃ?」

「2回に分けて俺が曳きます。まぁ、日も落ちたことですし、とりあえず、モラレスがあった廃墟で、テントを張りましょう」

 すでに空は日が落ちて、星が瞬いている。

「さ、乗って」

 全員、固まっていたが、俺が依頼者なので言うことを聞いてもらう。

 荷台に15人、どうにか収まったところで、

「これ、尻に敷いてください」

と、ベタベタ罠を全員に渡す。落ちたりすると面倒だからだ。

「じゃ、行きます!」

 全員がベタベタ罠にかかったのを確認して出発する。

 荷台を曳きながら、前もこんなことあったような気がするな、と考えながら走った。


 30分も走れば、廃墟に到着した。

 ベタベタ罠を外し、全員下ろして、テントを張ってもらう。

 大半の人の腰が抜けていたが、けがはないはずだ。

「魔物が出たら、これ投げてください」

 そう言って、俺は老人に音爆弾の玉を5つ渡しておいた。

 空になった荷台を曳き、洞窟へ走る。帰りは誰も乗ってないし、全速力を出せるので、速い。

 洞窟に着くと、残っていた15人を乗せ、再び廃墟へと走る。

 明日も、この調子で行けば、午前中には移動が完了するかな。

 廃墟が見えるところまで来ると、先に到着していた15人がシャドウィックたちに襲われていた。シャドウィックの数は多く、15人が囲まれている。

 老人はなぜか音爆弾を使わず水魔法で応戦し、元犯罪奴隷たちが状態異常を起こしながら戦っていた。

 効率が悪いので、音爆弾を投げつけてシャドウィックたちを殲滅。

「もったいぶらずに、これ使ってくださいね」

 俺は老人に言った。老人は、声も出さずに頷いていた。

音爆弾は非常に便利だ。人にはキーンとしか聞こえないが、魔物には効果があるのだから。ボウの側で音爆弾を使うと、やはり、数分耳が聞こえなくなるのだろうか。注意しよう。

 状態異常を起こしていた元犯罪奴隷たちはバーサーカーになっていたらしい。魔力の紐で全員縛って、座らせておいた。

 簡易的なテントを張り終えた頃、元犯罪奴隷たちの状態異常が解けていたので、「この先、魔物の相手はこちらでするので、バーサーカーにならないでくれ」と頼んでおいた。


 すでに月も高く上っているので、アイルに通信袋で連絡し、今日は帰れないことを伝える。

『了解。こっちはメルモの食料の買い出しが済んだぐらいだ。セスはまだ帰ってきてない』

「そうか。小屋の方はどうだ?」

『それがさ、竪穴式にしようとして丘の上に穴ほってたら、人骨が出てきちゃってさ。まいったよ』

 人骨!? 避難所の丘は古墳だったのか?

「レミさんに言った?」

『ああ、時々出るそうなんだ。竪穴式はやめるよ』

「うん。一応、簡易的なテントは用意してもらってる。明日には行けると思う。それじゃ~」

『は~い』

 通信袋を切る。


 崩れた石の壁に背中を預け、アイテム袋から、ワイルドベアの毛皮を取り出して身体に巻く。

 先ほどの音爆弾の影響か、辺りに魔物はいなくなっていた。

 元犯罪奴隷たちが交代で火の番をしながら見張りをしている。焚き火では星詠みの民である老人が火にまじないをかけていた。魔物よけのまじないだろうか。

 少し眠ろうとしたところ、老人が近づいてきた。

「お前さんはいったい何者なんだ?」

「その質問はよくされます。ただの清掃駆除業者ですよ。他にあまり肩書はありません」

「んん、そうか。ベンジャミンだ。ベンと呼んでくれ」

 そう言って、老人が握手を求めてきた。

「ナオキです」

 俺はベンさんの握手に応じた。

「あそこで火の番をしてるのが、ラウタロ。元犯罪奴隷たちを仕切っておる」

 例のムキムキ男はラウタロというらしい。格好いい名前だな。

「ベンさんは水魔法を使えたんですね?」

「ああ、これでも水の勇者の端くれだからな。最近はほとんど使うことがなかったから、だいぶ鈍ってしまったらしい」

 ベンさんは自分の手を握ったり開いたりしながら言った。

「他の人たちも水魔法を使えるんですか?」

「ああ、ここにいる奴らは皆、水魔法のスキルを持っとるよ」

 さすが、水の勇者の国だ。

「明日もあの荷台に全員乗せて曳くつもりか?」

「ええ、そのつもりです」

「わかった。明日は半分、走らせる」

 30人の内、15人を走らせるという。

「それだと、時間がかかるんですけど」

「置いて行ってくれて構わん。行くのはモラレスの東にある避難所だろ」

「そうです」

「洞窟に長くいすぎたせいで、皆、身体が鈍っとるようなんだ。仕事の前に身体を動かしておきたい。それに、お前さんが往復するのは面倒だろう?」

 確かに、面倒だ。

 ベンさんがここまで言うのだから、実はここにいる30人は走るのが速いのかもしれない。

「わかりました」

「うむ、ではまた明日」

 そう言って、ベンさんは自分のテントに戻っていった。


 ベンさんがテントに入ると、ほとんど物音がしなくなった。

 大平原の風のない夜は静かだ。

 俺はパチパチと火が燃える音を聞きながら、眠りについた。



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