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駆除人  作者: 花黒子
~水の勇者と興ずる駆除業者~

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123/506

123話


 平原の東には不思議な光景が広がっていた。

 幾つもの丘があり、土を盛った真っ直ぐな道でつながっている。上から見ると窪みが幾つもあるとも言えるだろう。

 目の前の窪みの中には四角い池が2つ並んでいて、池には水草がびっしり生えている。池の周りには平原と違い、樹木もあった。


 向こう側の丘で、アイルが手を振っていた。真っ直ぐな道をボウと一緒に進んで、アイルがいる丘まで行く。


「結局、連れてきたのか?」

 アイルがボウを見ながら聞いた。

「うん。言語能力のスキルも取ったから、普通に話せるよ。な!」

「魔族のボウです。よろしくお願いして下さい」

 ボウはアイルに多少緊張しているようだ。

「魔族?」

「スキル持ってる魔物は魔族なのだそうだ」

 俺が説明する。

「そうか。ボウはなんのスキルを持ってるんだ?」

「建築スキルです」

 ボウが自分で答えた。

「珍しいスキル持ってるなぁ」

「で、ここは何なんだ。人工的な場所のようだけど」

 俺が周りを見渡して、アイルに聞いた。

「雨期に使う避難所らしい。詳しくはリタに聞いてくれ」

 アイルは俺たちを連れて、先の窪みへと案内した。


 ベルサとリタが窪みの池の畔で、水草を採取していた。

「お、一緒に来たか」

 俺とボウを見て、ベルサが言った。

「魔族のボウです」

 ボウはベルサとリタに言った。

「魔族?」

「スキルを持っている魔物を魔族というらしい」

 俺の説明にベルサもリタも驚いている。

「ボウとやら、隣の男を信用しないほうがいいぞ。魔物はたくさん殺してるし、魔族も結構殺してるはずだ」

 ベルサが俺を指差しながら、ボウに言った。

「俺は人に害がなければ殺さないよ」

「どうかな。海ではだいぶ殺していただろ?」

「んん、確かに……」

 音爆弾の実験で、だいぶ殺したように思う。

「魔物をたくさん殺した話はナオキから聞いた。魔族でもなかなかそんなには魔物を殺せない。どうやるんだ?」

 ボウは駆除の仕方の方が気になっているようだ。


「同胞が殺されても、気にしないのか?」

 ベルサがボウに聞いた。

「同胞って、魔族のことか? 魔族の殺し合いはよく起こることだし、力のない奴が殺されたり、追い出されたりするのは当たり前だろ?」

 魔族の社会はシビアな世界のようだ。

「そ、そうか」

 ベルサが頷いた。

「オレは城を追い出されたから、1人で生きていくしかなくなったけど、もしかしたらナオキと友だちになれるかもしれないから、ラッキーなんだ。未来が変わるかもしれないって」

 ボウはそう言って笑っている。小屋で話した俺の言葉がボウの頭の中でいろいろ変わっているみたいだけど、少しは信用されているようだ。

「魔族って、モール族じゃなかったんですか!? しかも、そんなに喋れるなんて!」

 黙っていたリタがボウに言った。

「リタ。オレ、言語能力のスキル取ったんだ。フハッ」

 ボウは笑っている。

「え? なんで? あれ?」

 リタは混乱している。

「飯ありがとう。いつも言えなかったから」

 ボウがリタに感謝すると、リタは一瞬固まり、「なんだ、ちゃんとやってるんだな」というベルサの言葉で、顔を赤くした。

「ここは若い二人に任せて、俺たちは向こうに行こうか」

「そうだな」

「よし、そうしよう」

 俺たちはリタとボウを二人きりにすることに。

「え? なんでだ? オレ若い?」

「ちょ、ちょっと!」

「まぁまぁ。ボウはリタに畑の話もあるだろうし、リタも何とは言わないが話があるだろ? 邪魔者は消えるよ」

 俺たちはボウとリタに手を振って、丘を上った。

 

「で、ここが珍しい花がある場所なのか?」

 丘の上まで上がって俺が、ベルサに聞いた。

「いや、花はもうちょっと南の方なんだけど、こっちのほうが気になるだろ?」

「確かにな。雨期の避難所だって?」

「ああ、もっと東の丘に食料貯蔵庫があるんだって」

 ベルサが東を指差しながら言った。

「丘と道が防水堤になってるそうだ」

 アイルが道をバンバン叩きながら言った。確かに頑丈にできている。

「こんな大掛かりな避難所をよく作ったなぁ。土魔法が得意な奴がいるんだろうな」

「いや、それが昔からずっとあったらしいんだ。20年前に雨期に川が氾濫して冠水が起きるようになってから、使うようになっただけで、そもそもここにあったのだそうだ」

 ベルサが説明してくれた。

「だけど、こんな丘も道も自然のものじゃないだろ?池だってキレイな四角だし」

 窪みの中の池は正方形に近い。

「そう、つまり、ここは遺跡だ。リタの母親は、ここで昔の人が生活していた跡を見つけたんだそうだ」

「なるほど。で、ベルサはなんでその水草持ってきたの?」

 ベルサは池から採取した水草を握っていた。

「見てくれよ。ほら」

 ベルサが水草を握り締めると、ジョボジョボと水が地面に落ちた。

「な!」

「いや、何が『な!』なんだよ」

「こんなに水を含んでるなんて信じられるか?」

 確かに水草とは言え、水分量が多い。

「何かに使えそうだろ?」

「そうだな」

「金の匂いがする」

 どうやらベルサは水草で一発儲けようとしているらしい。

「逆に魔物の匂いがしないんだ」

 アイルが言った。

「どういうこと?」

「あれだけ大きな池なら、魚の魔物でもいそうな気がするだろ?池の主とか。そういう気配がしない」

 俺は探知スキルで見たが、確かに大きな魚の魔物はいないようだ。代わりに、シーライトのような小さな魔物が繁殖していた。

「場所によって、水草が生えていない池もあるんだ」

 アイルは別の窪みに案内してくれた。

 別の窪みは木々が生い茂っており、やはり池は2つ並んでいた。ただ、池の中には何も見えず、探知スキルでも魔物は見つけられなかった。窪みによって生態系が違うのか?

「何があったのかは知らないが、不思議だろう?」

「不思議だ」

 俺たちは同じように腕を組んで、考えこんでしまった。


「ベルサさーん!」

「ナオキー!」

 リタとボウに呼ばれて考えることを止め、俺たちは一度町に帰ることにした。

 リタとボウの2人は『お友達』になったらしい。微笑ましいことだ。

 ボウを家まで送り、「2、3日中にまた来る」と約束をした。食料は昼の残りがあるので、大丈夫だと言っていた。

「それじゃリタが来る理由がなくなるだろ?腹減ったって言っとけばいいんだよ」

 俺がボソッとボウの耳元でアドバイスしておいた。

「腹、減った……?」

「そうだな。こんなんじゃ、足りないな。悪いけど、リタ、またボウに食べ物を届けてくれないか?」

「仕方ないですね」

 リタが嬉しそうに言った。


「どうしよう!? どうすればいいですかね?」

 ボウと別れ、4人で歩いていると、俺たちにリタが聞いてきた。

「どうって何が?」

 ベルサがリタに聞いた。

「ボウ君が魔族って、どうすればいいのか……。もし町の人にバレたら大変なことになりますよね?」

「なるかもしれないなぁ」

 俺が言う。

「心配です!」

「なら、リタが守ってあげればいいんじゃないか?」

 アイルが気の利いたことを言った。

「そ、そうですよね。秘密を知ってるのは私たちだけですもんね」

 リタは拳を握っていた。なんという初々しさだろう。

「こちらが照れてしまうな」

 ベルサの言葉に俺とアイルが頷いた。

 

 川を渡ったところでリタと別れ、町の宿へと向かう。

「20年前から始まった冠水。20年前に国民全員に宣言した先代勇者。精霊の匂いがプンプンするなぁ」

 歩きながら俺が言った。

「ボリさんに先代の勇者の名前だけでも聞いとけばよかったんだ」

 アイルが言った。

「自分の名前を言っていたかもしれないよ」

「「へ?」」

 ベルサの言葉に俺とアイルは一瞬立ち止まった。

「忘れてないか?ボリさんがこの国を出たのは20年前だ。つまり、先代勇者が消えたのと同じタイミングじゃないか。ボリさんが先代勇者でもおかしくないだろ?」

 確かにボリさんは水魔法がやけに上手かった。

「そんなバカな」

「いや、あり得る」

 俺はキャンプファイヤーの火に照らされたボリさんを思い出していた。

 あの時、重い口を開くように話したのは、水の勇者本人だったからかもしれない。

『結構、酷い人だったねぇ』『当時の勇者は自分勝手だったね。力ある者ってのは人の話を聞かないからねぇ』『当時はイケメンじゃなかったね』

 あの言葉は若かりし頃の自分に向けられたものだったのかもしれない。

「世界で一番自由な干物屋か。20年前に何があったのか、調べる必要があるな」


 俺たちは宿に帰り、セスとメルモに今日知った情報を話した。

「もしかしたら、ボリさんが先代の勇者である可能性もある」

 セスとメルモはお互いを見合わせて驚き、「実は……」と話し始めた。

「買い出しの途中で、吟遊詩人の歌を聞いてたんです。そしたら、『先代の勇者はセイレーンに恋をして、連れ去られた』って一節があって、もしかしてボリさんのことじゃないか、って2人で話してたんです」

「それで、歌が終わった後、吟遊詩人に先代の勇者の名前を聞いてみたら……ボリビアーノ・ホモス・レスコンティって」

 セスとメルモも違う方向から、『ボリさんが先代の水の勇者説』に辿り着いていた。

「ボリさんが先代の勇者だとして、20年前、誰に水の勇者を継承したんだ? いや、継承してない可能性もあるのか?」

 俺は考えながら疑問を口にした。

「冠水については?やはり水の精霊が勝手に勇者を辞めたボリさんに怒って、川を氾濫させていると考えるのが普通か」

 アイルが顎に手を当てながら言う。

「20年もか?ボリさんに怒ってるんだとしたら、追いかけることは可能だろう?川を氾濫させて冠水させるって何か精霊には目的があるんじゃないか?」

 ベルサが頭を掻き、髪をよりボサボサにしながら言った。

「今の勇者の話はないんですよね。吟遊詩人は、『国民の男たちが皆、水の勇者だから、それぞれが自分の物語を奏でている』と言ってました。でも、ボリさんが国民の女たちを精霊にした理由がわからないんです」

「そもそも、なんでボリさんがそんな宣言をしたのかも謎なんです。セイレーンに連れ去られた話は吟遊詩人も歌にしてるんですけど、水の勇者が国民に宣言した歌はないそうなんですよ」

 セスとメルモも自分たちの疑問を話した。

 全ての疑問は宙ぶらりんのまま、明日の調査に備え、就寝。

 相変わらず、夜が更けていくと、遠くから吟遊詩人の声が聞こえた。昨晩とは違う吟遊詩人のようだった。



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